①野良実装編 あれだけ盛り上がっていた実装石ブームは、完全に終息した 実装石専門店は軒並み店をたたみ、ペットショップでも実装石を扱う店は珍しい 実装石ブームが終わると、野良実装もどこへ消えたやらその数を減らし、公園でもその姿を見るこ とは稀になった ここ、ふたば公園ではその稀な野良実装石の家族が10匹程度徒党を成して暮らしていた 同族が少なくなると争いもなくなり、人間も自分たちに興味を示さず駆除もされない 慎ましくも平和な生活を送ることが出来ていた 「でも、このままじゃだめテチ」 一匹の野良仔実装は毎日悩んでいた 「ニンゲンさんと関わることができなければ、実装石はだめになるテチ」 実装石の本能だ。人間との触れ合いがなくなると実装石は活気がなくなる 家族も平和ながら毎日同じことの繰り返しに、みんな目が濁っている… そこで仔実装はこの双葉公園で「実装石触れ合い会」を開催しようと画策する 住宅展示場で打ち捨てられていた「歓迎」のペナントを家族みんなで掲げ、人間にアピールをした 何も飼い実装にしてもらおうというわけではない。人間が自分たちに興味を示して触れ合ってくれ るだけでいいのだ それまで自分たち実装石に興味なかった人間も、なにか変なことをやってるなと興味を示してくれ る人も出てきた 大抵は無視されたり、馬鹿なことやってんなと鼻で笑われたりもするが、その友好的な態度に「少 しだけ構ってやるか」というような人間も現れるようになった 野良実装家族も成果が出てきたことを喜び、活力が戻ってきた 「ワタチたちの存在は無駄じゃない。この活動が実を結び、いずれはニンゲンさんに愛される存在 になれる。ワタチたちは生きていてもいいんだ」 発案者の仔実装はそう自信をつけてきた … ある日、小学校の集団下校で公園を通りがかった女子が実装触れ合い会に興味を示し、リボンを着 けて着飾った蛆ちゃんを手に乗せた 「ちょっとかわいいかも?」 蛆ちゃんは「プニィ…」と腹を見せる 「プニプニにしてあげてほしいテチ」 仔実装に促されるままに女子が蛆ちゃんの腹部を撫でると… 「ニンゲンさんのプニプニ…気持ちいいレフ…!出るっ出ちゃうレフゥ…!(ブリョリョ)」 「あっ、蛆ちゃん、だめテチィ!!」 蛆ちゃんは初めての感覚に絶頂し、ついその女子の手のひらの上に粗相をしてしまった 「うわあああん、きたないよぉ…!」 「てめえ、何するんだよ!」 泣き出す女子。その子に好意を寄せる男子がすかさず駆け寄り、蛆ちゃんを地面に叩きつけた 「レヂッ」「デエエエエッ!?」 地面の染みになった蛆ちゃんを見て悲鳴を出す親実装 「なんだこいつ!仔が悪いことしたのに謝りもせず威嚇しやがって!やっぱ実装石ってのはクソム シのガイチュウだな!みんな、皆殺しにしようぜ!」「おう!」 女子を泣かせた悪者をやっつけねばと男子達の正義感は暴走した その場にいた実装石家族は文字通り八つ裂きにされた。殴られ、蹴られ、四肢をねじ切られ、地面 にすり下ろされる ……その惨劇から日が暮れて 「テエエン、テエエン」 家族から逃がしてもらった、唯一の生き残り。触れ合い会発案者の仔実装は泣き続ける 蛆ちゃんに対する認識不足のミス… いや、そもそも自分がこんなことを考えなければ良かったのにと 「テエエン、テエエン」 忍び寄る野良猫やカラス等の外敵にも気づかずに 今まで守ってくれたママは、もう居ない (終) ---------------------------------------------------------------------------------------------- ②飼い実装編 一体、いつからだっただろう。世間の人間が実装石に興味を持たなくなったのは まずはペット業界などのビジネスで実装石に関わっていた人々が撤退した 愛護派、虐待派などと呼ばれ一定の情念を持って実装石に関わっていた人々も潮が引くように消え ていった そして一般家庭でペットとして飼育している人も… テチコと名付けられた実装石は、幸せな半生を送っていた 大好きなご主人様に愛され一年経ち、今では立派な成体実装石である 「俺が仕事の間寂しいだろうから」と仔を2匹設けることも許してくれた しかし少し前から、ご主人様の様子がおかしい… 毎日欠かさず、あれだけ構ってくれたのに。