タイトル:【虐人】 とっても悪趣味デス
ファイル:現在地、ただの実装石.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:363 レス数:0
初投稿日時:2025/02/07-17:03:23修正日時:2025/02/07-17:03:23
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薄暗い部屋の中、水槽内に設置された実装向けのモニターに映像が流れている。

映像には蠢く肉塊。
手足もなく、全身が焼き潰されて無惨な状態。
搾り出すような呻き声が痛々しい。

肉塊の近くには、それを指さして悪辣に笑う者。
肉塊にカメラがズームする。

肉塊の表面には写真が貼り付けられている。
愛らしい笑顔で、人間に擦り寄って微笑む人化実装の写真。

人間は指差して笑う者と同一人物だった。

映像は配信されていた。
タイトルは『人化実装テチコシリーズをご覧の皆様へ、大切なお知らせがあります。』

凄惨な映像の横、流れていくコメント欄の書き込みには
「これマジで?もったいねえ~」驚嘆、
「テチコちゃんがのびのび育つ姿が好きだったのに!」憤り、
「ひどすぎ、人の心とかないの?」悲しみ、
「チャンネルの他動画見てない連中が大慌てで草、予想できた展開だったんだよなぁ…」笑い。

あらゆる類の感情が見て取れる。最も酷薄な笑いが優勢のようだった。
そういう者向けの、悪趣味極まりエコーチェンバーらしい。

「ゴシュジンサマありがとうテチ!テチコ、イモムシになれて幸せテチ!」
鼻声のアフレコ。

・・・

「こんなはずじゃなかったデス! 人化は呪いじゃなくて祈りだったデス…!」
モニターを見ている一匹の実装石。服と髪こそ無事であるが全身に打擲の後がついている。
青痣に傷とみみず腫れに満ちた全身。膿と悪臭を纏う。

リンガル越しに人語に翻訳される鳴き声は語彙力が豊富だ。
その上で複雑に概念を理解している、実装石はとても賢い個体らしかった。

頭を不恰好に短い手で抱えながら脂汗を流す。
フルフルと何かを拒絶するような動きを繰り返す。
嘆き続ける。

モニター内、配信サイトの右横のバーには今現在映るものと似たような関連動画がずらりと並ぶ。
この手の動画を何本も見せられていたようである。

「大衆は現象と見破られた人化実装を見限った」
モニターを眺める水槽内の賢い実装石に語りかける飼い主。
その語りは嘆きに対する注釈めいていた。

「デ……」

「その呼び名は『ただの実装石』と同義になって"特別な選ばれた存在"という概念から遠いものになった」

「そうデスゥ、あれじゃただの実装石と、まるでおんなじデス…!」
賢い実装石の嘆きの本質は人化実装を取り巻くコメントにこそ向けられていた。

「お本とちがうデスッ!なんにもトクベツちがうデスッ……!」
ぎゅっと賢い実装石はある本を抱きしめる。飼い主にかつて与えられたものだった。

・・・

『実装とヒト、魂の友』表紙は実装石を優しく抱くニンゲンの写真。

かつて愛護派のいち派閥には実装石と人間の、スピリチュアリティに満ちた特別なつながりを見る派閥が存在した。
愛護派の中でも突出した勢力を誇っていた彼らの出版した書籍がそれだった。
異様に淡い色使いと丸みを帯びたフォントがどういった人間が購入するかを想わせる。

『実装石とヒトには魂の世界での深いつながりがあります。』
『そもそも実装石は人間に近い姿であり、交われば黒髪の仔が生まれます、まずこの時点で……』
『また人化という奇跡も見逃せません、実装石が他でもなく魂として人間と繋がっていることを……』

平易な言葉で紡がれるユメのような記述と挿絵の数々。虐待されながら過ごす賢い実装石を支えていた。

愛護派の描く夢物語、実装石と人間が調和する図像。
素敵な人化実装や黒髪が人間のパートナーとして並び立つ、結びの章に載せられた予想図。

(ワタシがフコウでも、きっとジンカチャンや黒髪チャンは幸せデスゥ、きっとみんながニンゲンサンとナカヨシの未来を作るんデスゥ)
賢い実装石はそう信じていた。だからこそ飼い主の虐待に耐え、未来に夢見た。
いつかきっと、ニンゲンサンは実装石とナカヨシになって実装石を必要としてくれる。
人間に必要とされることこそ実装石の本能だ。
そうだ、いつか自分も人化できればゴシュジンサマに愛してもらえるかも……そんな希望を抱いて。

書籍の出版年は2008年、突然の実装石出現から約3年しか経っていない時代。
その時にはまだ、実装石にはある種の神秘性が宿っていた。

そして火を使った猿から始まってたったの40万年で宇宙にまで飛び出した人間の探求心にとって、17年という時間は十分なものだった。
神秘という手品の種明かしが研究の数々によってただ事も無げに行われていった。

黒髪の真実はただ単に遺伝子が不安定な実装石がホルモンバランスの乱れで起こすだけの変性。
人化も同じようなメカニズムによって高度に人間に擬態する行動だと結論付けられつつある。

どうであるにせよ、かつての奇跡はもう奇跡ではなくなっていた。
あの賢い実装石はそんな事を知るはずもなかった。

・・・

「エウ~」
ハッハッと舌を出して這いずる肉塊が漏らす呻き。
モニターの中で醜悪なショーが続いていく。

「もうやめてあげてデスゥ!そのこはトクベツなはずなんデスゥ!」
ポフポフ画面を叩き続ける賢い実装石。虐待ショーよりコメント欄が心をえぐる。
実装程度でも半端に読み込める動画についているその内容はどれも熱狂的すぎるものではない。

賢い実装石が何度も見せつけられた『大切に育てられた実装が上げ落とし式の虐待をされた時』
それと大して変わらないような反応。特別な奇跡の存在、人化実装への目線ではない。
咎める内容のものも、盛り上がる内容のものも、温度感ではありきたりな悪趣味なものに対する程度。

「こんなの、こんなの、ないデスゥ……」
涙が止まらない賢い実装石。頭を抱え続ける。

古傷が涙で湿って開くが、今やそんな傷たちはただのかすり傷。
最も深い傷は目には見えない場所にあり、今しがたついたばかりだ。
使われた凶器はモニター。
ついた傷はお本で見た実装石に起きる奇跡のはずの存在が、実装石の希望の化身がたどり着いた『現在地』

泣き、震え続ける賢い実装の近傍にはカメラがあった。
賢い実装もまたどこかへ配信され、悪趣味な誰かを盛り上げていた。

【おわり】

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