たとえ賢くて優しくても ---------------------------------------------------------- 飼い仔実装のメロンは迷子になっていた。 主人と公園に遊びに来たは良いものの、蝶々を追いかけている内に主人とはぐれてしまったのだ。 おまけに雨まで降り出してきて、せっかく買ってもらったピンクの仔実装服も、お気に入りのポシェットも、 主人に手入れしてもらった自慢の髪もずぶ濡れになってしまった。 ベンチの下に入り込んでようやく雨宿り出来たが、代わりに寂しさが押し寄せてくる。 「ご主人サマ、どこにいるテチ〜?テェェェン、テェェェン・・・!」 とうとう泣き出してしまったメロンに、たまたま通りかかった一匹の野良仔実装が声をかける。 「こんなところでどうしたんテチ?」 「ご主人サマとはぐれちゃったテチ!迷子になっちゃったテチ!テェェェン、テェェェン!」 飼い実装が主人とはぐれたと野良に教えるなど自殺行為に等しいのだが、メロンはそんなことを考える余裕もないようだ。 いや、端からそんなことを考えられるだけの賢さなど持ち合わせていなかった、という方が正しいかもしれない。 だが、幸いなことに声をかけてきた野良仔実装は、賢く優しい性分だった。 この野良仔実装は、腹を空かせた妹達のために公園に落ちている木の実を集めている最中だった。 急な雨に降られ、家へと戻る途中に泣いているメロンを見かけ、特に下心もなく心配になって声をかけてきたのである。 「それなら、雨が止むまでワタチタチのお家に来るといいテチ!ワタチの妹チャン達と一緒に遊ぶテチ!」 純粋な善意から出た野良仔実装のお誘いに、心細かったメロンは一も二もなく従った。 野良仔実装は右腕に木の実を抱え、左手でメロンと手を繋ぎ雨の中を我が家へと急いだ。 家に帰り着くと、餌取りから帰ってきた母実装を始めとする家族が出迎えてくれたが、野良仔実装が連れてきたメロンを見た途端、怪訝な表情を浮かべる。 「その仔は一体どうしたデス?」 「迷子になって泣いてたからお家に連れてきたテチ!」 優しい母も可愛い妹達も、野良仔実装にとって自慢で大事な家族だ。 きっとメロンチャンも優しく迎え入れてくれるだろう。 「でかしたデス!」 母実装はそう言って野良仔実装の頭を撫で回すと、メロンを抱き上げ、その頭を己の口に突っ込んだ。 「ヂッ!」 首から上を失ったメロンの身体がダラリと弛緩し、パンツの中に糞が溢れてゆく。 メロンが首にかけていたポシェットが落ちて、中身のフードとコンペイトウがダンボールハウスの床に散らばると、妹達は目を輝かせた。 「ご飯テチ!コンペイトウテチ!」 「すごいテチ!おいしいテチ!」 メロンの末路に呆然としている野良仔実装を、母実装も妹達も褒めそやかした。 「今日は全然餌が取れなかったデス。お前が馬鹿な仔実装を連れてきてくれて本当に助かったデス」 「お姉チャンのおかげテチ!ありがとうテチ!」 「すごいテチすごいテチ!」 口元をメロンの血やフードの食べかすで汚しながらも自分を褒める家族に、野良仔実装は愕然とするばかりだった。 メロンチャンを、飼い実装を食い殺すなんてきっととんでもない事になるテチ・・・。 野良仔実装の予測は的中した。 そもそもメロンはただの囮だったのだ。 公園の野良実装共が垂れ流す糞による悪臭や汚い鳴き声による騒音、ゴミ捨て場荒らし、 更には家宅侵入といった被害に辟易していた近隣住民は一計を案じた。 ペットショップで叩き売りされていた仔実装に、目立つようにピンクの仔実装服を着せ、 ついでにフードとコンペイトウを詰め込んだポシェットを持たせて公園に放置したのだ。 まず間違いなく仔実装は野良に襲われて食い殺されるだろう。 それで良かった。 それこそが近隣住民が望んだ結果だった。 飼い実装を襲う凶悪な野良実装が居る。 役所が重い腰を上げるには十分な理由だった。 数日後の午前中、役所から委託された駆除業者が公園に乗り込んできた。 彼らは噴霧式コロリを目についた野良実装に片っ端から吹き掛けていく。 「デギィィィィィッッ!?」 「ママァッ!助けヂイイィィィッッ!!」 糞蟲だろうが人目を忍んで慎ましく生きてきた良個体だろうが関係なく、噴霧式コロリを浴びた野良実装達は、 断末魔の悲鳴を上げて苦しみながら死んでゆく。 「ママ、ママ、早く逃げるテチィ!!」 件の賢い野良仔実装は、そこかしこから聞こえる同族の絶望的な悲鳴に思考が麻痺して動けないでいる母実装の手を引き、 公園の外へ逃げようと促す。 「そ、そうデス!お前達、早く逃げるデス!」 野良仔実装の言葉でようやく我に返った母実装は、ダンボールハウスの奥で震えている妹達を連れ出そうとする。 だが、 「嫌テチ嫌テチ!怖いテチ!」 「お外に出たら死んじゃうテチ!死にたくないテチッ!」 母実装同様、同族の悲鳴にパニックを起こした妹達はダンボールハウスから出ようとしなかった。 母実装が捕まえて連れ出そうとするが、妹達は悲鳴を上げて暴れ回る。 そんなことをしている間に、とうとうニンゲンに見つかってしまった。 