タイトル:【塩】 さくらの挿絵つき
ファイル:さくらの挿絵つき.html
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1096 レス数:0
初投稿日時:2005/05/02-00:00:00修正日時:2005/05/02-00:00:00
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さくらやっつけ(嬉しい挿絵つき)
05/05/02(Mon),08:49:16








友人から実装石を引き取ってきた。
生後から半年もの間、徹底的な虐待をされて育った彼女は、僕に対してもひどく怯え、
助手席に蹲り僕の顔色を伺いながら恐る恐る媚びた鳴き声をあげてくる。
「怖がらなくてもいいよ。僕は君を救う為に引き取ったんだからね」
驚かせないように優しく静かに声をかけてにっこり微笑みかけた。

家に到着し、彼女を部屋へと案内する。初めて見る光景を不安気に見回す実装石。
改めてその姿をみると身体中に痣と傷、髪の毛はぼろぼろにちぢれ、
小さな緑の洋服と身体は血や吐瀉物や排泄物の染みがまだら模様を作っていた。
恐らく地獄のような日々を過ごしてきたのだろう。
「…まずはお風呂でさっぱりしようか」
部屋に入ってからも僕から一定の距離感を保つ実装石に静かに明るく声をかけてみる。
声をかけられびくっと身体を震わせる実装石。こちらを見上げつつ、「デスー…?」とか細い声を出す。
無理もない。突然現れた他人を信用するなんて出来っこないものな。
俺は膝をついて彼女の瞳を見つめながら、ゆっくりと噛み締めるように言う。
「大丈夫。俺は絶対君を虐待したりしない。少しでも君の心と身体の傷を癒せるように精一杯頑張ります。
 信頼されるように頑張るから、えーと、その…よろしくお願いします。」
そう言って彼女にぺこりと頭を下げた。
「デ、デスゥー…」彼女は俯き、しばらくしてから漸く顔をあげた。
躊躇いつつも近寄って来て、そして僕の服の袖を小さな手で掴んだ。

服を脱がせて洗濯機に入れてから浴室で彼女を洗う事にした。
水音や湯気を見るだけで、不安気にそわそわしている。
彼女を安心させる為に僕も一緒にお風呂に入ることにした。
貴金属やベルト、眼鏡を外して浴室に入り、服を着たままシャワーを浴びてみせる。
「ほら、暖かくて気持ちがいいよ」
笑いながらおいでおいでをすると、ゆっくりただたどしく近寄ってきた。
どうにも歩き方が普通じゃないな。ゆるめの水流のシャワーをあてつつ足を見ると、
移動を制限する為だろう、腱を切り再生しにくいようにと焼いた跡があった。
実装石はとても再生力の強い種だ。健やかに生活していればいつかはこの傷も治るはずだ。
身体の状態を確認しつつ、ボディソープでなるべく傷や痣に触れて痛くさせないように洗っていく。
まだ緊張しているようで身体が少し力んでいる。
湯船に彼女が溺れないくらい浅く湯を引いた。また僕が先に入っておいでおいでをする。
今度は素直に僕の手の中に飛び込んできた。抱き上げてそっと湯船に下ろす。
「服を着たままお風呂に入るのって何だか変な気分だよ」
しゃがみつつ僕は笑った。「デスゥー」こくりと頷く彼女。
「君は僕の言葉が通じているみたいだね。君は賢い実装石なんだね」
湯の暖かさから頬を赤く染めている彼女はまるで照れているかのように見えた。





その日から彼女と僕の生活が始まった。
僕は彼女の心と身体の傷が充分癒せるようにと時間が許す限り精一杯努力した。
彼女も僕の誠意を理解したようで、次第に打ち解けて、少しずつ甘えてくるようになった。
言葉を理解する知能があり相手の気持ちを察するとても賢い個体のようだ。
トイレや食事の教育はされておらず、そういった事は手取り足取り教えていく。



間違えたならば、言葉で叱り、出来るまで見守る。
上手に出来た場合は褒める。決して餌などのご褒美は用意しない。ただ褒める。
餌を絡めて躾をすると実装石は物覚えが良いとあるが、それでは家畜に芸を仕込むのと変わらない。
僕は教育を通じて彼女に尊厳と誇りをも伝えたかった。
彼女はとても物覚えが良かったし、常に一生懸命だったので手は掛からなかった。
それに彼女は僕が褒めるだけで満足そうだった。
彼女が本当に欲しいもの、それは…







