タイトル:【観察】 公園で観戦
ファイル:公園で観戦.txt
作者:Aida 総投稿数:3 総ダウンロード数:828 レス数:6
初投稿日時:2024/09/01-00:33:01修正日時:2024/09/04-22:51:18
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朝目覚めると、身支度を整えて公園へと向かう。
今日は燃えるゴミの日なのでアパートのゴミ捨て場へ放り込む。
俺、としあきは駅徒歩20分のアパートに住まう独り身の無職だ。
もっとも、資産はあるので働く必要はないから無職でも何とも思っていない。
家を出ると、駅とは反対方向へ10分程、道すがらパン屋へ寄って朝食セットを調達してから公園へと向かう。
軽い散歩ができる大き目の公園へ到着すると、中ほどのベンチを見繕って腰を落ち着ける。
「さて」
懐から取り出したのは集音器が一体となった珍妙な双眼鏡。
俺は実装石の観察を午前の日課としていた。

比較的早い時間とあって、人通りは殆どない。
道沿いの木陰や、植え込みの陰にあるダンボールハウス群を眺めることしばし、デスデスという声が公園中心部のほうから近づいてきた。
体長50cmほどの成体実装が道沿いのダンボールハウスを一つ一つ上から下まで舐めるように見ながら、ビニール袋をガサガサとさせ歩いてくる。
時折フタ部分をトントン、と叩き、しばらく待つ。そしてまた歩き出す。これを繰り返している。
成体を発見してから段ボール7箱程度だろうか、それまでのルーティーンに変化があった。
フタを叩いてすぐに、中からガサガサと音がして、ダンボールハウスが揺れる。成体の顔が喜悦に歪んだ。

パタとふたが開いて仔実装が飛び出した。
「テチューン!」
お決まりの甲高い声で一直線に成体の足に飛びつくと頬ずりをしてテチュテチャ甘えた声を出す。
むろん、これまでの様子を見ればこの成体が親でないことはわかる。
案の定、成体は段ボールの中をちらりとみやるとデプッと短く笑い、仔の頭をつかみ上げた。
事ここに至って事態に気付いた仔実装は、叫ぶその前に頭をもがれた。
成体はビニールに胴体を入れると、段ボールへ踏み入る。
中からはウジの悲鳴だろう、レピーというか細い声が聞こえたがすぐにくちゃくちゃという咀嚼音に代わった。
さらに数匹のウジをビニールに収めると、隣の段ボールへ行きトントンとノックする。

成程、ゴミ漁りに出た親を待つ仔を狙った押し込みか。

次の一軒は、中から覗かれていたのか、ノックしても物音と小さな悲鳴ばかりで、しばらくのぞき込もうとしたり、甘い声を出したりしていたがフタは開かず、すぐに次へと移っていった。
見切りの良い当たり、それなりに頭はまともなようだ。



そうして、トントントントン3軒が過ぎて、4軒目である。
ここも物音がして、中から押し殺した声がわずかに聞こえた。
さらにノックを重ね、甘い声を出す。
そうして、フタの隙間から覗き込んだその時、
「チャアッ!」
裂帛の気合と共に竹串がスッと伸び出て成体の目を突き刺した。
「デギャァアアアア!」
朝の静けさを殴りつけるような悲鳴が上がる。
のたうちまわり、ア゛ーッ!ア゛ーッ!と怪鳥の如く鳴く。
やがて、目を抑えうつ伏せに蹲ってすすり泣きだした。

段ボールからはテチュテチュと囁きあう声がする。
ややあって、フタの隙間から2色の目が数対覗く。
数度瞬くと、三日月になりをゆがめる。
「チププ…」
小さく、しかしはっきりと聞こえた。
一匹が始めてしまえば、あとは雪崩のように。
最低限声を抑えようという意識は感じるもののチププ、チプウと囀る声は大合唱。
完全に調子に乗っている。
俺は双眼鏡を覗きながらパンにかじりついた。

成体は蹲って震えながら泣くばかり。
いや、すすり泣きが聞こえなくなっている。プルプルとした震えが大きくなり、やがて
「デギャアアアアアアア!デgy、tftvgbyふhjのmkp」

