実翠石との生活Ⅲ 短編まとめ5 ----------------------------------------------------------------------- 今日は猫の日 近所の商店街で買い物をした帰り道。 私と実翠石の常磐は揃って紙製の猫耳カチューシャを付けていた。 猫の日にちなんで商店街で配られていたものなのだが、常磐が痛く気に入ったようで、未だに付けっぱなしになっていたのだ。 まあ、常磐については似合ってるから別に良いのだけれど、さすがに二十代半ばの私がこういうのを付けているのは少々恥ずかしかった。 とはいえ、 「お姉さまとおそろいでうれしいです!」 「お姉さまもかわいいです!」 なんて言われては、さすがに外す気にはなれなかった。 「えっへへ〜」 今も常磐は私の腕に抱きつくように、身体を寄せてきている。 猫耳カチューシャも相まって、子猫が甘えてじゃれついてきているような感じだ。 まだまだ寒い日が続くけれど、腕から伝わる常磐の体温が、私の身体も、そして心も温めてくれている、そんな気がした。 『テヂィィィィィィィ・・・!』 そんな常磐達の様子を、庭で飼い主の幼女とボール遊びに興じていた仔実装のメロンが睨み付けていた。 頭には、幼女が手作りしたボール紙製の猫耳カチューシャが付けられている。 何故あのデキソコナイはワタチと同じ物を付けているのか。 何故あんなヒトモドキと同じ物を付けていなくてはならないのか。 自分よりも下等な存在であるはずのニセモノと同列に扱われるなんて許せない! 『テチィィッ!』 メロンは頭に付けていた猫耳カチューシャを地面に叩き付けた。 『テチャァッ!テチャァッ!テッチャァッ!』 怒りに任せて何度も踏み付ける。 『テヂャァァァァッ!』 仕舞いには踏まれてひしゃげた猫耳カチューシャにたっぷりと糞をひり出した。 よりにもよって猫耳カチューシャを手作りしてプレゼントしてくれた幼女の目の前で。 「・・・おかあさーん!メロンが、メロンが〜!!」 幼女が母親に泣きついた時点で、メロンの幸せな飼い実装生活は終わりを迎えた。 『ヂッ!?』 糞蟲化したと看做されたメロンはあっさりと首を捻られて始末され、翌日にはゴミとして処分された。 ----------------------------------------------------------------------- ハンバーガーフェス 「お姉さま、お姉さま、おいしそうな匂いでいっぱいです!」 会場のそこかしこから漂う、肉の焼ける香ばしい匂いが食欲を誘う。 今日は実翠石の常磐を連れて、ハンバーガーフェスに来ていた。 様々なハンバーガーショップが屋台を連ねていて、見ても食べても楽しいイベントだ。 パンフレットを片手に、常磐とあの屋台に行ってみたい、こっちの屋台も捨て難い、なんて話しているだけでも楽しいものだ。 「でも、あんまり食べ過ぎるとちょっと体重が気になっちゃうかも」 「またお姉さまのお胸がおっきくなっちゃうです?」 常磐がちょっぴり小悪魔っぽく笑って私の胸を指先でつつく。 「こ〜ら、くすぐったいでしょ?」 お返しに常磐の頬を軽くつつき返すと、何が嬉しいのかじゃれつくように抱きついてくる。 結局、半分ずつ分け合って、いろんな屋台のハンバーガーを試してみようという事になった。 二人であちらの屋台、こちらの屋台と歩き回っている内に、いつの間にかイロモノ系の食材を扱う屋台の近くに来てしまう。 中でも異彩を放っていたのが、食用実装石を扱う屋台だった。 【新鮮な実装肉をこの場で調理してご提供!】という謳い文句のとおり、店頭のケースに入れられた仔実装をその場で捌いて炭火焼きにして、ハンバーガーの具材にするという。 店頭の仔実装達は己の辿るであろう運命を見せつけられて、ある個体は泣き崩れ、ある個体は必死にケースを叩き、またある個体は助けて貰おうと誰彼構わず媚びている。 