短編まとめ ----------------------------------------------- 真似しただけなのに チロチロと可愛らしくソフトクリームを舐める実翠石。 主人がそんな微笑ましい光景に目を奪われているうちに、自身のソフトクリームが暑さに負けて溶け滴る。 それを見た実翠石はすっと顔を寄せ、主人の手を伝う白線に舌を這わせて舐め取り、小さく笑みを浮かべた。 「・・・こっちも、おいしい、です」 それを見た三匹の野良仔実装姉妹は、通りすがりの親子連れに駆け寄った。 子供の手の中のアイスは食べる速度が追いつかず、地面へと滴り続けている。 「テチテチテチィッ!(そのヒエヒエのアマアマはワタチタチが舐めてやるテチ!)」 「テチャアッ!テッチャアッ!!(寄越せテチ!舐めさせろテチィッ!)」 「テチィッ!テッチィッ!(ついでにワタチタチを飼わせてやるテチッ!ドレイにしてやるから感謝しろテチィ!)」 野良仔実装姉妹は父親により悲鳴を上げる暇すらなく踏み殺された。 ----------------------------------------------- 不本意な日常 とある家族に飼われている実蒼石は、今日も日課の庭仕事に精を出していた。 庭木の剪定に自慢の鋏を振るっていると、物置の裏手からレチレチという鳴き声が聞こえてきた。 また野良実装が入り込んだのか、と嘆息しつつ気配を殺して回り込むと、一匹の親指実装が蛆実装にプニプニしてやっていた。 「お姉チャンのプニプニ大好きレフ〜」 「・・・蛆チャン・・・蛆チャンはワタチが守るレチ・・・」 脳天気な蛆実装に対して、親指は酷く悲しげだった。 親とはぐれたかのか、はたまた捨てられたのかは分からないが、自活能力が皆無の親指と蛆の二匹だけならば、早晩野垂れ死ぬのは確実だろう。 わざわざ愛用の鋏を血と糞で汚す必要もあるまい。 元来穏やかな気性のこの実蒼石は、二匹を敢えて見逃す事にした。 翌日。 実蒼石は再び物置の裏手に来ていた。 賢い個体ならご主人さまに頼んで、少しの間面倒を見てやるのもいいかもしれないと思い直したのだ。 おそらく腹を空かせているだろうから、手土産にフードを数粒持ってきてもいた。 だが、それは少しばかり遅きに失していたらしい。 物置の裏手からは「チププ」と不快な嘲笑が漏れ聞こえていた。 実蒼石が覗き込むと、二匹の仔実装が蛆実装を貪り食っていた。 蛆実装を守ろうとして逆に嬲り殺しにされたのだろう。 親指は四肢を失った禿裸の状態で転がされていた。頭部は右半分がかじり取られ、残った左目は涙の跡を残して灰色に染まっている。 「チププ、馬鹿な奴テチ。泣き叫んでる姿は無様だったテチ」 「生意気な親指だったテチ。大人しく食われてれば楽に死ねたのに憐れな奴テチ」 親指を嘲りながらグチャグチャと蛆実装を咀嚼する糞仔蟲共の首を、実蒼石はあっさりと切り飛ばした。 実蒼石は鋏でその場に適当な穴を掘り、親指の死体を埋めてやった。 糞仔蟲共の死体はゴミ袋に詰めて物置の側に転がすと、実蒼石は日課の庭仕事に戻っていった。 近隣の公園で愛護派が野良実装への無分別な餌やりを行っているが故の、いつもの日常だった。 ----------------------------------------------- ささやかなワガママ 家の前を主人と仲良く手を繋いで歩く実翠石。 その左手の薬指には、飼いの証である指輪が煌めいている。 それを窓越しに睨みつけていた飼い実装のミドリは、自身の主人にしつこく訴えた。 「ワタシも首輪じゃなくて指輪を付けてほしいデス!ご主人サマの愛情を指輪にしてほしいデス!」 デスデスうるさいミドリに根負けした主人は、首輪を外して代わりに百均で買ったおもちゃのブレスレットを嵌めてやった。 たいそう喜んだミドリは、 「オトモダチに自慢してくるデスゥ!」 と止める間もなく。外へと飛び出していく。 