怒声をあげる。

顔を真っ赤に、ドタドタ段ボールへ駆け寄り、ウジや仔実装の入ったビニール袋を叩きつける。
ベシャッ!と湿った音がして段ボールが大きく揺れる。

2度、3度、今度は仔実装が悲鳴を上げる番だ。

テエェーン!テェーン!と鳴く声、テチャーッ!と叫ぶ声。
成体は何度もビニール袋を叩きつける。
中に重しが入っているのか、段ボールは動かないが、その分少し形をゆがめていた。
勿論、実装石の力である。決定的な破壊には至らない。
とは言え、中の仔実装にしてみれば歪み、隙間が広がるのは大変な恐怖だ。
鳴き声はさらに大きく激しくなり、段ボールの外側には緑の汁がしみだしている。
段ボールの隙間からは、半狂乱にスッ、スッ、と竹串が突き出されるが、覗き込んでもいないのにあたりはしない。
ところが、ある瞬間、突き出された竹串に叩きつけられるビニール袋がヒットした。

ビニールが裂け、ぐちゃぐちゃになった中身が飛び散る。
食料を台無しにされた成体はさらにヒートアップし、寄声をあげて段ボールにタックルをかます、回し蹴りを放つ、よじ登って飛び跳ね踏みつけるの大暴れ。
そこまでしても実装石では段ボールの破壊には至らない。
しかし仔実装の理性は破壊されてしまった。

パタとふたが開け放たれ一匹の仔実装が走り出た。
よちよちと、たまに足をもつれさせる亀のような走り。
フタが開いたことで段ボールは半ば潰れ、バランスを崩した成体はそれでも転がり落ちるように仔実装にとびつき、叩き潰した。

叩き潰した仔を口へ詰め込みゆっくりと振り返る。
そこには潰れてしまいフタの閉じなくなった段ボールを再び閉じようと手こずる仔実装が3匹、そして竹串の持ち手側が腹に刺さって息も絶え絶えの仔実装が1匹。

成体がゆったりと距離を詰める。
フタを閉じようとしていた3匹は段ボールの奥へと逃げ込んだ。
俺はパンをぱくついた。

その後はお決まりの展開で、成体は竹串を仔実装の体からこじって引き抜くと、1匹ずつ片目を潰していった。
竹串の刺さっていた仔実装の手足から食べ、あとは発酵させないキビヤックスタイルで食したりや全身の骨をもみほぐしてまる齧り等である。

俺が王道もいいよね、という気分でそれなりに楽しみながら2つ目のパンに手を伸ばした頃、仔実装をむさぼるっている、隻眼となった成体の背後に2つの影が立った。

怒りに顔を歪めた、息の荒い成体、多分最初に襲われた段ボールハウスの親実装だ。Aとしようか。
その隣には収穫の生ごみを取り落とし呆然と立つ成体実装。おそらくこの段ボールハウスの親実装だろう。Bとしよう。


食事に夢中の隻眼はまだ気づいていなかったが、Aの怒声で振り返る。


殺し合いの始まりだ。


最初に動き出したのはAで、腕を振り上げて、突進。
隻眼は慌てて手に持った食べかけの仔実装を投げつける。
まさかのナイスコントロールでAの顔に命中したそれは視界を奪ったが、かまわず突進してくるA。
コレをすんでのところでかわして隻眼が上から押しつぶすように組み付く。
俺は2つ目のパンを口に詰め込む。

イゴイゴとレスリングもどきを展開するAと隻眼、そこに投擲され飛び散った我が子に我に返ったBが加わり、隻眼の僧帽筋上部あたりに噛みついた。

ひるむ隻眼。
その隙を突いて体制を立て直したAが隻眼を殴りつける、も目が見えず空振り。
隻眼は齧りつくBを殴る殴る、殴る。
俺は3つ目のパンを食べる。

Bの後ろ髪を引っ張り引きはがした隻眼はそのままBをうつ伏せに押し倒し髪を引き抜きにかかるが、視力を回復したAが走り込み、タックルするように横から隻眼の後ろ髪を抱え込んで引っ張った。