常磐には決して見せたくない光景だ。 「あっちの屋台も見てみようか」 「はいです!」 さり気なさを装い、私は常磐の手を引いてその場から距離を置いた。 『デヂャァァァァァァァァァァッッ!!』 そんな常磐達を目ざとく見つけた仔実装が、激昂して甲高い鳴き声を上げた。 『ふざけんなテチャァッ!!お前が喰われて死ねテチャァッ!』 激昂した仔実装に触発されたのか、他の仔実装達も口々に騒ぎ出す。 『ワタチタチが食べられるなんでおかしいテチィ!ヒトモドキが代わりにくたばれテチヂャァッ!』 『クソニンゲンに媚び売って自分だけシアワセになろうなんて卑怯テチィ!』 『このデキソコナイ!お前なんかウンコ喰わせてぶっ殺してやるテヂィッ!』 ケースの中の食用仔実装達が急に叫び出した事に、屋台に並ぶ人間達は困惑するどころか、むしろ活きが良くなったとその反応を楽しんだ。 折しも悪態をついていた仔実装の一匹がケースから出され、髪を引き抜かれ服を破り取られた。 『禿裸はイヤテッチャァッ!?』 そのまままな板の上に転がされ、包丁の背で何度も叩かれ全身の骨を砕かれる。 『ヤメテヂィ!痛いのイヤテチャァッ!?』 悲鳴が小さくなったところで包丁の切っ先で手早く腹を裂き、内臓をくり抜く。 『テッ・・・やめテチ・・・助けテチ・・・』 それでも死ねない仔実装は、炭火焼き用コンロに焚べられて、その身を焼かれてその短い生涯を終えた。 『熱いテチィ・・・こんなの嫌テチィ・・・!(パキンッ!)』 炭火でしっかり焼かれた仔実装は他の具材や調味料と共にパンズに挟まれ、客へと提供された。 客が仔実装入ハンバーガーをどのように扱うについては・・・、各位のご想像にお任せする。 「んん〜っ、このハンバーガーもおいしいです〜!」 パンズからはみ出すほど大きいフライドチキンが挟まったハンバーガーを頬張る常磐。 「ケチャップ、垂れてるわよ?」 常磐の唇の端に付いたケチャップを紙ナプキンで拭ってやると、常磐は恥ずかしげに小さく笑った。 私も常磐と半分こしたハンバーガーに口をつける。 フライドチキンの衣のザクザク感と、口内にじゅわっと広がる鶏肉の油がたまらなく美味しかった。 ま、ちょっぴり食べ過ぎるくらい、たまにはいいわよね? ----------------------------------------------------------------------- よくある託児の失敗例 実翠石の常磐を連れて、近所のスーパーで夕飯の買い物を終え、商品をエコバックに詰めていると、注意喚起に貼られているポスターが目に入った。 【野良実装による託児行為が増えています!】 【買い物袋の口はしっかりと閉じて下さいますようお願い申し上げます】 自然と眉間に皺が寄る。 当の野良実装達は食うに困ってやっているのだろうが、被害に遭う側としてはたまったものではない。 幸い託児に遭った事はないけれど、念には念を入れておくに越したことはないだろう。 お手伝いがしたいです、と言う常磐に持たせた小さめのレジ 袋に目が留まる。 言われずともちゃんと口を縛っている事に思わず口元が綻んだ。 「さ、帰ろうか」 「はいです!」 常磐の、大切な家族の小さな手を握り、家路に就く。 繋いだ手から伝わる温もりを、決して離さないように。 『デププ・・・!』 野良母実装は電柱の影から通りを窺い、嫌らしい笑みを浮かべた。 視線の先では、忌々しいヒトモドキの実翠石が飼い主に媚を売りながら歩いている。 ただでさえ乏しい備蓄食料が底を尽き、このままでは一家揃って餓死しかねないところまで追い詰められたこの野良実装一家は、 口減らしのために出来の悪い仔を三匹ばかり連れて託児に及んでいた。 良い機会だ。あのデキソコナイにこの仔達を押し付けてやろう。 そして臭いを辿って押しかけて、住処を分捕ってやる。 