タイトル:【愛他】 実翠石との生活Ⅱ その5 共にいる幸せ
ファイル:実翠石との生活Ⅱ その5 共にいる幸せ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:373 レス数:5
初投稿日時:2024/07/13-19:40:14修正日時:2024/07/13-19:40:14
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実翠石との生活Ⅱ その5 共にいる幸せ
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※本作は「実翠石との生活Ⅱ よき牧羊犬が如く」の続きとなります。
蛇足感が強いので、気に入らない方はスルーしていただけますと幸いです。



「どうか、安らかに眠ってほしいです・・・」
実翠石の常磐はそう言って、棺代わりのダンボールに花を添えた。
ダンボールの中では、子供を身を挺して守り抜き、傷付き斃れた実装石が横たわっている。
最期まで子供の身を案じ続けたこの健気な実装石を、ただ朽ちるに任せるのは幾らなんでもあんまりだろう。
せめてものこと丁重に弔ってやりたい、そう思い差し出がましいとは思いつつ引き取らせてもらったのだ。
とはいえ、即日火葬や埋葬などが出来るわけでもないので、あれこれ準備が整うまで客間で安置する運びとなった。
客間は真夏だというのに寒気を覚えるほど冷え切っている。
遺体の腐敗を遅らせるために客間の冷房を強めに設定したためだが、心理的なものも作用しているのだろう。
同じ飼いとして思うところがあるのか、悲しげな様子の常磐を促し、その肩を抱いて客間を後にした。
ふとした思いが頭を過ぎる。
常磐は、いつまで私の隣に居てくれるのだろうか?


翌朝、朝食前に手を合わせようと客間の戸を開けると、そこには巨大な繭のようなものが鎮座していた。
思わず常磐と顔を見合わせる。
「常磐、これ、何だか分かる?」
「わかんないです・・・」
常磐はふるふると首を横に振る。
「・・・とりあえず、朝ごはんにしよっか」
何はともあれ生きている以上食事は大事。
食べながら善後策を考えるとしよう。

・・・まあ、食べながら考えたところで実装石に大して詳しくもない人間に良い案なんて浮かぶはずもなく・・・。
ここは詳しい人に聞いてみよう、ということで常盤をお迎えした近所のペットショップに電話してみる事にした。
事のあらましを伝えると、とりあえず現物を見てみたい、ということになり、ペットショップから店員さんが来てくれることになった。
一時間ほどして、まだ若い女性の店員さんが我が家に訪れる。
「お久しぶりです、お姉さん」
「常磐ちゃんお久しぶり〜。元気そうだね〜」
挨拶もそこそこに、客間の繭を確認してもらう。
改めて見るとやはり大きい。
成人一人程度なら余裕で包み込めるだろう。
店員さんは興味深げに繭の外観を見て回り、触ったり耳を当てたりとしながら教えてくれた。
「私も初めて見ますけど、たぶん人化現象で形成された繭でしょうね〜」
店員さん曰く、実装石が繭を作るのは2パターンあるとのこと。
一つは蛆実装が仔実装又は親指実装に進化するためのもの。
もう一つが、実装石が何らかの強い想いを抱くことにより、極稀に人間に近い形態に変化する人化現象、その過程で形成されるもの。
目の前のケースは後者だろう。
てっきり私はあの実装石が死んだものと思っていてのだが、店員さんが言うにはおそらく仮死状態だったのではないか、とのことだった。
「でも、それ以上の事は私にも分からないですね~」
人化現象自体が非常に珍しい現象で、学術的・統計的にどうこう言えるほどの根拠がないのだそうだ。
「まあ、そのうち人っぽい何かが出てくるんじゃないですかね〜」
いい加減で申し訳ないですが、それぐらいしか言えることがありませんと断って、店員さんは帰って行った。
とりあえずは、このまま客間に置いておくほかないようだ。


繭が出来てからというもの、常磐は暇を見つけては繭に話しかけていた。
実装石は妊娠すると胎教によって母親の持つ知識を仔に伝授するというが、それと似たようなものなのだろうか?
効果の程は分からないが、お姉さんぶってあれやこれやと繭に教え込もうとしている姿は何とも微笑ましいものがあった。


