実翠石との生活Ⅱ その3 正義感 -------------------------------------------------------------------------- 常磐と名付けた実翠石をお迎えしてから数ヶ月が経った。 季節は秋。実りある秋と言われつつも、日に日に気温が下がりつつある。 今日は常磐用に冬着を買い求めようと、常磐を連れて商店街を歩いている時だった。 信号待ちしていると、五、六歳くらいの子供達を六、七人ほどカートに乗せて移動する団体と一緒になった。 近くの保育園の子供達が近所の公園にでも遊びに行くのだろう。 子供達は常磐を見るなりかわいいと歓声を上げ、手を降ってくる。 常磐も笑顔で手を振り返すと、子供達はさらに歓声を上げた。 「ん〜っ、かわいいです!」 「そうだね~。子供はいいよね~」 いずれ私も結婚して子供を産んだりするのだろうか? そうなったら常磐が子育てを手伝ってくれそうだな。 まあ、今のところそんな相手は姿形もないのだが。 そんなことを思っていると、 「おねえちゃんもいっしょにあそぼうよ!」 と子供達から声がかかる。 まだ若い保母さんがやんわりと子供達を諌め、こちらにもどうも済みません、と頭を下げるが、そこはやはり幼い子供。 お願いが通らないと揃ってぐずり出した。 「あの、お姉さま・・・」 困った顔を向ける常磐に、常磐も遊びたい?と問うと遠慮がちにこくりと頷いた。 困り顔の保母さんに話しかける。 「あの、もしよろしければ、ご一緒させていただいてもいいですか?」 保母さんはホッとしたように、いいんですか?ありがとうございます、と頭を下げた。 まあ、常磐にも良い経験になればいいかな。 程なくして公園に到着した。 実装石が住み着いているわりには綺麗な状態が保たれているようだ。 子供達はカートから降りるなり常磐に駆け寄り、早く遊ぼうよと手を引く。 常磐はどんなことをして遊ぶのだろうか、と半ば興味津々で見守っていると、花を付けた雑草と思しきものを詰んで、 指輪や花冠を作って女の子にプレゼントしていた。 きゃーきゃーと喜ぶ女の子達に、常磐も嬉しそうに笑顔を浮かべる。 男の子とも砂場でお城を作ってみせたり、ブランコ等の遊具で遊んだりと楽しそうだった。 はしゃぎすぎて転んでしまった男の子がいたが、常磐が抱き締めて頭を撫でてやると、泣き出すこともなくまた元気に走り回っていた。 足元にまとわりつく仔実装達を蹴り飛ばそうとする男の子達をやんわりと注意して、別の所で遊ぼうと誘導するなんて一幕もあった。 そんな風に楽しい時間が過ぎてゆくはずだったのだが、突然の闖入者により中断を余儀なくされることになる。 「デシャアアアアアッッ!!(ここはワタシタチのナワバリデシャアッ!!)」 「デジィィィィィィィッッ!!(ニンゲンに媚びやがってムカつくデジィィッ!!)」 「デギャアアアアアァァァッッ!!(ウンコ食わせてクソドレイにしてやるデギャアッッ!!)」 野良と思しき成体実装が三匹ばかり、子供達と遊ぶ常磐に向かって歯をむき出して威嚇してきた。 中にはパンツに手を突っ込み投糞しようとしている個体までいる。 いつもは託児や餌を狙って媚びてくるのに、と保母さんは不思議がりつつも子供達に危害が及ばないよう間に入ろうとする。 常磐も子供達を守ろうと前に出ようとするが、 「おねえちゃんをいじめるな!」 と子供達が総出で砂をかけたり石を投げたりして成体実装を追い払ってしまった。 「あまり乱暴なことはしてはだめです。でも、みんな守ってくれてありがとうです」 と常磐が子供達を抱き締めたり頭を撫でたりしていた。 「常磐、大丈夫だった?」 「はい、みんな大丈夫です。でも・・・わたしがいたら迷惑になってしまうです・・・」 常磐が言うには、実装石は実翠石に対して強い敵愾心を持っているらしい。 