あの肉人形は飼い主のクソニンゲン共々奴隷にして、ボロボロになるまで扱き使ってから始末してやる! 『さあ、行って来るデス!ママも後からすぐに行くデス!そうしたらニンゲン共を奴隷にしてみんなシアワセに暮らすデス!』 『チププ、わかったテチ!』 『これで奴隷付きのセレブ生活テチ!』 『ママが来るまでにあのニセモノをボコボコにしておくテチャァッ!』 幸せ回路の為せる技か、既に薔薇色の未来を既定路線としている仔供達をまとめて抱え上げて、母実装は機会を窺った。 息を潜め、肉人形共が近くを通りかかるのをじっと待つ。 ここだ、と思ったタイミングでデキソコナイが手に提げていた袋に向けて仔供達を投擲した。 母実装としても会心のタイミングだった。 仔供達は見事に袋の入口へと向かってゆき、その全てが弾かれて地面に落下していった。 『チベッ!?』 『ヂッ!?』 『テヂャァァァァァァァ!?』 身長の何倍もの高さから地面に落ちた仔供達は、二匹が頭から落下して即死した。 残りの一匹は足から落下したため、下半身が潰れて激痛にのたうち回っている。 『デ、デ、デ、テジャァァァァァァァ!?』 仔供達の無惨な最期に母実装は悲鳴を上げるが、デキソコナイ共はこちらに気付くことなくそのまま歩み去ってゆく。 だが、母実装は悠長に悲しむことすら許されなかった。 叫んだばかりに町内会の見回りに発見された母実装は、その場でスプレー式コロリを噴霧され、生き残った仔共々あっさりと駆除された。 『ママ、遅いテチィ・・・』 『きっとすぐ帰ってくるテチ。それまで仲良く待ってるテチ』 巣に残してきた出来が良い仔達も、母実装の帰りを待ち続けた結果、一匹残らず餓死して果てる事となった。 ----------------------------------------------------------------------- 何もかも失って 「今日はすっごく楽しかったです〜!」 二人でちょっと着飾って街までお出かけして、ウィンドウショッピングしたり猫カフェでお茶したりと楽しんだ帰り道。 すっかり陽が落ちた道を、実翠石の常磐と手を繋いで歩く。 「猫ちゃんも可愛くて、よく懐いてくれて嬉しかったです〜!」 猫達にモテモテだったのがよほど嬉しかったのだろう、猫カフェを後にしても常磐の顔は終始笑み崩れたままだった。 「お楽しみはまだ残ってるわよ?」 そう言って、私は手に提げた紙袋を掲げてみせる。 中身は自分達へのお土産にと買い求めたアップルパイだ。 たっぷりと使われたバターとリンゴの甘い香りが鼻腔を刺激する。 「お土産も楽しみです!お姉さま、早く帰りましょうです!」 そう言ってくいくい手を引っ張る常磐の様子に思わず苦笑が漏れる。 「アップルパイは逃げたりしないから。道も暗いし、転ばないようにね」 「はーいです!」 そんな会話を交わしていると、道の反対側に野良実装の一家と思しき集団が見えた。 こちらに背を向けて、何処かへと向かっているようだ。 方向からして、おそらく公園の巣にでも帰る途中なのだろう。 だが、少しばかり様子が妙だった。 母実装の後を仔実装が三匹歩いているのだが、最後尾を歩く仔実装は先をゆく仔実装二匹と違い禿裸だった。 腕には同じく禿裸の蛆実装を抱いている。 『置いてかないでテチィィッ!』 『グズな禿裸テチ!役立たずテチ!』 『チププ、無様テチ!禿裸にはお似合いテチ!』 禿裸は蛆実装を抱いているせいか遅れ気味で、何とか追い付こうとしているが、追い付いた途端に仔実装二匹から殴られ、 足蹴にされ、押し倒され、糞を塗り付けられていた。 それでも禿裸は起き上がり、蛆実装を抱いて懸命に後を追おうとしている。 母実装は仲裁するどころか、禿裸を嘲笑ってすらいた。 いわゆる愛玩仔と搾取仔というやつだろうか? 嫌なものを見てしまった。常磐には見せたくない光景だ。 幸い野良実装はこちらに気付いている様子はない。 