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やがてきたるべきもの 〜アフターマン・ビフォア〜
都に春が来ればいつもさびしい子供がいなくなる
都に春が来ればいつもさびしい子供が行方知れずだ
それはみんなさかな釣りに行っちゃったのだから
さがさないで さがさないでよ
たま 「鐘の歌」より
エメラルドを帯びた青い空に浮かぶ淡いミント色の雲、その下には深く澄んだ緑青の海が広がっていた
禿裸の実装石が一匹、純白に太陽の光を受けて翡翠が輝く砂浜を、海岸線に沿って走っていた
砂を汚す足跡と同じ数の血の滴、赤と緑の混じり合った液体に波が寄せ、青と緑の海水に洗われる
腕に傷を負いながら濡れた砂の上を走る禿裸の胸の前には、血と泥に汚れたちっぽけな布の包みがひとつ
波打ち際から乾いた砂の上に進んだ実装石は、我が子のように両手で抱えていた包みを砂の上に広げた
包みの中身のひとつ、蛆実装ほどの大きさの物体を持ち上げる、それは銀色の獣のような金属の塊
実装石は腰を落とし、両腕を海の方に突き出すと、肩の筋肉を張り詰めさせた、傷が開き血が流れ出る
・
禿裸を中心に異質な破裂音が海へと広がり、長い尾を曳いて砂浜と背後の木々をほんの一瞬、震わせる
秒速400mの鉛の弾丸が海に向かって飛んでいき、凪いだ海面を水切りするように跳ねて、消えた
拳銃を発射した実装石は、その反動に両腕の筋肉を捻り切られ、赤と緑の血を撒き散らしながら苦悶した
地球の内部で絶えず対流を続けるマントルは、その圧力を熱いマグマと化し、しばしば地表に放出していた
ある物は海底で地殻を動かし、ある物は神の怒りと崇められ、ある物は観光の対象として人々の目を楽しませ
そして時折それは、紅い熱流と太陽光を遮る灰を噴き上げて、地表に張り付くいくつかの生命を掃除した
静岡県小山市 富士山麓自然公園
須走の登山口に近い、陸上自衛隊の富士学校に隣接した国立の環境保護地、その奥深くに二人の男が居た
似合わぬ灰色の背広姿、私服より制服を着慣れていた大柄な二人の足元には、一匹の実装石が転がっていた
うたた寝をしているような姿、その年老いた実装石は既に絶命していた、胸に開いた穴がその死因を物語り
背中に抜けず胸で炸裂した銃創は、極めて高い技量によって遠距離からの狙撃が行われた事を証明していた
その男達が入手していた情報によれば、それだけの技術を持つ実装石は今ここで死んでいる実装石だけだった
二人の男はその老いた実装石の死体をしばらく調べていたが、蘇生の可能性が無い事を確かめ、携帯電話を取り出した
突然の空気の揺らぎ、重く響く連続した銃声
遅れて漂う火薬の匂いの中、男は携帯での通話を続けている、もう一人の男は実装石の死体をカメラで撮影していた
先刻からずっと、遠くに見える富士学校の敷地内に建つ信号塔に『実弾射撃演習中』の電光表示が点っていた
男が携帯での通話を終えた途端に電球の文字が消え、始まったばかりの連続射撃の音がピタリと止んだ
それから1時間後、自衛隊によってその自然公園一体に部外者の立ち入りを一切禁止する措置が取られた
濃緑色の救急車やトラックが何台も止まっていたのは、さっき二人の男が老いた実装石の死体を発見した場所
実装石の死体が担架で運ばれる横に、窮屈な灰背広から落下傘部隊章付きの戦闘服に着替えた二人の男が居た
彼らが指示を出していた緑色の作業服姿の部下達は周辺の土を慎重に掘り、袋に詰めてはトラックに積んでいた
数日後、老いた実装石の死体が発見された自然公園奥の草原は大きな窪地となって、火山灰質の土を晒していた
実装人の国
城下町の喧騒から離れた冷涼で緑豊かな高原、刈り込まれた広い草地の隅に、頑丈な造りの丸太小屋が建っていた
実装牧場
食用の実装石を食肉として卸す牧場兼屠畜場、放牧された実装石は定期的に食肉や加工品として出荷されていた
多くの家畜実装石が走り回る牧場の囲いの隅にある汚れた丸太小屋に、一人の小柄な実装人が入ってきた
実装人少女は暗い小屋に目を慣らすべく蛆模様のバンダナで赤と緑の瞳をこすり、そのまま金色の髪を縛る
異国の他実装人との複雑な交配の結果を顕す実装人の少女は、実紅人の血を思わせる金髪を自慢にしていた
人間に多くの人種があり、数千万年にわたって混血が進みながらも各々の人種が最後まで存在し続けたように
実装人と燈や紅は別々の共同体を作り、時折異種間の交配をしながらも概ね各実装固有の特徴と形質を守っていた
少女は素肌の上に分厚いデニムのワンピース、下が踝までのスカートになったオーバーオールを身に付けていた
暗緑色の実装石革であちこちに継ぎの当たったデニムを淡い緑に染めている藍の葉も、実装由来の植物だった
赤い実紅羊毛のシャツを羽織った実装人少女の足元を固める、先の尖った鮮やかな紫のブーツは実装燈の革で
都会の実装人娘のウェストを飾る金鎖のバングルのように皮紐で腰に結びつけた鞘に納まっているナイフと並んで
人間でいえば13〜15歳に相当する金髪の実装人少女が身に付けている物の中では最も高価なものだった
午前中に弓矢と山刀で殺し、捕まえて回った20匹近い牧場の実装石を小屋まで運んだ実装人の少女は
実装石の服と髪を剥ぎ捨てた所で午前中の作業を一段落させ、母屋での昼食と休憩を終えたばかりだった
牧場の仔から選別を重ねて引き抜いた「オウチ実装石」に作らせた昼食をついさっき済ませた実装人少女
真っ昼間から平らげた実装臀肉のステーキと、千切りの腹袋に実燈果のソースを絡めたマリネで腹を膨らませ
デザートの蜜に漬けた実装雛の胎児と、薔薇の花びらを腹に詰めた実装紅を煮出したお茶の余韻を味わっていた