先程の野良実装達の反応もそれ故のものなのだろう。 致し方あるまい。 保母さんにはこれで失礼する旨を伝えると、ありがとうございましたと頭を下げられた。 「ごめんなさいです。わたしがいると実装石が暴れてみんなに迷惑がかかってしまうです」 別れを惜しんでぐずる子供達一人一人を、頭を撫でたり抱き締めたりしてあやす常磐。 保母さんが子供達に、おねえちゃんにバイバイしようね、と促すと、皆で手を振ってくれた。 素直な良い子達だ。 常磐も負けじと手を振って別れを惜しんでいた。 「お姉さま、ごめんなさいです・・・」 「大丈夫、常磐のせいじゃないよ」 しょんぼりと項垂れる常磐をどう慰めたものか、私は頭を悩ませた。 保育園に戻った子供達は考えた。 またやさしいおねえちゃんと遊びたい。 だが、公園にいる実装石が邪魔をする。 子供の一人が声を上げた。 うちのおかあさんがいってた。じっそーせきはわるいやつらだって。 同意する声が何人もの子供達から上がった。 わるいやつらはやっつけよう! 正義感の強い子供が声を上げた。 そうすればおねえちゃんとまたあそべる! 数日後、再び公園で遊べる日がやって来た。 子供の数は十人ちょっと。引率する保母二名はいずれも若く経験が浅かった。 カートから降ろされた子供達が思い思いに遊び始めると、託児しようと狙ってか子連れの野良実装がまとわりついてきた。 季節は秋も中頃を過ぎている。 食料の備蓄が心許ない個体は託児で口減らしを図るのが常だ。あわよくば自分も飼いになれると期待して。 この辺りの実装石は、託児は小さいニンゲンにお願いすれば比較的成功率が高いという経験則を共有していた。 (実際のところ、子供が仔実装を連れ帰っても親に駆除されることがほとんどだったが) 親実装に抱きかかえられた仔実装を女児が反射的に受け取る。 人形のような仔実装の頭を撫でると、仔実装は飼いになれたと思い込み嬉しさのあまり脱糞してしまう。 女児は悲鳴を上げて仔実装を地面に叩き付け、踏み潰した。 悲鳴を聞きつけた保母が女児の手についた糞を洗い流そうと水飲み場へと連れてゆく。 仔実装を無惨に殺された親実装は抗議の叫びを上げるが、それは子供達の正義感を煽るだけだった。 やっぱりじっそーせきはわるいやつらだ! ウンチをかけてくるなんてわるいやつにちがいない! もう一人の保母は甘えたがりな女の子二人の相手でかかりきりだった。 正義感の強い男児が叫ぶ親実装を思い切り蹴りつけた。 「やっつけろー!」 その掛け声が悲劇への号砲となった。 虐殺が始まった。 まず血祭りに上げられたのは、託児を試みた親実装だった。 逃げようとするが子供達に捕まり、散々に踏みつけられる。 子供なので体重が軽く一気に踏み潰されることはなかったが、それ故に長く苦しむ羽目になった。 両手足が踏み潰されて使い物にならなくなったところで、植え込みに隠れていた仔実装達が五、六匹、親実装を助けようと身を晒すが、 そのことごとくが親実装の目の前で子供達に踏み殺された。 即死できた仔はまだ幸運な方で、半端に胴体を踏み潰されて長く苦しむ羽目になる仔が大半だった。 仔の助けを求める声、痛みに泣き叫ぶ声を聞きながら、親実装は頭をじわじわと踏み潰されて死んだ。 次に犠牲になったのは、同族の悲鳴を聞きつけて顔を出した成体実装だった。 同族を助けようとしてではなく、嘲笑ってやろうとして身を晒したのが運の尽きだった。 この成体実装を見つけた子供はその両足を鷲掴みにすると、植木に思い切り叩き付けた。 二度、三度と叩きつけるたびに骨が折れ砕け、荒い樹皮で皮膚や前髪がこそぎ落とされる。 痛みに耐えきれず脱糞すると、気持ち悪いと思い切り投げ捨てられた。 無論それで済むはずもなく、他の子供に見つかり何度も踏みつけられて公園の染みとなった。 