私はさり気なさを装い、野良実装一家を追い越していった。 母実装は苛立っていた。 備蓄食料が底を尽き、空腹に耐えかねて一家総出でゴミ捨て場を漁りに来たのだが、一切収穫が得られなかったのだ。 こうなってはいざという時の囮に連れて来た禿裸を食わざるを得ない。 だが、その後は・・・。 そう考えたところで、香ばしく甘い香りが母実装の所にまで漂ってきた。 匂いの元に視線を向けると、そこにはニンゲンに手を引かれた実翠石、あの忌々しいヒトモドキのデキソコナイがいた。 生意気にもニンゲンに飼われ、綺麗な服で着飾り、甘く美味しそうな食べ物まで与えられ、何不自由無く暮らしている。 過酷な野良生活を送り、着ている服は破れほつれ垢と汚れにまみれ、食事にも事欠く自分達とは雲泥の差だ。 『デギギギギギギィィ・・・・!』 憤怒で視界が狭まると同時に、身体は自然と駆け出していた。憎むべき肉人形に思い知らせてやるために。 『生意気テチィ!ぶっ殺してやるテチ!』 『お前も禿裸の奴隷にしてやるテチャァッ!』 仔達もヒトモドキの存在に気付いたのだろう。母実装同様激昂してその後に続く。 だが、 『デベジッ!?』 『チベッ!?』 『ヂッ!?』 道の真ん中に出ようとした途端、部活帰りの高校生達が操る自転車に轢き潰されて、三匹は尽く道路の汚い染みと化した。 『ママ、お姉チャ・・・』 そうした光景を見て、禿裸は道の端で膝を折った。 ニンゲンの子供から姉妹を守るために囮となり、髪と服を失ったこの禿裸仔実装を、母実装と姉妹は労りではなく嘲笑をもって迎えた。 扱いは家族から奴隷へと落とされた。 それ以来、日々苛められ、蛆共々糞ばかり食わされる毎日だったが、それでも家族を失った事に変わりはない。 そして、家族を失った仔実装が生き残れる可能性は万に一つも無い事を、禿裸仔実装は賢いが故に知っていた。 『・・・テェェェェェェンッ、テェェェェェェンッ・・・!』 家族の奴隷として生きる道すら奪われた仔実装は、蛆実装を抱き締めながら泣き出し始める。 何も分からぬ蛆実装はレフレフと無意味に鳴くばかりだ。 夜を迎え、下がった気温が禿裸達の体温を容赦なく奪ってゆく。 泣き声は徐々に小さくなってゆき、夜更けにはそれも聞こえなくなった。 ----------------------------------------------------------------------- 迷子の仔実装と蛆ちゃん 「お姉さま、お姉さま」 実翠石の常磐を連れて近所の商店街に買い物に来ている時だった。 常磐が私の袖をくいくいと引いて、少し先の道の端を指差す。 「どうしたの?何かあった?」 何があるのか視線を向けると、ピンクのリボンとマフラーを付けた仔実装が一匹、蛆実装を抱き締めて泣きながら歩いていた。 おそらくは散歩の途中ではぐれた飼い仔実装だろう。 正直なところ、あまり関わり合いになりたくはなかったが、 常磐の見ている手前、あからさまに見捨てるのも気が引けた。 「助けてあげたい?」 そう聞く私に、常磐はこくんと頷く。 優しい娘に育ってくれている事に内心嬉しく思う。 幸い、歩いてすぐの所に交番がある。 遺失物扱いで預かって貰えれば飼い主の元に戻れるだろう、たぶん。 「それじゃ、可愛い常磐のために一肌脱ぎますか」 「ありがとうです、お姉さま!」 まあ、野良と違って飼い実装なら躾はされてるだろうから、常磐に無闇と敵意を向けてくることは無いだろう。 私はスマホのリンガルアプリを起動して、件の仔実装に近付く。 仔実装も近付いてくる私達に気付いたのか、こちらを見上げてきた。 途端、泣き顔から顔中にシワを寄せ、歯を剥いた威嚇顔へと豹変する。 『テヂャアァァァァァァァァァッ!!』 敵意を剥き出しにして甲高い鳴き声を上げる仔実装。 興奮しすぎたのか、たっぷりと脱糞までしている。 