タイトル:【観察】 実翠石との生活Ⅲ 勘違い
ファイル:実翠石との生活Ⅲ 勘違い.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:241 レス数:5
初投稿日時:2024/09/12-20:15:15修正日時:2024/09/12-20:15:15
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実翠石との生活Ⅲ 勘違い
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「テッチチー!テッチチー!」
飼い仔実装のエメラルドはご機嫌の極みだった。
ご主人サマ(専業主婦の中年女性)に魔法少女のコスプレ衣装(魔法のバトン付)を買ってもらったのだ。
どぎついピンクを基調とした、過剰なほどにフリルとリボンを盛った安物の仔実装用衣装だったが、
エメラルドの嗜好にはピッタリだったようだ。
さっそく周囲に自慢したいと散歩をせがみ、エメラルドは主人と共に外へと繰り出した。
普段はご主人サマに抱っこされたままでの散歩だが、今日はリードを付けてもらい自身の足で歩くことにする。
指の無い実装石でも腕にはめて保持できるようにされた魔法のバトンを振りかざし、エメラルドは意気揚々だった。

「テチャァ!テッチャー!(ニンゲンさん!すっごくカワイイワタチを見せてあげるテチィ!)」
道行く人を見かける度に駆け寄って、コスプレ衣装とそれを纏った自身の可愛さをアピールする。
身長十センチ程度の仔実装が人間の足元を歩き回るなど自殺行為に近いのだが、喜び浮かれたエメラルドはそんな事にまで思い至らない。
飼い主も飼い主で、はしゃぐエメラルドを注意するどころか笑顔で見つめるだけだった。
大抵の人間は一瞥をくれて歩み去るだけだったが、小さい女の子にはそこそこの好評を得られて、
エメラルドの自尊心を大いに満足させた。
今も正面から歩いてくる父娘と思われるニンゲン達に自身の可愛さを褒めてもらおうと、テッチテッチと鳴きながら駆け寄ろうとする。
小さいニンゲンならきっとたくさん褒めてくれる、そう期待してのことだったが、その期待が叶えられる事は無かった。

エメラルドは小さいニンゲンに近付くにつれて違和感を覚えた。
大きいニンゲンとの仲睦まじさを思わせる、指を絡めて繋いだ手。
欠かさず手入れがなされているだろうサラサラのロングヘア。
要所にフリルとリボンでアクセントを付けた、上品な仕立てのワンピース。
大きいニンゲンからプレゼントされたと思われる、大きな熊のぬいぐるみ。
ぬいぐるみを抱き締める左手の薬指には、指輪が嵌められている。
大きいニンゲンを見上げて笑みを浮かべるその顔には、赤と緑のオッドアイが煌めいていた。
あれは小さいニンゲンなんかじゃない!
あれはヒトモドキの実翠石だ!
「ヂシャァァァァァッッ!!(オマエみたいなデキソコナイなんてやっつけてやるテチィッ!!)」
エメラルドはご自慢の魔法のバトンを振りかざして実翠石へと突進した。
自身に駆け寄ってくる仔実装に気付き、踏み潰さぬよう立ち止まった実翠石の靴先を、エメラルドはバトンでペチペチと殴り付ける。
「テチャァッ!テチャァッ!テチャアアアアアッッ!!」
単なるじゃれつきとでも思ったのか、エメラルドの飼い主はそれを止めるでもなく笑顔で見つめているだけだった。
実装石が苦手なのか、実翠石は怯えと困惑が入り混じった表情で愛しの主人を見上げる。
実翠石の主人はエメラルドとその飼い主を冷たく一瞥し、実翠石を横抱きにして足早にその場を後にした。
「テチャア!テッチャアッ!(やったテチィ!ヒトモドキの糞蟲を追っ払ってやったテチィッ!)」
エメラルドはバトンを掲げて勝鬨を上げた。
現実にはほとんど相手にされなかったに等しいのだが、幸せ回路の為せる技か、
エメラルドの脳内ではあの憎たらしいデキソコナイを叩きのめして追い払ってやったと変換されていた。
自身の脳内にしか存在しない勝利に酔いしれたエメラルドは、さらなる敵と勝利を求めて公園へと足を向けた。

