タイトル:【観察?】繰り返しても、いいですか?
ファイル:繰り返しても、いいですか?.txt
作者:敷金 総投稿数:9 総ダウンロード数:409 レス数:5
初投稿日時:2024/09/19-13:23:25修正日時:2024/09/19-21:07:35
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■繰り返しても、いいですか?



 その状況は、正に地獄そのものと云えた。

 所々に配置された外灯が照らし出す、公園の広場。
 そこには、無数の実装石の死体が散らばっていた。

 いずれも苦悶の表情を浮かべ、喉を掻きむしるような仕草でこと切れている。
 身悶えして転がってついたと思しき傷以外、外傷と呼べそうな痕はない。
 どうやら、すべての者が同じ要因で死に——いや、“殺された”のだ。

 たまたま昼寝で寝過ごしてしまい、いつもより遅い時間に夕飯の残飯漁りに
出かけたのが幸いだった。
 住処の公園に戻ったその実装石は、想像もしなかった惨状にただ呆然と
するしかない。

「ハッ、そうデス!
 子供チャン達は?!」

 その野良実装には、三匹の子供がいる。
 いずれも生後三か月くらいの可愛い盛りで、巧妙に隠されたダンボールハウス
の中でおとなしく自分の帰りを待っている筈だ。
 野良実装は、苦労して集めて来た残飯を入れた袋を放り出すと、急いで
ダンボールハウスへと向かった。


 だが、遅かった。
 娘達もまた、悍ましい程に苦痛に満ち溢れた表情を浮かべて動かなくなっていた。

 青ざめた顔、灰色に染まった両目、そしてありえないくらいに伸びた舌。
 長い間風雪に耐え、隙間だらけになっているダンボールハウス。
 恐らく、毒ガスのようなものを散布されたのだろう。

 ——毒ガス?

 そう、これが所謂“実装石駆除業者”による仕業であると、野良実装は睨んでいた。

 彼女は二年前まで、裕福な人間の家庭で育てられていた元・飼い実装。
 しかも、実装石としてはそこそこ頭の良い個体でもあった。
 突然家族に捨てられて路頭に迷った時も、なんとか行き倒れることなくこれまで
暮らして来れたのも、飼いだった時に得た知識や経験、そしてそれを活かす能力を
持ち合わせていたからに他ならない。

 実装石の駆除業者というものがあり、彼らが実装コロリガスという猛毒を駆使する
ことも、たまたま観ていたテレビで知った知識だ。

「なんてことデス!
 まさか午後九時に駆除活動をするなんて!」

 野良実装は、公園の真ん中に立っている時計を見上げ、愕然とする。
 針時計の読み方を知っていた為、これまでも色々と役に立つことがあったが、
まさかこんなことになろうとは。


 状況がおおよそ呑み込めて来ると、次に襲い来るのは悲しみだ。
 この公園の実装石達は、一種のコミュニティを形成しており、皆協力し合って健気に
頑張って生きて来た。
 糞蟲個体もおらず、何かあった時はご近所が子供の面倒を見ててくれる。
 そんな微笑ましい、そして滅多に巡り合えない幸福な環境だったのだ。

 そして、苦労して産み、育てて来た娘達の死。
 野良実装は、声を殺して泣いた。
 目に入れても痛くないと思える程の、可愛く大人しい、そして躾の行き届いた子供達。
 もう二度と、あの子達と同じような子供を産む事も、育てることも出来ないだろう。
 そう思うと、止めどなく涙が溢れて来た。

 せめて今夜は、子供達と、想い出の詰まったこのダンボールハウスで眠ろう。
 そして明日になったら、子供達の亡骸を葬ろう。
 野良実装はそう心の中で誓うと、もう動かなくなってしまった子供達を丁寧に並べ、
見開かれた目を閉じてやった。



(ああ神様……もし叶うのなら、あの平和だった時に戻りたいデス……)





 ダンボールの隙間から、朝陽が差し込む。
 眩しさに目覚めた野良実装は、寝ぼけ眼をこすると辺りをきょろきょろと見回した。

 なんだか、騒がしい……

 起き上がると、子供達が我先にと飛びついて来た。
 テチュテチュと甘え声を上げ、お腹が空いたと呼びかける。
 野良実装は、子供達の頭を優しく撫でた直後、強烈な違和感に襲われた。

 (えっ?!)

 この子達は、死んだのではなかったか?
 夕べ眠る前に、目を閉じさせたのは何だったのか?