リンガルには仔実装の発した罵詈雑言が次々に表示された。 『ヒトモドキが何しに来やがったテチ!?』 『デキソコナイの分際で飼われてるなんてナマイキテチ!死ねテチ!』 『お前みたいな媚びるしか能がない糞蟲はウンチ喰ってるのがお似合いテヂャアッ!!』 『そっちのクソニンゲンも脳味噌腐ってるテチ!肉人形好きの変態テチャァッ!』 ・・・よくもまあそんな小さい脳味噌でここまで悪態を吐けるものだと、ちょっぴり関心してしまった。 仔実装はたっぷり漏らした糞をこっちに向けて投げ始めてすらいる。 非力なせいか全然届いてないけど。 ここまで拒絶されては、助けようなどという考えはお節介に過ぎなかったと諦めるしかないだろう。 「これはちょっと、無理そうね・・・」 「ぁぅ・・・・・・」 『・・・行こっか、常磐』 『はいです・・・』 しょんぼりと肩を落とす常磐の手を引いて、私はその場を後にする。 まあ、常磐が手を差し伸べなくてもたぶん誰かが助けてくれるだろう。 いささか迷惑な存在とはいえ、近隣には愛護派が幾人かは居るみたいだし。 『おとといきやがれテチィ!!』 背を向けて歩み去る二人の背中が見えなったところで、仔実装のテチミはようやく投糞の手を止めた。 『おねチャ、すごいレフ〜!ヒトモドキをやっつけたレフ〜!』 腕に抱いていた蛆実装が、興奮した様子でレフレフ鳴いてテチミを褒めちぎる。 『ママがいなくても蛆ちゃんはワタチが守るんレチ!蛆ちゃんとはずっと一緒テチィ!』 蛆実装の言葉に気を良くしたテチミが鼻息荒く胸を張る。 母実装に連れられて家族で散歩に出たは良いものの、ふとした拍子にはぐれて泣きながら彷徨っていた事など、テチミはすっかり忘れていた。 そしてテチミはもう一つ重要な事を忘れていた。 商店街のような公共の場所で糞を撒き散らすなどという暴挙に出れば、どんな仕打ちを受けるかを。 再び近付いてきた人影に気付いたテチミは、今度も追い払ってやろうと威嚇のために歯を剥いた。 『テチャァァァァァァァッ!あっち行けテチィ!!』 忌々しい実翠石を追い払ってやったという自信と、蛆実装にいいところを見せようという自己顕示欲が肥大化したが故の行動だった。 問題は、本来であれば仔実装如きの威嚇など蟷螂の斧にも等しい事を、テチミが終ぞ理解出来なかった点にあった。 人影の正体は、商店街の清掃のために雇われた老人だった。 糞を撒き散らして鳴き喚くテチミを見つけた老人は、トングでテチミをつまみ上げてゴミ袋に放り込み、あっさりと踏み潰した。 『ヂッ!?』 『レビャッ!?』 ずっと一緒というテチミの宣言通り、テチミと蛆実装はゴミ袋の中で一塊の肉塊と化した。 ----------------------------------------------------------------------- 犬吸い、常磐吸い、そして・・・ よく晴れて3月にしてはずいぶんと暖かい休日。 私は実翠石の常磐を連れて近所の植物園に来ていた。 春が来るにはもう少しかかりそうな時期のはずなのだが、意外なほどに多くの草木が花をつけていて、来園者の目を楽しませている。 歩き疲れた私が常磐と共に飲み物片手にベンチで休憩していると、隣のベンチでは女性がパグを抱き上げて、その後頭部に顔を埋めていた。 いわゆる犬吸いというやつだ。 ふと隣でココアを飲んでいる常磐を見やる。 ・・・・・・吸ってみるか。 「常磐、ちょっといい?」 「?お姉さま?」 きょとんとしている常磐をそっと抱き寄せて、後頭部に顔を埋める。 甘くいい香りが鼻腔を満たしてゆく。 同じシャンプーやリンスを使っているはずなのに、こうも違うものかと軽い驚きすら覚えるほど、心地良い匂いだった。 「お、お姉さま?急にどうしたんです?」 「んー、なんとなく、かな?」 なんとはなしのとぼけた回答。 さすがに馬鹿正直に匂いをかぎたかったから、とは答えづらかったから。 