タイトル:【馬ホラー】 実装おじさんと尿路結石
ファイル:実装おじさんと尿路結石.txt
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初投稿日時:2024/06/16-16:41:13修正日時:2024/06/16-16:41:13
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実装おじさんと尿結石

「だからねとしあきさん、何度も言ってる通り、あなたの体内にある尿路結石は
大きくなり過ぎて、治療しないと危険なんですよ。」
医者の男は厳めしい顔をして、目の前の男にそう伝えた。
「ダメデスゥ…それはワタシの大事な大事なお石なんデスゥ…」
目の前の男、フードとドレスが一体になったような全身緑色の服を着た中年の男性は
苦悶に満ちた表情でそう答える。
「CTを撮った感じだと、相当大きな石に成長しています。
かなり痛むんじゃないですか?」
「これはお石のせいじゃないデス…お腹の中の赤ちゃんが生まれる前兆なんデス…」
男の返答に医師は気が遠くなるのを感じた。
(もう嫌だ…世の中の役に立ちたくて、必死に勉強して医者になったはずなのに
何でこんな頭のおかしい患者ばかり来るんだ…)

ここ双葉町は妙な街だ。
用途の違いはあれど、住人の3分の1が実装石を飼育している。
公園には野良の実装石が氾濫し、環境問題に発展しているにも関わらず、
住人の一部が駆除を頑なに反対しているため、行政は実行に移せずにいた。
実装石を強烈に愛玩する愛護派と、実装石を虐げることに喜びを見出す虐待派、
他にも実装石に関わる多種多様な人間が共存するカオスな街であった。
目の前の男はと言うと、大雑把に分類するなら前者に当たる。
実装石なりきり派、要するに実装石を愛するあまり、格好を模したばかりか、
言動や行動までも真似る実装石界隈の急進派である。
ただこの男の場合、実に器用なことに自身を実装石と錯覚し、
体内の尿路結石を実装石の体内における偽石だと思い込んでいるようだった。
(双葉町の噂を聞いていたが、まさかここまでは。)
病院には日に一度は変わった患者が来る。
大抵は狂気に足を両足まで突っ込んだ連中だ。
(精神科や心療内科ならともかく泌尿器科でこれだ。)
同僚の話を聞くと、肛門科はもっと酷いようだ。
肛門に実装石を突っ込んで抜けなくなった連中が週に一度は来るらしい。
医者になったことを後悔すると言っていた。
まともな医者がこの町で医院を開きたがらないのも納得がいく。
うちはこの町唯一の病院だが、経営者がこの町出身でなければ、
おそらくこの病院も存在しなかったことは想像に難くない。

(このままでは埒が明かないな。しょうがない。ここは相手に話を合わせるか。)
「でもね、お腹のお子さんのためにも石の治療をしないと大変ですよ。
あなたの石は大きくなり過ぎてるんです。」
「デェェ…確かに赤ちゃんは大事デス。でも本当に大丈夫なんデス?」
男は不信がっているが、子供のためと言われれば承知せずにはいられない。
「ええ任せて下さい。お腹の赤ちゃんには絶対に影響を与えません。」
医師の説得は上手くいったようだ。
渋々と言った様子だが、男の了承は取り付けられた。

数日後。
本日は、例の気が狂った男の手術日である。
服を脱がす際、男は
「ワタシの大事な服に何するデス!」
と異様な嫌がりをしたが、代わりに清潔な患者衣を与えると
「デププ…高貴なワタシにぴったりな服デスゥ」
などと言い、薄気味悪く笑っていた。
男を施術台の上に乗せると
「これからニンゲンさんに抱かれるデス…恥ずかしいデス…」
とブツブツ呟いていた。もちろん全力で無視する。
意識をするとげんなりするからだ。
麻酔科医に下半身麻酔を施してもらい、尿道から内視鏡を入れる。
「ワタシの恥ずかしいところ…ニンゲンさんに全部見られちゃってるデスゥ…」
気色の悪い声で恥ずかしがる男を意識の外へ追いやり、集中して内視鏡を操作する。

「これはデカいな…」
CTで検査した箇所に内視鏡が辿り着くと大きな尿路結石が姿を現した。
「処置を開始する。」
尿道に通した管の先からレーザーが発射される。
「あばばばばばば…」
尿路結石がレーザーで砕かれ始めると同時に、突然男が小刻みに震え始めた。
「少し静かにして下さいね」
そのままレーザーで尿路結石を砕いていくと、
パキーン!
と何かが割れるような音が響いた、ような気がした。
「デギャアアアアァァァァ!」
男は突然大きな叫び声を上げた。
「いかん!手術は中止する!」
「はいっ!」
男は口を開き、舌をだらりと垂らし気を失った。
「患者の心音がありません!」
看護師が焦ったような声でそう伝えて来た。
「何だと!?」
医師は、男の尿道から内視鏡を引き抜き、心臓マッサージを繰り返す。
「救急へ連絡!クソッ!死ぬなよ!」

数日後
「いやあ、先生この度は本当にありがとうございました。」
結論から言うと、男は無事心肺停止から復活した。
幸いなことにうちの病院では救急外来もやっていたため、
男は即救急へと担ぎ込まれ、無事意識を取り戻すことになった。
心臓が停止したにも関わらず、男の体には特に異常は見られなかったが、、
念のため精密検査を念入りに行った結果、問題なしと診断され、本日無事退院となった。
「この度は本当に申し訳ございません。
通常この手術で心肺停止は起こらないのですが…」
医師が申し訳なさそうに頭を下げると、男は被りを振った。
「いえいえ、先生には深く感謝しています。
今まで頭が霞がかったようにボーっとして、記憶が曖昧だったのですが、
手術から目覚めた後は。何故か意識がはっきりして、まるで一年前に戻ったようです。」
男はにこやかに答えた。
今日は緑の服ではなく、極々普通の格好をしている。
「術後体調に問題が起きましたら、いつでも来院して下さい。
うちの病院で面倒を見させていただきますので。」
「はい、それでは先生、お世話になりました。」
男は笑顔で退室していった。

「ふう…」
それにしても、今回の事件は一体何だったんだろう。
体内の尿路結石をレーザーで砕き始めると同時に男は明らかに変調した。
聞こえるはずのない「パキン」と言う謎の音。
手術室にいた看護師も何かが割れる音が聞こえたと言っていた。
そして、尿路結石を治療しただけにも関わらず、何故か患者の精神も著しく回復したこと。
まるでホラー映画などで、憑りついていた悪霊を払ったようだった。
男は一年ほど前、可愛がっていた実装石を事故で亡くしてしまい
悲しみに耽るにつれ、記憶が徐々に曖昧になっていったと言っていた。

ふと、男の体内から取り出した尿路結石を見る。
通常なら処分するが、今回は少々変わった事案だったため、
男から承諾を取り、サンプルとして残しておいたのだ。
実装石は偽石を破壊すると絶命してしまう性質を持つ。
偽石と尿路結石、それを破壊したことにより男の精神が回復したこと。
二つの関連性は全く無いのだが、何故か医師は少しだけ心に引っ掛かりを覚えた。
一瞬、非科学的な展開が医師の頭をよぎる。
「まさかな…」
医師は、自らの考えを馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばすと、
件の尿路結石を小さなケースに納め、次の患者を迎えるのだった。

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1 Re: Name:匿名石 2024/06/17-18:58:35 No:00009187[申告]
実装石による街ぐるみの侵略が進んでいる…
2 Re: Name:匿名石 2024/10/09-18:09:38 No:00009366[申告]
おっさんの実装石喋りでは笑ったけど
最後怖すぎだろ
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