 慌てて外に出てみるが、外の状況は相変わらずで、他の仲間達ものどかに普段通り
の生活をしている。
 あの凄惨極まる状況が、まるで嘘のようだ。

「夢でも見てたデス?
 ……よくわからないけど、そういうことにしておくデス!」

 何事もないなら、それに超したことはない。
 難しい事は考えず、野良実装は気分を変えてこれまで通りの生活を続けることにした。



 それから三日後の晩。

 野良実装は、愛用のビニール袋を携えて夕飯の残飯漁りに出かけた。
 子供達は、ダンボールハウスでお留守番である。
 今日は昼寝をしてないので少々疲労が残っているが、子供達の為にもやむを得ない。

 近所? の仲間達が様子を見てくれるので、しばしの間なら安心だ。
 自分は本当に恵まれた環境で助かる、と思いつつ、いつもより大漁だった事を喜び帰路
に着く。

 途中、大型の車が数台脇を通り過ぎて行ったが、野良実装は特に気にも止めなかった。



 公園は、地獄になっていた。

 所々に配置された外灯が照らし出す、公園の広場。
 そこには、無数の実装石の死体が散らばっていた。

 いずれも苦悶の表情を浮かべ、喉を掻きむしるような仕草でこと切れている。
 そして最愛の娘達も。

 見上げると、時計は午後九時十分過ぎ。
 途端に、野良実装の記憶が蘇る。

「そうデス! ついこの前にも、同じことがあった筈デス!
 どういう事デス? どうしてまた駆除が?!」

 野良実装は、声を殺して泣いた、泣いた。
 目に入れても痛くないと思える程の、可愛く大人しい、そして躾の行き届いた子供達。
 もう二度と、あの子達と同じような子供を産む事も、育てることも出来ないだろう。

 せめて今夜は、子供達と、想い出の詰まったこのダンボールハウスで眠ろう。
 そして明日になったら、子供達の亡骸を葬ろう。
 野良実装は改めて心の中で誓うと、もう動かなくなってしまった子供達を丁寧に並べ、
見開かれた目を閉じてやった。





 ダンボールの隙間から、朝陽が差し込む。
 眩しさに目覚めた野良実装は、寝ぼけ眼をこすると辺りをきょろきょろと見回した。

 なんだか、騒がしい……

 起き上がると、子供達が我先にと飛びついて来た。
 テチュテチュと甘え声を上げ、お腹が空いたと呼びかける。
 野良実装は、子供達の頭を撫でようとしたその手を止めて、声を上げた。

「デギャッ?! ま、またデスぅ?!」

 慌てて外に出てみるが、やはり外の状況は相変わらずだ。
 他の仲間達も、その子供達も、のどかに普段通りの生活を営んでいる。
 あの凄惨極まる状況が、まるで嘘のようだ。

「また、夢でも見てたデス?
 よくわからないけど、そういうことにしておくデス……」

 何事もないなら、それに超したことはない。
 難しい事は考えず、野良実装は気分を変えてこれまで通りの生活を続けることにした。
 なんだかとっても割り切れないものが残りはしたが。

(でも、なんか、おかしいデス)


 野良実装は、ふと、ある事に気付いた。

 野良実装が毎朝起きる時間は、まちまち。
 子供に起こされるか、太陽の光で眩しくて目が覚めるかで、同じ時間に起きた試しは滅多
にない。
 だが今朝は、あの日と全く同じ時刻に目覚めた。

(おかしな事もあるものデス)

 しかし、気付いただけで、それ以上何も深くは考えなかった。



 それから三日後の晩。

 野良実装は、愛用のビニール袋を携えて夕飯の残飯漁りに出かけた。
 自分は本当に恵まれた環境で助かる、と思いつつ、いつもより大漁だった事を喜び帰路に着く。

 途中、大型の車が数台脇を通り過ぎて行った。
 それを見た野良実装は、猛烈に嫌な予感を覚えて走り出した。



 公園は、またも地獄になっていた。

 所々に配置された外灯が照らし出す、公園の広場。
 そこには、無数の実装石の死体が散らばっていた。

 いずれも苦悶の表情を浮かべ、喉を掻きむしるような仕草でこと切れている。
 そして最愛の娘達も。

 時計は、午後九時十分を過ぎている。
 野良実装の記憶が、再び蘇る。

(そうデス! これで二回目!
 もしかして、ワタシは同じ時間を何度も繰り返しているデス?!)

