タイトル:【な無】 実装製品規格調査業務
ファイル:こちら市民相談室 その4.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:171 レス数:0
初投稿日時:2006/12/15-11:37:16修正日時:2006/12/15-11:37:16
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こちら市民相談室 その4




(お姉ちゃん。はじめましてテチー!)
元気にあいさつをする仔実装。

(ニンゲンさん。この仔はどなたデス?)
ハゲは、仔実装を連れて部屋にやって来た俊之に聞いた。

「この仔実装もこの家で預かる事になったんだ。
 俺が仕事で出かけている間、お前がこの仔実装の面倒を見てやってくれると助かる。
 やってくれるか?」

仔実装は俊之が話している間、おとなしく立っていた。

仔実装が知らない場所に連れて来られた場合、
好奇心を抑えられずに辺りをキョロキョロ見たり、
興味を持った物に駆け出すのが普通である。

この仔実装は賢くて、子育ての経験の無い自分でも面倒がみられそうだとハゲは思った

(分かったデス。任せて下さいデス。
 それで、この仔の名前は何と言うのデス? 教えて欲しいデス。)

「そうだな…。えーと…。『ロボ』だ。この仔実装の名前はロボと言うんだ。」

(ワタチは『ロボ』テチ。お姉ちゃん、宜しくお願いするテチ!)
仔実装はハゲに向かってぺこりとあいさつをした。


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「ハゲ、この箱の中に仔実装用の遊び道具が入っている。自由に使ってくれ。」
俊之が玩具の入った箱を床に置くと、すぐにハゲと仔実装が駆け寄ってきた。

(ロボちゃん。何して遊ぼうデスー?)
楽しそうに箱の玩具をかき回すハゲ。

(ボールがあったデス! ロボちゃん、これで遊ぼうデスー!)
(テッチュー!)
ハゲは、箱の中から仔実装用の小さなボールを取り出す。

(ロボちゃん、上手デスー!)
(テッチャー!)
ハゲと仔実装の間で往復するボール。

楽しそうにボールを転がす仔実装。
そして、ハゲは仔実装以上に楽しそうであった。


うまく行きそうだ。
仔実装を与えたのは正解だったと、俊之は思う。

ボールを転がす仔実装。その動作にはぎこちなさは見られない。
顔には楽しい表情が示されている。
こちらも問題はなさそうだ。



(お姉ちゃん。ワタチのお歌を聴いて欲しいテチィ!)
ボール遊びの後に、仔実装が歌を披露する。
野良実装の調子はずれの歌ではなく、俊之の耳にも心地よく聞こえる。
人間が聞くことを前提にした音程の歌であるようだ。

(ロボちゃん! お歌が上手デスー!)
仔実装の歌を聴き終わったハゲが、拍手のつもりでぺちぺちと両手を叩き合わせている。

(こんなに上手なお歌は、お姉ちゃんは生まれて初めて聴いたデスー!)
涙を流すハゲ。よほど感動したのだろう。

この仔実装は、人間だけではなく、
実装石が見ても優秀な個体として認められるほど、良く調整されている様だ。

これなら、ハゲを任せられると、俊之は判断した。



「ハゲ。俺は仕事に行く。お前とロボの餌はここに用意しておくから、後は頼むぞ。」

(分かったデス! 頑張ってロボちゃんの面倒を見るデス!
 ニンゲンさんもお仕事頑張って欲しいデス!)
鼻息荒く、手を振るハゲ。



「面倒を見られるのはお前なんだけどな。」
俊之には気張るハゲの姿がちょっと面白かった。


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「おはよう。」
市役所内の仕事場にやって来た俊之。

「おはようございます。」
「おはようッス。」
彼の二人の部下はすでに席についていた。
林田はいつも通りであるが、斉藤の方は目の周りに青あざをつくっていた。

「どうしたんだ、それ?」
「何でも、ないッス!」
斉藤は不機嫌そうに返事をする。

「どうやら、同棲している彼女にやられたらしいですよ。」
林田がこっそりと耳打ちをして教えてくれた。

ふて腐れている斉藤の姿を良く見ると、手首には縛り跡、顔には引っかき傷、
さらに首筋にはキスの跡らしい腫れが認められた。

「ううむ。どんなプレイなのやら…。
 これは、部下とはいえ、私生活の事情には首を突っ込まない方が良いなぁ。」

「そうですね。そっとしておいてあげましょう。
 …ところで、試作品の実装人形の調子はどうでしたか?」

「ああ、人形もいつの間にか高性能になったもんだ。
 何せ、実装石自身が生身の同族だと信じて疑わなかったからな。」

「いい感じですね。
 メーカーのフタバ社でも改心の出来と言っていましたよ。」


実装人形は人間によって作られた仔実装の人形である。

しかもただの人形ではなく、自律で動作を行うものであり、
もはや実装石のロボットとも言えた。

現在は実装石の偽石情報の解析も進み、
生身の仔実装と同程度の動作ができるところまで来ていた。


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フタバ社の実装人形は、生身の仔実装を改造するところから始まった。
実装石を容易に飼いたいという人間の要望に応えたものである。