人間の時代から幾年の時の流れた世界、実装石シリーズは、実装人達の暮らしになくてはならない物だった
食肉としての利用は勿論、彼女達にとって実装石の鞣し革は綿や絹より廉価で丈夫な衣服の材料となり
骨は生活用品や工業材料、偽石は貨幣が流通して間もない実装人の世界に置いて補助通貨の役割を負っていた
太平洋、焼津沖2海里
芝浦の港を出た一隻の大型貨客船がガスタービンの排気を吐き、海岸線に沿って西へと航行していた
船舶輸送の慢性的な不況で空きの目立つ船内は静かで、大部屋の客室ではまばらな客が思い思いに憩っていた
旅客機では無理な飼い実装石との旅行を楽しむ老夫婦、地方の山実装を虐待するため節約旅行をする若者達
そして船底のビルジ(汚水)を啜って生きる鼠や昆虫、それらと奇妙な共存をする船暮らしの実装石達
開きスペースの目立つ貨物室にあったのは、空輸するほど高価でない生活用品が詰められたいくつかのコンテナ
そして、外観は他の貨物列車用コンテナと同一でありながら、その中身が少し異なったコンテナが一つ
市ヶ谷のある実装研究組織が作ったダミー会社が、佐世保で実装石の地位向上のため活動する企業に送る荷物があった
真っ青な空の下で日の光を受け、深い青の海面に銀鱗を輝かせる海、航路からはるか沖の海面が泡立った
後に東南海大地震と呼ばれた災厄を引き起こした海底火山の噴火は人知れず起きた、地球は静かに怒った
海底でのエネルギー放出に太平洋プレートが呼応し、引き剥がされたユーラシアプレートの端が蠢く
鈍い振動と海面の急下降、雷鳴のような音と共にジェットヘリの飛ぶ速度で巨大な衝撃が列島を襲った
地震は太平洋沿岸に未曾有の津波を引き起こし、多くの人間と動物、建物や船舶を押し流していった
岸に近づくにつれて巨大化する津波は、沖合いを航行していた貨客船を破壊し尽くすには至らなかったが
満載にはだいぶ欠ける積載量の大型船を持ち上げ、鋼の船体を捻じりながら転覆させるには充分だった
人間と船に住む動物、そして荷物を呑みこみながら、貨客船は駿河トラフの底へと沈んでいった
その実装石は服と髪を失い、薄暗い山小屋の中、同属の死体の積み重なる中で微動だにせず蹲っていた
堆く積まれた実装石達は皆、髪を抜かれ、洋服状の外皮を剥がれ、赤緑の血に汚れた肌を晒している
堆肥と実装糞の臭いの漂う薄暗い小屋、その中心近くに置かれた机に積み上げられていた禿裸実装石の死体
実装人の少女は、禿裸の死体を積み上げた大きな木の机の前に立つと、その一匹を掴み上げて薄く笑った
実装人は小屋の梁から鎖で吊るされた青銅鋳物のフックに掴んだ実装石の死体を突き刺し、ブラ下げた
鋭く研ぎあげたフックの先端に実装石の肉が食い込む感触を手で味わいながら、心臓を避け深く突き入れる
牧場を追い回され、弓で射抜かれ、鉈や山刀で斬られた実装石は仮死と呼ばれる「最初の死」から蘇生した
貨客船の中にあったひとつのコンテナ、JR貨物の名の入ったコンテナの外見は目立たないものだったが
そのコンテナが他の多くの荷物からは離され、特に入念に固定されている様は内容物の重要度を伺わせた
コンテナに詰められた荷物は、この国に生きる実装石の将来を左右する物というお題目の元に送られた品物だった
中身はその体積のほとんどを占める膨大な数の次世代大容量メディアと、アルミのペリカン・スーツケースが一つ
ある防衛省の高官が、その私的な趣味に国益や国防等の名目をつけて秘密裏に設立した実装石研究組織
その代表者の資産と協力者の献金、そして多額の不透明な国費を投じ、実装石に関する実験が行われていた
実装石の生命維持と記憶の機能を持つ器官である偽石、その内部にあるデジタルデータに酷似した珪素配列
組織が推進していたのは偽石に封じ込められた記憶の内容を解読、転写し、他の実装石に移植する人工偽石の開発だった
人目につかぬよう海路でひそかに運ばれていたのは、その研究の成果であるデータとサンプルだった
そして研究の素材としてアルミケースに同梱された、ある年老いた実装石の所有していたいくつかの遺品
目立たないように船便で運ばれながら、特別の扱いを受ける様はその荷主の杜撰さを物語っていて
それは後の時代、何がしかの意思を持つかのように起きる様々な偶然を引き起こす原因の一つとなった
鉤で吊るされた実装石を眺めながら、実装人の娘は編んだ皮紐で腰に括りつけた鞘からナイフを抜いた
実装人は手に握ったナイフをのたうち回る実装石の喉仏に打ち込んだ、そのままギリギリと切り下ろす
実装石の胸筋を分割するようにナイフを入れ、硬く売り物にならない腹筋もナイフを動かして縦に挽き切った
蘇生するなり鋭利な刃物で喉から陰部まで裂け目を入れられた禿裸の実装石は、鎖を鳴らしながら絶叫した
そのナイフは実装人の肘から指先ほどの全長を持つ、峰に鉤状の皮剥ぎ刃のついた実装解体用のナイフで
白の中に赤と緑の紋様が大理石のように流れる骨の柄、実装石の大腿骨を研磨した特注の柄を装着していた
実装人は腹を割いた実装石の喉にナイフを刺し、首周りに切れ目を入れ、腕を絡ませて力をこめ首骨を折る
そのまま顎を強く持ち上げ、気管や食道、首の筋肉を鋭い刃でザクザクと切り開きながら、首を切り取った
実装石はその生命力で切断された器官から笛のような悲鳴を上げていたが、やがて痙攣を繰り返すのみになる
少女はフックに吊るされ不気味な蠕動を繰り返す実装石の蘇生体をしばらく眺めてから、解体の作業を再開した
実装人少女はナイフを医療用メスのように腹に潜らせて、肉に悪臭をつける生殖器官と内臓を慎重に除去した