ニンゲンがダンボールハウスをひっくり返すと、中にいた妹達と母実装が転がり出る。 「お、こいつだな、飼い実装を食い殺した糞蟲は」 妹の内の一匹は、元々メロンの持ち物だったポシェットを首から下げていた。 駆除業者の男はポシェットを持った妹を掴み上げると、家族が見ている前でその左腕をあっさりと引き千切った。 「ヂヂャァァァァッッ!?」 そのまま立て続けに右腕、左足、右足と順に千切ってゆき、耳ごと頭巾と髪を毟り取った。 ダルマのようになった妹を地面に転がすと、男は妹を踏みつけてちょっとずつ体重をかけてゆく。 「痛いテヂィィィッッ!!死んじゃうテチィィィッッ!!」 「や、止めてデスゥゥゥ!殺さないでデスゥゥゥ!!」 母実装は駆除業者の男の足をポフポフ叩いて止めようとするが、全く無意味だった。 余談だがこの駆除業者の男は、元々このような真似をする人間ではなかった。 それどころかかつては実装石を飼っていたことすらあった。 そんな男が駆除業者に勤めているのには無論理由がある。 仕事で留守中に野良実装一家に家宅侵入されて部屋を荒らされ汚されたあげく、飼っていた実装石を生きたまま食い殺されたのだ。 仕事から帰宅した男は我が物顔で居座る野良実装一家と食い荒らされた自分の飼い実装の死体を見た途端、虐殺派へと転向した。 男は家宅侵入した野良実装一家を生まれてきた事を後悔するレベルでいたぶり殺した後、駆除業者へと転職した。 そんな男にとって、飼い実装から略奪したポシェットを持つ実装石などは最も憎むべき存在だった。 「ヂベッ!?」 妹はお気に入りのポシェットごととうとう踏み潰され、地面の染みと化した。 「デジャアアアアアッッ!?」 母実装が悲鳴を上げるが、男は構わず噴霧式コロリを吹き掛け、母実装を殺害した。 近くで腰を抜かして脱糞していた仔実装にも同様にコロリを吹き掛けて始末する。 男は母実装達の死骸をゴミ袋に詰めると、袋の上から念入りに踏み潰した。 家族が無惨に殺される一部始終を、賢い野良仔実装は公園の植え込みに隠れながら見ていた。 ともすれば口から悲鳴が漏れ出そうになるのを必死に抑えながら。 周囲からは相変わらず同族の悲鳴が聞こえてくるが、その数も徐々に少なくなってゆく。 ニンゲン達は実装石の死体と共にダンボールハウスも潰してゴミ袋に詰めていった。 ニンゲン達がダンボールハウスを踏み潰す度にくぐもった悲鳴が聞こえるのは、 妹達と同様に外に逃げずにいた仔実装達がダンボールごと踏み潰されているためだろう。 昼前になる頃には同族の悲鳴は一切聞こえなくなり、ニンゲン達もいなくなった。 優しかったママも、可愛かった妹達も、住んでいたお家も、何もかもが無くなってしまった。 賢いが故に、野良仔実装には自身のこれからの運命が分かっていた。 きっと自分も近いうちにママ達の後を追うことになるだろう。 仔実装の自活力など皆無に等しい。 カラスや猫等の天敵に襲われて食い殺されるか餓死するか、もしくはニンゲンに見つかって嬲り殺しにされるか。 いずれにしろ碌な事にならないのは確実である。 「・・・テェェェン、テェェェン・・・」 とうとう我慢出来ずに野良仔実装は声を上げて泣き出した。 この賢い野良仔実装がどうなったのかは、誰も知らない。 少なくともこの公園では、しばらくの間実装石の影も形も見当たらなかったのは確かである。 ※スレに投下したものを改題、加筆修正しました。 -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2024/10/14-23:39:08 No:00009374[申告] |
賢くて優しい…視点や程度によるよな
この親実装だって家族にとっては優しかったろうし仔実装はこの結末を想定出来る程の賢さでは無かった 真に賢い野良実装は飼い実装との軋轢云々以前に接触自体を嫌うというがそれは飼いという時点で間接的に絶対人間に関わる要素が排除できないから まあそれでも今回の予定調和で不可避の罠の責をこの仔実装に負わせるは酷だ |
2 Re: Name:匿名石 2024/10/15-05:54:00 No:00009375[申告] |
凄く優秀だけど物理的に一人で生き抜くことはできないので死ぬしかない
悲しいなあ |
3 Re: Name:匿名石 2024/10/19-09:23:43 No:00009378[申告] |
ここまで優しい、というか甘いとたとえ成体に成長しても…という寂しさもありますね |
4 Re: Name:匿名石 2024/10/19-09:23:43 No:00009379[申告] |
ここまで優しい、というか甘いとたとえ成体に成長しても…という寂しさもありますね |
5 Re: Name:匿名石 2024/10/21-19:06:08 No:00009385[申告] |
善意から公園根絶やしへ至る流れが実に美しい…
賢いと言っても飼い実装をオウチへ連れて帰ったらどうなるか想像がつかない辺りやはり実装だなあってなるね |