『可愛らしい仔実装ちゃんが糞をするのは似合わないので改造して欲しい。』

その要望を受けてフタバ社は、消化器官を取り除いた仔実装を試作した。
栄養補給は点滴で行う形になっていた。
ただ、このタイプはあまり長生きではなかった様である。



『仔実装が醜い成体実装に成長して困る。仔実装のままにして欲しい。』

その要望を受けてフタバ社は、仔実装の皮膚を剥ぎ、丈夫な皮に張り替えた。
成長しようにも皮が伸びないので、仔実装は大きくなれなかった。
ただ、長期にわたって生存した個体は、内側からの圧が高まり、
総排泄孔から中身が噴出するという不具合があった。

なお、このタイプには皮膚の手触りを生身の仔実装に近づけるため、
外皮の上にさらに仔実装の皮をかぶせた派生形モデルも存在した。
これには皮膚に栄養が届かず、腐るという不具合が出たため、
フタバ社は皮膚が黒ずんだ仔実装を回収するはめになったようである。



『仔実装が簡単に死にすぎて困る。少し頑丈にして欲しい。』

その要望を受けてフタバ社は、人形の体に仔実装の内容物を搭載した。
搭載したのは仔実装の脳髄、偽石、そして、声帯。
仔実装の声で歌う人形の登場である。
ただし、この製品はリモコンの操作で歌わせることができるだけであった。


歌う仔実装人形は一応の成功を見た。

仔実装のように動いて、仔実装のようには糞をしない存在。
それが次の製品に求められることになった。


フタバ社では、実装人形の開発チームを2つに分けた。
機械の体に仔実装の脳を乗せる「実装サイボーグ」のチーム。
完全な機械の体に仔実装の情報をコピーする「実装ロボット」のチーム。

「実装サイボーグ」チームは、仔実装を切り刻み、
どこまで機械で置き換えられるか確かめた。

「実装ロボットチーム」は偽石に電流を流し、実装石を構成する情報を引き出し続けた。

二つのチームはおびただしい数の仔実装の死体を量産しながら、
製品化に向けて熾烈に争った。



やがて、実装サイボーグチームの開発が滞ってきた。

搭載する頭脳の品質が保てないのである。
先天的に賢い仔実装の個体はごく少なかった。

頑丈な機械の体に『バカ』を搭載する。
それはただ単に危険物を作っていることになる。

賢い仔実装の脳髄を使用した場合、
あるいは、教育によって知能の水準を高めた場合でも、問題はあった。
生体の部品を使っている以上、劣化の問題が出てくる。

フタバ社経営陣は、生体部品の頻繁なメンテナンス作業で
ユーザーにさらに金を支払わせることができると踏んでいたが、
脳髄劣化時の暴走事故の危険性は大きく、開発を思いとどまらせるに十分であった。



対して、実装ロボットチームの開発は順調に進んでいた。

この国の産業では、工業用ロボットだけではなく、
介護用や愛玩用のさまざまな種類のロボットが開発されてきた。

実装ロボットは既存のロボットに仔実装の思考プログラムを搭載するだけで
済むようになったのである。

また、新手の虐待派の存在も大きかった。
彼らは実装石の偽石情報を書き換えて、珍種を生み出す遊びを行っていた。
偽石情報の改ざん情報をやり取りするwebサイトまで作られていた。
フタバ社はそこに目をつけた。

フタバ社は彼らと交渉した。
「金を出すから、もっとたくさんの実装石を壊してくれないか。」

そして、玉石混交ではあるものの、
研究室で得られる結果の何倍もの情報が寄せられるようになったのである。



フタバ社は「実装ロボット」開発の道に進むことになる。

フタバ社経営陣が最終的に「実装ロボット」開発に方針を固めさせたのは、
統括プログラマーが経営会議で言った次の言葉だと言われている。

『実装石の頭脳なぞ、ICチップ一個でもおつりが来るぜ!』


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「あの人形は、フタバ社の最新の製品なんだろ?
 それが、何故、俺達の部署に来ている?」

俊之の疑問。
自立型の仔実装人形は、いくら外見がチリィ仔実装であっても、
中身は立派なロボットである。かなりの高価な品であるはずだ。
しかも、試作機ともなれば値段が付けられないだろう。


「フタバ社には僕の知り合いが居ますからね。
 それに、ただで提供されているのではないですよ。
 実装石駆除業務にあの人形を使用して、結果を教えて欲しいと言われています。」

「駆除業務に使えか…。
 実装石に同族と認識させる機能を試せということかな。」

俊之は今朝の様子を思い出す。
ハゲは実装人形を同族と認め、すぐに世話をしだした。
ハゲがアホな子であるのを差し引いても、実装人形の擬態はうまくいっているのだろう。



本来、実装石の感覚を騙し、同族と認めさせるのはかなり難しい問題である。
野生の動物に比べ、あらゆる感覚器が劣っていると評判の実装石ではあるが、
同族、特に家族を感知する能力だけには何故か優れていた。

コンビニの前で託児を行った親実装が、
後になって仔実装の託児先の家を訪ねてくるという例がある。
自分の仔のところまで行かずに、
間違えて他の飼い実装のところを訪問したと言う話は今のところ聞かない。
やはり、実装石には個体の識別ができるのだろう。



