【ミドリのストレス解消法】 「おいミドリ!コンペイトウやるからこっちこい!」 「……」 「無視すんのか!?こら、生意気だぞ!」 「……」 「ちっ、最近あいつノリ悪いなー」 その男子は、舌打ちするとあたしから離れていった。 あたしの名前は黒浦緑(くろうら・みどり)。 この『ふたば市』に引っ越してきたばかりの小学5年生で、れっきとした人間だ。 だけどこの『ミドリ』という名前のせいで、一部の男子から実装石扱いされいじめられている。 さっきのように金平糖で弄られるのはまだマシな方だ。 パンコンするか試すとの理由でいきなり叩かれるのは日常茶飯事で、 よく分からないけど大分の水とやらを頭からかけられたこともあった。 酷い時は本当に穴が一つだけなのか総排泄孔を見せろ、とパンツを脱がされそうになったこともある。 あたしが前に住んでいた田舎の町には実装石がほとんどいなくて接する機会がなかった。 緑という名前も実装石とは何ら関係なく付けたものだとお母さんは言っていた。 でも、このふたば市では実装石は害獣扱いされ、一部の人からは虐待の対象となっている。 「ミドリのパンツちぇーっく!」 「……!」 「おっ、きれいな白!よかったな、今日も良蟲判定だぞ!」 「……やめて」 「ぎゃはは、じゃあなミドリ!」 さっきのとは別の男子が、後ろから忍び寄ってあたしのスカートをめくっていった。 こんなのももう慣れっこだ。 大人しくて内気なあたしは、クラスに友達があまりできず、帰る方向が一緒の子がいないので 下校する時は男子のいじめ対象になることが多い。 でも、そんなあたしにも日々の楽しみはある。 「……」 いつもの広場まで来た。 この小さな広場を過ぎれば、あたしの家がある。 あたしの家は学区の外れの一軒家なので、家の近くまで来ると他の子に会う機会はなくなる。 今日も、この広場には誰もいない……そう、人間は。 「来たよ」 あたしが広場の隅に置かれた段ボールの前で蠢いている緑蟲に歩み寄ると、そいつらは様々な反応を見せた。 『デェェ……今日も来たデスゥ……?』 『パンのオネチャレフ!うじちゃおなかすいたレフ!』 『いつもパンをくれるニンゲンサンテチ!待ってたテチ!』 『今日はどんなパンテチ?楽しみテチ!』 『パンはおいしいけど、食べたあとでオネチャやイモチャがいなくなるテチ……』 あたしはこいつらに、給食のパンを持ち帰って与えている。 その対価として、仔実装の一匹を親実装から受け取っていじめているのだ。 日常的に男子からのいじめを受けるストレスを、あたしはこうして発散している。 「ほら、みんな食べな」 『テチューン!』『テム、テム……』『テッチュテッチュ!』『ぺちゃぺちゃ』 仔実装たちはおいしそうにパンを食べ始める。 中にはこれから起こることをなんとなく予想しているのか、不安げな顔の個体もいたけど、 とりあえずお腹はすいているみたいで、熱心にパンを食べていた。 『デェェ……ニンゲンサン、あのデスね……』 仔実装たちを見下ろしながらあたしがニヤニヤしていると、親実装がおずおずと声をかけてくる。 なによ、仔実装の幸せな様子を見るのはストレス解消の前段階なんだから邪魔しないで。 『パンはありがたいのデスけど……これ以上ワタシの仔を連れていかないで欲しいデス……』 「最初は喜んで仔を差し出していたじゃない。数が減ってきたら惜しくなったの?」 『それは糞蟲だったからデスゥ!今残ってるのはみんないい仔なんデスゥ!だから……!』 「それはあたしの知ったことじゃない。どっちでも同じだし」 『お、同じじゃないデスゥ!』 「あ、そうだ。あなたの仔たちはあたしの家で幸せに暮らしているよ。 毎日ちゃんとご飯を食べさせてるし、お風呂にも入れてあげてる」 『そ、そんなの見え透いた嘘デスゥ!』 「うるさいな。仔蟲たち痩せ気味だけど、あたしのパンがなくなったら困るんじゃない?」 『デ、デェェェ……』 親実装はうなだれて、そして自分の手に持っていたパンの欠片にかじりつき、食べてしまうと…… パンを食べ終わって足下で座っていた仔の一匹を掴み上げ、あたしに差し出してきた。 「そう、それでいいのよ」 『テェ?ワタチこのニンゲンサンに飼ってもらえるテチ?』 馬鹿な奴。 これから自分がどうなるかも知らずにはしゃいでいる。 あたしはその仔実装をビニール袋に入れてその場を離れる。 