なお、この日は町内会主導の野良実装駆除が行われている日だった。 ----------------------------------------------- ガシャポンカプセル 「開けテチ!助けテチ!」 通りすがりの子供のイタズラにより、ガシャポンのカプセルに閉じ込められた仔実装。 ペシペシとカプセルを叩き、泣きながら母実装に助けを求める。 「待ってるデス!今助けるデス!」 母実装は何とかカプセルを開けようとするが、指の無い手では上手く開けられない。 餌も水も得られない仔実装は日に日に弱ってゆく。 糞を食べながら何とか命を繋ぐものの、日々助けと呪詛を弱々しく吐き続ける仔実装に、 最初は助けようと奮闘していた母実装も次第に疎ましさを覚え、とうとう声すらかけなくなった。 最後は真夏の炎天下に蹴り出され、カプセルの中で糞に塗れながら直射日光に炙られて、仔実装は死んだ。 ----------------------------------------------- 二年一組のミドリちゃん 仔実装のミドリは二年一組の人気者だった。 小学校の校門前にダンボールに入れられて捨てられていた仔実装を、二年一組の女子の一人が拾って皆で面倒見よう、と言い出したのが始まりだった。 仔実装にはミドリという名と住処として水槽を与えられ、二年一組の子供達が持ち寄った餌によりスクスクと育っていった。 賢い個体だったためトイレはきちんと水槽内のトイレで済ませるし、授業中は騒ぎ立てることもなく大人しくしていた。 二年一組の担任は実装石が嫌いなのかあまり良い顔をしなかったが、子供達の情操教育になるのならば良いかと黙認していた。 ミドリも子供達によく懐き、休み時間にはお歌や踊りを披露して子供達を楽しませていた。 そんなミドリの幸福な日々は唐突に終わりを迎えた。 子供達が待ちに待った夏休みが来たのだ。 クラスの皆でお世話する=明確な責任者が存在しない、という小学生らしい無邪気な無責任さにより、ミドリは誰も居ない教室に放置された。 「おかしいテチ・・・。どうしてニンゲンさん達は来てくれないテチ・・・?」 寂しさに涙を流すミドリだったが、すぐにそれどころでは済まないことを思い知らされることとなる。 「ヂィギィッ・・・お水、お水が欲しいデヂィ・・・」 誰も居ない蒸し暑い教室に、ミドリの耳障りな鳴き声が響く。 乾き切った喉が酷く痛むが、それでも水を求めずにはいられなかった。 夏休みが始まって七日ほど経っていた。既に餌も水も底を尽いている。 子供達が居ないため当然冷房は切られており、教室内の気温は三十度を軽く超えている。 その上ミドリの入れられた水槽は陽当りのいい窓際に置かれており、日光がジリジリとその身を炙っている。 水槽内のトイレには糞が溢れかえり、悪臭を放っていた。 ここは暑すぎる。 日陰に入りたいけどお家から出られない。 自分のウンチだけどすごく臭い。 臭いのせいで息苦しい。 すごくお腹が空いた。 喉もカラカラに乾いてる。 それに何よりニンゲンさん達が誰も会いに来てくれない。 寂しい、悲しい、一匹ぼっちなんて嫌だ。 またニンゲンさん達に可愛がって欲しい。 お歌や踊りを褒めて欲しい。 なのに、どうして。 どうしてニンゲンさん達は誰も助けてくれないの? どうして誰も会いに来てくれないの? その疑問に応えてくれるニンゲンさんは終ぞ夏休み中に現れることはなく、ミドリは飢えと乾きと孤独に苦しんだ末、 多大なストレスで偽石を少しずつ自壊させて死んだ。 担任は夏休みの間、冷房の効いた職員室に籠もっているか有給の消化に努めるかで、二年一組の教室に足を運ぶことは一度としてなかった。 校内を見回るべき用務員はやる気のない定年過ぎの再雇用職員であり、二年一組の教室から漏れ出る悪臭については見て見ぬ振りを決め込んでいた。 夏休み明けの二年一組は、蝿が集ったミドリの死骸とその腐敗臭、そしてミドリの糞の臭いが混じり合った凄まじい悪臭で大騒ぎとなった。 