急に素っ気なく接するようになったのだ 「ワタシ、なにか良くないことをしてしまったデスゥ?」 自問自答するが何も思い当たる節はない 仔も二匹ともショップの躾済みの仔実装より優秀だ。節度を持って接しており、失礼なことをした とは考えづらい そもそもご主人様の態度は怒っているというよりも、関心がなくなったという感じだ 餌もくれるしケージの掃除もしてくれる。お風呂だって雑ではあるが入れてくれる だが、何故だろう?以前は「家族」であったのに、今では「物」を処理するように無言で作業だけ 行うようになった。テチコはそれが悲しくて仕方なかった 「何かお手伝いするデスゥ!」 「ご主人様のお役にたちたいデス!」 「仔もいい仔でかわいいデス!踊りも覚えたデス、見てほしいデスゥ」 色々とアピールするが、ご主人様は「ふう…」とため息をつき、 「そんなのいらないよ、静かにケージの中で過ごしてな」とやはり素っ気ない対応だった 「せめて…せめて、名前を呼んで欲しいデス…デエ…デエエン…」 コミュニケーションは拒絶され、どうしたらいいのかわからない。改善策が見いだせない 心が壊れてしまいそうだった ある日のこと。ご主人様がお徳用の餌の大袋を見てこうつぶやいてた 「もうそろそろ餌も無くなるな…もう、いいか。もう十分だろう」 テチコはそれを聞いてしまい、全てを察した。餌を買い足す必要すら感じられていないのだ 自分たちは捨てられる…目の前が真っ暗になり呆然とする 「ママ何で泣いてるテチ?ご主人様に怒られたテチ?何かしたテチィ?」 仔が自分を気遣う。自分には勿体ない良い仔達だ 自分は捨てられてもいい。せめてこの仔達だけでも…そう訴え続けた しかしご主人様は聞く耳すら持たなかった ある日親仔3匹ダンボールに入れられて車でお出かけをすることになった テチコにはこのお出かけが何なのかわかっている。今生の別れだ 「おでかけ楽しみテチ!」と仔実装は気楽なものだ 「デエ…ご主人様、せめて理由を!こうなった理由を教えてほしいデスゥ!」 大声を出すテチコに久々にご主人様が反応する 「うーん…何だろう?そもそも何で実装石なんて飼ったのか、わからないんだ。まあいいだろ、家 族と一緒なら。最後も寂しくないだろ」 もうご主人様と自分は家族ではないのだ… 会話をしているのに、まるで生きている世界が違うようだ 「デエエン、デエエン」 テチコは泣き続ける。暫くして車が止まる。終着地はここなのだろう 「デエエン、デエエン」 その月は数百匹もの飼い実装がふたば市保健所に運び込まれた 今まで例のない記録的な数であった (終) ---------------------------------------------------------------------------------------------- ③最後の実装石 末期になると世間から実装石は殆ど居なくなる 不思議なことに最初からそんなものは居なかったかのように、人々の記憶からも消え失せる 深い愛情を注がれた実装石だけがかろうじて生き残っていたが、それも時間の問題だった ふたば公園の近くの一軒家で、ミドリと名付けられていた黒髪実装が居た 優しいママと人間のパパの庇護のもと、仲良し家族で幸せな実生を送っていた ところが少し前から、ミドリは家庭内にピリピリとした雰囲気を感じたのを記憶している そして程なくして、パパからママが事故で死んだと聞かされた 昨日まで、自分と手を繋いだぬくもりが手に残っている。信じたくない。 その日は一日、涙が枯れるほど泣きはらし、そのまま眠りにつく 次の日、ミドリが目を覚ますと… 以前家族でよく来ていた近所の公園に、自分の各種宝物と一緒にダンボールに入れられていた 狐につままれたような気分であったが、最近何度も見ている…これは捨て実装だ まさか自分がその立場になるとは、夢にも思わなかったが 「…どうしてデス?パパ…どうしてワタシを捨てたんデス…?」 ミドリは混乱とショックで呆然とする。