「デッス!デスデスゥ〜」
彼女がベッドの上の僕を揺する。寝ぼけつつ眼鏡をかけて時計を見ると針はきっかり8時を指していた。
「おはようさん。今日は晴れてていい天気だね」
「デスゥ〜!」彼女は嬉しそうに頷く。
今日は休日だがいつもと同じ時間に起こすように伝えておいた。
約束していた花見の準備をする為だ。
彼女が家に来てから半年、恐らく最近満一歳になった。
本日を誕生日として、その日にはお花見に行こうねと以前から約束していたのだ。
今日は特別な日。
彼女はこの日をとても楽しみにしていて前日は寝かしつけるのに大変だった。
弁当を作っていると、興奮した彼女が絵本を持って走ってくる。絵本を広げ、淡く彩色された桜の木を僕に見せて、
「デデッス!デスデスゥ〜!」と大騒ぎだ。彼女はまだ本物の桜の木を見たことがない。
「はいはい。わかったよ。でもね、本物の桜は……も〜っと、凄いですよ」
「デッスウーーーーー!!!!」興奮し過ぎて転がり回っている。
俺は笑いながらおにぎりを握った。



沢山のお弁当を持って僕と彼女は外に出掛けた。
春の陽気が気持ちいい。薄着でも少し歩けば汗ばむような天気だった。
すっかり足の傷も癒えて自由に飛び回れるようになった彼女は、嬉しそうに僕の前を走って行ったり、
上手に出来ないスキップのような可笑しなステップをとった。
前方を指差し、「デスデスッ!」「あれはポストだね、手紙を届けてくれるよ」
普段からこうやって指差しして僕がそれを説明する。好奇心旺盛な彼女はこれが好きだ。
空を指差し両手をぱたぱたとさせる「デスゥ〜!」「あれは、鳥だね。すずめかな?小さい可愛い鳥だね」
犬を指差し四つん這いになって「デスッ!デスデス!」「ははは、物真似上手だね。あれは、犬…」
不意に立ち止まり、黙って僕の目をじっと見つめる彼女。
「どうしたんだい?」僕も立ち止まり、しゃがんで顔を覗き込む。
次第に赤と緑の瞳が潤んできたのを見て僕は少し驚いた。何か声を掛けようとすると
「デッス!」彼女は顔をそらし、次に指差す対象を見つけたようで、元気にそちらに駆け出していった。

「…デスゥー………」
公園に着いた僕らを待っていたのは一面に広がる満開の桜だった。
軽く風が吹くと、桜の花びらがまるで雪のように舞う。
彼女はその光景を目の前にしてただ、立ち尽くしていた。
「綺麗だね」
「…デスゥ」
僕らは言葉少なく会話する。
こちらからは彼女の表情は見えない。だが、背中が少し震えているのが見える。
やがて彼女はしゃがみこんで桜の花びらを集め始めた。そして僕の元に駆け寄り、小さな両手一杯の花びらを僕に掲げる。




「ん?…僕にくれるのかい?」
「デデッス!デスデス!デッデ!」大きく首を横に振って何か必死に鳴き声をあげる。
「ああ、そうか」
「デッス!」こくこくと頷く。
「早速、お弁当をひろげようか」
「デ!?」