公園の隅で仔を連れて遊んでいた実装石の一家は、同族の悲鳴に危険を感じて身を隠そうとしているところを運悪く見つかってしまった。 この一家を見つけた子供は打ち捨てられたビニール傘を手にしていた。石突きが金属製になっているタイプだ。 このビニール傘で四匹いた仔実装はことごとく刺し殺され、親実装も全身を滅多刺しにされて絶命した。 公園から逃げ出そうとした一家もいたが、子供二人にあっさりと回り込まれてしまった。 まず仔実装達が捕まり上空に向けて思い切り投げ上げられると、その全てが墜落死して公園に新たな染みを作った。 逃げようとした親実装もその辺に落ちていた木の枝を全身くまなく突き刺され、その死体はハリネズミも斯くやといった有様になった。 公園内で身を晒していた実装石がことごとく殺されるか死にかけるかしている内に、子供達は実装石の巣であるダンボールハウスを発見した。 六、七個ほど無秩序に並んでいるダンボールハウスも、そのことごとくが標的とされた。 あるダンボールハウスには仔実装達が息を潜めていた。 同族の悲鳴が連鎖し恐怖でパキンしそうになりながらも、ダンボールハウスに隠れていれば大丈夫だと自分達に言い聞かせて。 この仔実装達はダンボールハウスごと踏み潰されて全てミンチになった。 このダンボールハウスを見つけた女児が、何度も何度もダンボールハウス上で飛び跳ねて踏みつけたからだ。 その様子を覗き見ていた近くのダンボールハウスに住む仔実装達は、ダンボールハウスを飛び出して逃げ出し、その全てが逃げ切れずに殺された。 ある仔実装は握りつぶされ、命乞いのために媚びた仔実装はそのままの格好で踏み殺された。 姉妹を逃がすために子供達を威嚇した仔実装は禿裸にされた挙げ句に両手両足を引き千切られ、トドメに首をもがれた。 別のダンボールハウスには身重の実装石が逃げることも出来ずに籠もっていた。 予期せぬ妊娠だったがせっかく授かった仔を大切に育てようと胎教に勤しんでいたところだったのだ。 この身重の実装石はダンボールハウスを蹴り飛ばされた衝撃で外に転げ出たところを、何度も腹を踏みつけられて腹の中の仔ごと肉塊と化した。 とあるダンボールハウスは、中で留守番していた仔実装達ごとサッカーボールのように何度も蹴り飛ばされた。 蹴られるたびにビリヤード玉のようにぶつかり合い、打撲や骨折で痛めつけられる。 ダンボールハウスがひっくり返されて転がり出た頃には半死半生という有様だったが、見逃してもらえるはずもなくその全てが踏み潰されて殺された。 公園の外から餌を抱えて帰ってきた親実装は、ダンボールハウスに襲いかかる小さいニンゲン達に立ち向かおうと投糞しようとしたが、 子供が投げた大きめの石に偽石ごと頭を潰されて即死した。 小さいニンゲン達がやってくるのを早期に見つけて、ダンボールハウスを捨て近くの植え込みの陰に隠れていた仔実装姉妹がいたが、 姉妹のうち一匹が恐怖に発狂して騒ぎ出したために見つかってしまった。 この姉妹は一匹ずつ雑巾のようにねじられて殺された。 次は自分達の番だ、と恐怖したとある仔実装姉妹は賭けに出た。 長女が囮となって小さいニンゲンを引き付けている間に、他の姉妹は散り散りになって逃げるというものだった。 まず最初に長女があらん限りの声を上げてダンボールハウスから飛び出した。 目論見通り小さいニンゲン達が長女に注目している内に、次女以下の姉妹が反対方向に向けて我先にと逃げ出す。 長女は妹達の無事を祈ったがそれは叶わなかった。 妹達が逃げた先にもニンゲン達が回り込んでいたからだ。 小さいニンゲンに摘み上げられた長女の目の前で妹達は踏み潰され、握り潰され、首を捩じ切られた。 絶望して悲鳴を上げる長女も股から引き裂かれ、すぐに後を追うことになった。 最後に残ったダンボールハウスは空だったが他のダンボールハウスと同様に踏み潰された。 