季節は春も過ぎ、夏の気配が感じられる時期。 ここは遠くに山を望む平地にあるとある田舎町の農園。 一見どこにでもある田舎町の一面の緑の葉が生い茂る畑。 だが近付くと様子がおかしいことに気付くだろう。 一般的な野菜類の姿は見えず、代わりに実装石が埋まっていた。 皆一様に禿裸の様相であるが、首から上しか地表に出ていない。 もう少し詳しく見ると、頭頂部に植物が生えている。植物部分は高さ40cmほど。 その植物はマメ科なのであろうか、小さいながらも莢があり、実が育とうとしている。 実装石の方はというと、身体を動かせないからかどこか悲しげな表情で遠い目をしている。 耳をすませばデー、デー、という力のない呻き声のようなものも聞こえる。 この畑で育てている植物はジッソウマメ。 ジッソウマメの生育に適した環境に整えたこの畑。 まるである種の地獄のような光景である。 ========================================= この農園での実装石の一生はこうだ。 季節は春前。出産石から生まれた仔は生命力の度合いでまず選別される。 生まれてすぐに禿裸にされ、ある程度育ったら頭に切れ込みを入れられる。 どの処置中でもテチャアテチャアとうるさいが無視される。 ここで生まれた仔実装は初めからペット用にはならない運命なのだ。 ゆえにリンガル等の道具も無いし気を遣う人間もいない。 切れ込みを入れた後は流れ作業で傷口にジッソウマメの種を押し込まれる。 種はすぐに発芽し、仔実装の身体中に根を伸ばし始める。 ジッソウマメは実装石の体内、特に偽石成分で良く育つようになっている。 栄養価が高い餌を無理にでも食わされスクスク育つ仔実装。 やがて仔実装と共に成長したジッソウマメは全身に根を張り巡らす。 この頃ともなると仔実装も自らの身体に異変を感じるようになる。 身体が上手く動かせない… 自分の中に別な何かがいる… そのような不安を抱える頃には頭頂部にジッソウマメの二葉が存在を主張するようになる。 やがて仔実装から中実装に育つ頃、餌の量が減らされる。 通常の個体であれば不満を漏らすことだろうが、ここではそうはならない。 食欲が明らかに落ちてくるのだ。 代わりに日光が良く当たる場所を好むようになる。 頭の二葉だった部分も成長し、動く毎に葉っぱがサラサラと擦れる音が聞こえる。 特に成長の良い個体に目を向けると、座った状態から動かない。 遠くを見ながら時折テーと声を漏らすだけだ。 ここまでくると次の段階である。 外の畑では等間隔に穴を掘っておいてある。丁度成体の実装石が入るサイズだ。 頭が緑でフサフサしている実装石を一匹ずつ頭が出るように穴に埋めていく。 畑が一面実装石の生首で満たされたら作業としては完了だ。 この状態の実装石は全身に張り巡らされたジッソウマメの根の影響で動けず、 また脳も影響を受けていることで思考能力も奪われている。 もはやこの状態の実装石は餌の経口摂取より光合成の方が主なエネルギー源であり、 地面に埋められたことが引き金で実装石の皮膚を根が突き破り、本格的に根付く。 この植物状態の実装石は人間にとってかかる手間が最小限となる。 基本的に水を撒いてやればいいだけだ。 そして実装石最大の問題点である糞による土壌汚染が起きない。 口に餌が入らないことで生成される糞が少なく、あってもジッソウマメの栄養になる。 一匹掘り上げてみるとやはり穴に糞は見えない。 身体中から根が伸びて悲しげな顔をする様子はまるでマンドラゴラだ。 やがて多少の月日が過ぎ、夏の盛り。 頭の葉っぱで直射日光をガード出来るとはいっても渇きはどうにもならない。 だが実装石が極限状態に近づくと出来るモノがある。 ジッソウマメの実だ。 どんな形であれ子孫を残そうとする本能が豆の莢に実を付けさせる。 その莢の中からレフー、レフーという寝息?が聞こえる どんな形であれとは言ったがこんな形でとかデタラメにも程がある。 本能がもはや総排泄孔や体内を生殖器官として諦めた結果だ。 ジッソウマメは普通に育てると普通に実を付ける普通の植物である。 実装石と共生させることで莢の中に蛆ができることもある。 この蛆を育てると通常の蛆と何ら変わらないようだ。 この頃ともなると『仕上げ』の時期となる。 とある爽やかな早朝、畑に響くエンジン音。 朝日も昇りきらない時間なので実装石も夢うつつ。 そこに大きなトラクターがゆっくりと畑を横断し始める。 思考力が鈍った実装石とはいえ様子がおかしいことに気付く者もいる。 オトモダチがグチャグチャに踏み潰されていく光景と悲鳴を聴けば当然か。 気付いたところでどうにもならない。 最初から決まっていたことだ。全て潰される運命にあるのだ。 今行われている作業は『緑肥』というものだ。 育った植物をそのまま漉き込み、肥料とするものである。 このケースでは実装石を介することで偽石成分やらも全部肥料に出来る。 研究が進み土壌汚染を恐れることなく行えるようになった。 時折いる思考力が残っている個体は不幸である。 このままだと何が起きるのか、それから逃れる術も無いことも理解するからだ。 この時期の早朝の畑に響く実装石達の悲鳴は風物詩となっている。 ちなみに隣町では極小規模で試験的ながら焼き畑でやってみているそうだ。 焼き畑でも轢き潰しでも肥料としての効果にそう差はないそうだ。 余談だがマメ科の緑肥は種子が出来る前にやるのが通常だそうだが、 ジッソウマメに関してはわざと実をつけさせてから行う。 理屈はわからないがその方が『良い』そうだ。 こうして畑の肥料となった実装石。 これがこの農園に生まれた実装石の一生である。 次に育つ本命の野菜の礎となり実装石も満足だろうということにしとこう。 なお、こうして土壌改良した畑で収穫した野菜はとても美味しい というわけでもなく、通常の栽培方法とそこまで変わらないそうだ。 農園の経営者は 役に立たない実装石を何とか使えるようにしてるから俺は愛護派だ と言っている。 終わり ========================================= ニュースで綺麗な花畑が時期を過ぎると潰されて肥料になるのを見て思いついた 勢いで書いたし農業に詳しくないのでアレなのは自覚してます すまない ※過去作 3329 平和な山 3300 実装石による秋蛆の養殖
1 Re: Name:匿名石 2024/05/08-19:28:54 No:00009093[申告] |
収穫しないんかーい!と思ったけどノーフォーク農法的な何かと思えばね
そういえば実装石の緑の体液って盗葉緑体生物っぽいとか考えても面白いかも |
2 Re: Name:匿名石 2024/05/08-20:34:57 No:00009094[申告] |
手のかからないペット用実装石や観賞用植物として需要がありそう |
3 Re: Name:匿名石 2024/05/08-22:09:04 No:00009096[申告] |
シマネキ草… |
4 Re: Name:匿名石 2024/05/10-09:12:55 No:00009100[申告] |
寄生させた植物すらただの肥やしだったのは意表を突かれた |
5 Re: Name:匿名石 2024/05/10-22:25:40 No:00009105[申告] |
ここまでやって普通の畑とそれほど変わらないのが無駄死にっぽくて好き |
6 Re: Name:匿名石 2024/07/08-17:10:19 No:00009231[申告] |
ここまでしないと役に立たない実装石 |