実翠石との生活Ⅲ ヒエヒエのアマアマ ------------------------------------------------------------- 「暑いテチ・・・」 「喉渇いたテチ・・・」 公園の植え込みが作るささやかな影に身を隠しながら、四匹の野良仔実装姉妹が母実装の帰りを待っていた。 危ないから家から出てはいけないと言われてはいたが、薄暗く、蒸し暑い上に悪臭が籠もったダンボール内に居続けるなど、 堪え性のない仔実装達には無理な相談だった。 何よりここ最近の暑さは実装石にとってあまりに過酷だった。 熱中症や重度の脱水症状で死亡する仔実装以下の個体が連日のように発生している。 今も人目につかぬところでは、熱中症で死んだ仔実装が同族に死体を貪られていた。 仔実装姉妹の恨めしげな視線の先には、アイスクリームを売るキッチンカーが駐車しており、何人かのニンゲンがそこに集まっている。 仔実装姉妹は知っていた。 あのニンゲンが集まっている場所には、ヒエヒエのアマアマな食べ物があることを。 だが、仔実装姉妹は近寄ろうとはしない。 安易に近づけば、キッチンカーの持ち主が飼っている実蒼石に容赦無く殺されるからだ。 昨日もヒエヒエのアマアマの誘惑に抗えなかった数匹の仔実装が、用心して近寄ったにもかかわらずあっさりと発見され、 鋏で撲殺される光景をこの仔実装姉妹は目の当たりにしていた。 (キッチンカーの周囲をなるべく汚さぬよう、実蒼石は仔実装以下には撲殺を多用していた) 「ヒエヒエのアマアマ、食べたいテチ・・・」 「でも、あの青いヤツは怖いテチ・・・」 羨望と恐怖が入り混じった視線の先に、新たなニンゲン達が現れる。 母娘だろうか?それとも姉妹だろうか?二人して日傘を差している。 大きいニンゲンと小さいニンゲンはヒエヒエのアマアマを口にして笑い合っていた。 小さいニンゲンは店先の実蒼石に気付くと、微笑みかけて頭を撫でる。 実蒼石も嬉しそうに身を委ねた。 大きいニンゲンは小さいニンゲンを優しそうな笑顔を浮かべて見守っている。 小さいニンゲンのよく手入れされた長髪や瀟洒なワンピースから、大きいニンゲンに大切にされ愛されていることが仔実装姉妹にも容易に察せられた。 対してこの姉妹の母実装は、ここ最近の暑さと餌取りの疲れからか、最近はお家に居ても寝てばかりでろくに相手をしてくれなかった。 そんなニンゲン達を羨ましげに眺めていた仔実装姉妹の次女が、小さいニンゲンの瞳の色に気付く。 赤と緑のオッドアイ。 偽石に刻まれた本能が、あれはデキソコナイの実翠石だと告げた。 「デキソコナイがヒエヒエのアマアマ食べてるテチ!」 次女の指摘に他の姉妹も騒ぎ出した。 「ヒトモドキの分際で生意気テチ!」 「ムクツクテチ!オマエなんかウンチでも食ってろテチィ!」 「青いヤツはそいつを殺せテチィ!八つ裂きにしてやれテチィ!」 見れば見るほど腹立たしかった。 自分達が口に出来ないヒエヒエのアマアマを、労せず手に入れ食べている。 自分達が汗や垢、埃や泥に塗れているにもかかわらず、綺麗で清潔な服を着ている。 自分達は実蒼石に容赦無く殺されるのに、ヒトモドキは仲良さげにしている。 何より自分達と違って、飼い主から愛されている。 「あのヒトモドキをぶっ殺してヒエヒエのアマアマを分捕ってやるテチ!」 鼻息荒く喚く四女。 「でも、今は青いヤツがいるテチ・・・。見つかったら殺されちゃうテチィ・・・」 「それならデキソコナイが公園から出たところを襲ってやればいいテチ!」 三女の懸念を長女が払拭したことで、姉妹の行動方針は決まった。 大きいニンゲンと実翠石が公園の外に向かうのを見て取った仔実装姉妹は、早速追跡を開始した。 テッチテッチと鳴き声を上げて一生懸命に走る。 あのヒトモドキからヒエヒエのアマアマを奪い取って、眼の前で見せつけながら食べてやろう。 あのヒトモドキはウンチを食わせて、ボコボコにして殺してやろう。 ヒトモドキの飼い主はドレイにして、ヒトモドキの代わりにワタチタチを飼わせてやろう。 