続いて腹の裂け目の中間あたりに鉤歯を引っ掛け、実装の皮膚に切れ込みを刻んだ、腰部を一周する切れ目
その切り込みに手を突っ込むと、片手で皮を掴み、もう片方の拳を肉と皮の間にねじこんで引っ張り
実装石の皮を剥ぎ始めた、時々ナイフの鉤歯で切れ込みを入れながら、力任せに実装石の生皮を剥ぎ取る
少女は四肢を引っ張り腱を張りながらナイフを当てて切り、軟骨をギリギリと押し切り、手と足を切り離した
皮を剥がれ切り取られた実装石の腿や腕は、食肉店で売ってる骨付実装肉の体裁となって木の机に並べられる
実装石の背肉と胸肉を切り落とし、骨に僅かな肉を残すのみのガラとなった実装石の胸骨にナイフを当てると
右手で持ったナイフの尻を左手の拳で叩き、胸骨を切り開いた、実装石の薄い骨がバキ、パキと割れていく
肋骨を手で折っては捨て、姿を晒した赤い器官、人間のそれよりだいぶ簡略化された構造の心臓を露にする
慎重な手つきで心臓に何度もナイフを入れていた実装人の少女は、心臓と脊髄の間、硬い感触を探り当てた
少女は笑い、ナイフで切り開いた中に手を血まみれにしながら突っ込むと、翠色の石をつかみ出した
偽石
実装石と実装人の共有する器官のひとつ、実装人のそれは実装石よりだいぶ退化した単なる予備栄養器官で
最近では肥満の原因になると言われ、外科手術で体内から偽石を取り除く都会暮らしの実装人は多いらしい
実装石のそれは記憶や生命維持、体全体への命令を司る石で、破損は完全なる死を意味する命の石だった
実装人少女は血に汚れたそれを指先で摘んで小屋の窓ごしに陽に当て、澄んだ翡翠の輝きに卑屈な目で笑った
宝飾品や通貨の材料にも使われる実装石の偽石は貴重で、実装人世界では高額でない買い物はそれで賄えた
当然、換金も可能で、食肉用の実装石から割る事無く取り出せた偽石はそのまま解体者の小遣いとなった
実装人少女はランチ一食分の価値を持つ偽石をしばらく指で弄ぶと、それを無造作に机の上の籠に放り込んだ
この分なら午後のオヤツの時間までに、この死体の山を机一杯の食肉と皮革と、籠一杯の偽石に出来る
少女はオウチ実装石が作ってくれるであろう実晶花の実を飾ったケーキを思い、口の端を持ち上げて笑う
実装牧場の末娘として産まれた少女がこの仕事を進んで引き受けたのは、実装肉の売上げから入る歩合でも
偽石を換金して得る副収入でもなく、実装石を捕らえ、肉を切り裂き悲鳴を聞く行為そのものへの性的衝動だった
少女は同じ快楽を知る姉や実蒼人移民の友達のように、野生の実装石を狩るだけの体力には恵まれなかった
都会に出て仕事に就くことも、実装牧場の花形である実装狩人になることも出来なかった少女はやがて
放牧実装石の屠殺作業に執心したが、無駄のない作業が求められるその仕事の腕前はあまりよくなかった
少女は満足だった、余計な作業の多い解体作業は、居場所を求めていた彼女がやっと見つけた逃げ場だった
ひとつひとつの工程ごとに実装石の悲鳴や恐怖を味わっていた少女は、背後の大きな机を振り返った
整理されて美味しそうな色で並ぶ実装石の腿肉や胸肉と、その横に積み上げられた毒々しい色のハラワタの山
いずれこの腕や足は実装人達の食卓に並び、内臓と僅かな屑肉は切り刻まれて家畜実装石の餌に利用される
肉に余分な脂肪をつけないよう穀物で育てられていた家畜実装石にとって、同属の臓物は数日に一回のご馳走だった
今夜はオウチ実装石の食事もいつもの豆と穀物の粥じゃなく、新鮮な実装石のモツ煮込みにしようと思った
出された食事は文句を言わず食べるが、同属の臭いを放つ肉を口にするのをとても嫌がるあのオウチ実装石達が
自分の娘達の混じったシチューを出された時にどんな顔をするか、実装人少女は頬を赤らめ、息を漏らした
腿の間に手を伸ばしてそっと触れた少女の、ワンピースの下に穿いた水玉模様のパンツに薄い緑の染みが出来る
ある実装石が暮らす群れが遭遇した野生実装石狩り、弓と大剣で武装する実装狩人によって行われた殺戮
一匹の野生実装石が皆殺しの場から生き残った、その実装石は服と髪と、家族を引き換えに逃げ延びた
実装石が群れを形成していた森に狩人が襲来した時、草地の端に居たのがその実装石の運命の転機だった
周囲に居た他の実装石が家族を助けるために群れの中心に戻り、待ち伏せていた実装人の剣で殺される中で
その実装石は群れが粗末な草積み家で形成していた集落とは逆の方向、草地を囲む森の方角に駆け出した
生まれながらに他の実装石より大きめの体、ほんの少し異形の実装石の毎日は家族からの暴行の日々だった
森に逃げたその実装石を追った狩人は鈍足な実装石の襟首を掴み、一度は捕らえてその服と髪を剥いだが
実装石は生来の太い手足で滅茶苦茶に暴れ、まだ少女に近い実装人の手を脱すると、森の奥に駆け込んだ
実装人の多くは森を恐れた、森の奥には実装人にとっての脅威である実装昆虫や実装獣が居ると言われ
実装生物に捕食されることを何よりも不名誉なこととしていた実装人の狩人は、森を悪魔の巣として恐れた
実装石は森の中を駆けた、その容貌から自分を恐れ、明日にでも自分を殺そうとしていた家族の元に戻り
食欲と嗜虐心によって満たされる実装人の下種な胃袋のために生きたまま切り刻まれるくらいなら
このまま足が千切れ力尽きるまで走り、知能も無ければ悪意も無い虫に食い尽くされるほうがマシだった
下生えをかきわけ、木の根に足を取られながら実装石は駆けた、その裸体には走るごとに傷が増えていく
森を走り、山を転げ落ち、麓に広がる樹海を駆け抜けた実装石はさほど広くない森の終わりに辿り付いた
その実装石が森を駆ける間に、実装人が恐れる実装昆虫の群れに出くわしたことは何度かあったが