「外見は騙せるとして、問題はそれ以外の感覚か。どうやっているのだろう?」

実装石が個体を識別する方法は、体のニオイだとか、偽石から出る波動だとか諸説ある。
未だ決着の付いていない論議である。

「それはですね。実装石の生体部品を使っているそうですよ。」

「生体部品は劣化するからダメだと聞いたことがあるぞ。」

「さぁ? 僕の専門外なので分かりかねます。
 マニュアルに何か書いてありませんでしたか?」

「マニュアルは全部読まなかったからなぁ。」

実装人形と一緒に箱に入っていたのは、製品化前の説明書であり、
雑多な文章を寄せ集めた内容の整理されていないコピー本であった。
俊之は、とりあえず「愛玩モード」で起動させるところを読んだだけだった。

「まぁ、家に帰ったら読むよ。
 あとは…、例の件の調べはついているか?」


例の件。
俊之は昨日の電話で、愛護団体について情報を集めるように指示をしていた。

「今は市内のどこに行っても愛護団体の支持者に会いますが、
 改めて調べると訳が分からない連中ですね。」
報告している林田の額にシワが寄っている。調査結果が思わしくない様子である。

そもそもの愛護団体は犬、猫、そして実装石などのペットを
可愛がるための運動をしましょうという程度の集団であったはずだ。
それらの小団体が合併、融合を繰り返し、いつの間にか数万人規模の組織になっていた。

資金力も動員人数も桁違いの組織。
大規模に膨らんだ組織をまとめる指導者が居るはずであるが、
その正体は知られていなかった。


「はい、はーい。俺が集めた情報があるッス!これ、見てくださいよ!」
今まで俊之と林田の話を聞くだけだった斉藤が寄ってくる。
雑誌を手に持ったまま会話に割り込むタイミングを探って居たらしい。

「お前、これ、エロ雑誌じゃないか。」
「ともかく、内容を見てくれッス!」
白黒コラムページの囲み記事を指さした。


  F市に本拠を持つ愛護団体は、内実は宗教団体そのもの。
  リーダーは新興宗教の教祖の例に漏れず、奇跡が起こせると噂されている…。

あとは、奇跡とは枯れ木に花を咲かせるとか、なんとか、かんとか。


「…これだけか。」
「今までの噂を記事にした程度ですね。ま、エロ雑誌ですからねぇ。」
俊之達は冷淡な反応。

「くうう! この本を買って来たのを見つかって蒼子に虐待されたのに、
 先輩方のお役に立てないのが無念でありまス。」
斉藤は天を仰いで嘆いた。

「まぁまぁ。それは、ご苦労だったな。
 しかし、逆に考えると、
 あんなに大規模に活動している組織のくせに情報が漏れてこないのは、
 メディア業界にも協力者を持っていると言う事になる。」

「そうですね。
 こうしてみると、行政や司法に大きな影響力があるというのも、
 まんざら嘘では無いのかも知れませんね。」

「でも、主任。
 何で急に愛護団体について調べようと思ったんでス?
 主任の方こそ、愛護団体の人間を知って居るんじゃないスか?
 だって、僕たちに資金援助をしている人と接触しているんでしょう。」



俊之達の実装班に裏から資金援助をしてくれている人は、
俊之と明衛門が小学生の時、担任の先生だった人である。

『愛護団体の裏金を俊之の部署に援助する』
『愛護公園の管理人に明衛門を採用する』
それらは、先生が、かつての教え子達を助けてくれたのだと思っていた。


昨日、愛護団体の集会会場で不思議な女の子に出会うまでは。



「愛護団体の会場で、高い地位に居ると思われる人物から、
 『お前を飼っている』と、言われてな。」

「その人物が疑わしいから調べろという事ですか?」

「そうだ。可愛らしい女の子だったぞ。」

「???」
林田と斉藤は困惑した表情を浮かべる。

「聞かされたお前らも困るだろうが、俺にもさっぱり分からん。
 あの、年端もいかない子供が、本当に大組織の指導者なのかと俺も疑う。
 でも、団体員のあの子の扱いを見ると、地位が高いのは間違いない様だ。
 資金が得られれば、出所は問わないつもりだったが、
 子供に手綱を握られているとなりゃ、話は別だ。
 危なかっしいったらありゃしない。」

「子供が指導者ですか。何か惹き付ける魅力を持っているのでしょうか?」

「さぁな。
 でも、可愛らしい娘というだけでは無いのだろうよ。
 アイドルの追っかけとは程度が違う。」

愛護団体に属する実装石愛護派は、愛護一辺倒のあまりに法を超え、
社会に対する背信行為を行う事もあった。

社会の法よりも、愛護団体の法を優先させる。
そうさせる物は何か?