後ろでは親実装が仔たちに何やら声をかけていた。 『……さぁオマエたち、今日はもう寝るデス』 『パンのニンゲンサン、また来テチュー!』 『うじちゃん次はうぐいすあんパンが食べたいレフ』 『テチ?オネチャがいなくなったテチ……?』 うん、ほとんど騒ぎになってないみたいだ。 姉妹が一匹いなくなってもほとんど気づかないなんて、ホント馬鹿な奴ら。 広場を出たあたしが手にした袋を見下ろすと、こちらを見上げていた仔実装と目が合った。 『ニンゲンサン、飼ってくれてありがとうテチ!』 「……」 あたしは黙ってその場にしゃがみ込んで袋を地面に置くと、左手で袋越しに仔実装を掴んで……。 右手でその前髪を掴んだ。 『テッ!?ま、前髪さんに何するテチュ!掴んじゃ駄目テチュ!』 「うるさい」 ————ぷちっ 『テッ……!?……テ、テ、テチャアアアアア!』 仔実装が叫び声を上げる。 もう広場からは離れているので、親実装たちに声が聞こえることはないはず。 仔実装が左手の中でイゴイゴと蠢いている感覚が心地いい。 ……と思ったのもつかの間。 不快な生温かさが左手に伝わってきた。 「あーあー、こんなウンチ漏らして……糞蟲決定だね」 ビニール袋越しだから手は汚れなかったけど、膨らんだパンツいっぱいのウンチの温度が 左手に感じられて凄く気持ち悪い。 「悪い糞蟲には、良蟲のあたしがお仕置きしてあげないと」 ちょっと自虐気味にそう言ってみる。 うん、自分で自分を実装石扱いしてるみたいで嫌だった。やめよう。 とにかくあたしが左手に力を込めると、仔実装は苦しそうに呻き始めた。 『テ……テヂュゥゥゥ……!やめテヂ……死んじゃうテヂュゥゥゥ……!』 「やめてもいいけど、後ろ髪を抜くよ。それでいい?」 『それだけはイヤテヂィィ……』 「じゃあ死んで」 あたしが冷たく突き放すようにそう言って、左手に力をさらに込めると、 お菓子のポッ○ーが折れるような感触が指に伝わってくると同時に、仔実装の呻き声が激しくなる。 骨が何本か折れたみたいね。 『ヂィィィ……た、助けテヂッ!髪さんを抜いていいから助けテヂィィ!』 「いや、あたしは別にお前の髪なんか抜きたいわけじゃないし、このまま握り潰してもいいんだけど」 『わ、ワタチの髪さんをどうか抜いてくださいテヂィ!それでどうか助けてくださいテヂィィ……!』 あたしが左手を放してやると、仔実装はその場にうつぶせに倒れ込んだ。 腕と脚の骨が折れているみたいで、テェェンテェェンと泣きながらイゴイゴしている。 そして、後ろ髪は抜いてくださいとばかりにこちらに向けられている。 「じゃあさっそく……」 あたしは左右の後ろ髪を掴むと、そのまま仔実装の体を持ち上げて袋から出した。 『……テェッ!?高いテチュ!怖いテチュゥゥゥ!テェェェン、テェェェン!』 「じゃあそろそろ終わりにしようね」 『早く髪さんを抜いて終わりにしテチィィィ!』 「いくよー、せぇの!」 あたしは仔実装の髪を掴んだ右手を頭上に振り上げると……。 「それっ!」 思いっきり振り下ろした! ————ぶちっ! っと、仔実装の髪が抜ける音がして…… 『ヂッ!』 その勢いで地面に叩きつけられた仔実装は、緑の染みになった。 「はい、言われたとおり髪を抜いて終わりにしたよ」 あたしは右手に残された二房の髪を地面に投げ捨てると、ハンカチで手を拭いた。 あー、今日もすっきりした。 でも、あの広場の仔がいなくなったらどうしようかな……。 どこかから別の野良一家を連れてこようかなあ。 あたしは軽くなった心でそんなことを考えながら、家への道を急いだ。 もう日が傾いて薄暗くなってきた……今日の晩ご飯なんだろう? 終わり
1 Re: Name:匿名石 2024/11/09-01:10:39 No:00009403[申告] |
北海道とかに住んでてもゴキとかGみたいな名前は当然つけないだろうし
たまたま身の回りの生息数が少なくても実装が当たり前にありふれてる世界では無思慮な命名だよななぁ 緑が溜飲を下げる為に虐めが実装に収束するのはまあ因果とはいえ心がざわつく |
2 Re: Name:ぽこみどり 2024/11/12-21:55:52 No:00009406[申告] |
これいい、ミドリちゃんかわいい、続き読みたい!シリーズ化希望!可愛くて何気に残虐。匿名さんストーリーテラー。ファンになりました、なんかペンネーム決めてください。 |