ちょっぴり戸惑いながらも、身体を預けてくれている常磐に甘えるように、私は少しの間、常磐吸いを楽しませてもらうことにした。 『テヂィィィィィッ・・・!』 そんな常磐達の様子を、隣のベンチに置かれたキャリーケースの中から、飼い仔実装のテッテが睨み付けていた。 デキソコナイ風情が自分よりもニンゲンに愛されている様を見せつけられて、テッテは嫉妬と怒りに狂いつつあった。 怒りのあまりプリプリと糞を漏らし始めてすらいる。 『ご主人チャマ!ご主人チャマ!ワタチも抱っこしテチ!』 飼い主の幼女がキャリーケースの中からテチテチ鳴き喚くテッテを出して手に乗せてやる。 『ワタチもいい匂いがするテチ!匂いをかいでほしいテチ!』 何故そんな事を一生懸命お願いしているのか、よく分からないながらも幼女はテッテの望みを叶えようとテッテを自分の鼻先に近付け・・・。 「くさっ!?」 あまりの糞の悪臭に驚き、そのまま思わずテッテを手のひらから落としてしまう。 『ヂッ!?』 そのままテッテは地面に叩き付けられ、地面の汚い染みと化した。 ----------------------------------------------------------------------- ホワイトデーのお返し 今日はホワイトデーだ。 ・・・と言っても、バレンタインデーに縁が無かった私にはホワイトデーにお返しをくれる男性などいるはずもなく・・・。 だからといって何もしないのもそれはそれで寂しいものがある。 というわけで、実翠石の常磐と共に、日々家事手伝いを頑張ってくれている労いも兼ねて、ホワイトデーにちなんだお菓子を楽しむことにしたのだ。 「お菓子がいっぱいです〜」 近所のケーキショップで買ったキャンディーやマカロン、バームクーヘン等々の詰め合わせに、常磐が笑み崩れていた。 「マシュマロまでおまけしてもらっちゃったし、幸せもいっぱいです〜♥」 「え〜と、うん、そうね・・・」 ケーキショップで貰ったおまけのマシュマロの袋に書かれていたキャッチコピーに、私の頬がちょっぴり引きつる。 間違って常磐が食べないように、上手いこと処分しないとな・・・などと考えている時だった。 『デッギャアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!』 思わず肩をすくめてしまう程の絶叫と共に、電信柱の影から野良と思しき成体実装が一匹、こちらに向かって突進してきたのだ。 皺くちゃの顔面は憤怒で真っ赤に染まっており、目が血走っている。 指の無い両手には錆びた釘のような物を持っているのが見えた。 以前出くわした野良実装だろうか? 常磐からチョコ(と言っても常人はとても口に出来ない激辛チョコだが)を分捕った事に味を占めて再度襲いかかってきたのかもしれない。 私はケーキショップで貰ったマシュマロ入の袋を掴み、野良実装に向けて投げつけた。 「ていっ!」 『デギャッ!?』 袋が野良実装の顔面に直撃する。 無論この程度でダメージを与えることは出来ないが、怯ませる程度の役には立ってくれたようだ。 「常磐、逃げるわよ!」 「は、はいですぅ!」 私は常磐の手を引いて駆け出した。 実装石相手に背を向けて逃げ出すのはちょっとどうかとも思ったが、そこはか弱い乙女二人ということで、どうか大目に見てもらいたい。 『デギギギギギギギギギギィィィィィィィィィィ!!』 野良実装は逃げ去ってゆくヒトモドキの実翠石とその飼い主であるクソニンゲンの背を見て、悔しさのあまり地団駄を踏んでいた。 アマアマに見せかけた猛毒を喰わせるなどという、卑しい肉人形の卑劣極まりない手で愛しい我が仔達を失った野良実装は、復讐する千載一遇の機会を逸してしまったのだ。 悔しがるのも無理はない。 だが、今回は生きてさえいれば機会はまたきっと巡ってくると、自分を納得させるしかなかった。 