「『奇跡』なんでスかね?」

「奇跡か…。
 とりあえず、奇跡が実在すると仮定する。
 どれほどの奇跡を自分に与えてもらえるのなら、社会に反逆するつもりになる?」

俊之の問いに、林田が答える。

「昔なら『枯れ木に花を咲かせる』だけでも十分な奇跡だったのでしょう。
 神の力の発露だと思えたのでしょうからね。
 それに対して、現在は自分自身に利益がある奇跡じゃないと駄目でしょう。
 しかも、科学が発達しても叶えられそうにない高い望みになる。
 死者の復活、若返り、死病からの治癒くらいでしょうか。」

「斉藤は?」

「完全無敵くらいの奇跡じゃないと難しいんじゃないッスか?
 社会に反逆して殺されたらおしまいですもん。」

「いや、それは一人で社会全体を相手にする場合だ。」
林田は斉藤の意見に口を挟む。

「今なら、そこまでの奇跡は必要で無いと思う。
 同志、つまりは愛護団体の構成員の数が多くなると、
 一人が受ける社会からの制裁の力が弱くなるでしょう。
 そうなれば、魅了するに必要な奇跡のハードルは下がる…。

 そうか。
 前言を撤回しましょう。
 そのような状況なら『枯れ木に花を』程度の奇跡でも通用する。
 いや、奇跡である必要ですらないかもしれない。
 多くの人間が奇跡を信じている状況なら、
 舞台の上で見せられるのがまやかしであっても、
 狂信者を仕立て上げるには十分でしょう。」

「それって…。」
斉藤の言葉が詰まる。

奇跡なぞ絵空事であったはずの話であったが、
結論が現実味を帯びるに至って、全員が黙ってしまった。


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(ゴハンを食べるデスー!)
(おいしいテチー!)

(お昼寝するデスー!)
(ねむねむテチー!)

この仔は、とても良い仔だ。
仔実装を布団に寝かしつけながら、ハゲは思う。

素直で、聞き分けが良い仔実装。
仔実装の幸せそうな顔を見ると、自分の中にあった不安など吹っ飛んでしまう。
もし、自分に娘を持つことが許されるのなら、この仔のように育てたいと思う。



 ぎゅるるる…。

異音がハゲの腹からする。急に便意がやってきた。

(ト、トイレに行かないといけないデスゥ!)
トイレに向かって駆け出すハゲ。
だが、今回も途中で排便の幸福感に負けてしまう。

(ああ…。)
幸福感が薄れたとき、ハゲは自分が糞を漏らしたのだと知る。

(ロボちゃんの面倒を見なくてはならないのに、自分が漏らしてしまったデス…。
 ワタシはお姉ちゃん失格デス…。)
ハゲは涙を流しながら、トイレの手洗い場で汚れた下着を洗う。

下着を洗ったら、次は糞で汚れた床を拭かなくてはならない。
ハゲは「実装ちゃんお掃除セット」から雑巾を取り出す。


(お姉ちゃん、どうしたのテチ?)
仔実装が布団の中から、ハゲの様子を見ていた。

(これは… その…。)
(お掃除手伝うテチー!)
ハゲが状況を説明できないでいる間に、仔実装は布団から抜け出す。
そして掃除用具を手に取ると、すぐに床を拭き始めた。

仔実装が、他人の漏らした糞を掃除するなどなかなか無い事だ。
やはり良い仔なのだと、ハゲは思う。


(きれいになったテチ!)
(ロボちゃん、ありがとうデス。)
仔実装の協力もあって、床はすぐにきれいになった。


(ロボちゃんのお昼寝を邪魔してごめんデス。
 さぁ、またお昼寝をするデス。)

仔実装を布団に寝かしつけようとして、ハゲは気づいた。

ハゲと一緒に食事をした、仔実装にも便意が来るのではないだろうか。
昼寝の前に仔実装にトイレをさせなくてはならない。


(ロボちゃん。トイレに行くデス。)
(イヤ、テチ。)
(デェ!? トイレに行かないと、後でロボちゃんが困るデス。)
(イヤ、テチ!)

今までハゲの言うことを聞いてくれた仔実装であったが、
トイレに行くことだけは拒否し続けた。

(イヤって言っているテチ!)
(何でデス! 今、トイレに行かないとお漏らしをしてしまうデス!)
(ワタチは、ウンチは出ないからいいテチ!)
(自分でウンチが出ないと思っていても、勝手に出てしまうから困るのデス!)

仔実装は頑強に拒否をするが、ハゲはあきらめなかった。

(トイレに行くデス!
 ロボちゃんには、ワタシと同じ失敗をしてもらいたくないデス。)