急に色々なことが起こりすぎた しかし、悲嘆に暮れても事態は好転しない ダンボールの中はおもちゃやお気に入りの毛布などは入っているが、餌は入ってなかったのだ 泣いても、わめいても、何もしなくても腹は減る 以前仲良く交流していた野良実装を頼ろうと園内を散策するが、さらなる混乱がミドリを襲う 「ここは本当に前来てた公園デスゥ…?でも、オトモダチが誰も居ないデス…」 野良実装が誰もいない。あれだけうるさかった野良実装の声が一切聞こえない ただ鳥や虫の鳴き声が聞こえるだけだ しばらく経ち、背に腹は変えられないとゴミ捨て場を漁る 飼い実装生活しか経験のないミドリは食えたものではない生ゴミをその臭いや味に、吐き気を催し ながら腹に詰め込んだ 更に辛いのは孤独であった。肌身離さずに持っていたペンダントの中にはパパとママと自分の写真 があり、毛布にくるまりながら1日中それを眺めて過ごしている 「パパ、ママ…寂しいデス…一人は嫌デスゥ…パパ…早く迎えに来て…」 頭では理解していても、心では捨てられたこと認めたくなかった 「…そうデス!赤ちゃんを産めばいいデス!」 孤独からの回答としてミドリはそう思い立ち、公園内の花をもぎとり総排泄腔にねじ込む しかし、どの花を使っても妊娠することはできなかった 「どうしてデス?なんで赤ちゃんができないデス?」 汗だくになりながら試行錯誤をしていると、急に頭の中から仔実装の声が聞こえてきた (ミドリちゃんは妊娠できないテチ) 「…?誰デス!?どこにいるデス?」 (ワタチはミドリちゃんの頭の中にいるテチ。それよりミドリちゃん、栄養状態が悪いテチ。そこ の茂みに落ちている木の実はおいしいから食べてみるテチ) 「デエ…?」 ミドリは言われるがままに落ちている木の実を食べてみた 少々くどいがアマアマで実装石好みの味である 久々の甘味に「デエ~」と恍惚の表情を浮かべてしまうほどだ (次はオウチをちゃんと作るテチ。ゴミ捨て場でもっと丈夫なダンボールを探して木の葉っぱを…) 頭の中の仔実装は物知りであった 話し相手ができて、ミドリの孤独も緩和された ミドリは頭の中の仔実装と会話をするのが日課になった 声は仔実装だが、何でも知っているのでいろいろなことを質問する 「あなたはどこの仔デス?なんでワタシの頭の中だけで身体が無いんデスゥ?」 「ワタチは概念テチ、実装石という概念の集合体テチ」 「デエ…?わかんないデス。えっと、じゃあ…何でワタシのパパは、ワタシを捨てたか知ってるデ スゥ…?それと、ママは何の事故で死んだんデス?」 「……」 「さすがにわからないデス?」 何でも回答が返ってくるわけではない ミドリも最初は頭の中で会話をしてくれることに喜んでいたが、その反応の淡白さと会話のバリ エーションの乏しさで徐々にまた孤独感と寂しさが増してくる 「どうして、ワタシは人間に産まれなかったデスゥ…半分は、人間のはずデス。パパの仔デス。な のにどうして実装石に、産まれてしまったデスゥ…」 しばらく経ち、ミドリは思い立つ 「やっぱりお家に帰りたいデス…パパと直接、話をしてみるデス」 荷物を持ち、公園から出ようとしたその時。 (ミドリちゃんはこの公園から出ないほうがいいテチ)と頭の中から声が聞こえる 「…うるさいデス。ワタシはもう、孤独に耐えられないデス」 (やめたほうがいいテチ) ミドリは声を無視して家路に向けて、足を踏み出した その瞬間、急速に頭の中に大量の情報が入ってくる (ミドリちゃんは最後の実装石テチ) (実装石は輪廻から解き放れたテチ。だから次世代の仔はもう産まれないテチ) (人間が実装石に興味を持たなくなったから、実装石の役割は終わったテチ) (ママが死んだ理由は薄々気づいてるはずテチ。事故じゃなくてパパが殺したテチ) (パパはもうミドリちゃんのことなんて) (もうすっかり忘れて生活しているテチ) 「デギャアア!!」ミドリは発狂したように首を振る 「嘘デス!嘘デス!ワタシは、シアワセになるために…!産まれてきたデスゥ!それに、ワタシは ただの実装石じゃないデス!半分、人間なんデス…!」 (ミドリちゃんは、ママが思い込みで髪を黒くしただけの、ただの実装石テチ) 「うそつきデス!うそつき!」 