実装人にとって致死の熱病を媒介する実装蝿や実装蚊は、実装石の針の立たない肉体に纏わりつかなかった
実装人が虫の次に恐れていた大型の実装生物、実装石を丸呑みし実装人を食い、時に犯す実装熊や実装猿
走りながら上げ続けた悲鳴が本来臆病なそれらの獣を遠ざけたのは偶然で、それは幸運でも不幸でもあった
紺碧と翠の世界
蛆実装から進化した実装鯨や実装プランクトンが活発に動き回るようになって幾年、青い海は緑を帯びつつあった
その海や大気は大きく変わり、人間の居た時代の元素周期表に存在しない緑色の成分によって占められていた
かつて東海地震と以後の火山噴火の頻発による氷河期を引き起こし、人間の地球外退避に一役を買った海底火山が
永い休火山の時期を経て再びの大掃除を始めるべく、時間をかけて溜め込んだマグマを海中に排泄し始めた
地球は再び激しく振動した、前回のそれとの違いは、同じく地上で生命活動を営み大地震の脅威に晒された霊長で
以前の地震で壊滅した人間文明に替わって陸を支配していた実装人の文化未成熟な生活への被害は皆無に近かった
海底火山の噴火と、それによって起きた地殻変動は、深海に封じ込められた貨客船の残骸を海溝から解き放った
貨客船の船体とその貨物の多くは沈没の後、水圧によって圧壊し、永い永い時間をかけて土へと還っていたが
そのうちの一つが深海の奥深くで、潰れた鋼の船体にカプセルのように包まれることで原型を留めたまま残り続け
再びの地震で歪んだカプセルは内部に閉じ込められた空気の浮力により、静かなる海の底から海面に向かい始めた
発生直後の地球が有していた有機物のスープから天文学的な確率と何らかの外的因子によって発生した単細胞生物
その偶然と呼ぶには作為的過ぎる現象が後のすべての動物へと繋がる進化と多様化をもたらした時と同じ力が働き
海面の波に洗われ鋼のカプセルを脱した中身が海を漂い、何らかの意思に曳かれるように陸地の方角へと流れていく
ひとつのアルミケースが海流に乗り、緑色の海を越え、時を超えて実装人世界の砂浜に打ち上げられた
その実装石は潮の干満の関係で時折砂浜に漂着する流木や海草の中から、鈍い銀色の奇妙な物を見つけた
酸素も無く、細菌や微生物の活動も殆ど無い極低温の海底、カプセルの子宮で永く封印されていたアルミケース
貨客船で運ばれていた貨物の一部を見つけたのは一匹の実装石、狩りから逃れ森を駆け抜けて海に達した後
漂着する実装海草や実装魚の死体を喰らい、生き延びながら生きる意志を失いつつあった、あの禿裸の実装石だった
禿裸の実装石は見慣れない箱を蹴飛ばした、海面での浮遊で蝶番が腐食したアルミケースはあっさりと開く
ケースの中からは樹脂の箱が多数と、木目の美しい紫檀の箱が一つ出てきた、実装石は木の箱をこじ開けた
箱の中ではノースアメリカン・アームス社製の小型拳銃、ミニ・デリンジャーが銀色の肌を輝かせていた
人間が後世に残すべく厳重に保管した工業製品がほぼ例外無く時の流れと気候変化で朽ち、消えてていく中
拳銃は必然的に起きた偶然によって弓矢と刀槍の実装人世界に姿を現し、禿裸の実装石の手に飛び込んできた
禿裸の実装石はステンレス・スチールの拳銃と、小さなドングリのような22口径の弾丸が詰まった弾箱を手にした
その禿裸実装石が拳銃の箱を取り出した拍子に、小さな薄緑色の石ころがアルミケースから転がり出てきた
、
実装石と人間が地球で不安定な共存をしていた頃に居た実装石、その生涯を人間を殺す事に費やした実装石
ある年老いた実装石の砕けた偽石から採取されたデータ、それを書き込まれた人工偽石の唯一の完成試作品
人工の偽石を手にとった禿裸は深く考えなかった、生きるために同属の死肉をしばしば食らっていた実装石は
偽石もまた数多く口にし、さほど美味くもなく栄養も無い、口を紛らわせる程度の物だと認識していたが
逃亡生活で飢えていた実装石は何の疑いも無く、その人工偽石を口にした、噛み砕くとひどい味がした
実装石は不味い人工の偽石を飲み下してほどなく、急激な頭痛と未経験の不快感に襲われその場に蹲った
人工偽石の中にある実装石の記憶、ただ人間と同属を撃ち殺し続けた記憶が実装石の偽石に流れ込んでくる
その旧い時代の実装石が人間を殺すことに用いていたデリンジャー拳銃の操法や、生き延びる術の記憶は
人工偽石に転写された時に変質し、禿裸実装石の偽石への転送はその人工偽石の設計通りには成されなかった
人工偽石が実装人による殺戮を味わった禿裸の実装石の偽石に刻んだのは、「人」に対する暗く深い殺意
幾年の時を経て、死体の山を築く意思は実装人時代の禿裸実装石、一介の食糧動物に受け継がれた
実装石はアルミケースの中に入っていた、顕微鏡観察用の標本が封入されたガラスのプレートを叩き割った
ガラスの破片を丸い手に突き刺すように握ると、実装石は自らの頭部に僅かに残った頭髪を削ぎ落とし始めた
その実装石は待った
禿裸の姿で実装石牧場に潜入し、解体を待つ同属の山の中に入り込んで以来、虚ろな目のまま待ち続けた
陰惨に解体された実装石が、弓矢や鉈で潰された喉が裂けんばかりの悲鳴を上げる中で待つ禿裸実装石
同属が殺される場に居合わせた事は数え切れないほどあるが、死から逃れようとする悲鳴を聞くことに
その暗い目をした実装石、人工偽石の呪いに取り憑かれた禿裸の実装石が慣れる事は決して無かった
血の滴る同属の死体の中で、暗い目の禿裸は実装人に知られぬように体を動かして少女の手から逃げ続けた
解体を順調に進めていた少女は額の汗を拭い、その禿裸に覆い被さっていた肥満体の実装石を掴み上げた
禿裸は少女が実装石の死体を鉤に吊るし、腹を割き、内臓を引き出し、四肢と首を切り落とした実装石の