俊之の家で飼われるようになった最初の晩、ハゲは布団の中で糞を漏らした。

自分のために用意されたものを自分で汚してしまった。
あの時感じた絶望は、禿裸にされた時以上かもしれない。
仔実装にはその時の絶望を味あわせたくない

ハゲは力ずくで仔実装をトイレに連れて行こうと思った。

(お姉ちゃんがすることは、ロボちゃんのためなのデス!)
仔実装の体を布団から引き出そうとした。

(デ!?)
仔実装は小さな体のはずなのに、重かった。
成体実装以上の重さがあるのではないだろうか。

(頑張るデス! デェェーーッ!)
ハゲはやけに重たい仔実装を背負う。
力んだ拍子にまた糞が漏れたが、ハゲには構っている余裕は無かった。

(トイレに連れてゆくデスーッ!)
仔実装を背に立ち上がるハゲ。
しかし、限界であった。脚がガクガクと震えている。

(あきらめないデス… デッ!!!!)
歩き出そうとしたハゲが、転倒する。
自分の漏らした糞で足を滑らせたのだった。


 ドシャッ

重い仔実装がハゲの両足を押しつぶす。

(!!!!)
ハゲの意識が遠くなる。
このまま失神してしまえば痛みから逃れられるのだろうが、
やるべきことのためにハゲは意識を引き戻した。

仔実装は自分のせいで怪我をしただろう。
自分の事よりも、仔実装の事を心配しなくては。

(ロボちゃん!?)
ハゲは体をひねって自分の背後を見る。仔実装は床に顔面を叩き付けられていた。

(ロボちゃん!!!!)
ハゲは仔実装の頭を起こし、顔を見た。

仔実装の目は光を失うところであった。
そして、仔実装から感じていた気配が弱くなってゆく。

(ロボちゃぁぁぁーーん!!!!)
ハゲは、仔実装に気配を感じなくなったあとも叫び続けた。


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「ただいま。 …何だ、これは!」
帰宅した俊之が部屋の状況を見て驚く。

「どうした、何があった。ハゲ。」

(デェェェン… デェェェン… ニンゲンさん… ワタシはどうしたらいいのデス…)

仔実装の頭を抱えて泣き続けていたハゲがようやく泣き止む。
ハゲの声はかすれていた。一体、どれほどの時間を泣き続けたのだろうか。

「ハゲ、お前の足が潰れているじゃないか。もしかして、仔実装に襲われたのか?」

(違うデス。ワタシの足が潰れたのはワタシが悪いのデス。
 それよりも、ロボちゃんが死んでしまったデス。
 ワタシが床に落してしまったのがいけないのデス。デェェェン。デェェェン。)
ハゲはまた泣き出した。


また、面倒な事になったと俊之は思う。

とりあえず、ハゲの足の怪我の手当は済ませて床に寝かせたが、
実装人形の方をどう扱ったものかと考える。

作り物の仔実装を死んだことにして持ち去る手もあるが、
ハゲは自分が殺したと思っているようだ。
ここで種明かしをした方が、ハゲの精神的な傷は少なくなるかもしれない。


俊之は実装人形を持ち上げて、片目の奥を覗いた。
目の奥に見えるのは「E-9」の表示。
エラー番号の9番目。つまりは電池切れであった。


「いいか、ハゲ。よく見てろよ。」
(ニンゲンさん、何をするのデス?)

俊之は実装人形の口の中に指を突っ込み、ノドの奥のフックを引いた。
実装人形の首が前にだらりと垂れ、うなじが見えるようになる。

(デェェ! ロボちゃんの首が折れたデス!)
「だから、見てろって。」

うなじの所に円筒形のものが回転しながらせりあがってきた。
俊之は円筒形のものを実装人形から抜き取る。

(そ、それは何デス?)
「電池だな。これを交換してやれば、また仔実装は動く。」

(デェェェ!?)
ハゲはまだ状況が飲み込めないようだ。

「これは人間が仔実装に似せて作った人形だ。死にはしない。」

(でも、生きている実装石の気配がしたデス。
 それに、動かなくなったときには気配が無くなったデス。
 作り物なんて信じられないデス!)

『実装石の感覚を騙して同族と認識させる』という機能は十分に働いたようだ。
最後までハゲは仔実装の正体に気づかなかった。



「確か、替えの電池も送られてきたはず。」
実装人形が入っていた箱には、マニュアルと数本の筒が入っていた。

(そ、それデス! その棒から実装石の気配がするデス!)

ハゲが、俊之が手に持った電池を指差して騒ぐ。
電池は試作品であるらしく、
筒の上にビニールのカバーを巻いただけの簡素なものだった。
そのカバーには『実装電池』と表記されている。

「なるほど、実装石の電池か。」
林田は生体部品を使っていると言っていたが、これがそうなのだろう。

「しかし、実装電池は開発を断念したと聞いていたが…。
 ひそかに実用化に成功したのだろうか。」



実装電池とは実装石の偽石を用いて電力を得るものである。
実装石の偽石に発生する熱や生体電流を奪って使う仕組みだ。

実用化できなかった理由は、得られる電力量の問題であった。
偽石一個からは、豆電球がしばらく光ってから消える程度の電力しか得られなかった。

この結果を見た研究者達は、
「所詮は実装石ですからなぁ。こんなものでしょ。」と、力なく笑ったそうである。



一体どうやって電力不足を回避したのか。
興味を持った俊之は実装電池のカバーを剥がして見ることにした。

(!!!)
筒の内容を見てハゲが息を呑む。

「なんて単純な解決方法だ。」
俊之は思わず笑ってしまう。

円筒形の筒の中には、大量の偽石がぎっしりと詰め込まれていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(テッチュー! ニンゲンさん! おはようテチ!)
俊之が実装人形に新しい実装電池を入れてやると、実装人形はすぐに動き出した。

(お姉ちゃん、遊んでテチ! ワタチはちゃんとお昼寝したテチ!)
実装人形が寝た姿勢のハゲの方に駆けて来る。

(この仔…。)
ハゲにもようやく仕組みが分かった。

それは、実装石の命を消費して動く、作り物の実装石。


(お姉ちゃん遊んでテチー!)
(デヒィッ!)
ハゲは思わず近寄ってきた仔実装を押し返してしまった。

(お姉ちゃん、酷いテチィ。)
仔実装は悲しそうな表情を浮かべる。
何も知らない時のハゲであったなら、謝って一緒に遊びたいと思うだろう。

(お姉ちゃん! オネエチャン! 遊んでテチィー!)
仔実装はハゲに押しのけられても、押しのけられても付きまとう。

(ニ、ニンゲンさん! これは誰デス!? 
 どうして、仔実装ちゃんのフリをするのデス!?)