そんな事を夢想しながら、姉妹は走り続けた。 だが、追いつけない。それどころかどんどん距離が開いてゆき、ほんの数分で目標を見失ってしまう。 だが、姉妹は走るのを止めなかった。 ヒエヒエのアマアマをヒトモドキから奪い取る、それだけが頭の中を占めていたからだ。 無論、仔実装達の思い描いたとおりにはならなかった。 まず最初に三女と四女が脱落した。 長女を先頭に次女、三女、四女と一列に並んで走っていたのだが、マンホールの上を走っている際に三女が足を取られて転倒した。 最後尾を走っていた四女が避けきれずに三女に蹴躓く。 マンホールは直射日光に長時間炙られ、かなりの高温になっていた。 「テチャアアアアアッッ!?」 「テヂィィィィィィィィッッ!?」 顔面からマンホールに突っ込んだ二匹は、顔を灼かれて悲鳴を上げた。 立ち上がろうと手を付くが、その手も灼かれて痛みにひっくり返ってしまう。 熱さから逃れようとのたうち回るうちに、四女は良からぬ事を思いついた。 すぐ隣で同じように転げ回っている三女を踏み台にしてやればいい。 四女は三女にしがみつくと、その上に乗っかろうとする。 「何するテチィッ!?」 四女にしがみつかれた三女は暴れ、そのまま取っ組み合いが始まった。 互いに殴り、蹴り、噛み付き合って相手を倒そうとするも、体格がさして変わらぬ非力な仔実装同士のため、なかなか勝負がつかない。 「・・・ヂュアアアアアッ・・・」 「・・・ヂギイイィィィッ・・・」 そんな事をしているうちに、二匹はマンホールが発する熱に炙られて力尽きた。 次に脱落したのは次女だった。 後方で起きている三女と四女の不毛な殺し合いに気付きもせず、テッチテッチと駆けている内に、 次女は段々と息苦しくなっている事に気付く。 上からは直射日光に照らされ、下からはアスファルトの輻射熱に曝されているうちに、 次女の身体の水分はどんどん奪われてゆき、 代わりに体温が急上昇していった。 「テ・・・テテッ・・・テヒッ・・・」 それでもなおヒエヒエのアマアマを求めて前に進もうとするが、とうとう力尽きて倒れてしまう。 熱中症と脱水症状を起こしている上に、熱を帯びたアスファルトに倒れ込んだおかげで脱水症状が加速してゆく。 数分と保たずに次女もあの世へと旅立つこととなった。 妹達の悲惨な末路に気付くことなく、長女は走り続けた。 ヒエヒエのアマアマを思う存分味わい、ヒトモドキはウンチを食わせた後に嬲り殺しにして、ヒトモドキの飼い主をドレイにして飼いになってシアワセに暮らす。 「ヂベッ!」 そんな妄想を抱いたまま、長女は後ろから歩いてきた通行人に意図せず踏み殺されて地面の染みと化した。 死の恐怖を知覚することなくあっさりと逝けたのは、苦しみながら死んだ姉妹に比べればシアワセだったと言えるだろう。 当の実翠石とその飼い主は、仔実装姉妹の悲惨極まる最期に気付きもしなかった。 隣でチロチロと可愛くアイスを舐める実翠石を見て、飼い主は思った。 暑いのは大変だけど、夏には夏の楽しみ方があるわよね。 ※スレに投下したものを一部修正しました。 -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2024/09/07-09:37:00 No:00009319[申告] |
一方的に敵意と悪意を向けるが認識すらされず全滅するの美しい |
2 Re: Name:匿名石 2024/09/07-18:55:32 No:00009320[申告] |
嫉妬に妬かれ身内で殺し合いをしながら放射熱に焼かれ死ぬ
この猛暑の中頑張っているであろう母実装に感謝の欠片も無い仔実装にはお似合いの最後だ |
3 Re: Name:匿名石 2024/09/08-02:10:21 No:00009321[申告] |
糞蟲が自然淘汰されていくのは非常に気持ちがいい |
4 Re: Name:匿名石 2024/09/08-15:52:33 No:00009324[申告] |
人知れず自滅していくのがまた芸術点が高い |