偽石を探り出す作業に集中するのを観察した、決して直視したくない陰惨な光景に腹のあたりが微かに音を発てる
実装人の少女は好色な笑みを浮かべ、まだ動き続けて赤緑の血飛沫を飛ばす心臓をナイフで抉っていた
その実装石は動いた
木の机の上で物音に注意を払いながらそっと体を起し、腹に結び付けていた汚い布包みを丸い手で苦労して解いた
血と糞で汚れた肌の中では目立たぬ汚い布包みの中身をそっと口にくわえる、金属の塊は体温を受けてなお冷たかった
机の足を伝い下に降りた実装石は、5発の弾丸を装填し布包みの中に隠していた銀色の拳銃をそっと持ち上げ
手の甲で音を抑えながらハンマーを起こすと、偽石の摘出に集中していた実装人の耳を狙い、引き金を強く引いた
拳銃の機関部にしみこんだガンオイルもまた、何一つ劣化せずに回転式拳銃を作動させる構造を維持していた
人間によって作られ、深海に封印されたヘキサニトロ火薬は酸素濃度の高い実装人世界で激しく爆発燃焼した
丸太小屋に響く短銃身拳銃の銃声、室内での射撃は初めてだった禿裸の鼓膜が痛みを訴え、少しの間聴覚を失う
実装人少女は右肩に銅被甲の鉛弾を食らった、人間の成人男子よりはだいぶ小さく脆い体の実装人少女は
着弾の衝撃で小柄な体を半回転させ、そのまま実装石の血で汚れた小屋の床に転がりながら叩きつけられた
22口径弾のヒットポイントである耳の穴に合わせた照準がうんと下にずれたのは、禿裸が無意識に抱いた感情だった
禿裸の実装石は、海岸に沿って広がる森によって実装人や実装生物から隔絶された砂浜でその拳銃と出会った
アルミケースの中から出てきた金属の塊が小さな金属粒を撃ち出す道具、この時代では未知の道具であることを
その実装石は人工偽石に残った断片的な記憶から教えられた、それが何に用いられた物なのかも含めて
その実装石は生まれたばかりの仔を扱うように、ステンレス・スチールの拳銃を恐々と手に取った
22口径弾の百発入りカートンのひとつを開けると、むずかる赤子に乳を与えるように弾丸を装填し始めた
誰にも教えられることもなく拳銃を扱う禿裸の実装石、その本能は人工偽石によって作り出された物だった
富士山麓で発見された老いた実装石、射殺された実装石の体内とその周辺の土壌から回収された偽石の破片
海上保安庁に居た旧軍時代の戦友によって、その実装石の生前の活動の一端を知る人工偽石計画の推進者は
老いた実装石を発見し、その偽石のデータを採取するために自身の資産と国家への影響力を最大限に使ったが
発見されたのは偽石を撃ち砕かれた実装石の死体、自らのデリンジャー拳銃をある若い実装石に譲渡した後
その旅をする実装石に射殺された直後の姿だった、程無くして老いた実装石が隠匿していた予備の銃も発見される
老いた実装石とその能力に執着していた計画の推進者は、割れ砕けた偽石のひとかけらも残さぬ回収を命じ
その人工偽石計画の最初の試作品に転写されるデータを粉砕された老実装石の偽石から採取することを決定した
老いた実装石に拳銃を譲渡され、後に老いた実装石を射殺した実装石もまた、数多くの死体の山を築いていたが
捜索対象が発見された事による調査予算の削減により、その旅する実装石の存在が彼らに知られることはなかった
実装石やデジタル珪素配列の専門家からの進言を無視して進められた計画によって製作された人工偽石は
破片となった偽石からデータの断片を読み出し、未整理のまま珪素結晶の人工偽石に詰め込んだ失敗作となった
人工偽石はその品質を問わず期日までに完成品を提出することで、スポンサーからの予算を維持するためだけに作られ
各データ間の結合を失い、読み込みもダウンロードも出来ない人工偽石の中身は、禿裸と出会うまで封印されていた
禿裸は砂浜の上で装填された拳銃の小さなグリップを握り、丸い手で何度も失敗しながらハンマーを起こし切る
右の丸い手でグリップと露出型のトリガーを一緒に包み、その右手に握力を加えたトリガーに力が与えられた
逆駒の外れたハンマーが22口径弾のリム雷管を叩く、長き眠りから鋭く目覚めた火薬が音の速さで爆発した
その実装石は激しい破裂音と共に自らの赤緑の血が噴出するのを感じた、射撃の衝撃で両腕の筋が引き裂かれた
禿裸の実装石は赤と緑の血の噴き出す両腕を抱えて砂浜に転がり、しばらく体中の痛みに泣き声を上げていたが
操られるように立ち上がり、反動で肩越しに背後へと飛んでいったデリンジャー拳銃を血塗れの両手で拾い上げると
自由の利かない両腕で再び構えると、痛みを求めるかのように拳銃のハンマーを起こし、再びトリガーを絞った
禿裸は海を撃ちつづけた、水平線を一望できる砂浜から見える、遥か彼方の実装人の幻影に弾丸を叩きこんだ
射撃のたびの襲う反動による肉体の損傷、その痛みに襲われている内は幻影は消え、青緑色の海しか見えない
その禿裸の実装石は鮮血を迸らせ、偽石が砕けんばかりの痛みの中で丸い地球に向けて弾丸を撃ちつづけた
実装石という種に辛苦を強いる実装人、そしてこの星へと自らの痛みを音速の弾丸に乗せて叩きつけた
人工偽石の内部にあったデータは、それが何なのかわからないまま禿裸の偽石、その意識の奥深くを苦しめた
実装石の偽石は、そのデータ間の結合に消去プログラムが隠されていて、物理的に破砕した偽石からの無作為転写によって
デリート機能を停止させることのみが、人工偽石にデータを転写する唯一の方法だという事に専門家達は気づかなかった
ここでもまた偶然の積み重ねが必然的に起きた、図らずも偽石の解読を阻む未知の機能は減力され、転写は実行された