一瞬の均衡の後、Bの髪が引き抜け、Aと隻眼が倒れこむ。
隻眼はすぐさま身を起こすが、倒れこんだままのAが抱える髪束と、己の抱える髪束を見比べ、頭を左右に振り乱し慟哭した。
Aは倒れこむ際に、抱え込んだ隻眼の髪を体を回転させ巻き込んで引き抜いたのだ!まさにデスゥロール!
Bはと言えば伏したまま無心で後頭部をまさぐり、俺は大興奮でパンの袋をまさぐる。

Aは立ち上がると隻眼を見てあざ笑う。
「デプッ…デププププ…プギャーッ!」
隻眼はBの髪を放り捨てると肩からAにぶつかりそのままマウントを取る。
そして猛烈な打ち下ろし。かみしめるような一発ごとにAの顔つきが変形していく。
Bは打ち捨てられた髪をかき集めている。

これは隻眼の勝ちにきまったかと思ったが、7発目あたりでタイミングを合わせたAが拳に噛みついた。
痛みにのけぞる隻眼、その隙を逃さず身を捻りマウントから抜け出す。
そしてそのまま隻眼の足をすくいひっくり返す。
今度はAがマウントを取り返した。

直後、突如としてブチ切れたBがビーチフラッグスの様な猛烈な振り向きとスタートダッシュでAの首筋に食らいついた。
たまらず振りほどくAだが、振りほどいた後にはビリバリッという音ともに首から肩のえぐれた全裸の実装石が残された。
そうはならんやろ…。

Bはニヤニヤとしながら肉と服を咀嚼して呑み込んでいく。
Aは何か言いたそうに腕を突き出して2、3歩あゆみ寄ったがそのまま斃れた。

隻眼はBに何かを感じ取ったのか、警戒した様子で動かない。
Bが服の最後の一切れを呑み込みそして、
「ン゛ゲッ!」
無言でのど元を抑えてのたうつ。
そう、服をのどに詰まらせたのだ。
そのうちに蹲ってピクピク痙攣し始める。
待つこと暫し、動かない肉塊となったBを呆然と眺めていた隻眼はゆっくりとあたりを見渡して勝鬨をあげる。
「デッスゥ~ン!デッあqwせdrftgyふじこ」
ドンッ!という鈍い音。
この公園はそこそこ広い。
もつれあううちに道の中心まで来ていた隻眼は、乗り入れてきた清掃員の軽トラに轢かれて死んだ。

「はあ~」

何とも言えない幕切れに思わずため息が出る。
いや、実装石なんてこんなものだろうか。
双眼鏡を脇に置くと、ぬるまったカフェオレを口に入れる。
「これが…ビターエンドってやつか」
自分で言って違うと思った。


2024/09/04 誤字脱字修正しました

ここ2,3年で実装石を知って気が向いたら投稿してたら年一投稿になってた




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1 Re: Name:匿名石 2024/09/01-20:51:57 No:00009309[申告]
うまいややや!!
うますぎてふりかけが欲しいやあ!!
2 Re: Name:匿名石 2024/09/01-22:14:22 No:00009311[申告]
めでたしめでたし感
3 Re: Name:匿名石 2024/09/03-18:38:10 No:00009314[申告]
もし実装石がこちらの世界にもいたなら自分もこうなっていただろうなとは思う
4 Re: Name:匿名石 2024/09/04-03:47:02 No:00009315[申告]
なかなかの名勝負だった
この男は実況の才能あるよ
5 Re: Name:匿名石 2024/09/05-21:30:34 No:00009317[申告]
実装石って野良だと速攻で髪とか服消えて野良だと禿裸実装しかいなくなる予感
6 Re: Name:匿名石 2024/09/06-01:20:11 No:00009318[申告]
公園野良の入れ替えりサイクルは思いの外はやいだろうし普通の公園コロニーなら流石に過半数以上の禿裸は居ないだろう
奴隷層になって集団リンチや同族被虐を日常的に味わう身に落ちるくらいなら基本はリスクしか無い小競り合いは避けるだろうからね
いくら同族喰いが一定数存在する実装石とは言え出会い頭にいちいち殺し合い何かしてられないよ末期の公園でもない限り
揉め事厭わない奴やそれに巻き込まれた奴が禿裸へ、それを回避する聡い連中が越冬まで漕ぎ着ける
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