比較的静かな場所を見つけて敷物とお弁当を広げて、少し早い昼食兼、ささやかな宴を始めることにした。
何故か不機嫌だった彼女も、いつにも増して豪勢な料理を見て、嬉しそうな悲鳴をあげる。
お互い両手を合わせて、「いただきます」「デス」
僕は缶ビールを空けつつ、桜と、楽しそうに飲み歌い笑う人々を眺めていた。
「デス!デッス〜ン♪」
ふと気付くと野良実装石が3匹が近寄って来た。媚びた鳴き声をあげつつ、視線はお弁当に釘付けだ。
「余分に作って来てないんだ。ごめんな、分けてやれそうにないよ」
僕はそう声をかけるが、その3匹は理解した様子もなく僕の足に頬擦りしてきたり、お弁当に手を出そうとしている。
慌てて僕と彼女でそれを押し留めた。
危害を加えてこないと察したのか、甘えた声が一転、抗議してくるような激しい鳴き声に変わる。
そして僕を殴ったり引っ張ったりをし始める。服が汚れ野良特有の不快な異臭が鼻を突く。
非力な実装石の攻撃は痛くはない。ただ彼女の目の前で反撃して怖がらせたくなかった。躊躇していると、
「デッスゥーーーー!!」彼女が怒った。大声でその野良実装石らを威嚇する。そして飛び掛った。
野良たちと彼女が乱闘を始めるのを見ると、流石にのんびり構えている訳にも行かない。
その三匹を掴んで「コラッ!」と大声で怒鳴る。驚いた野良実装たちは途端に媚びた仕草と卑屈な鳴き声をあげた。
「さっさと行きなさい」離すと三匹は一目散に逃げて行き、遠くでこちらに怒った鳴き声をあげていたが、
やがて他の宴の席へと媚びながら乱入して行った。
彼女は興奮から荒い息をして肩を震わしボロボロと泣いている。
普段から大人しく臆病な彼女の姿からは想像も出来ない勇姿だった。
「僕を助けようと頑張ったんだね。ありがとな」
そう言って頭を撫でてやると、彼女は僕の胸に飛び込み、しがみ付いた。
僕は彼女が本当に良い子に育った事、僕を慕ってくれている事を実感した。


夕暮れの中を、僕は彼女を肩車して家路を歩く。
河原の水面が空を映して橙色にきらきらと輝いている。




「デデッス、デ〜デデ、デスデ〜スゥ〜♪」ふと調子の外れた音程で彼女は歌をうたい始めた。
いつも聞かされている僕はすぐ曲の見当がつく。
「おしりをだしたこ、いっとうしょう〜?」「デッス!」頭の上でぱたぱたと両手を振り回す彼女。
「…ゆうやけこやけで またあした〜 まったあ〜し〜た〜♪」「デスデス、デデッス、デ〜デ〜デ〜♪」
いいな いいな
にんげんって いいな
みんなでなかよく ポチャポチャおふろ
あったかい ふとんで ねむるんだろな
ぼくもかえろ おうちへかえろ
でんでん でんぐりかえって
「ばい ばい ばい〜♪」「デス デス デスゥ〜♪」





歌い終ったあと、僕も彼女も和やかな沈黙を楽しみつつ、肩車をしたまま自宅近くまで来た。
「今日は楽しかったかい?」「デスゥー…」
「また、春が来たらお花見に行こうな」「………」
「家に到着、はい、着地…」そう言いながら肩車から下ろそうとすると、彼女はその瞬間僕の頬に口を押し当てた。
そして地面に飛び降りて一目散に玄関の前に走っていく。
今まで彼女はこんな愛情表現をした事がなかった。それに照れてもいるのか。
僕は内心の感動を押さえ、ポーカーフェイスで何事もなかったかのようにドアの鍵を開ける。
彼女は僕をじっと見上げている。
僕は不意に彼女を見て、にっと笑いかけた。
「デ、デッス!!?」「ははは、そんな慌てなくても」
玄関のドアを開けようとノブを握ったその瞬間、僕の頭に衝撃が走り、僕は倒れた。