そして、人工偽石に転写されたデータは、その内部で再びデータ間の消去プログラムを自動的に修復、作成していた
人間にとっての「死」に相当するデータ消去は機能するはずだった、禿裸が人工偽石を噛み砕き、結合を解くまでは
老いた実装石の意思は、その形を保ったまま任意に取り出すことの出来ないデータとして禿裸の偽石に残った
禿裸は海を撃ち続けていた
最初は撃つたびに後ろにひっくり返ったり腕の筋肉を千切ったり、犠牲や苦痛と引き換えの射撃をしていたが
ほんの数日後、アルミケースの中に詰まっていた2000発近い弾丸、その半数近くを海に向かって撃ちこむ頃には
装填された5発の弾丸を2秒で撃ち尽くし、弾道の安定した22口径弾を海面上で思うままに跳ねさせられるようになった
シングルアクションのハンマーの起こし方にも試行錯誤を重ね、ゆっくり起こす時は丸い手の甲を使い
即座に起こす必要のある時はハンマーの端に丸く脆い手を突き刺して起こすのが最も効率いい方法だと学んだ
海に向かって拳銃を撃ち続けた禿裸は、射撃の痛みが和らく頃には消えぬ実装人の幻影に慣れつつあった
山吹色の薬莢が散らばる砂浜で、その人工偽石を呑んだ禿裸の実装石は拳銃を手に、己のすべき事を知った
実装人の少女には理解できなかった、耳を平手で叩くような音がしたと思ったら、肩が燃える感覚に襲われた
昔、落馬して鎖骨を折った時や、麓の街で実燈人の物盗りに刃物で腕を切りつけられた時とは違う痛み
手で押さえた肩からは鼓動に合わせ赤い血が流れ出る、肩に残った22口径の弾頭は傷口を鉛毒で汚染し始めた
その実装人少女は、自分を突然襲った未知の苦痛と、肩を中心に体全体が震えるような嫌悪感をもたらした物が
目の前の禿裸実装石が持つ銀色の物体である事を知った、彫刻のように美しい銀色の獣が薄い煙を吐いている
それはまるで人間世界の出来事を婉曲して伝えた実装人世界の架空創作に出てくる、魔法の戦士の姿だった
「…な…な…何です?、実装石が実装人に歯向かうなんて…おかしいです!あってはいけない事です!」
怒鳴り散らした実装人は、信じられないような痛みをもたらした銀の獣を握る実装石のオッドアイを窺った
「…お…おい実装石!誤解するなです!わたしは実装石を虐待して楽しむような屑実装人とは違うです!
これでも家に帰れば3匹のオウチ実装石を大切に可愛がる、実装石への慈悲を忘れない心優しいママです!」
その禿裸の実装石は実装人少女の声、初弾の発射がもたらした耳の痛みを倍加させる不快な音に顔をしかめながら
手に持った拳銃のハンマーに手を食い込ませ、音たてて起こす、少女はその邪悪な金属音にパンツを汚した
「…………オマエは自分の仔を、誰かの奴隷にするために産み、育てたことがあるんデス?………」
ふたつめの銃声、耳の痛みは少し楽になる、実装人の左の肩に穴が開き、血管の位置の関係で緑色の血が噴き出す
「…オマエは自分の仔を一匹だけ他人に選ばせて、残りの仔を晩飯にするため差し出した事があるんデス?…」
みっつめの銃声、両肩を撃たれ、背を向けて逃げ出した実装人は右の脛に一発食らい、納屋の床に転がった
「オマエは自分と同じ言葉を話す者に、笑いながら生きたまま食われた事があるんデス?」
よっつめの銃声、左膝を撃ち抜かれ四肢の自由を失った実装人は恐怖と苦痛に床の上でのたうち回った
禿裸は顔を歪め体を逸らし、デニムスカートをめくりあがらせた少女の銃創から飛び散る汚い血を避ける
「…う…うわぁぁん!痛いです!死にたくないです!ママ助けてですぅ!痛い痛いいたいいたいいたい…」
それまで冷淡に拳銃を構えていた禿裸の実装石の顔に赤と緑が差す、オッドアイが放つのは、光を吸い込む光
「痛いデス?」
あの時集落で殺戮を行い、自らの髪と服を奪った生物が目の前に居た、砂浜で見て以来消えない幻影がここに存在した
「…痛いデス?…」
その実装石の前に血まみれで転がる実装人の少女は、禿裸の実装石とその人工偽石が憎み、呪った地球の意思だった
「……痛いデス?……オマエはよくもそんな事を…よく…その口で痛いだなんて…痛いだなんて…」
実装石は四肢を打ち砕かれた実装人に歩み寄ると、一発の弾丸が残った拳銃を実装人の顔に打ち付け始めた
人間よりも少し脆い実装人の肉に、硬化熱処理されたステンレス・スチールの銃身が何度も叩きつけられる
大きめのフロントサイトに肉が裂かれた、頬骨が砕ける感触を丸い手に感じながら、殴る作業を反復させた
実装人少女の顔はひどい有様になった、オッドアイの片方が骨の欠けた眼窩から外れかけ、視神経でブラ下がる
禿裸の実装石は少女の緑の目を引きちぎった、実装人少女の呻き声は千切られ収縮した舌に塞がれた喉で籠る
「…オマエが自分のしたことを見る気が無いなら…ワタシがよく見せてやるデス!」
禿裸の実装石は背伸びをすると、実装人少女の緑の目を机に積まれた実装石の内蔵の山に叩きつけた、体液と糞が飛び散る
実装人の少女は顔への打撃で痺れていた感覚を取り戻した、その痛みと視覚の異変で自分に起きた事を知った
片目を千切られた少女は喉から舌の切れ端を吐き出し、血の霧を呼吸しながら高く耳障りな悲鳴を上げる
「き・・・きゃあああああ!見えないです!見えないですぅ!私の目!わたしの目、まっかです!まっかですぅ!」
赤く染まった視界、赤と緑の目で見る対象の色調を認識する実装のオッドアイ、実装人は緑色の受容体を失った
緑の血が滴る眼窩を引っ掻きながら悲鳴を上げていた実装人は突然全身を震えさせ、人より鳥に近い啼き声を上げる
「ギャァァ!…な…なんですこれ!こんなの見たくないです!みせないで!おねがい…この…ミドリイロ…見せないでですぅ!」