ハゲは、仔実装の接近を伸ばした手で必死に防いでいた。
とにかく距離を取りたいらしい。



「ええと、こいつのスペックが書かれている所は…。」
俊之は、分厚いマニュアルをめくる。

「おう、ヘルプモードがあるじゃないか。
 もう、正体がバレた事だし、俺が実装リンガルを見るのも面倒なので、
 人語モードで始めてくれ。」

仔実装は、ハゲに付きまとう事を止め、直立姿勢で止まった。

『了解しました。』
次いで聞こえてきたのは、深みのある女性の声。機械の合成音声である。


(!!!)
仔実装の中身が異質な存在であることを思い知ったハゲは絶句した。



「お前の使用目的を教えてくれ。」

『私の最初のバージョンは人間様に愛玩される道具として設計されました。』

俊之の言葉に答える仔実装。
言葉は淡々としていて、先ほどまでの仔実装らしい可愛らしさは微塵も無かった。

(アナタはワタシ達実装石のニセモノデス!
 本当にニンゲンさんに可愛がられるのは、ワタシたち実装石なんデス!
 ニンゲンさんはニセモノなんか可愛がらないデス!)

『………。』
仔実装はハゲの問いに答えない。

「ああ。その実装石の質問にも答えてくれ。」

『了解しました。』
俊之の言葉にはすぐに返答があった。そのことがハゲをいらだたせる。

『今の質問にお答えしましょう。
 実装石は不潔であり、傲慢な要求をする生き物。
 人間様が飼育するには不向きな存在です。
 そこで、私達が実装石を超えるものとして作られました。
 あなた方の代用品などではありません。
 その証拠に、最初から私達と暮らす事を選ぶ人間様が増えています。』

(でも、あなたは実装石の命をたくさん使って生きているデス!
 たくさんの実装石の中には、
 きっとニンゲンさんに気に入られる人もいるデス!
 ニンゲンさんたちは、最初からワタシ達を飼えばいいんデス!
 アナタなんか要らないデス!)

『確かに、私は実装石の偽石を消費して動きます。
 ですが、それは問題になりません。
 私には消費する実装石以上の価値があるのです。私の素晴らしさは、貴方も認めた。』

(デッ!)

『実装電池の利用については、
 実装石である貴方にとやかく言われる筋合いはありません。
 実装石自身が、実装石の命を消費して生きているではありませんか。』

(デ…。)

実装石の同族食い。
それは、実装石の社会のどこにでも起きる事象で、特に責任を問われることも無い。
食われた個体の『弱さ』が罪なのである。

(でも… でも…)
ハゲは、実装石が人間に愛される事の正当性を言い返したかった。
だが、考えはまとまらず、意味のある言葉にならなかった。



「じゃ、今度は俺が質問しよう。」
俊之が仔実装に話しかける。

「お前の実装電池を見たが、何だありゃ。
 確かにあれだと必要な電力は確保できるだろう。
 しかし、偽石生産のコストはどうなっている?
 幾ら効率的な実装石生産工場ができても、あの量を確保するには赤字だろう?」

『最近、幾ら仔を生んでも疲弊しない個体が発見されました。
 さらに、余剰の仔実装を食料に替え、生産石に与えています。
 フタバ社はほぼ無限に仔実装を生産できる仕組みを得たのです。』

「ああ、なるほど。あんな奴が他にも居たのか。」
俊之は、カフェテラスで大量の蛆実装を生んだ飼い実装の姿を思い出した。

『そして、実装電池には大きな利点があります。
 実装電池は環境によっては無尽蔵に電力を得られます。』

「環境とは、実装石の再生力が高められる場の事か。」

実装石の再生力が高められる地点ならば、偽石自体も消耗したり、壊れることなく
無限にエネルギーを提供し続けるのだろう。

最近、実装石の再生力が高まる地点は全国で次々と認定されていた。
野良実装達が死に難くなったのは忌々しい事ではあるが、
見方を変えると実装電池のような便利な使い方ができるのである。
そのうち、実装発電プラントもできるのかも知れない。

「へー。実装電池の実用化か。
 実装石に見破れない人形が売りに出されるのも、遠い話では無いのだなぁ。
 で、フタバ社はどのくらい売れると思っているんだ?」

『今までは愛護団体が実装石の愛らしさばかりを強調して伝えてきましたが、
 実装石の本性が知られるにつれて、飼い実装の増加は頭打ちになりました。
 私達、実装人形はその状況を利用することができます。
 愛らしさを持ち、かつ実装石の浅ましい性質を持たない存在。
 世の中の飼い実装は次第に私達に置き換わってゆくでしょう。』

(!!)
仔実装の言葉を聞いた、ハゲの体が震える。

目の前に居る仔実装の姿を持つ存在は、実装石の安心できる居場所を奪ってゆく。
この仔実装は実装石の敵だ。
ハゲは上半身を起こして仔実装をにらむ。

そして、ハゲは叫んだ。

(それでも、生きている実装石の方が素晴らしいデスッ!!!)

