実翠石との生活Ⅲ 幸福だったが故の愚かさ ----------------------------------------------------------------------------- 飼い実装のメロンは道に迷っていた。 主人と一緒に散歩に出かけたのはいいものの、公園で野良実装達に無自覚にマウントを取ったがために激昂させてしまい、 投糞までして襲いかかってきた同族から逃げる内に、主人とはぐれてしまったのである。 幸い公園からは無事に逃げ出せたものの、夢中で逃げているうちに普段の散歩コースから外れてしまい、完全に迷子になってしまったのだ。 「デェェェ、ご主人サマ、一体どこにいるデス・・・?」 既に成体実装にまで育ってはいるものの、心細いことに違いはない。 何より単独行動は例え成体実装であっても危険であった。 野良猫やカラスに襲われればまず助からない。 野良実装の群れに遭遇しようものなら嬲り殺しにされるのは必定だろう。 無い知恵を絞ってメロンは考え、導き出した結論は、 「近くのニンゲンさんに助けてもらうデス!」 だった。 飼い実装として比較的幸福な生涯を送ってきたメロンにとって、ニンゲンさんは常に優しい存在だった。 お願いすればきっと助けてくれる、ご主人サマのところに連れて行ってくれる、そう思った。 幸福な生涯を送ってきたが故に、メロンは知らなかった。 自身の同族が、特に野良実装が世間からどう思われているかを。 飼い主がそばに居ない実装石が人間からどう見られるかを。 余談だが、メロンに激昂した実装石達は、「ペットに襲いかかる凶暴な実装石が居た」という近隣住民からの通報に基づき、 数週間後に一斉駆除されることとなる。 メロンはさっそく手近な家の敷地に入り込んだ。 庭の方からニンゲンさんの声がしたので、助けを求めようと回り込む。 庭には家庭菜園が広がっていた。 家主が丹精込めて育てているのだろう、出来のいい野菜が幾つも実っている。 メロンは自身に背を向けて土いじりに精を出しているニンゲンさんを見つけると、 「デスデスデスゥ!(ニンゲンさん、助けて下さいデスゥ!)」 と鳴き声を上げた。 振り返ったニンゲンさん(腰の曲がった老婆だった)の表情は憤怒に染まっていた。 「またお前らかぁぁぁぁっ!!」 老婆は趣味で育てていた家庭菜園の野菜を、度々近くの公園に住む野良実装に喰われていた。 ここ最近は役所が定期的に野良実装に対する間引きを行っていたため被害は無かったが、 性懲りもなくまた来たのかと怒りを覚え、手近な石を幾つもメロンに向けて投げつけた。 「デギャッ!?テジャッ!?(痛いデスゥ!止めてデスゥ!)」 何発か小石が顔に当たり怪我をしてしまい、たまらずメロンは逃げ出した。 逃げ出した先に入り込んだ比較的新しい民家の庭では、大きいニンゲンさんと小さいニンゲンさんが縁側に並んで腰掛けていた。 小さいニンゲンさんはゆったりとした服を着て、膨らんだ腹を愛おしそうに撫でていた。 隣に座っている大きいニンゲンさんもお腹を撫でて、互いに微笑みあっている。 きっともうすぐ赤ちゃんが生まれるのだろうと、メロンは羨ましく思いながら近付いた。 メロンは避妊措置により仔を産むことが出来なかった。 中実装になりたての頃に主人に対して、 「ご主人サマとの赤ちゃんが欲しいテス〜」 と言って気持ち悪がられ、避妊手術を施されてしまったのだ。 幸いなことにそれで捨てられることはなく飼い実装で居続ける事が出来たが、それはひとえに飼い主の義務感によるところが大きかった。 二人に近づくにつれ、メロンは小さいニンゲンさんに違和感を感じた。 瞳の色がニンゲンさんと違う。 赤と緑のオッドアイ。 偽石に刻まれた本能が告げる。 あれはヒトモドキの実翠石だ。 腹を膨らませた実翠石。 腹を撫でている左手の薬指には飼いの証の指輪がきらめいている。 隣にはニンゲンさん。 あのデキソコナイのヒトモドキはニンゲンさんとの子供を孕んでいる! 自分には許されなかったのに! ワタシもご主人サマとの仔が欲しかったのに! 羨望はあっという間に敵意へと変換され、メロンは感情が命じるまま実翠石へと突進した。 