「よぉ、ひさしぶり」
野太い声で僕は起き上がる。気が付くと僕は部屋の中に転がっていて、後手を縄で拘束されていた。
声の主は、彼女の元の主人、僕の友人、そして徹底的な虐待好きな男のものだった。
「俺のものを、返してもらいにきたぜ。この泥棒野郎が」
彼の蹴りが僕の腹に突きささる。僕はくの字に身体を曲げて呻いた。
「デ、デデスーーー!!」彼女は、無事のようだ。寝そべる僕の身体を揺らす。
「随分懐かれてるなあ…。気にいらねえ。少々、礼をしておかなきゃ、な!」
顔面に衝撃が走る。次の瞬間、顔の中心に熱いものが込み上げ、ボタ、ボタと鼻血が流れ落ちた。
それを見て、彼女は悲鳴をあげる。そして彼に向かって威嚇の声をあげる。
彼は僕の鼻血と彼女を見て、ぴくりと眉をしかめて黙った。
「僕は大丈夫だよ、だから逃げなさい!」
それでも彼女は動かなかった。手を大きく広げ、震えながら僕を庇っている。
「ほほぉ、畜生が生意気に、主人を庇うってか」
彼はにやりと笑った。
「よし、てめえが大人しく俺についてくるならば、
 これ以上はご主人様にゃ手を出さねえよ。わかるか?」
「デ…」びくりと彼女は大きく震え、そして失禁した。彼と過ごした地獄の日々の記憶を思い起こしたのか。
「彼女だけは、やめてくれ。連れて行かないでくれ!」
彼は黙ってにやにやと笑っている。
彼女は、ゆっくりと彼に近づいて行った。
「いいこだ」
彼女を抱え上げて、彼は背を向ける。
「ほら、ご主人さまにさようならを言いな。もう二度と生きては会えねえんだからよ」
「…デ……デゥ!デス!デス!デス!!」ぶるぶると震えながら、彼女が叫ぶ。
「…待ってろよ、すぐ、行くからな。
 必ず、必ずお前を助けに行くから!」僕は鼻血を吹き、泣きながら絶叫する。
彼女は友人の腕の中で泣き喚きながら何度も何度も頷いた。


友人は黙って僕を一瞥し、そのまま乱暴にドアを閉めた。
外で車の発進音が聞こえ、排気音はやがて遠くなり、消えた。あいつと彼女は行ってしまった…。

僕はふらふらと立ち上がり、浴室に向かった。そして拘束されたまま不器用に剃刀を手に取った。





翌日友人から電話が掛かってきた。
「先日はすまんかったなあ。力の加減はしていたんだが。鼻は大丈夫か?」
「いや、構わないよ。打ち合わせの通りだし良い演出になった。
 ただ縛り目がきつくて縄を切るのに苦労したよ。それでそっちの調子はどうだい?」
「うん。たまらなくいいぜ。ぎりぎりまで追い詰めて、その度にお前の名前を出すと目に生気が戻って来る。
 負けるものかと歯を食いしばる。希望を持った賢い実装石、けなげでいじましいぜ。マジたまらねえ。
 しばらくはこのままゆっくり楽しませてもらうぜ」




「嗚呼、可哀相な、可哀相なあの子…。なんてな。
 僕の愛情がどれだけ彼女の心の礎になっているか、実感してくれたまえ」
「ああ、お前が助けに来るのを信じて疑ってねえ。心底お前を信頼しているんだな、あいつは」
昨日まで部屋を元気に駆け回っていた彼女を思い浮かべ、僕は少ししんみりする。もう彼女が自由に走り回る事はない。
「偉いなあ。本当に、嬉しいなあ…」
「なあ、いつか俺の家に来いよ。お前の口から真相を聞いたら、あいつがどんな顔するか。見たくないか?」
「いや、最初の約束の通り、僕はもう会う気はないよ。僕はあの子にとってずっと希望で在り続けたい」
「…お前ってつくづく変わった奴だよなあ」
「君がどんな風に彼女を虐げているか。それでも彼女は僕を思ってくれているか。それを聞くだけで満足だ。
 僕は可愛い実装石が大好きなんだ。そして悲しい実装石も大好きで、ただそれだけさ」
「この、愛護派め」
受話器越しにお互いの笑い声が響く。
「それより次はどんな風に育てようか?」
「そうだなあ…。今度の実装石は…」
次に来る可哀相な実装石への期待に僕は胸が高鳴った。

「そういえば、お前、あいつに名前をつけてなかったんだな」
僕は生返事をしながら、テーブルの上のしおれた桜の花びらを眺めた。昨日見た桜は、本当に綺麗だった。
彼女が本当に欲しかったもの…
「…さくら」
「え?」
「さくらって名前を、君が付けてやりなよ」
僕はにやりとしながら言った。
「きっといい声で鳴くよ」





注釈. 及び後記.
 05/05/04(水)17:00:00
*1:アップローダーにあがっていた作品を追加しました。
*2:html化のに伴い、若干レイアウトが異なる場合もあります。
*3:元のサイズの画像は実装虐待画像保管庫にて御覧になれます。
*4:仮題をつけている場合もあります。その際は作者からの題名ご報告よろしくお願いします。
*5:改行や誤字脱字の修正を加えた作品もあります。勝手ながらご了承下さい。
*6:作品の記載もれやご報告などがありましたら保管庫の掲示板によろしくお願いします。