ミドリは水飲み場のコンクリートに頭を激しくぶつけていく (パパはもうミドリちゃんに興味なんてないテチ。だから捨てられたテチ) (ママのように殺されなかったのは、その手間すら惜しかったからテチ) 「黙るデス!そんな嘘、もう聞きたくないデスゥ!」 ミドリは頭の中の声を消そうと、勢いをつけてコンクリートに頭から突っ込む ドゴッ!と鈍い音がしたあとは著しく出血し、割れた頭から中身が溢れてくる じきに頭の中の声は聞こえなくなり、ミドリは横たわる 「…ようやく、静かになったデスゥ…パパ…今、帰るデス…」 そう呟き、ミドリは動かなくなった 暫くして、公園の清掃員がミドリの死体を見つけて鳥獣類用のトングでミドリを掴み、ゴミ袋に放 り込む ぽろりと死体から落ちた家族の写真入りのペンダントも、トングで拾い直され同じ袋に入れられた それ以来、その世界に実装石は存在しなくなった。人間が再び実装石のことを必要とするまでは。 (終) ---------------------------------------------------------------------------------------------- 過去作 3396【虐哀】短~中編色々詰め合わせ2 黒髪系他 3395【愛虐】働く野良仔実装 3368【虐哀パ】短~中編色々詰め合わせ1 テチコ系他 3270【虐観察】楽園とは実装石の産物なり 3240【観察】フォトコンテスト 3199【虐観察】本能と理性の狭間で 3193【虐】里親 3140【虐】ビン飼育
1 Re: Name:匿名石 2024/07/01-05:11:24 No:00009210[申告] |
>(ミドリちゃんは、ママが思い込みで髪を黒くしただけの、ただの実装石テチ)
ここなんかすごく悲しい |
2 Re: Name:匿名石 2024/07/01-07:54:01 No:00009211[申告] |
今の世の中にこそ実装石が必要だと思うんだがな
ゴキブリと同じく、嬲り殺そうが拷問しようが誰に責められることもなく 虫と違って肉の体で殴りごたえがあり、苦痛を訴える悲鳴や悲哀を感じさせるリアクションをしてくれる 人を殺せば犯罪になるし、動物を虐待すれば人格を疑われるけど 実装石ならいくら虐待しようが周囲も警察も「まあ実装石だからいいか」でスルーしてくれる これほど人間に都合のいいストレス解消相手いないだろ 実装石が現実にいれば人間へのイジメも凶悪事件も減るんじゃないか? …なんて思ってる俺ですら多少は哀れに感じるほど切ない内容だった |
3 Re: Name:匿名石 2024/07/01-09:55:21 No:00009213[申告] |
荒涼とした世界観、救いのない展開に実装石に感情移入して切なくなった
俺は実装石じゃないのに しかし人間と実装石の愛の結晶という前提の黒髪の希望を真正面から打ち砕くのはえげつねえな |
4 Re: Name:匿名石 2024/07/01-22:42:46 No:00009216[申告] |
何だろうこの物悲しい感じは
実装害も無くなり関わる厄介な者たちも何処ともなく失せる そして世間は少しは暮らしやすくなったとすら思う者すらやがていなくなってしまうのかな |
5 Re: Name:匿名石 2024/07/02-05:12:57 No:00009217[申告] |
最初の野良実装は蛆チャンがやらかさなきゃ生きることだけはできたかな?
そうすりゃミドリももしかしたらここまで悲惨にはならなかったかも テチコはノーチャンスだが |
6 Re: Name:匿名石 2024/10/20-02:37:42 No:00009380[申告] |
言われてみりゃ黒髪って他の実装より賢いくらいの特徴しか見たことないな
人間要素無いしやっぱり思い込みで髪が黒くなっただけってのはありそう |
7 Re: Name:匿名石 2024/10/20-05:29:07 No:00009381[申告] |
まあ生殖時の刺激要因は植物花粉でも何でも可で雌性発生の延長線的な部分あるからね実装連中は
でも妄想だけだったらポコポコ黒髪発現し過ぎそうなので何か隠れたファクターがもう一つあってもよい気もする |