それから二週間ほど経ったある日のこと。
常磐と昼食の準備をしていると、客間の方から何か重いものが倒れるような音が聞こえてきた。
何事かと思い客間の戸を開けると、そこには大きく裂けた繭と、その中身であったろう全裸の少女が倒れていた。
すらりと伸びた手足。少しばかり肉付きの良いお尻。無毛の恥丘。
ほどよく膨らんだ双丘の頂点では、綺麗な桜色の乳首が自己主張している。
腰まである流れるような亜麻色のロングヘア。形の良い小ぶりな鼻と唇。
常人よりもやや長く尖り気味の耳。
赤と緑のオッドアイは、自身の身に起きた変化に驚き見開かれている。
ファンタジーによく出てくるエルフを彷彿とさせるまごうことなき美少女なのだが・・・、
仰向けになって潰れたカエルのようにひっくり返っているその姿が、全てを台無しにしていた。


とりあえずは私の服を着せてやり(私よりも小柄だったのでダブついてしまったが)、
不慣れな身体のためか危なっかしい足取りの彼女を常磐と共に支えて、リビングのソファに座らせる。
私と常磐もテーブルを挟んで腰掛ける。
取り急ぎ、彼女についていくつか確認しておくべきことがあった。
「私の言葉は分かる?」
目の前の彼女はコクリと首を縦に振った。まだ上手く発声はできないようだ。
常磐の胎教?のおかげか、それとも飼い実装だったためか、一応人語でのコミュニケーションは可能なようだ。
「あなたのお名前はヴェルデでいいのよね?」
首輪に書かれていた名前を口にすると、彼女はこくこくと首を縦に振る。
「今の姿になる前の事は覚えてる?」
この質問にもコクリと頷く・・・と同時にヴェルデは顔を青ざめさせた。
急に立ち上がろうとしてつんのめり、テーブルに頭から突っ込んでしまう。
・・・きっと守ろうとした男の子のことがよほど心配なのだろう。
それでも立ち上がろうと産まれたての子鹿のように足を震わせるヴェルデをソファに座らせ、落ち着かせる。
「あの男の子は無事だから、安心して、ね?」
ヴェルデは頷くが、瞳からは今にも涙が溢れそうだった。
「ただ、男の子が今何処に居るかは分からないの。これは分かり次第教えてあげるから、少しだけ待っていてね」
ヴェルデはペコペコと頭を下げた。おそらく感謝の意を示してくれているのだろう、
「とりあえずあなたには、今の身体に慣れるまでうちで一緒に暮らしてもらうから、よろしくね」
まともに歩くことすら出来ない状態で放り出すような無情な真似はさすがにしたくなかった。
私の言葉に、ヴェルデは深々と頭を下げた。


そんなわけで人間と実翠石と人化実装という妙な取り合わせでの生活が始まった訳だが、
予想に反して大きなトラブルもなく日々が過ぎていった。
常磐がヴェルデの世話を甲斐甲斐しく見てくれたことと、ヴェルデも常磐の言うことに素直に従ってくれていたためだ。
今も、私がテレワークに勤しむ傍らで、常磐がヴェルデと折り紙で鶴を折りながら指の使い方を教えていた。
「良くできましたです、ヴェルデちゃん。いい子いい子です」
上手くできたのか常磐がヴェルデの頭を撫でると、ヴェルデも嬉しそうに微笑を浮かべていた。
「ありがとう、です。ときわねえさま、の、おかげ、です」
まだたどたどしいが、言葉を発することも出来るようになった。
ってか常磐よ、自分の事を姉扱いさせてるのかい。
ヴェルデの容姿が何処となく常磐に似ていることも相まって、仲の良い姉妹に見えなくもない。
ただ、ヴェルデのほうが常磐よりも頭一つ分は背が高いのに常磐のほうがお姉さんぶっている、という点がちぐはぐではあったけれど。
食事の際には常にヴェルデのことが話題にのぼった。
今日はあれを覚えた、何々が出来るようになったと我が事のように嬉しそうに語る常磐に、ヴェルデは褒められた嬉しさ半分、照れくささ半分といった表情を浮かべる。
「ヴェルデちゃん、はい、あーんです」
「あ、あーん」
まだスプーンやフォークといった食器の使用が覚束ないヴェルデに常磐が食べさせている様は、
何とも百合百合しい感じがしないでもない。
そんな二人の様子を微笑ましいと思う反面、常磐がヴェルデにべったりであまり構ってくれないのを、少し寂しく思う私だった。


