【苺ジャムと野良実装】 「……今日は良いモノが手に入ったデスゥ。早く帰ってムスメたちと食べるデス」 その野良実装が手にしているのは、赤いモノが入った小さな瓶。 貼られたラベルには苺の絵が描かれている。 そう、苺ジャムの瓶だ。 瓶には蓋が無いが、中身はたっぷり入っていて野良の一家にとっては十分ゴチソウだった。 この野良実装を仮にミドリと呼ぶことにする。 ……5分ほど前のこと。 ミドリが今日の餌を探しに公園の中をうろついていると、ベンチに腰掛けた人間が目についた。 その人間はバッグからパンと瓶を取り出すと、その中身をパンに塗って食べていた。 その女性は苺ジャムが好物なので、公園でランチをする時にもパンとジャムを持参して ベンチで食事を楽しむことがよくある。 この公園は、まだそれほど野良実装の数が多くなく、愛護派でも虐待派でもない人間も 普通に公園を訪れることができていたのだった。 (アマアマな匂いがするデスゥ……) ミドリは匂いに釣られ、ふらふらと人間の前に歩み出た。 突然現れた野良実装の姿に人間は一瞬だけ嫌な顔をしたが、手にしていたパンの欠片を口に放り込むと、 手についたパンくずを払ってそそくさとその場を後にした。 ベンチの上には、人間が忘れていった蓋の開いたジャムの小瓶が残されていた。 * * * * * 「オマエたち、今日はアマアマを手に入れてきたデス!」 「テチャー!ママ最高テチュ!」「すごいテチ!アマアマテチィ!?」「ママすごいテッチュウ!」 段ボールハウスに戻ったミドリが戦利品を仔たちに見せる。 出迎えた3匹の仔は、口々にミドリを褒め称える。 ミドリの仔は全部で10匹ほどいたが、天敵に襲われたり糞蟲気質で間引かれたりして、 残るはこの3匹だけだが、その代わりどの仔も良い仔だとミドリは誇りに思っていた。 (なお、実際は家の外のトイレ穴に蛆実装が数匹いるが、それは非常食なので仔には数えない) 「さあ、みんなで仲良く分けて食べるデス」 「「「はーいテチ!」」」 ミドリは段ボールハウスの床に置いた葉っぱの皿に、瓶を傾けてジャムを盛りつけていく。 ドングリを潰して水で練ったものや、草の実なども一緒に盛りつける。 そして一家は仲良く「いただきます」をすると、笑顔でゴハンを食べ始めた。 ぺちゃぺちゃと音を立て、手や前掛けをジャムで汚しながらも、一家は楽しく食事をする。 三女がミミズに驚いてしりもちをついた。次女は蝶を追いかけて転んだ。 そんな他愛のない話を聞きながら、ミドリは小さな幸せを噛みしめる。 「ママ、うじちゃんたちにもこの赤いアマアマをあげていいテチ?」 皿に乗せたジャムを手に持ち、長女がミドリに遠慮がちにそうたずねる。 長女は優しくて良い仔だが、優しすぎるところがあった。 普通なら、トイレで飼っている非常食にウンチ以外の餌を与えようとする者はいない。 「長女、トイレ穴の蛆ちゃんたちはウンチを食べていれば幸せなんデス。 下手にウンチ以外のものを食べると、もうウンチを食べなくなってしまうんデス。 そうしたらどうなるデス?蛆ちゃんは飢えて死んでしまうし、ワタシたちも飢えて困るデス。 だから蛆ちゃんにはウンチしかあげちゃダメなんデス」 「テェェ……わかったテチ」 長女は渋々そう答えてうなずくと、皿に残してあったジャムを食べた。 ミドリはそれを見て満足げにうなずくと、手をポンポンと叩いて言った。 「さあ、ママは夜のゴハンを探しに行ってくるデス!みんなは良い仔にして待ってるデス!」 「「「はーいテチ!」」」 * * * * * ミドリが餌を探しに行ってしまうと、仔たちは思い思いに遊び始める。 そんな中、長女は段ボールハウスの奥に置かれた苺ジャムの小瓶を見つめていた。 「まだ、中身が入ってるテチ。……やっぱりうじちゃんにも食べさせてあげるテチ」 長女は次女と三女の様子をうかがい、見られていないことを確認すると、 ジャムの小瓶を抱えるようにして家から運び出し、トイレ穴の前まで運ぼうとした。 「……あっ!」 だが、小瓶と言えどもジャムの瓶は仔実装には大きく、瓶を倒してしまった。