まがりなりにも戦利品を得ることが出来た、という満足感が働いたのも大きいが。 野良実装はマシュマロ入の袋を抱えて巣に戻っていった。 次こそはあのダッチワイフとクソニンゲンを滅多刺しにしてやるとの決意を胸に秘めて。 巣に帰り着いた野良実装だったが、迎えてくれるはずの仔供達の姿はどこにもない。 死の間際に仔達が盛大に撒き散らした汚物の残滓が、ところどころに残っているに過ぎなかった。 再び湧き出てくる怒りと悲しみに任せて、野良実装はデキソコナイから分捕ったマシュマロの袋を噛み破る。 中から出て来たマシュマロはふわふわと柔らかく、甘い香りを漂わせていた。 『あの仔達にはあんな猛毒じゃなくて、きちんとしたアマアマを食べさせてやりたかったデスゥ・・・』 湧き上がる悔恨と怒りを飲み込むように、野良実装はマシュマロを一気に口に押し込んだ。 途端、灼熱感と共に凄まじい激痛が嵐のように口の中に広がってゆく。 『デベへボゴォォォォォォォォォォォッッッッッ!!??』 牛の鳴き声のような悲鳴を上げる野良実装。 『ベボベェッ!?ゴボォッ!?』 吐き出したくてもあまりの激痛に顎が麻痺したように動かない。 口中の物体を掻き出したくても指の無い手ではそれも叶わない。 飲み込んでしまった物体が糞袋を刺激したのか、せり上がってきた吐瀉物で鼻腔まで埋まり呼吸すら困難になっている。 代わりに総排泄腔からはたっぷりと糞が漏れ出ているが、そんなことは何の慰めにもならない。 『ゲボゴボォッ・・・!ゲベェッ・・・!』 窒息状態に陥った野良実装は、真っ赤になった顔面をどんどん青くさせてゆき、遂には土気色にまで変わってゆく。 『ガベッ・・・!ゲバッ・・・!(パキンッ!)』 たっぷりと苦しんだ後、野良実装は偽石を崩壊させて死んだ。先に逝った我が仔達と同様に。 なお、マシュマロの袋には以下のようなキャッチコピーが書かれていた。 【嫌いなアイツもこれでイチコロ!超々ド級激辛マシュマロ】 【リッパーXをたっぷり入れたクリームをマシュマロで包み込みました!】 「びっくりしたですぅ・・・」 家に帰り着くなり、常磐がぎゅっと抱きついてくる。急に大声で叫ばれて襲いかかられたら、誰だって驚くだろう。私もちょっぴり驚いたし。 「大丈夫、もう大丈夫だから、ね?」 頭を撫でて落ち着かせ、気分転換にお茶を淹れることにした。 お茶請けに、買ってきたばかりのお菓子の詰め合わせを広げる。 「ホワイトデーのお菓子にはね、色んな想いが込められてるのよ」 キャンディーには【あなたのことが好き】 マカロンには【あなたは特別な存在】 バウムクーヘンには【幸せがずっと続きますように】 そしてマドレーヌには【あなたともっと仲良くなりたい】 一つ一つ意味を説明(といってもただの受け売りだが)していると、気付けば常磐が真っ赤になって俯いてた。 「・・・お姉さま、わたしのこと好きすぎですぅ・・・♥」 ・・・確かにちょっと愛が重すぎたかもしれないな。意識するとこちらまで恥ずかしくなってきた。 「常磐、あ〜んして?」 頬の熱さを誤魔化すように、常磐の口にマドレーヌを含ませる。 「ん〜っ、おいひいです〜♥」 常磐が瞳を輝かせるのを見やりながら、私もマドレーヌに口を付ける。 しっとりとした食感と共に、口いっぱいに広がってゆくバターの風味と優しい甘み。 こんなお菓子みたいな幸せを、ずっとずっと、常磐と一緒に積み重ねていきたいな。 -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2025/04/02-23:45:52 No:00009581[申告] |
糞吸い未遂もとい仔実装吸いはトラウマ級だろうけど笑った |
2 Re: Name:匿名石 2025/04/03-09:26:22 No:00009583[申告] |
歯ぎしりするのがお約束になってるの草 |