さくらやっつけ(嬉しい挿絵つき)
05/05/02(Mon),08:49:16








友人から実装石を引き取ってきた。
生後から半年もの間、徹底的な虐待をされて育った彼女は、僕に対してもひどく怯え、
助手席に蹲り僕の顔色を伺いながら恐る恐る媚びた鳴き声をあげてくる。
「怖がらなくてもいいよ。僕は君を救う為に引き取ったんだからね」
驚かせないように優しく静かに声をかけてにっこり微笑みかけた。

家に到着し、彼女を部屋へと案内する。初めて見る光景を不安気に見回す実装石。
改めてその姿をみると身体中に痣と傷、髪の毛はぼろぼろにちぢれ、
小さな緑の洋服と身体は血や吐瀉物や排泄物の染みがまだら模様を作っていた。
恐らく地獄のような日々を過ごしてきたのだろう。
「…まずはお風呂でさっぱりしようか」
部屋に入ってからも僕から一定の距離感を保つ実装石に静かに明るく声をかけてみる。
声をかけられびくっと身体を震わせる実装石。こちらを見上げつつ、「デスー…?」とか細い声を出す。
無理もない。突然現れた他人を信用するなんて出来っこないものな。
俺は膝をついて彼女の瞳を見つめながら、ゆっくりと噛み締めるように言う。
「大丈夫。俺は絶対君を虐待したりしない。少しでも君の心と身体の傷を癒せるように精一杯頑張ります。
 信頼されるように頑張るから、えーと、その…よろしくお願いします。」
そう言って彼女にぺこりと頭を下げた。
「デ、デスゥー…」彼女は俯き、しばらくしてから漸く顔をあげた。
躊躇いつつも近寄って来て、そして僕の服の袖を小さな手で掴んだ。

服を脱がせて洗濯機に入れてから浴室で彼女を洗う事にした。
水音や湯気を見るだけで、不安気にそわそわしている。
彼女を安心させる為に僕も一緒にお風呂に入ることにした。
貴金属やベルト、眼鏡を外して浴室に入り、服を着たままシャワーを浴びてみせる。
「ほら、暖かくて気持ちがいいよ」
笑いながらおいでおいでをすると、ゆっくりただたどしく近寄ってきた。
どうにも歩き方が普通じゃないな。ゆるめの水流のシャワーをあてつつ足を見ると、
移動を制限する為だろう、腱を切り再生しにくいようにと焼いた跡があった。
実装石はとても再生力の強い種だ。健やかに生活していればいつかはこの傷も治るはずだ。
身体の状態を確認しつつ、ボディソープでなるべく傷や痣に触れて痛くさせないように洗っていく。
まだ緊張しているようで身体が少し力んでいる。
湯船に彼女が溺れないくらい浅く湯を引いた。また僕が先に入っておいでおいでをする。
今度は素直に僕の手の中に飛び込んできた。抱き上げてそっと湯船に下ろす。
「服を着たままお風呂に入るのって何だか変な気分だよ」
しゃがみつつ僕は笑った。「デスゥー」こくりと頷く彼女。
「君は僕の言葉が通じているみたいだね。君は賢い実装石なんだね」
湯の暖かさから頬を赤く染めている彼女はまるで照れているかのように見えた。





その日から彼女と僕の生活が始まった。
僕は彼女の心と身体の傷が充分癒せるようにと時間が許す限り精一杯努力した。
彼女も僕の誠意を理解したようで、次第に打ち解けて、少しずつ甘えてくるようになった。
言葉を理解する知能があり相手の気持ちを察するとても賢い個体のようだ。
トイレや食事の教育はされておらず、そういった事は手取り足取り教えていく。



間違えたならば、言葉で叱り、出来るまで見守る。
上手に出来た場合は褒める。決して餌などのご褒美は用意しない。ただ褒める。
餌を絡めて躾をすると実装石は物覚えが良いとあるが、それでは家畜に芸を仕込むのと変わらない。
僕は教育を通じて彼女に尊厳と誇りをも伝えたかった。
彼女はとても物覚えが良かったし、常に一生懸命だったので手は掛からなかった。
それに彼女は僕が褒めるだけで満足そうだった。
彼女が本当に欲しいもの、それは…