『では、生きていることの利点を教えてください。』

(それは…。)
相手の抑揚に乏しい声に威圧を感じるハゲであったが、
ここで負けてはいけないと気合いを入れた。



(ニンゲンさんと一緒にゴハンをおいしく食べられるデス!)
『実装人形も食べる動作ができます。
 違うのは食事の後。私達は食物を糞に変換しません。
 貴方達のクサイ糞は人間様が嫌う物質です。』


(生きている実装石は成長するデス!)
『そうです。生きている実装石は成長します。
 可愛らしい仔実装から、醜い成体実装になるのです。』


(生きている実装石は怪我が治るデス!)
『私達の体は、貴方達とは比べものにならないほどの強度を与えられています。
 それに、体が破損した場合には取り替える事ができます。』


(生きている実装石はお勉強をして賢くなるデス!)
『それこそ私達、実装人形の得意とする所です。
 私達は貴方達と違って、一度経験したことは忘れることはありません。』


(生きている実装石は子供を産むデス!)
『飼い実装が増えることは飼い主の人間様の負担になります。
 ペットに勝手に増えてもらっては困るのです。
 現在、飼い実装の避妊処置として様々な方法が試されているところですが、
 私達にはそのような問題は生じません。』


(生きている実装石は…。)
ハゲの言葉が詰まる。生きる実装石の優れていることが思いつかなくなったのである。

『どうしました? もう、終わりですか。
 では、私が思う『生きる実装石の優れている所』をお話しましょう。』

(デェ!?)
実装石自身が思いつく事の他にも、まだ、何かあるのだろうか?


『貴方達、生きている実装石が私達よりも優れている所は『死ぬこと』です。
 これだけは超えられません。私達はただ壊れるだけですから。』

(!?)
ハゲは仔実装の言葉が理解できなかった。

『人間様の中には実装石の死を楽しむ人たちが居ます。
 それは、虐待派と呼ばれる人たち。

 私達は私達の優れた所を使って、人間様に可愛がられる。
 そして、貴方達は『死ぬこと』を武器に人間様を喜ばせる。
 そのような棲み分けでよいじゃありませんか。』


(ダ、ダメデス! ワタシ達もニンゲンさんに可愛がられたいデス!)

『だったら、私達と貴方達でどちらが人間様に愛されるか勝負すればいい。
 見た目ですか?
 歌ですか?
 踊りですか?
 そのどれにおいても私達は優れるでしょう。
 私達は各分野で最も優れている実装石のデータを得ることができる。』

(…。)

仔実装の正体を知る前。
ハゲは仔実装の愛らしい姿に魅了されていた。
仔実装の愛らしさは実装石自身が認める本物。
とてもかないそうにない。

ハゲの目から涙があふれる。

(いやデス…。
 ワタシ達はニンゲンさんに可愛がられたいデス…。)

両足が潰れているハゲは、両手で体を引きずって移動し、
仔実装の体にしがみつく。

(お、お願いデス! ワタシ達の居場所を奪わないで欲しいデス!
 公園の野良実装には、優しいニンゲンさんに飼われることを
 夢見て生きている人達がたくさん居るデス!
 どうか、その夢を奪わないで欲しいデス!)

仔実装はしがみついたハゲを簡単に振り払う。
ハゲは床に転がされ、うつぶせの状態で止まった。

『それは、人間様が判断することです。私や貴方が考える事ではない。
 貴方達実装石が、私達実装人形よりも魅力的なら何も恐れる事は無い。
 そうでしょう?』

(デヒィ…。デヒィ…。………。)
ハゲはしばらく、ひくひくと痙攣していたが、やがて動かなくなった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「精神的な負荷による、仮死か。
 まぁ、コイツは明日の朝には嫌なことは忘れているだろうから、問題なかろう。」

俊之は、今までハゲと実装人形の会話を黙って聞いていた。

「面白いものだな。
 俺は一言も、お前に飼い実装を虐待しろとは言っていないが、
 競合する存在だけあって、敵視するようになっているのか。」

『申し訳ありません。
 俊之様から、静止の命令が有りませんでしたので、
 私に与えられた基本プログラムに従って行動してしまいました。
 生身の実装石を追い出して、その地位を占めるのが
 私達の基本理念の一つになっているのです。』