生き残りがいないかと子供達はそれこそ公園の隅々まで探し回り、見つけ次第子供らしい残酷さでそのことごとくを殺した。 この頃になってようやく保母達が異変に気付き、子供達を止めに入った。 実装石の体液や糞に汚れた子供を捕まえ、一人ずつカートに乗せる。全員をカートに収容する頃には、この公園に生息していた実装石のほとんどが無惨に殺されていた。 ほんの数匹だけ虐殺を免れた仔実装や親指実装、蛆実装がいたが、自力で餌を取れないこれらの生き残りは早晩餓死することとなる。 もっとも、たとえ生き残ったところでダンボールハウスが備蓄食料ごと壊滅している以上、冬を越せないのは目に見えていたが。 保育園は戻ってきた子供達全員を風呂に入れ、着ていた衣服を洗濯して乾燥機に放り込んだ。 子供達の靴については手空きの職員総出で汚れを落とした。 事態の異常さを鑑みて子供達に聞き取りを行ったが、子供は揃って悪い実装石をやっつけてやったというだけだった。 保育園は、実装石にちょっかいをかけられた子供達が、過剰防衛的に実装石を殺してしまったと結論付けた。 また、保育園は事の次第を保健所に報告し、翌々日には公園から実装石の死体が一掃された。 保健所の担当者からは小言を言われたが、それ以上のことを保育園側が求められることはなかった。 季節は秋・・・と呼ぶには少しばかり肌寒さを増していた。 夕食の材料を買おうと常磐を連れて商店街を歩いていると、 以前公園で一緒に遊んだ子供達を乗せたカートとすれ違った。 手を振る子供達に、常磐共々手を振り返す。 ひときわ元気が有り余っている子供が大声で言う。 「わるいじっそーせきはいなくなったから、またこうえんでいっしょにあそぼうねー!」 -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2024/05/07-21:55:23 No:00009090[申告] |
勝手に公園に住み着いて繁殖してただけでこの仕打ち…血も涙もねえ! |
2 Re: Name:匿名石 2024/05/07-23:33:17 No:00009091[申告] |
保母さんも保育園も保健所も仕事増えてかわいそう
これも実装石ってやつの仕業なんだ |
3 Re: Name:匿名石 2024/05/08-02:05:21 No:00009092[申告] |
そもそも子供を遊ばせる公園に不潔で下卑な野良実装の奴等がうじゃうじゃ巣食ってるのがね
堪え性が無く幼児と軋轢を生じた時点でアウトだし託児とか仕掛けるのはもっての外 しかしまあ幼児の反感を買う程度の虎の尾を踏む行為であっさり壊滅してしまうのがなんとも無様 |
4 Re: Name:匿名石 2024/05/08-22:06:31 No:00009095[申告] |
ガキのくせに殺し過ぎじゃねーの? |
5 Re: Name:匿名石 2024/05/09-22:21:14 No:00009097[申告] |
異常者への道を歩み始めちゃった
実翠石がいる限りこんな悲劇が繰り返されるんだ |
6 Re: Name:匿名石 2024/05/10-00:13:13 No:00009098[申告] |
実装害の頻発する世界でさっさと処置するのは害虫駆除と大差ない
必要に駆られただけで倒錯してのべつ幕無し潰してる訳ではないし異常って程の事ではなく奮起の範疇 ネズミ駆除と同じで抵抗や恐れがあるのはそれなりにいそうだから、それ用の商売や頼まれ事は色々ありそうではあるが まあ基本汚れたくないしね |
7 Re: Name:匿名石 2024/05/10-05:31:42 No:00009099[申告] |
実翠自体がいい子ちゃんすぎて古き他実装モノと同じ轍を踏み始めてる気がする |