、 「あわわ、赤いアマアマがこぼれちゃったテチ!」 ジャムは地面に少しこぼれてしまったが、長女はきれいな部分だけ拾って瓶に戻し、 もう一度慎重にトイレ穴に向かった。 その時、ジャムをこぼした場所で何かが蠢いたことに、長女は気づかなかった……。 「うじちゃん、うじちゃん!……いるテチ?」 穴を覆っていた薄い板をずらし、中に呼びかける長女。 長女は時折こうしてトイレ穴の蛆実装たちに話しかけていたのだ。 蛆実装はいつも「レフー」と返事をして、長女が話す外の様子を楽しそうに聞いてくれる。 「レフー」ノ~』 今日も、いつもと同じのんきそうな声が返ってくる。 長女は蛆実装に話しかけながら、ジャムの瓶を傾けて中身を穴に注ごうとする。 「今日はアマアマなご飯を持ってきたテチ!うじちゃんにもあげるテチ!」 「レ『ナノ~』 ここでようやく、長女は何かおかしいことに気がついた。 穴の中からではなく、背後から誰かの声がする。 「……あっ!」 怯んだ拍子に、手が滑ってジャムの瓶がひっくり返る。 粘度の高いジャムは、ゆっくりと瓶の口からこぼれそうになり……。 『イッチゴジャムー!』 「……ひっ!」 奇声と共に、背後から何者かが長女を押しのけて小瓶に飛びついた。 長女はその場に腰を抜かし、パンコンしながら這うようにして次女や三女の方へと逃げていった。 * * * * * 事情を聞いた次女と三女が、パンコンした長女に連れられてトイレ穴の前にやってきた。 3匹とも腰が引けているが、比較的勇気のある次女が一歩前に踏み出す。 「そこにいるのは誰テチ!?」 返事はない。 次女はもう一歩トイレ穴に近づいて、さらに声をかける。 「誰かいるのは分かってるテチ!出てこいテチ! ……こ、来ないならこっちから行くテチ!」 次女は、段ボールハウスから持ってきた宝剣(錆びた釘)を手に、ゆっくりとトイレ穴に近づく。 穴の中をのぞき込んだり、周囲を見回しても誰もいない。 仕方ないので、手にした釘をぶんぶん振り回してみたがそれで何か起こるわけでもなく。 次女はほっとした表情で、長女と三女を振り返って……。 「長女オネチャ!三女チャ!後ろテチ!」 「「テッ!?」」 『いただきますナノ~』 そこにいたのは、ピンクの服を着たぽっちゃり体型の他実装……いわゆる実装雛の仔だった。 仔実装雛と言っても大きさは仔実装よりは大きく、姉妹が恐怖心すら覚えるほどだ。 口の周りを真っ赤に染めて(抱えていた苺ジャムの小瓶が空っぽなので、その所為だろうか?)、 その口を大きく開けて笑っている。 仔実装雛は瓶を捨てて三女に抱きつくと、頭から一気に口の中に放り込んで……噛み砕いた。 「テヂィィィィィ!」 『ぐっちゃぐっちゃ……ウニュ~♪おいしいナノ~♪』 三女を噛み砕き飲み込むと、仔実装雛はぶにゅぶにゅと体を蠢かせて笑顔を浮かべる。 「さ、三女チャが……!」 「よくも三女チャを、このデブピンク!死ねテチャー!」 次女が釘を構えて突撃するが……。 『ウニュ?』 仔実装の力では錆びた釘が刺さることはなく、そのまま仔実装雛が体をひとゆすりすると、 釘は地面に転がり落ちてしまい……。 「放せテチ、放すテチィ!」 『ウニュニュ~!そんなことしちゃダメダメナノ~!』 「ひぃぃ、丸呑みは嫌テチィ!」 仔実装雛は大きな口を開けて次女を口内に放り込んだ。 「テチャァァ!噛まれるのも嫌テッチャーーーヂッ!」 『ぐっちゃぐっちゃ……ウニュ~♪』 そして三女と同じように噛み砕き、飲み込んでしまった。 妹たちが食われている間、長女は何をしていたかと言うと。 恐怖のあまり動くことができず、既にこんもりしていたパンツをさらにこんもりさせながら、 その場で気を失って倒れてしまった。 仔実装雛は倒れた長女には手を出さずにトイレ穴をほじくり返し、中の蛆実装を摘まみ上げた。 「レフ?おばちゃんだれレフ?」「おっきいレフー」「プニプニしてほしいレフー」 『いっただきますナノ~♪』 「レピャッ!」「レビョ!」「プニプニャッ!?」 