二人が仲良さげに過ごしてくれているのは良いことなのだが、一方で問題もあった。
ヴェルデの大事な坊ちゃまの連絡先が一向にわからないのだ。
おそらく親族か施設に預けられているのだろうが、その連絡先を教えて貰えないのである。
聞いた先の警察や児童相談所が私に意地悪をしているわけではない。
彼らは彼らで個人情報の保護をしっかりやっているだけなのだ。
単に向かいの家に住んでいるだけの人間が、ペットを預かっているから連絡先を教えて欲しいと言ってホイホイ教えるほうが問題があるだろう。
おまけに当のペットは人化しているなどと言ったら怪しまれるに決まっている。
だからといって簡単に諦めることも出来なかった。
ヴェルデが常磐の元であれやこれやとお勉強を頑張っているのは、全てその坊ちゃまの為だからだ。
何せ、指をまともに動かせるようになって最初にしたことが、人化前から付けていた首輪を自分の首に嵌め直すことだったし、
声を出せるようになって最初に発した言葉が「坊ちゃま」だった。
そんな健気なヴェルデの期待を裏切るような真似だけはしたくなかった。


手詰まりとなった私は奥の手を使うことにした。
勤め先の福利厚生サービスの一つである弁護士の相談窓口を利用したのだ。
弁護士ならば合法的な手段で個人情報を入手できるはず。
そう思って連絡したところ、最初は難色を示されたものの、
何とか請け負って貰うことが出来た。
一ヶ月半ほどして結果が届く。
当の坊ちゃまは父方の祖母に引き取られていたとのことだった。
弁護士を経由して事のあらましについて説明し、お会いできないかと連絡すると、先方は少々困惑しながらも了承して下さった。
ヴェルデにその旨を伝えると、坊ちゃまにようやく会える、と涙を流して喜んでくれた。
だが、水を差すようで心苦しかったが、ここで一つヴェルデに釘を差しておかねばならなかった。
たとえ会えたからといっても、そのまま一緒に暮らせるとは限らない、という点だ。
息子さんが飼っていた実装石が人化してお孫さんに会いたがっている、などという訳の分からない話を聞いてくれるだけでも御の字なのである。
先方にだって生活があるのだ、断られても文句は言えない。
「・・・それでも、それでもせめて一目でいいからお会いしたい、です。
たとえご一緒する事が出来なくても、それで諦めがつきます、です・・・」
そう言って涙を拭うヴェルデに、私はそれ以上何も言えなかった。


