「テッチャァァァァァァ!」 公園への道行き、仔実装が男の後ろを必死になって追いかける。 大号泣するその表情は必死の一言だ。 「捨てないでテチ!捨てないでテチィィィ!」 仔実装は先ほど家を出た直後に主人である男に「もうお前は捨てる」と宣告されたのだった。 何とか心変わりしてもらうよう頼みこんだ仔実装だったが男はそれを無視して歩き出し、それを必死に追いかけているというわけだ。 「うるさいな、付いてくるな。お前はもうウチの子じゃないんだよ」 「テッ…テッチャァァァァァァ!」 男の言葉に一瞬立ち止まるが慌てて後を追いかける。 男は別段早く歩いているわけではないが何せ人間の大人と仔実装の歩幅だ。仔実装の努力も虚しくその差はどんどん広がっていく。 それでも仔実装は健気に男の後を追いかけた。 「ごめんなさいテチ!ごめんなさいテチ!もうしないテチ!だから許しテチィィィィ!」 このまま走っているだけでは放されると判断し心に訴えかける仔実装。 すると男は足を止めて振り返った。 良かった。止まってくれた。きっとワタチの反省がご主人様に伝わったんだ。 仔実装はそう思わずにはいられなかった。 「あのさぁ、ごめんなさいって何に謝ってるのか本当に分かってんの?」 「テッ…」 だがその口から放たれた言葉は予想外のものだった。 何に謝っているのか。自分が捨てられる原因は何なのか。 必死になって思考を巡らす仔実装。 糞を漏らしたわけではない。汚らしく食事をした訳でもない。やかましく声を上げた訳でもない。大きくなった訳でもない。 仔実装には何が悪いのかがわからなかった。 「はぁ…もういいよ」 「…!テチャァァァァ!ごめんなさいテチッ!分からなくてごめんなさいテチィィィィ!」 男のリアクションに必死になって走り出す。 だが本当に何が原因か分からない。昨日まであんなに優しかったご主人様が自分を捨てると言い出すほどの原因が全く身に覚えがない。 それでも自分はご主人様を追いかけなければならない。 公園になど行ったことはない。ショップとご主人様の家以外の場所など知らない。この世界での生き方など自分は何一つ分からない。 自分は、ご主人様の庇護がなければ生きていけないのだ。 「テチャァァァァァァァァ!ご主人様ぁぁぁぁ!許してくださいテチ!許してくださいテチィィィィィ!」 必死に走り、ついに男の足にしがみついた仔実装が血涙を流しながら許しを請う。 「はぁ…分かったよ」 そう言って男は仔実装をそっと自身の目線と同じ高さにまで掴み上げた。 「テアァァ…ご主人様…」 「おい、勘違いするなよ」 「わ、わかってますテチ!もう悪い事しないテチッ!いい仔にするテチッ!」 喜びを浮かべつつも男の言葉に必死になって反省をアピールする。 相変わらず原因は分からないが、自分にはもうこれしかない。 何が悪いのかは分からないがとにかく何が何でも改善しなければ。仔実装はただそれだけを考えていた。 その様子に男は再びため息をつき、ゆっくりと腰を落とした構えをとった。 「俺が言ったのは、許されたと思うなって事だよっと!」 まるでボーリングの球を転がすように投げ出された仔実装が横回転しながら公園へと入っていく。 男が足を止めたのは仔実装の言葉を聞くためではない。ただ目的地へたどり着いただけだった。 「テギャアバババババババババババ!」 公園の固く踏み均された砂の地面を転がっていく仔実装。 それだけで綺麗だった髪や服は砂まみれになり全身擦り傷だらけだ。 「テ…テヒャァァ…」 それでも何とか立ち上がる仔実装。 「じゃ、そういう事だから」 しかし無情にも男は片手を上げてそう言い放つと帰り道への歩みを進めた。 「テェ!?テチャァァァァァ!」 再び必死になって追いかける仔実装。だがその前に野良の成体が立ち塞がった。 「デププ。捨てられたデス。無様なガキデス♪」 「テチャァァァァァァァ!違うテチ!これは何かの間違いテチィィィィ!」 嘲笑に号泣しながら男の下へと走り出す。だがそれも別の成体が立ち塞がった。 「捨てられたデス。惨めデスゥ♪」 「テチャァァァ!」 「いらない仔デス♪いらない仔デス♪」 「テチャァァァァァァァ!」 「お前はもう用済みデス。素直に現実を受け入れろデス♪」 「テチャァァァァァァァァァァァァァァ!」 