 仲間の死も娘の死も、今の野良実装には悲しみの材料には成り得ない。
 それよりも、この不可思議な現象の方に意識が向いてしまう。

(ひょっとして、もしかしたら……)

 野良実装は、前と同じように子供達の死体を丁寧に並べ、見開かれた目を閉じてやった。
 そして、その横にゴロンと横たわる。

(ワタシの思っている通りだとしたら、朝になれば——)

 その晩は、一切の悲しみに苛まれることなく、野良実装は深い眠りに就いた。





 ダンボールの隙間から、朝陽が差し込む。
 眩しさに目覚めた野良実装は、寝ぼけ眼をこすると、

(やっぱりデス)

 と心の中で呟いた。

 起き上がると、子供達が我先にと飛びついて来た。
 テチュテチュと甘え声を上げ、お腹が空いたと呼びかける。

(やっぱり、同じことが繰り返されてるデス。
 それなら、もしかしたら——)

 野良実装は、ある決意を固めた。



 それから三日後の晩。

 野良実装は、愛用のビニール袋を携えて夕飯の残飯漁りに出かけた。
 しかし、今回は長女を連れて。

 仔実装を連れての晩飯調達は非常に時間がかかったが、野良実装には思惑があった。
 最初はぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいた子供も、あっさりと疲れ果ててしまった。
 それでも、野良実装は一切文句は言わず、無言で長女を連れて帰路に着く。

 途中、大型の車が数台脇を通り過ぎて行く。
 それを見た野良実装は、残り二匹の娘達と仲間達に、心の中で詫びた。


 
 案の定、公園は地獄になっていた。

 所々に配置された外灯が照らし出す、公園の広場。
 そこには、無数の実装石の死体が散らばっていた。
 悲鳴を上げてパニックに陥る長女。
 しかし、野良実装はもう驚きも怯えもしない。
 同時に、ある確信を得ていた。

(長女チャンは生きてるデス。
 あの時間に公園にさえ居なければ、駆除に巻き込まれることはないんデス!
 ということは! 次女チャンも三女チャンも、それどころか仲間全員助けられるかもしれないデス!!)
 
 野良実装の決意は、より強固になった。
 時計は、午後九時半を少し過ぎている。





 その後、野良実装は再び時のループに巻き込まれた。
 しかし、次は長女だけでなく娘全員を連れ出し、家族全員を助けることに成功した。
 やはり、野良実装の考えは正しかったのだ。

 しかし、引き続き公園は惨憺たる状況。
 子供達も怯え泣き叫び、その日はとうとう朝方まで寝付くことがなかった。

 野良実装は、更なる決意を固める。

「公園の仲間達も、全員助けるデス!」

 時刻は午後九時四十五分を少し回っていた。





 ダンボールの隙間から、朝陽が差し込む。
 眩しさに目覚めた野良実装は、寝ぼけ眼をこすると、テチュテチュと甘え声を上げる
子供達の頭を撫でた。
 今日も、公園は平和な時が流れている。
 しかし三日後の夜には、ここは惨劇の舞台となる。
 野良実装は、早速行動を開始することにした。

「三日後に? 全滅デス?」
「ニンゲンさんがそんなザンコクな事をする筈がないデス」
「どうしたんデス? 悪い夢でも見たデス?」
「そんな事今までもなかったのに、急に起きるわきゃないデスン!」
「レフレフ、オバチャンお腹プニプニしてレフ〜」

 他の野良実装達に事情を説明するも、やはり信じてもらえそうもない。
 それどころか、野良実装の頭がおかしくなったのではないかという噂すら流れ始める。
 
 一日目にはおかしな目で見られ、
 二日目には完全な異常者扱いをされ、
 そして三日目の日中には、話しかけても誰も応えてはくれなくなった。
 その中には、自分の娘達も含まれている。

(このままだと大変なことになるデス!
 こうなったら、無理矢理にでも! デス!)

 野良実装は、残された時間を費やして、どうにかして皆を公園から脱出させる手段を
考案した。


 三日目の夜、またも子供達を無理矢理連れ出した野良実装は、いつものように残飯漁り
への路を進む。
 だがその途中、ふと頭の中に良いアイデアが浮かんだ。

「そうだ、これなら絶対にイケるデス!」

 時間はあと僅か、猶予はない。
 野良実装は、子供達の手を引くと、大急ぎで公園まで駆け戻った。



「お〜い、みんなぁ!
 近くのスーパーで、廃棄の食べものがものっそい大量に出ているデスぅ!
 お弁当からお惣菜、魚や生肉、実装フードとかよりどりみどりデスぅ!!
 早く行かないと、よその公園の仲間達に取られちゃうデスぅ!!」