実装人少女はかろうじて動く左手で顔を探り、空の眼窩に指を突っ込んで自分の眼球が無い事を知ると
唇の割れた口から悲鳴を上げながら、辺りの地面を狂ったように探っていた、赤い目に緑色はもう見えない
禿裸の実装石は一瞬の間、その実装人少女の緑の瞳を探して、緑の血の滲む眼窩に返してやろうと思ったが
それがあまりにも下らない事だということに気づき、実装人少女が自分で床を転がりながら探すのに任せた
自分のことは自分でやらせる、禿裸の実装石が聞いた話ではそれが実装人が使役するオウチ実装石の躾の基本らしい
実装人少女は膝の銃創から血を噴き出し、愚かにも失血による死期を早めながら机の足を掴み、這い登った
少女は机の臓物の山に頭を突っ込みかき回していたが、視界の中で赤く染まった臓物に耐え切れず、机からずり落ちる
実装石のオッドアイが多数混じった臓物の山を禿裸は少し見たが、気の毒ながら実装人少女の緑の瞳は見つからない
白目を有し実装石とは別物のはずの実装人の瞳、それもちょっと遠目に見れば全体が虹彩の実装石の瞳とあまり変わらなかった
体中を臓物で汚し、転げ落ちた机の下の床で体を丸めていた少女は、両方の目を手で覆いながら啜り泣いた
「…返してです!わたしの目!お願い返してです!・・・返して・・・返して…もう・・つぶして・・・みせないで・・・」
実装人少女は赤く塗りつぶされた視界と、時々襲い来る緑色のフラッシュバックに銃創より深い痛みを味わう
解体された実装石が積み上げられた机の下、実装人の少女は狭い空間の中で自らに起きている事態から逃避していた
少女は薄緑の涎を垂らし「…アカイ…アカイ…ミドリイロ…アカイ…アカイ…ミドリイロ…」と繰り返すだけになった
禿裸の実装石はどうするべきか少し考えた、オウチ実装石がこれほどの粗相をした時、どうするが正しいのか
机の下の暗がりに半ば体を潜りこませた汚物まみれの実装人を眺め、禿裸は右手の重みに左手を被せた、金属音
「……オマエは……糞蟲デス……糞蟲をどうするか…オマエはよく知っている筈デス……」
いつつめの銃声、四発目から少しの時間を置いて発射された、この五連発拳銃の最後の弾丸は
蹲る実装人少女の下腹部に撃ちこまれた、実装石でいうところの総排泄口があるあたり、その中心付近
体格の大小や筋組織の密度を始めとした、実装石と実装人のさほど多くない変異点のうちのひとつ
総排泄口を持つ実装石と、その中心に恥骨を形成し、人間によく似た膣と肛門に分化させた実装人
その二つの穴を隔てる壁、実装石と実装人のほんの些細な境目を弾丸は撃ち砕いた、二つの穴が一つになる
それはまだマラの実装人との交わりを知らない実装人の少女が、その部分に受け入れる初めての異物だった
その実装人の国では、受胎は「お姉さま」と言われるマラの実装人、50人に1人ほどの割合で生まれる
雄性生殖実装人との交配によって成されていて、実装人達は子を得るため、それ以上に自らの性欲のために
主に雌性の実装人とのセックスで生計を建てているマラお姉さまに大枚を払い、子作りや性の悦楽に励んだ
その実装人の少女は妄想に逃げがちだった、性徴期を迎えた後の少女はマラお姉さまとの恋物語を夢見ながら
村の酒場で実装人との性交を請け負うマラお姉さまとの最初の体験のため、牧場仕事で得た金を少しづつ貯めていた
実装人少女の膣を最初に貫いたのは直径5.56mmの鉛弾だった、激しい感覚を与えられた体が跳ねあがる
恥骨に当たった22口径被甲弾は回転しながら割れて四散した、炸裂横転した弾丸に陰唇と肛門が引き裂かれる
鉛と銅合金と骨の破片は実装人の膣内を破壊しながら前進し、卵巣を破裂させた後、子宮を破きながら停止した
実装人は下腹部を破壊した銃創のショックに体中の穴から液を垂れ流した、いつも実装石の糞の悪臭に
顔を歪めていた実装人は、飼料雑穀を食う実装石よりもかなり臭い緑の糞をズタズタの肛門から噴出させる
それがこの実装人、実装牧場の末娘として生まれ、家畜実装石の解体を生業としていた少女の最期の生命活動だった
その実装石は、血まみれ糞まみれ、愛液まで迸らせてのたうち回る実装人が、動きを止めるのを眺めていた
手に持った拳銃の銃口で、苦悶を刻んだまま停止した実装人の顔をつつき、完全に絶命した事を確かめると
禿裸のまま拳銃だけを持った姿の実装石は、浅い呼吸を繰り返しながら座り込み、自分の股間に手を伸ばした
総排泄口からマラ実装のマラの切れ端のような物を引きずり出した禿裸は端を口で噛み千切る、鈴のような軽い音
隠されていたのは弾丸、実装羊の腸に詰め、総排泄口に隠した予備の弾丸を手に持つと、禿裸は拳銃の弾倉を外した
削ぎ落とした毛の代わりに耳を鋭く立てていた実装石は、拳銃の空薬莢を捨てて弾丸を填めると、やっと耳を垂れた
装填した拳銃を持ったままその場に倒れこみたくなる疲労と戦いながら、納屋の羽目板の隙間から外を覗いた
実装牧場の母屋から遠く離れた丸太小屋、その周辺は静かで、銃声と醜い悲鳴を聞いた者は居ないらしい
その実装石は納屋の隅にある藁の山に座り込み、拳銃を手のすぐ傍に置くと、やっと溜めていた息を吐いた
ごく短い休憩の後、その実装石は納屋の中を見渡した、死体となった同属と、一際醜い実装人の死体がひとつ
その実装石は納屋の外が寒く、風が強い事を知り、実装人の死体から赤い実紅ウールのシャツを奪い取った
続いてデニムのワンピースを引っ張り脱がし、5mm少々の焼け焦げた穴の開いた汚物まみれの水玉パンツも剥ぐ
四肢に銃創を開けられ、恥部を破壊された実装人の死体、裸体に紫のブーツだけを身につけた少女は
悲鳴の形に開いた口から涎を垂らし。見開かれたままの片瞳を実装石に向けていた、嫌な気分になった禿裸は