「デッス!デスデスゥ〜」
彼女がベッドの上の僕を揺する。寝ぼけつつ眼鏡をかけて時計を見ると針はきっかり8時を指していた。
「おはようさん。今日は晴れてていい天気だね」
「デスゥ〜!」彼女は嬉しそうに頷く。
今日は休日だがいつもと同じ時間に起こすように伝えておいた。
約束していた花見の準備をする為だ。
彼女が家に来てから半年、恐らく最近満一歳になった。
本日を誕生日として、その日にはお花見に行こうねと以前から約束していたのだ。
今日は特別な日。
彼女はこの日をとても楽しみにしていて前日は寝かしつけるのに大変だった。
弁当を作っていると、興奮した彼女が絵本を持って走ってくる。絵本を広げ、淡く彩色された桜の木を僕に見せて、
「デデッス!デスデスゥ〜!」と大騒ぎだ。彼女はまだ本物の桜の木を見たことがない。
「はいはい。わかったよ。でもね、本物の桜は……も〜っと、凄いですよ」
「デッスウーーーーー!!!!」興奮し過ぎて転がり回っている。
俺は笑いながらおにぎりを握った。



沢山のお弁当を持って僕と彼女は外に出掛けた。
春の陽気が気持ちいい。薄着でも少し歩けば汗ばむような天気だった。
すっかり足の傷も癒えて自由に飛び回れるようになった彼女は、嬉しそうに僕の前を走って行ったり、
上手に出来ないスキップのような可笑しなステップをとった。
前方を指差し、「デスデスッ!」「あれはポストだね、手紙を届けてくれるよ」
普段からこうやって指差しして僕がそれを説明する。好奇心旺盛な彼女はこれが好きだ。
空を指差し両手をぱたぱたとさせる「デスゥ〜!」「あれは、鳥だね。すずめかな?小さい可愛い鳥だね」
犬を指差し四つん這いになって「デスッ!デスデス!」「ははは、物真似上手だね。あれは、犬…」
不意に立ち止まり、黙って僕の目をじっと見つめる彼女。
「どうしたんだい?」僕も立ち止まり、しゃがんで顔を覗き込む。
次第に赤と緑の瞳が潤んできたのを見て僕は少し驚いた。何か声を掛けようとすると
「デッス!」彼女は顔をそらし、次に指差す対象を見つけたようで、元気にそちらに駆け出していった。

「…デスゥー………」
公園に着いた僕らを待っていたのは一面に広がる満開の桜だった。
軽く風が吹くと、桜の花びらがまるで雪のように舞う。
彼女はその光景を目の前にしてただ、立ち尽くしていた。
「綺麗だね」
「…デスゥ」
僕らは言葉少なく会話する。
こちらからは彼女の表情は見えない。だが、背中が少し震えているのが見える。
やがて彼女はしゃがみこんで桜の花びらを集め始めた。そして僕の元に駆け寄り、小さな両手一杯の花びらを僕に掲げる。




「ん?…僕にくれるのかい?」
「デデッス!デスデス!デッデ!」大きく首を横に振って何か必死に鳴き声をあげる。
「ああ、そうか」
「デッス!」こくこくと頷く。
「早速、お弁当をひろげようか」
「デ!?」