 野良実装は、喉が張り裂けるくらいの大声で、そう叫んだ。


 
 途端に、公園中の実装石達が顔を出し、我先にと公園を飛び出して行く。
 外灯があるとはいえ、夜の公園はやはりほの暗く、声の主の顔を確かめようとする者はいない。

「今デス、手分けして子供チャン達を集めて脱出させるデス!」

「ママァ、どうしてワタチ達はご飯行かないテチュ?」
「テェ〜ン、お腹空いたテチュウ!」
「よその子よりもワタチ達のお腹の方が大事テチュウ!」

 散々ごねる子供達を必死で諭し、野良実装は残された子供達の救出に奔走する。
 幸いにも、留守番で残された子供の数はそう多くはなく、ニ十分もしないうちに全員公園から
脱出させることに成功した。



 運命の時間、午後九時が訪れる。

 子供達を公園から離れた所に移動させていた野良実装は、手ぶらで帰って来る仲間達の
姿を見かけ、胸を撫で下ろした。
 公園の時計は、もうすぐ午後十時になろうとしている。

「皆、無事だったデス! 良かったデス!」

「何が良かったデス!」
「誰デス、あんなデマを言いふらしたのは!」
「お得どころか、残飯の欠片も落ちてなかったデス!」
「あ〜もう、体力とカロリーの無駄になったデス!」

 仲間達はプリプリ怒っているが、野良実装だけは安堵の笑顔を浮かべていた。
 これで、公園の仲間達は全員助けられた。
 全滅の運命から、逃れることが出来た! 未来を変えたのだ!

 一人喜びに打ち震える野良実装。
 他の仲間達は不満たらたらで、遂にはデマを流した犯人捜しを始める。
 しかし野良実装は、あえて名乗りもせず、このままにしておこうと思った。
 結果がどうあれ、仲間達が助かったのは事実なのだ。それでいいのだ。

 野良実装は、全てに満足した。



 時計が、午後十時を指す。
 その途端、突然公園の入口に、沢山の車が停車した。
 濃緑色のボディカラーの小型トラックから、次々に機械を取り出す人間達。
 ごついマスクで頭部を覆い、背中に機械を背負った人間達は、素早く園内に侵入すると

 背中の機械から伸びたホースのようなものを手に取り、そこから紫色のガスを噴霧し出した。

 風もないのに、驚く程のスピードで拡散していく紫煙。
 それに包まれた仲間の実装石が、たちまち苦悶の表情を浮かべて倒れた。

 別な仲間も、更なる別な仲間も、倒れて行く。
 ガスの拡散は素早く、また人間達が追いかけて噴霧する為、公園はあっという間に紫の煙に
包まれた。

「テ……ゲエェェ……」
「グチャァ……」
「チ……ベ……」

 長女が、次女が、そして三女が、ドス黒い液体を吐き散らして倒れ伏す。
 そして自分も、立っていられないくらいの激しい眩暈を覚える。

「な、なんでデス?! なんで?
 午後九時からじゃなかったんデス……?」

 野良実装は、大量の吐しゃ物を吐き出して悶絶する。
 灰色に濁って行くその目に映ったのは、近寄って来る大勢の人間の影と、それに踏み潰されて
いく我が子の様子だった。

「な……なん……デ……」

 パキン

 野良実装の偽石は、悲鳴を上げるように、砕け散った。




“次のニュースです。
 双葉市はこの度、以前から野良実装による周辺被害が特に激しいとされる「ふたば平和公園」
に保健所による駆除活動を指示しました。
 これにより、〇月〇日午後十時より実装コロリガスによる駆除活動が開始され、三十分未満で
完了したとのことです。
 尚、駆除開始時刻は当初午後九時と予定されておりましたが——”







 繰り返しても、いいですか? 

  完

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1 Re: Name:匿名石 2024/09/20-11:41:32 No:00009343[申告]
仔だけ連れて公園を離れてたらあるいは助かったのかな
全員助けたいなんて欲かいちゃったから…
2 Re: Name:匿名石 2024/09/20-19:03:06 No:00009344[申告]
哀れループのズレに気付かず修正されてしまったな…
仮にもし駆除が大失敗で終わっていたら近いうちに再施工される可能性は高いし我が子と一遍公園を離れるべきだった
3 Re: Name:匿名石 2024/09/20-19:44:55 No:00009345[申告]
きっと公園の名前は雛●沢とかそんな名前なんだろう
4 Re: Name:匿名石 2024/09/21-19:50:56 No:00009346[申告]
敷金さんおひさしぶりです
相変わらず上手くまとめてあるなあ
面白かった
5 Re: Name:匿名石 2024/09/23-08:15:39 No:00009347[申告]
助け用とする個体数で時間がズレていく仕組みか
時計は読めてたし惜しかったなあ
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