「お前の設計者が少なくとも愛護派で無いことは分かった。
 そう言えば、お前は駆除業務にも転用できるのだったな。」

『そうです。
 醜い実装石の完全排除は、私の設計者の願いです。』

「完全排除か。
 お前は飼い実装が実装人形に置き換わると言ったな。」

『はい。そのような結果になるでしょう。』

「お前は、実装石の可愛らしい面に惹かれた人間になら売れるだろう。
 でも、俺がお前を飼ったら、つまらないと思う。」

『何故そう思うのですか。宜しければ理由をお聞かせ下さい。』

「例えば、その対応だ。生きている仔実装なら反抗するだろう。」


『テチャァァー! 捨てないで欲しいテチィ!』
仔実装は床に転がり、手足をばたばたさせてわめいてみせた。
叫び終わるとすぐに直立姿勢に戻る。

『…とでも言えば宜しいのですか?
 私には反抗的な対応もプログラムされています。
 お望みでしたら、そのように設定を変更できます。』

「そうではない。今のお前は、真似をしただけだ。
 お前には、自分の生にしがみつき、あがくブザマな姿が足りない。」

『それは、『自分より矮小な存在を見て楽しむ』虐待派の考えではないのですか?』

「人間は愛護だ、虐待だ、と簡単に分けられる物ではない。
 実装石のブザマな姿は虐待派に喜びをもたらすものだけではなくて、
 一般の人間にも可哀想だという感情を呼び起こすものになる。
 お前は、喜びと楽しみを与える存在として作られた。
 お前は、人間の感情の陽の面しか刺激してくれない。
 お前は儚い存在ではない。
 それを物足りなく思う人間も居るということだよ。」

『今の意見を記録しておきましょう。
 私の開発者は優秀な方です。
 いずれ、実装石の『儚さ』も私に実装されることでしょう。」

「どうだろうな。
 お前は、人間という種族の感応力を舐めている。
 いくらブザマな姿を真似ても、演技と分かるだろう。
 本当のあがく姿は、生者にしか表現できまい。」

『意見として記録しておきます。』

「話はここまでだ。
 『飼い実装の相手をしろ』という命令を取り消す。
 停止してくれ。」

『了解しました。またの起動をお待ちしております。』
実装人形は動かなくなった。


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次の日。
ハゲは仮死状態のまま、意識が戻らなかった。
潰れた足の再生も始まっていない。

「仕方ない。
 いまいち不安な要素があるが、裏技を使うことにするか。」
俊之は電話をかけた。



「やぁ、トシ。今日はどうしたんだ?」
電話の相手は俊之の友人の明衛門。
実装石愛護公園の管理人をしている人物だ。

「俺の飼い実装が傷を負ってな。
 お前のところの公園に持っていって治そうと思うんだ。」

「ああ、なるほど。
 確かに僕の所の公園に来ると、何故かは分からないけど治るからねぇ。
 ただ、うちの公園では実装石に変な能力が付くことがあるけど大丈夫なのかい?
 預かったお偉いさんの飼い実装が、火を吹いたりしたら大変だろう?」

「問題はそれだよなぁ。
 しかし、すぐに治ってもらわないと困るんだ。
 連れてゆくよ。」

「そうか。なら、好きな時間に来てくれよ。僕はいつでも暇だ。」

「デースッ!」
電話の向こうから実装石の声がする。

「あ、おい!」

「どうしたんだ?」

「ミドロンゲにタバコを取り上げられたよ。」
明衛門は怒るふうでもなく、笑ってそう言った。

「何だ、お前。飼い実装に虐待されてんのか?」

「一週間に吸える煙草の本数が決まっているんだよ。
 僕の健康だとか、家計のためだとか言ってな。」

「…アキ。お前、ペットに家計を任せているって、どんだけ駄目人間なんだよ。」

「ははは。僕は、駄目人間だからねぇ〜。
 僕が金を持っているとあるだけ使うからな。
 ミドロンゲに任せておいた方がマシだね。
 そう言えば、最近、初めて貯金ができたよ。」

「おおお…。」
俊之は頭が痛くなった。
以前からだらしない奴だと思ってはいたが、まさかこれ程とは。

「まるで、鬼嫁の尻に敷かれている駄目亭主みたいじゃないか。」

「嫁と言うより、姑か。うるさくて仕方が無い。」


「デシャァァァー!!!」
電話の向こうからは、ミドロンゲの怒りの声。
その後、パコン、パコンと音がする。


「おい、アキ。そりゃ、何の音だ。」

「ああ、これか。ミドロンゲが灰皿で僕を叩いているんだ。」
明衛門が話している間も、パコン、パコンという音は続いている。

「しばらく前から、急に怒りっぽくなってな。
 怒りの感情が出ると歯止めが利かないらしい。
 この後、我に返ると土下座をして謝りだすんだ。面白いぞ。ははは。」

「おいおい、笑っていて大丈夫かよ。」

「実装石の力で叩かれても全然痛くないからな。放っておけばいいのさ。」

「いや、いや。
 お前が無視しているから、余計に怒りが収まらないのだろうよ。
 適度に反撃してやった方がいい。」

「そうかい?  そんじゃ、くすぐってみよう。
 それで、今日来るんだな。」

「そうだ。」

「じゃ、待ってる。」


 コトン

明衛門は携帯電話を切らずに、台の上に置いたようだ。
電話の向こうからはまだ声が聞こえてくる。



「行くぞミドロンゲ! うらー!」

「デェェー!? デェェー!?」

俊之が電話を切る寸前まで、楽しそうな明衛門の声が聞こえていた。


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