公園に着いたエメラルドは、野良の仔実装達(仔実装三匹と親指実装一匹の四姉妹)が一匹の仔実装を寄ってたかって足蹴にしている様を見つけて、
さっそく自慢のバトンを振るう相手がいたと意気揚々と駆け寄った。
『弱いものイジメはやめるテチィッ!』
『レヂッ・・・!?』
手近な親指にバトンを振ると、バトンの先が親指実装の右目を貫通し、脳の一部を破壊した。
『テ、テチャアッ!?』
エメラルドは自身の振るったバトンがもたらした悲劇に動揺しながらも、バトンを親指の眼孔から引き抜こうとする。
『レッ!?・・・レヂッ!・・・レ・・・!』
エメラルドがバトンを引き抜こうと腕を無茶苦茶に動かすたび、バトンの先端が親指実装の脳をズタズタに破壊し、
親指実装は身体をビクビクと痙攣させる。
『レ、レ・・・レッ・・・ヂッ・・・』
ようやく引き抜いたバトンには視神経が絡みつき、親指実装の右目にできた歪な穴からは血液や破壊された脳の一部が零れ落ちた。
崩れるようにうつ伏せに倒れた親指はビクンビクンと二、三度身体を震わせた後、二度と動かなくなった。
『テ・・・親指チャン・・・?』
野良仔実装姉妹の内一匹が、倒れ伏した親指実装を呆然と見やる。
『テチャアアアアアっ!?親指チャンが、親指チャンが死んじゃったテチィ!』
『な、なんでテチィ!?なんでこんな酷いことするテチィ!?』
『親指チャンはとってもいいコだったテチィ!こんなカナシイことされるなんておかしいテチィ!』
野良仔実装姉妹は親指実装の突然の死に各々泣き叫んだ。
ちなみにこの野良仔実装姉妹、別に弱い者イジメをしている訳ではなかった。
母実装が餌取りに行って留守番している際、別の家族から糞蟲化して追い出された仔実装が餌を盗もうとダンボールハウスに忍び込んできたのを、
姉妹で協力して追い返そうとしていたところだったのだ。
そうとは知らぬエメラルドが余計な勘違いをした結果生じた悲劇だった。
なお、盗みに入ろうとした糞蟲仔実装はこれ幸いと姿をくらませている。
「テ、テェェェッ・・・」
当のエメラルドは公園のオトモダチを意図せず殺してしまったことに酷く動揺し、ただ立ちすくむしか出来なかった。
さらに間の悪いことに、姉妹の母親が餌取りから丁度戻って来て、この殺害現場に出くわしてしまった。
『デ・・・デデッ・・・?』
母実装は親指実装の死体に駆け寄ると、その身体を何度も揺さぶった。
『し、しっかりするデス!起きるデス!』
無論、親指実装がその呼びかけに応えることはない。
『ママ、アイツが、アイツが親指チャンを殺したテチ!』
母実装は血塗れのバトンを手にして呆然としているエメラルドに詰め寄ると、その両肩を掴んでガクガクと揺さぶった。
『なんで、なんでこんな酷い事をするデス!?』
母実装は血涙を流してエメラルドを詰るが、エメラルドは動揺するばかりで何も応えられなかった。
どうしてこんなことになっちゃったテチ?
ワタチはカワイイカワイイ魔法使いテチ。
ご主人サマだってカワイイっていっぱいいっぱい褒めてくれたテチ。
それにワタチは正義の味方テチ。
さっきだってニンゲンに媚びてたデキソコナイのヒトモドキをボコボコにして追い払ってやったテチ。
そんなすごく可愛くて強いワタチが、こんな、どうしてどうしてどうしてどうして・・・・・・。
エメラルドの混乱なぞお構いなしに、母実装はエメラルドへ糾弾を続ける。
『オマエは飼いのはずデス!恵まれてるはずデス!なのにどうして、ワタシの、大事なムスメの命を奪うなんて酷いことをするんデス!?』
この母実装は、野良にしては愛情深く賢い個体だった。
今も大事な仔を殺されながらも、エメラルドにはギリギリのところで危害を加えていない。
飼い実装を傷付ければどれほど恐ろしい報復がなされるかを、伝聞で知っていたからだ。
だが、そんな母実装の自制は無に帰した。
今まで仔実装同士のじゃれ合いと静観していたエメラルドの飼い主が、エメラルドが成体実装に組み付かれたのを見た際にさすがに危険を覚えて、
リードを思い切り引っ張ったのだ。
リードは首輪に繋がれており、首輪は母実装に掴まれたままのエメラルドの首を、半ば締め潰すように引き千切った。
「ヂベッ!?」
飼い主は血の尾を引いて転がるエメラルドの首を見て、マンドラコラもかくやというほどの悲鳴を上げ、
その悲鳴を聞き付けた近隣住民により通報がなされた。


そんな公園での一騒動とは無縁の実翠石は、愛しい主人に横抱きにされる状況を内心でひどく喜んでいた。
人前でお姫様抱っこされるのは恥ずかしかったが、主人が自分を実装石から守ってくれたという事実、
そして衣服越しでも伝わる主人の体温と心臓の鼓動が、愛されているのだという実感を与えてくれていた。
それは父が娘に向ける愛情と分かってはいたけれど。
自分が主人に向ける愛情とは違うと分かってはいたけれど。
「・・・大好き、です、お父さま・・・」
思わず漏れ出た呟きが届いたのか、実翠石は自身を抱き締める力が少しだけ強くなったのを感じ取った。


数日後、飼い実装を襲う凶暴な実装石が生息するとされたこの公園に対して一斉駆除が実施された。
公園に生息していた実装石は、良蟲糞蟲を問わず一匹残らず殺処分された。




※スレに投下したものを改題及び加筆修正しました。

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1 Re: Name:匿名石 2024/09/13-12:55:51 No:00009331[申告]
実翠石は何もしてないけどエメラルドを増長させて悲劇を生む一因にはなったのかもしれない
…実装石にとっての疫病神か何かで?
2 Re: Name:匿名石 2024/09/13-13:56:09 No:00009332[申告]
公園が綺麗になって結果オーライめでたしめでたし
3 Re: Name:匿名石 2024/09/13-19:11:16 No:00009333[申告]
実装石が幸福回路に身を任せる時すでに死出へのカウントダウンは始まっているのかも知れない
盛大に周りを巻き込みながら
4 Re: Name:匿名石 2024/09/14-16:20:23 No:00009335[申告]
愛誤派マジクソやな
リンガル使ってくれ
5 Re: Name:匿名石 2024/09/14-19:47:18 No:00009336[申告]
知らずに飼う奴は割と求めてるのは生きてるお人形だったりなので
リンガルの精度が高ければ「こんな事言うはずないこれはギャクタイ用よ!」
愛護派用の意訳・忖度付なら行動との食違いや齟齬だらけで「精度が悪い使い物にならない!」
で、結局「ウチの実装ちゃんを見てれば何を言いたいか分かるから要らない」と
実装にいいように使われたり手遅れになったりお互い不幸な末路に…
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