比較的静かな場所を見つけて敷物とお弁当を広げて、少し早い昼食兼、ささやかな宴を始めることにした。
何故か不機嫌だった彼女も、いつにも増して豪勢な料理を見て、嬉しそうな悲鳴をあげる。
お互い両手を合わせて、「いただきます」「デス」
僕は缶ビールを空けつつ、桜と、楽しそうに飲み歌い笑う人々を眺めていた。
「デス!デッス〜ン♪」
ふと気付くと野良実装石が3匹が近寄って来た。媚びた鳴き声をあげつつ、視線はお弁当に釘付けだ。
「余分に作って来てないんだ。ごめんな、分けてやれそうにないよ」
僕はそう声をかけるが、その3匹は理解した様子もなく僕の足に頬擦りしてきたり、お弁当に手を出そうとしている。
慌てて僕と彼女でそれを押し留めた。
危害を加えてこないと察したのか、甘えた声が一転、抗議してくるような激しい鳴き声に変わる。
そして僕を殴ったり引っ張ったりをし始める。服が汚れ野良特有の不快な異臭が鼻を突く。
非力な実装石の攻撃は痛くはない。ただ彼女の目の前で反撃して怖がらせたくなかった。躊躇していると、
「デッスゥーーーー!!」彼女が怒った。大声でその野良実装石らを威嚇する。そして飛び掛った。
野良たちと彼女が乱闘を始めるのを見ると、流石にのんびり構えている訳にも行かない。
その三匹を掴んで「コラッ!」と大声で怒鳴る。驚いた野良実装たちは途端に媚びた仕草と卑屈な鳴き声をあげた。
「さっさと行きなさい」離すと三匹は一目散に逃げて行き、遠くでこちらに怒った鳴き声をあげていたが、
やがて他の宴の席へと媚びながら乱入して行った。
彼女は興奮から荒い息をして肩を震わしボロボロと泣いている。
普段から大人しく臆病な彼女の姿からは想像も出来ない勇姿だった。
「僕を助けようと頑張ったんだね。ありがとな」
そう言って頭を撫でてやると、彼女は僕の胸に飛び込み、しがみ付いた。
僕は彼女が本当に良い子に育った事、僕を慕ってくれている事を実感した。


夕暮れの中を、僕は彼女を肩車して家路を歩く。
河原の水面が空を映して橙色にきらきらと輝いている。




「デデッス、デ〜デデ、デスデ〜スゥ〜♪」ふと調子の外れた音程で彼女は歌をうたい始めた。
いつも聞かされている僕はすぐ曲の見当がつく。
「おしりをだしたこ、いっとうしょう〜?」「デッス!」頭の上でぱたぱたと両手を振り回す彼女。
「…ゆうやけこやけで またあした〜 まったあ〜し〜た〜♪」「デスデス、デデッス、デ〜デ〜デ〜♪」
いいな いいな
にんげんって いいな
みんなでなかよく ポチャポチャおふろ
あったかい ふとんで ねむるんだろな
ぼくもかえろ おうちへかえろ
でんでん でんぐりかえって
「ばい ばい ばい〜♪」「デス デス デスゥ〜♪」





歌い終ったあと、僕も彼女も和やかな沈黙を楽しみつつ、肩車をしたまま自宅近くまで来た。
「今日は楽しかったかい?」「デスゥー…」
「また、春が来たらお花見に行こうな」「………」
「家に到着、はい、着地…」そう言いながら肩車から下ろそうとすると、彼女はその瞬間僕の頬に口を押し当てた。
そして地面に飛び降りて一目散に玄関の前に走っていく。
今まで彼女はこんな愛情表現をした事がなかった。それに照れてもいるのか。
僕は内心の感動を押さえ、ポーカーフェイスで何事もなかったかのようにドアの鍵を開ける。
彼女は僕をじっと見上げている。
僕は不意に彼女を見て、にっと笑いかけた。
「デ、デッス!!?」「ははは、そんな慌てなくても」
玄関のドアを開けようとノブを握ったその瞬間、僕の頭に衝撃が走り、僕は倒れた。


「よぉ、ひさしぶり」
野太い声で僕は起き上がる。気が付くと僕は部屋の中に転がっていて、後手を縄で拘束されていた。
声の主は、彼女の元の主人、僕の友人、そして徹底的な虐待好きな男のものだった。
「俺のものを、返してもらいにきたぜ。この泥棒野郎が」
彼の蹴りが僕の腹に突きささる。僕はくの字に身体を曲げて呻いた。
「デ、デデスーーー!!」彼女は、無事のようだ。寝そべる僕の身体を揺らす。
「随分懐かれてるなあ…。気にいらねえ。少々、礼をしておかなきゃ、な!」
顔面に衝撃が走る。次の瞬間、顔の中心に熱いものが込み上げ、ボタ、ボタと鼻血が流れ落ちた。
それを見て、彼女は悲鳴をあげる。そして彼に向かって威嚇の声をあげる。
彼は僕の鼻血と彼女を見て、ぴくりと眉をしかめて黙った。
「僕は大丈夫だよ、だから逃げなさい!」
それでも彼女は動かなかった。手を大きく広げ、震えながら僕を庇っている。
「ほほぉ、畜生が生意気に、主人を庇うってか」
彼はにやりと笑った。
「よし、てめえが大人しく俺についてくるならば、
 これ以上はご主人様にゃ手を出さねえよ。わかるか?」
「デ…」びくりと彼女は大きく震え、そして失禁した。彼と過ごした地獄の日々の記憶を思い起こしたのか。
「彼女だけは、やめてくれ。連れて行かないでくれ!」
彼は黙ってにやにやと笑っている。
彼女は、ゆっくりと彼に近づいて行った。
「いいこだ」
彼女を抱え上げて、彼は背を向ける。
「ほら、ご主人さまにさようならを言いな。もう二度と生きては会えねえんだからよ」
「…デ……デゥ!デス!デス!デス!!」ぶるぶると震えながら、彼女が叫ぶ。
「…待ってろよ、すぐ、行くからな。
 必ず、必ずお前を助けに行くから!」僕は鼻血を吹き、泣きながら絶叫する。
彼女は友人の腕の中で泣き喚きながら何度も何度も頷いた。