嘲笑し、行く手を塞ぐ成体達と悲鳴を上げて男の下へと走ろうとする仔実装。 だがそうしているうちに周囲は十数匹の成体達に囲まれてしまった。 「「「「いらない仔デス♪いらない仔デス♪いらない仔デス♪いらない仔デス♪いらない仔デス♪」」」」 「テ………テチャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」 行く手を塞がれ、輪になって踊るように成体達に言われ仔実装はただ泣く事しか出来なくなった。 「デププププ。そろそろお前を貰うデスいらない仔。さっさと諦めて楽になるデス♪」 最初に立ち塞がった成体が一歩前に出て仔実装の髪を引き抜き始める。 「テチャァァァァァ!ハジャァァァァァァァァァァ!!」 「ワタシも混ぜるデス。こういう甘ったれは禿裸がお似合いデス♪」 「ワタシにもやらせろデス♪」「ワタシもデス!」「ワタシも!」「ワタシも!」「ワタシもデスゥゥ!」 寄ってたかって髪を毟られ服を奪われ顔を殴られ腕を蹴られ足を踏まれ腹へと拳を撃ち込まれる。 仔実装は寄ってたかって成体達のおもちゃにされていった。 「ヘジャッ!ヴェブッ!ゴシュッ!ゴシュジンシャマッ!ゴシュジンシャヴァァァァ!ワタチ死んじゃうテジッ!シンジャっ!死んじゃうテジィィィィィ!」 殴打されながらも懸命に助けを呼ぶ仔実装。 だがその願いは男の耳に入っても聞き届けられることはない。 そんなことは知らずに叫ぶ仔実装の悲鳴は顎を砕かれ、ボロ雑巾のように打ち捨てられるまで響いていた。 全身を殴打されて出血し、もはや叫ぶことすら叶わなくなって地面に倒れる仔実装。それを見ながら最初に現れた成体が再び口を開く。 「さて、レクリエーションはここまでデス。これからは早い者勝ちデスゥ!」 言いながら仔実装へと突撃する成体。他の成体も我先にと目の前のごちそうへと殺到する。 「ゴ…ゴヒュヒ…タスケ…ジッ!」 成体の波に押し潰され引き潰され引き千切られ、首を引っこ抜かれて仔実装の生涯は終わった。 公園の前でいわゆるヤンキー座りをして缶コーヒーを啜る男がいる。先程の仔実装にご主人様と呼ばれていた男だ。 彼が見ているスマホにはリンガルアプリを通して仔実装の最後の断末魔までもが克明に記されていた。 何故男が仔実装を捨てたのか。答えは簡単だ。飼育による上げ期間が終了したからだ。 上げて落とす。シンプルで古典的ではあるが何にも代えがたい多好感が溢れてくる。 だが男はそこにひと手間加えた。 仔実装を捨てる前に公園を訪れ、野良達にこれからくる仔実装を精神的に追い詰め、いたぶって欲しいと頼んだのだ。 報酬は仔実装一匹だが元は飼い。それを遠慮なくいたぶれる上に殺しても良いというのは野良にとって破格の条件だった。 しかも男は念入りに実装石はいたぶればいたぶるほど、殴れば殴るほど旨くなると言い含めた。 殺さず徹底的に心身を痛めつければより旨くなる。そうなれば野良の行動は一つだった。 かくして野良達は男の言葉通りに行動し、男は仔実装の命が消える時を余すことなく堪能した。 「感謝するぜ。今回もいい出来だった」 野良達の宴がたけなわとなった頃に立ち上がり、男は公園に置いたカメラと収音マイク(スマホとBluetooth接続されていた)を取る為に再び公園へと入っていく。 その地面には仔実装が流したと思しき血が大きく広がるだけだった………。
1 Re: Name:匿名石 2024/09/14-05:28:56 No:00009334[申告] |
持ちつ持たれつ野良と男双方得しかないな |
2 Re: Name:匿名石 2024/09/14-22:02:53 No:00009337[申告] |
ハジャアアアアアすき |
3 Re: Name:匿名石 2024/09/17-17:38:25 No:00009341[申告] |
王道物語の中にBluetooth出てくるのがなんか良い
変わる物と変わらない物の対比を感じる |
4 Re: Name:匿名石 2024/09/18-09:14:59 No:00009342[申告] |
ケータイがスマホになって
有線マイクがBluetoothになって このジャンルも長く続いてますねぇ |