『ウニュニュ~♪』 蛆実装3匹をひと口で平らげた仔実装雛は、倒れた長女を残してその場を後にした。 ……実はこの仔実装雛は、長女がジャムをこぼした場所に仮死状態で埋まっていたものだ。 正確には、実装雛が繁殖の際に伸ばす地下茎の一部が地中に埋まっていた。 かつてこの公園には実装雛の小さなコロニーがあったのだが、次第に廃れ消えていった。 その名残が地中に残っていたのである。 そこに長女が苺ジャムをこぼしたことで、栄養を得て復活した。 そして再び繁殖するべく、さらに栄養を蓄えようと手近な実装石を食らった。 長女だけは食わずに去ったのは、復活させてくれたお礼のようなものであろう。 とは言え、ミドリが帰宅してこの惨状を、そして残された苺ジャムの空き瓶を見れば、 長女が厳しく問い詰められることは間違いないわけで……。 * * * * * 両手いっぱいのドングリを持って帰宅したミドリが見たものは、 気絶した長女と、ほじくり返されたトイレ穴、ジャムの空き瓶、そして消えた次女と三女……。 「ワタチは知らないテチ!変な太ったピンクのおばちゃんがイモチャたちを食べたテチ!」 「ピンク……?カイジッソウがそんなことするはずないデス!嘘は許さんデス!」 「嘘じゃないテチ、本当テチ!信じテチ!髪は、髪は許しテチ!髪は……テチャァァァァ!」 ミドリは長女の髪を抜いて服も剥ぎ取って禿裸にしてしまうと、 崩れかけたトイレ穴の中に放り込んで言った。 「オマエは罰としてそのトイレ穴を直すデス!直し終わるまで出してやらんデス!」 「テェェェン、テェェェン!」 泣きながらトイレ穴の崩れた壁を直し始める長女。 ミドリはそれを厳しい目で見下ろしながら、次に産む「長女」ら仔たちのことを考えていた。 つまりミドリは、長女をこのままトイレ穴から出すつもりはなく、 ウンチドレイとして飼うと決めていたのだった。 「テェェン、テェェェン!」 「ほれ、キリキリ働くデス!」 * * * * * 「デギョ!?」 翌日、ミドリは人間の女性にいきなり棒で頭を殴られて倒れた。 その人間は、先日ミドリが盗んだジャムの持ち主の女性だった。 「ふぅ、ふぅ、あのジャム高かったのに……実装石ごときが食べるなんて許せない……!」 あの後で女性は、ジャムの瓶を忘れたことを思い出して引き返したのだが、 既にミドリによって持ち去られた後だった。 それでも諦めきれずに犯石を探すべく、今日になって再び公園に来たところ、 ミドリがジャムの瓶で水を汲むのを見かけて後をつけ……手にした枝で頭を一撃したというわけだ。 「デギョォォォ!」 頭頂部を大きく凹ませて倒れ伏し、手足をイゴイゴと動かして泣き喚くミドリ。 女性はその様子を冷ややかな目で見下ろすと、もう一撃を加えるべく枝を振り上げて……。 ————デギッ! 枝を放り投げ、肩で息をしながらその場を去る女性。 後には頭を潰されて動かなくなったミドリの死骸が残されていた。 * * * * * なお、トイレ穴にいて無事だった長女がその後どうなったかは……。 「ゲプッ、空き家の側にオニクが落ちてるとはワタシは運がいいデス。 おなかいっぱいになったらウンチがしたくなったデス。 この家はウンチドレイ付きのトイレ穴もあるデスゥ、ワタシはなんて運がいいんデスゥ!」 「テェェェェン、テェェェェン!ママー、はやくここから出しテチィィィ!」 「オマエなんか知らんデス、ウンチドレイはウンチを食ってろデス」 ……とりあえず生き延びてはいるようだ。 終わり ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 実装雛メインで動かすつもりがとっ散らかった感じになってしまった……。
1 Re: Name:匿名石 2024/09/01-20:56:20 No:00009310[申告] |
雛は設定が今でもフワフワしてるからな |
2 Re: Name:匿名石 2024/09/04-10:08:15 No:00009316[申告] |
雛の登場が怪獣映画の序盤のようでワクワク |