その顔を足で蹴って向こうを向かせた、歯の覗いた頬の傷から血を滲ませた実装人少女は余計に醜くなる
赤いウールのシャツを手に取った実装石は、苦労してそれを纏ったが、シャツに合わない体型に閉口すると
実装人の持っていたナイフを不器用に握り、反して意外な器用さでシャツの袖や肩をザクザクと切り始めた
実装石は醜い実装人少女の、それに似合わぬ美しいハンティングナイフの使い心地のよさに目を細める
実装人のシャツをあちこち切り開くと、長方形の中心に穴が開いたウール布を作った、ポンチョのように体に巻く
裸の上に貫頭ポンチョを纏った締まらない格好だが、ポンチョ裏のポケットは拳銃を納めるのにちょうどいい
実装石の手には鉈ほどの大きさのあるナイフは、革の鞘についた紐を工夫して背中に襷掛けにして吊った
裸足の実装石は同属が解体された時に剥がれ奪われ、服と共に机の隅に積まれた実装石の靴には見向きもせず
ナイフの鞘を腰に縛り付けていた三つ編みの皮紐の余りをほどいて足に巻きつけて縛り、モカシン風の靴を作った
実装石は禿頭を撫でると汚れた水玉パンツを摘む、納屋の隅にあったバケツの水で洗って絞り、頭に被った
分厚いデニムのオーバーオールは何の使い道も無かった、ポケットに入ってたトゲトゲの砂糖菓子を頬張る
身支度を終えた実装石は、重い丸太のドアに肩を押し当ててこじ開けると、丸太小屋から外に足を踏み出した
外の空気は身を切るほど冷たいが、同属の死体の臭いにまみれた生温かい空気に比べれば遥かに甘く美味だった
拳銃の弾丸はさっき補充した5発のみ、急いで木の根に弾丸を隠した牧場の麓にある森に戻らなくてはいけない
赤いウールのポンチョに風を孕み、水玉パンツを被った禿裸の実装石は拳銃を手に、歩き出した
この時代の食料動物、実装人の狭い認識の中で自らに奉仕する動物とされた者の反撃が始まった
澄んだ緑色の空の下、深い緑色の海と大地に覆われた地球
郊外に並ぶ実装石の家々
茂る大樹の姿を模し、自然のままの美観と環境回復機能を損なわぬ住宅の中、実装石一家が食卓を囲んでいた
成体の身長は人間時代の単位で1メートル少々、しかし実装石達には十進法の数字の概念は存在せず
人間達が電子計算機によってその初歩の段階まで到達した二進法の感覚で数量や事象を認識していた
実装石一家の晩餐は豆のステーキ、蘇鉄に似た植物の根のサラダ、椰子に近い植物の繊維で作ったデザート
この時代の霊長は生きていくための動物の殺害から脱却し、主に植物の命を頂きながら生きていた
それは今までの動物が行って来た殺生とさほど変わり無い物だったが、少なくとも実装石の代に置いては
動物を殺めず植物を殺して生きる、ほんの少しの殺生のダイエットには成功していた
食卓の話題は同属を噂するお喋りから珍しく生真面目な方向へと進む、実装燈共同体との文化摩擦や
銀河系を一回りして土星衛星に落ち着き、絶滅の危機に瀕する人間への文明指導を中心とした保護活動など
他実装との些細な齟齬が、その十数億年後に訪れる実装石滅亡のきっかけになることを彼らは知らない
実装石と実装人の戦い、大きな体と武器を持つ実装人は、自然現象を自らの味方につける実装石の前に滅びた
実装石は独自の言語を唱える事で火を操り、土を自在に型作り、風を自らに纏い、木に護られ、水から力を得た
それは実装石が偽石を通して、地球が本来持つ力の流れをほんの少し変え、分け与えて貰う実装石の能力
人間や実装人の世界における架空創作の中で予見され、しかし未熟で傲慢なヒトには与えられなかった力
魔法と言われる物だった
偽石は常に実装石の味方となった、そして自然の森羅万象、地球は実装石の偽石と共に在ることを選んだ
実装石が持ち、人間になりたがった実装人が捨てた偽石の力は、地球を統べるために必要な能力だった
人間時代の武器を携えて実装人を殺しまくったその禿裸の行動は、後に実装人世界の各所で起きた実装石の反乱
魔法を操り、地球を味方につけ、短い間の支配者であった実装人に立ち向かった実装石の行動に照らし合わせれば
後ろ向きと言える物だったが、その禿裸の一撃は実装石達の行動の源となった不屈の意思にささやかな火を点し
その後に起きる歴史の変革、新しい地球の中での実装人の滅亡と実装石社会の興起の中で忘れ去られた
実装石夫婦のお喋りを訳知り顔で聞いていた中実装石の娘は、背伸びしたくなる年頃らしく話に割り込んだ
「実装人は愚かテス、人間にダメを出した地球に受け入れられるために、人間になりたがるなんて」
母実装は苦笑いして娘の頭を撫でた、思春期特有の青臭い善悪感、それは自分にも覚えのあるものだった
「いえ、実装人は人間の地球を実装の地球に変え、私たちに地球を渡してくれたんデス、過渡期の実装
アフターマン・ビフォア・ザ・ニューカマーは、私たちがずっと語り継がなくてはならない『人達』なんデス
実装石の牙3 (完)
あとがき
実装スクを書きつつも、寄り道で書き始めたファンタジー二次から思いがけず三つ目の牙が生まれました
実装石を魔法で人に勝たせるという案が閃いた時、その最初の一撃ははたして魔法によって行われるかと
考えた結果、それはありえないと思いました、歴史を変えた物の中身があくまでも実装石の強い意志で
魔法はその包み紙に過ぎないなら、それを証明するかのように、その変革のきっかけは別の包み紙で来る
そう思いながら色々とラッピングの柄に迷った末、拙作の頼もしき実装、牙の実装石を召喚しました
ではまた
吝嗇
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