友人は黙って僕を一瞥し、そのまま乱暴にドアを閉めた。
外で車の発進音が聞こえ、排気音はやがて遠くなり、消えた。あいつと彼女は行ってしまった…。

僕はふらふらと立ち上がり、浴室に向かった。そして拘束されたまま不器用に剃刀を手に取った。





翌日友人から電話が掛かってきた。
「先日はすまんかったなあ。力の加減はしていたんだが。鼻は大丈夫か?」
「いや、構わないよ。打ち合わせの通りだし良い演出になった。
 ただ縛り目がきつくて縄を切るのに苦労したよ。それでそっちの調子はどうだい?」
「うん。たまらなくいいぜ。ぎりぎりまで追い詰めて、その度にお前の名前を出すと目に生気が戻って来る。
 負けるものかと歯を食いしばる。希望を持った賢い実装石、けなげでいじましいぜ。マジたまらねえ。
 しばらくはこのままゆっくり楽しませてもらうぜ」




「嗚呼、可哀相な、可哀相なあの子…。なんてな。
 僕の愛情がどれだけ彼女の心の礎になっているか、実感してくれたまえ」
「ああ、お前が助けに来るのを信じて疑ってねえ。心底お前を信頼しているんだな、あいつは」
昨日まで部屋を元気に駆け回っていた彼女を思い浮かべ、僕は少ししんみりする。もう彼女が自由に走り回る事はない。
「偉いなあ。本当に、嬉しいなあ…」
「なあ、いつか俺の家に来いよ。お前の口から真相を聞いたら、あいつがどんな顔するか。見たくないか?」
「いや、最初の約束の通り、僕はもう会う気はないよ。僕はあの子にとってずっと希望で在り続けたい」
「…お前ってつくづく変わった奴だよなあ」
「君がどんな風に彼女を虐げているか。それでも彼女は僕を思ってくれているか。それを聞くだけで満足だ。
 僕は可愛い実装石が大好きなんだ。そして悲しい実装石も大好きで、ただそれだけさ」
「この、愛護派め」
受話器越しにお互いの笑い声が響く。
「それより次はどんな風に育てようか?」
「そうだなあ…。今度の実装石は…」
次に来る可哀相な実装石への期待に僕は胸が高鳴った。

「そういえば、お前、あいつに名前をつけてなかったんだな」
僕は生返事をしながら、テーブルの上のしおれた桜の花びらを眺めた。昨日見た桜は、本当に綺麗だった。
彼女が本当に欲しかったもの…
「…さくら」
「え?」
「さくらって名前を、君が付けてやりなよ」
僕はにやりとしながら言った。
「きっといい声で鳴くよ」





注釈. 及び後記.
 05/05/04(水)17:00:00
*1:アップローダーにあがっていた作品を追加しました。
*2:html化のに伴い、若干レイアウトが異なる場合もあります。
*3:元のサイズの画像は実装虐待画像保管庫にて御覧になれます。
*4:仮題をつけている場合もあります。その際は作者からの題名ご報告よろしくお願いします。
*5:改行や誤字脱字の修正を加えた作品もあります。勝手ながらご了承下さい。
*6:作品の記載もれやご報告などがありましたら保管庫の掲示板によろしくお願いします。




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