悪臭が酷すぎて嘔吐する児童が複数発生し、空き教室を臨時に使う事態になった。 担任は教頭に監督不行き届きだと説教を喰らう羽目にもなった。 「糞蟲はくたばっても面倒を残しやがる・・・」 担任は舌打ち混じりに忌々しげに吐き捨てた。 ミドリの死骸は住処の水槽ごとゴミ袋に詰められて廃棄された。 丁重に弔おうとする者など誰一人いなかった。 ----------------------------------------------- 台風一過その1 台風による豪雨により、某市では市中を流れる川で堤防が決壊し、大規模な浸水被害が発生した。 この日の朝になってようやく雨が上がったものの、市内のあちこちが冠水したり汚泥が溜まったりとした状態となっており、官民総出での復旧作業が始められていた。 そんな中、保健所職員達は感染症防止のため、各所の消毒作業等に追われていた。 なお、この作業の中には衛生状態悪化の原因となり得る実装石の駆除も含まれている。 「デェ、デェ、デェ・・・」 荒い息を吐きながら、一匹の野良実装が泥を掻き分けるように公園の中を進んでいた。 左腕のコンビニ袋の中では、小さめの仔実装が三匹、不安そうにテチテチと鳴いている。 この野良実装は豪雨によりダンボールハウスが浸水したため、やむなく家を捨て仔を連れて近場の滑り台の上へと避難していたのだ。 そのおかげで命だけは助かったが、それ以外の物は全て失われてしまった。 家も、タオルも、新聞紙も、貴重な保存食も、ペットボトルも、仔実装の遊び道具であるボールも、何もかも。 今は少しでも使える物を回収しようと、滑り台を降りて家があったところに 向かっている最中だった。 「お腹空いたテチ・・・」 「喉も渇いたテチ・・・」 「ママ、これからはどうなるテチ・・・?」 仔の鳴き声に、親実装は応えようとしない。いや、応えられなかったという方が正しかった。 親実装自身、これからどうするべきかなど見当もつかないのだから。 周囲には溺死した同族の死体が至る所に転がっている。 最悪の場合、同族の死体を喰ってでも飢えを凌ぐ必要があるが、親実装としてはそれは避けたかった。 強い常習性のある同族食いを許せばどうなるか。 特に自制が効かない仔実装にそれを許すと、最悪の場合仔同士での共食いが生じかねない。 大切な我が仔をそのような形で失いたくはなかった。 全身泥だらけになりながらも、ようやく我が家があったところに辿り着くが、案の定雨と泥で全てが取り返しの付かない状態になっていた。 「デェェェ・・・」 昨晩から雨に打たれ続けたためろくに眠れなかった親実装は、徒労感と脱力感からその場に座り込んでしまった。 下半身がさらに泥まみれとなるが、そんなことを気にする気力もなかった。 しばらくの間呆然と座り込んでいた親実装に、仔がテチテチと鳴き声を上げた。 「ママ、ママ、ニンゲンさんテチ!ニンゲンさんが来たテチ!」 仔の嬉しそうな声に視線を上げると、全身白い服に身を包んだニンゲンが何人か、公園の入り口に立っていた。 「ママ、ニンゲンさんが助けに来てくれたテチ!」 「ご飯、ご飯もらえるテチ!?」 「お水、お水も欲しいテチ!」 いや、そんな訳ない、あれは・・・! 「あれは白い悪魔デス!お前達、早く袋に入るデス!逃げるデス!」 どうして白い悪魔がここに!? 今の公園は仲間が増えすぎるどころかほとんど死んでしまったのに!? 白い悪魔こと感染防護服に身を包んだ保健所の職員は、あちこちに実装石の溺死体が転がる惨状に眉をひそめつつも、自身の仕事に取り掛かった。 実装石の死体に消毒薬と噴霧式コロリを吹き掛けた後、業務用ごみ袋に死体を回収してゆく。 ただでさえ不潔な野良実装は、死体を放置しておくと疫病の発生源となりかねない。 市民を二次被害から守るためにも、保健所職員は己の職務を淡々とこなしていった。 「デジャアアアアアッッ・・・・・・」 「ヂィィィッッ・・・・・・!」 