幸い、件の坊ちゃまと御祖母様の家は車で日帰り出来る距離だったため、女三人での車旅と洒落込むこととなった。
道中ずっとソワソワしっぱなしのヴェルデは見ていて可愛らしいものがあったが、
これで意に沿わない結果となったらどう慰めたものかと私は内心で頭を抱えていた。
昼過ぎ、約束した時間丁度に訪ねると、御祖母様がひどく丁寧に迎え入れて下さった。
予想に反した丁寧な扱いに内心戸惑っていると、御祖母様は私達に深々と頭を下げられた。
「うちの孫の命を二度も救って下さったにもかかわらず、ろくにお礼もできず申し訳ありません」
どうやら弁護士が気を利かせてあれやこれやと伝えてくれていたらしい。
「いえいえ、私は警察に通報しただけですので・・・。実際にお孫さんを助けたのはこちらのヴェルデですから・・・」
ヴェルデに水を向けると、彼女も深々と頭を下げた。
「ご主人様のお葬式以来、ご無沙汰しております、です」
「警察や弁護士の先生から聞いていますよ。昭夫を命がけで守ってくれたと。本当にありがとう」
そう言って御祖母様が頭を下げられると、幼児の泣き声が聞こえてきた。
「あらあら、目を覚ましてしまったみたいね。ちょっと待っていらして」
中座する御祖母様の後を追ってヴェルデが腰を浮かしかけるが、何とか自制して座り直した。
それでもソワソワしっぱなしだったけど。
落ち着かせようと常磐がヴェルデの頭を撫でるが、あまり効果はないようだった。
数分ほどで御祖母様が戻られた。その腕には、未だに泣き声を上げる幼児が抱かれている。
「坊ちゃま・・・!」
口元を手で抑えるヴェルデ。その瞳には涙が溢れていた。
「良ければ抱っこしてあげてくださいな」
そっと差し出された幼児を恐る恐るヴェルデが抱っこすると、幼児は不思議と大人しくなった。
「坊ちゃま、お久しぶりです、ヴェルデです。お元気そうで何より、です・・・!」
ヴェルデが腕の中の幼児に話しかけると、幼児はペタペタとヴェルデの頬に触れながら小さく口を動かした。
「ゔぇうで・・・ゔぇうで・・・」
幼児らしい舌足らずさで、けれども確かに幼児は彼女の名を口にした。
「はい、ヴェルデです・・・!坊ちゃまの、ヴェルデ、です・・・!」
涙を流しながら頬ずりするヴェルデの頭を、幼児はきゃっきゃと笑いながらペタペタと撫で回す。
できればこの幸せそうな光景を今しばらく眺めていたかったが、ヴェルデのためにも私は現実と向き合わねばならなかった。
私は改まって御祖母様に向き合う。
「あの、済みません。彼女の、ヴェルデのことなのですが・・・」
御祖母様は分かっていますと言いたげに笑顔を浮かべて頷いく。
「私ももう歳でしてね。一人で子供のお世話をするのはもう大変でして。
ヴェルデちゃんさえ良ければ、三人で一緒に暮らしませんか?」
「はい・・・はい、です・・・!ありがとうございます、です・・・!」
しっかりと幼児を抱きしめて何度も頭を下げるヴェルデ。
私と常磐は目線を交わして微笑み合い、ヴェルデ達のこれからが幸多からんことを祈った。



「うぅ~、さみしいです〜」
お世話になりましたです、と何度も礼を言うヴェルデを、愛しの坊ちゃまの元へ送り出してから早数日。
常磐はテーブルに突っ伏して唸っていた。
みっともないわよ、と窘めつつも、私も内心では同意見だった。
ヴェルデと一緒に暮らしたのはほんの二ヶ月程度だったが、彼女が居なくなった途端に家の中が妙に広く感じるのは、気のせいばかりではあるまい。
今となっては、あの健気な人化実装が愛しの坊ちゃま達と幸せに暮らしているのを祈るばかりである。
・・・などと思っていると、
「デギャアアアアアアアッ!?」
「テヂャアアッッ!?」
「テヂッ、ヂィッ・・・」
庭の方から実装石らしき叫び声が聞こえてきた。
おそらく、常磐が育てている家庭菜園の野菜を盗みに来て罠にでもかかったのだろう。
季節はもう秋だ。当の実装石も冬籠もりに備えてエサ集めに勤しんでいたのだろう。
だからといって人様の敷地に入り込んで盗みを働くのを看過する謂れはないのだが。
「追い払ってくるです!」
ヴェルデちゃんの爪の垢を飲ませてやりたいです、そう言ってほうきを片手に庭に飛び出す常磐。
私も苦笑しながらその後に続いた。

常磐が居てくれるなら、きっとこの先も楽しく時を過ごしていけるだろう。
だからね、常磐。
ずっとずっと、私の隣で、元気に笑っていてね。

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1 Re: Name:匿名石 2024/07/13-22:11:21 No:00009238[申告]
実翠石と人化実装の組み合わせはレアだね
ヴェルデが救われて良かった
2 Re: Name:匿名石 2024/07/14-02:11:49 No:00009240[申告]
人化すっごい久々に見たデス
ハッピーエンドヨシ!
3 Re: Name:匿名石 2024/07/14-02:59:31 No:00009241[申告]
人化って実装の執念の結実って感じですれ違いから報われない事も多そうだけど
今回最善のサポートで思いが成就できたのはヴェルデのそれまでの行い故って感じがしていい
4 Re: Name:匿名石 2024/07/14-20:24:00 No:00009245[申告]
蛇足どころか感動しました
5 Re: Name:匿名石 2024/07/27-00:43:38 No:00009264[申告]
これは良い蛇足
たまにはこんな丸く収まるハッピーエンドがあってもいい!
面白く読ませていただきました
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