「デジャアアアアアアアアッ!!(生意気なデキソコナイはぶちのめしてやるデスゥゥゥゥゥッ!!)」 大きいニンゲンはそんなメロンをあっさりと蹴り飛ばした。 「デゲェアァァァッ!?」 内臓にダメージを負い、肋骨を始め骨も何本か折れたメロンはのたうち回り、糞を漏らした。 大きいニンゲンは痛みにのたうつメロンを潰さぬよう加減しつつ蹴り転がし、最後に一蹴り加えて道路へと追い出した。 「デゲボォッ!?」 何度も蹴り転がされたおかげで、メロンの左腕と左足は有り得ない方に折れ曲がり。パンツの中にはさらに糞が溢れた。 幸運なことに、メロンに対してそれ以上の追撃は無かった。 男はメロンを道路に蹴り出すとすぐに庭へと戻っていった。 「大丈夫だったか?」 改めて隣に腰掛けつつ、男は実翠石の顔を心配そうに覗き込む。 実翠石は微笑を浮かべた。 「大丈夫です、守ってくれてありがとうございますです」 でも、と続ける。 「お腹の赤ちゃんの教育には良くないかもです」 「す、済まん・・・」 バツが悪そうに頭を掻く男に、実翠石は顔を近づけながら言った。 「そんな悪いパパには、おしおき、です」 そう言って、実翠石は男の唇に自身の唇をそっと押し付けた。 二度、三度と唇を重ねる内に興が乗ったのか、実翠石は舌を差し入れてくる。 男もそれに応え、互いに貪るように求め合った。 やがてどちらともなく唇を離すと、唾液の糸が名残惜しげに伸びる。 男がそれを指で拭ってやると、実翠石は照れたような笑みを浮かべた。 「これはこれで、お腹の赤ちゃんの教育に悪いかもです・・・」 「そんなことはないさ。夫婦円満は子供の健全な発達に必要不可欠だからな」 「じゃあ、パパとはもっと仲良く、しなくちゃです」 そう言って実翠石は続きをせがむように男の頭に腕を回す。 男としても異論は無かった。 「デ・・・ギィッ・・・デジャァッ・・・」 メロンは致命傷を免れたものの、重傷で満足に動くことが出来なかった。 身体の傷も痛むが、精神に負ったダメージも無視し得ぬものがあった。 何故自分には許されなかった仔を持つという行為が、あのデキソコナイのヒトモドキには許されているのか? 主人と仔を作り幸せそうに寄り添う姿、あれは本来ワタシとご主人サマのあるべき姿だったのに。 ひょっとしてご主人サマはワタシを愛してくれていないのか? 偽石に痛みを覚えるほどに、メロンは実翠石への嫉妬と憤怒、そして主人への猜疑に苛まれた。 血涙を流してポフポフと地面を叩くメロンの元に、一台の車が減速することなく突っ込んできた。 そのまま轢き潰されるかと思いきや、車と地面の間のクリアランスがそこそこあったせいか地面の染みになることは避けられたが、 車体の底にメロンの服が引っかかり、そのまま引きずられる羽目になった。 どんな具合に引っかかったのか、メロンは服で首が締まって満足に悲鳴を上げることすら出来なかった。 当然ドライバーはメロンに気付かず、目的地へと車を進める。 強制的にアスファルトのザラつきでその身をすり下ろされながら、メロンは死んだ。 激痛に耐えきれずに偽石が割れ砕けるまで、三三分四秒を要した。 ※スレに投下したものを加筆修正しました。 -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2024/08/10-04:05:37 No:00009278[申告] |
これ勝手に他人の敷地に侵入したのが敗因だな
公道で通行人に邪魔にならないようアピールしてたら飼い実装と気付き興味を持つ者や同族を散歩に連れている人間に出会える可能性がワンチャンあったかも |
2 Re: Name:匿名石 2024/08/10-12:30:40 No:00009279[申告] |
同類の実翠と夫婦ごっこしてる変態ニンゲンさん…
メロンがキレるのもわかる |
3 Re: Name:匿名石 2024/08/11-12:55:22 No:00009280[申告] |
俺は実翠石イチャコラが好きなのでそういう路線を続けて欲しい
実装石要素は端っこで何か死んでたくらいの扱いでも良い |