時たま断末魔が上がるのは、蘇生しかけていた実装石が噴霧式コロリでトドメを刺されたためだろう。 だが、保健所職員はそんなことなどお構いなしに作業を続けていった。 呑気な仔達を急かしてコンビニ袋に入れ、親実装は白い悪魔が入ってきた方向とは反対側にある公園の出口へと向かうが、それは遅きに失していた。 テチテチと騒ぐ仔実装の声を聞き付けた職員にあっさりと発見され、一家は噴霧式コロリの洗礼を浴びた。 「デギィィィッッ!?」 「ヂジャアアァァァッッ!?」 「ヂィッ、ママッ、ママァッ・・・!」 「ヂボボボォッッ・・・!!」 本来噴霧式コロリは即効性のため、浴びた瞬間即死するのだか、予算不足のため保健所職員は希釈して使用していた。 そのため、一家は全身を灼く激痛に長く苛まれながらごみ袋へと放り込まれた。 仔実装達は間もなく絶命したが、親実装は仔が苦しみのたうちながら死んでいくのを見せ付けられた後、保健所職員に袋の上から踏み潰されて最期を遂げた。 こうした光景は、大小の差こそあれ市のあちこちで見られるありふれたものだった。 ------------------------------------------ 台風一過その2 飼い実装のミドリは娘の仔実装二匹を連れて、台風一過で晴れ渡る空の下、陽の光に炙られながら、住宅街をあてどもなく彷徨っていた。 主人の言い付けを破り仔を七匹も産んだため、快適な屋内から外飼いにされた事が運の尽きだった。 それでも捨てられずに済んだのは野良に堕ちるよりはるかにマシだったのだが、それも今回の台風で御破算になってしまった。 豪雨と雷でパニックに陥りあちこちに逃げ出した仔達を保護しようとする内に家の敷地から出てしまい、道に迷ってしまったのだ。 雨のせいで臭いも流れてしまい、家の方向すら分からない。 ようやく保護出来たのは二匹だけ。 三匹は溺死体で見つかり、二匹は行方不明。 もうこの時点でミドリの心は折れていた。 「デェェェン、ご主人サマ、ミドリはここデスゥ!助けてデスゥ!」 仔の前だというのにミドリはみっともなく泣き叫んだ。 元々生粋の飼い実装だったミドリには、このような状況は過酷に過ぎた。 ミドリに感化されたのか、生き残った二匹の仔実装もテチテチと泣き叫ぶ。 そうして泣きながら彷徨い歩いているうちに、いつも散歩で近くを通る公園へと辿り着いた。 公園の中では、真っ白い服を着たニンゲンさんが何人も居る。 助かった!ニンゲンさんにお願いしてご主人サマのところに連れ帰ってもらおう! 「ニンゲンさ〜ん、助けてデスゥゥゥッッ!!」 希望を見出したミドリは真っ白い服を着たニンゲンさんのもとに、デスデス鳴きながら駆け寄った。 実装石による感染症等の二次被害を防ぐため、公園では保健所の職員達が感染防護服に身を包み消毒と駆除に当たっていた。 そんな職員達の元に仔実装二匹を抱えた実装石がデスデス鳴きながら駆け寄って来たので、職員の一人が反射的に噴霧式コロリを吹き掛ける。 「デゲボアアアアァァァッッッ!?」 「デヂィィィィィッッッ・・・・!!」 「ヂュアアアアアアッッッ・・・・!!」 予算不足で希釈された噴霧式コロリにより、即死する贅沢すら許されず、ミドリ達親仔は苦しみながらゴミ袋に放り込まれた。 ミドリ達の全身に毒が回って死ぬまでに、三分三十四秒を要した。 ※スレに投下したものをまとめて加筆修正等しました。 -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2024/09/29-20:30:43 No:00009351[申告] |
命の尊さを学ぶ教材にすらなれない哀れな実装石… |
2 Re: Name:匿名石 2024/09/29-23:17:32 No:00009352[申告] |
情操教育に実装石を使おうなんて博打が過ぎる…
しっかし冠水した公園と野良実装の相性は衛生面で最悪だろうな迷惑害蟲タダでは死なぬね |