タイトル:【虐他】 実翠石との生活 その5
ファイル:実翠石との生活 その5.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:196 レス数:2
初投稿日時:2024/04/22-21:23:35修正日時:2024/04/22-21:23:35
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実翠石との生活 その5
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若菜と名付けた実翠石をお迎えしてから、早くも半年が過ぎようとしていた。
この半年の間に若菜と過ごした時間が、どれほど私の心の支えになっていたことか。
あの時若菜と出逢えなければ、私はどうなっていただろう?
あのまま、生きているのか死んでいるのか分からない状態で、ただ無為に時を過ごしていただろうか。
それとも、自棄になって何か碌でもないことに手を染めていたか。
ひょっとしたら、妻と娘の死の遠因となった実装石をひたすら嬲り殺す虐待派にでもなっていたかもしれない。
そう考えれば、若菜の存在は私にとってまさに救いそのものだった。


今日は妻と娘の一周忌だ。
と言っても、私も妻も親類縁者がほぼ居なかったため、出席するのは私と若菜だけ。
自宅にお坊さんを呼んでお経を上げてもらうだけの寂しい式だ。
だが、心理的な区切りを付けるためにも必要な儀式だった。少なくとも、私にとっては。

若菜には黒を基調としたワンピースドレスを用意した。
アクセントとして着けたミニのトーク帽がひどく愛らしかった。
先日試着した際によく似合っていると褒めたのだが、若菜は少しばかり困ったような、
控えめな笑みを浮かべて小さく礼を述べるだけだった。
喪服や一周忌の意味を知っていたが故に、素直に喜びを表すのは躊躇われたのだろう。
要らぬ気を遣わせてしまったことに内省する。

お坊さんが来るまでしばらく時間があった。
手持ち無沙汰だったこともあり、玄関前を掃き掃除する。
正直なところ、何かに手を付けていないと、妻と娘のことが、特にその最期が脳裏をチラついて平静を保てなくなりそうだったからだ。
手伝おうとする若菜を服が汚れるからと家の中で待たせ、ほうきを片手に玄関前を掃き清める。
空は曇り模様だったが、天気予報を信じるならば雨は降らないらしい。
大して広くもない玄関前なので、ものの数分で掃除が終わってしまう。
そんなところに、見覚えのある猫が通りかかった。
耳に切れ込みが入れてある、いわゆる地域猫というやつだ。
度々うちの庭に来ては私や若菜にじゃれついてくる、妙に人懐っこい三毛猫。
その三毛猫が、仔実装と思しきものを咥えている。
咥えられた仔実装は至る所にひっかき傷や噛み傷があり、服も髪もボロボロといった状態だったが、まだ息はあるようだ。
後ろには姉妹と思しき仔実装が二匹、泣きながら後を付いてきている。
三毛猫はこちらに気付き、数秒私の顔を見つめた後、私の足元へとやって来た。
口に咥えていた仔実装を私の足元に置き、にゃあ、と一声鳴く。
まさか、私にくれるというのだろうか?
拘束から逃れた仔実装がイゴイゴと這って逃げようとするが、三毛猫は爪をたてた前足で仔実装を踏みつけて抑え込む。
「デヂィィィィィッ・・・」
爪が内臓にまで達しているのか、仔実装はビクビクと痙攣している。
「チャアアアッ!テチャアァァァ!!(妹チャンを離すテチィ!このままじゃ死んじゃうテチィ!!)」
ようやく追いついた仔実装のうち一匹が、踏みつけられた仔実装を助けようと三毛猫の尻をポフポフと殴りつける。
「テチュ〜ン(おいニンゲン、高貴なワタチを飼わせてやるテチ)」
もう一匹は何故か私を見て媚びてきた。姉妹と思しき仔実装が危機にあるにもかかわらず。
背後からがちゃりと玄関の開く音がした。
「あの、お父さま・・・」
若菜が心配そうな顔をして私の側に寄り添おうとすると、
「テチャアァァァッッ!!(なんでオマエみたいのが出てくるテチィィィ!!)」
媚びていたはずの仔実装が若菜に歯を剝いて威嚇してきた。
「ひぅっ・・・!」
驚いた若菜が私の背に隠れる。
「テチィッ!!テヂャアアアッ!!(ニンゲンに媚売って飼いになってナマイキテチィ!ウンチ食わせてニンゲンと一緒にドレイにしてやるテチィ!)」
仔実装の攻撃的な鳴き声に反応したのか、三毛猫は後ろ足で尻を殴っていた仔実装を蹴り飛ばした。
「テチィィィィッ!?」
やはり爪を出していた為か、仔実装の服が血濡れのズタズタにされる。
蹴り飛ばした仔実装には見向きもせず、次は威嚇していた仔実装に飛び掛かった。
「ヂッ!?」
一撃で首を噛み千切られ、皮一枚で繋がった首があらぬ方向を向く仔実装。
そのまま三毛猫は私の前まで仔実装の死体を咥えて持ってきた。
最初に咥えていた仔実装の首にも爪を突き立てて掻き切り、とどめを刺す。
こちらを見上げてにゃあ、と鳴く三毛猫に、思わず若菜と顔を見合わせる。
猫が持ってくる、いわゆるお土産というやつだろうか?
まさかとは思うが、私を元気づけようとしてくれているのか?
諸説あるらしいが、猫側は好意を持ってやっているのは確からしい。
苦笑しつつも、猫の頭をそっと撫でる。若菜もやや顔を引きつらせながらもおずおずと手を伸ばし、これまたそっと背を撫でさすった。
三毛猫はひとしきり撫でられるに任せた後、蹴り飛ばした仔実装を咥えて何処かへと去って行った。
・・・とりあえず、お坊さんが来る前に片付けないとな。

お坊さんにお経を上げてもらい、その後に法話をいただく。
後はお布施やらお車代やら御膳代をお渡しして、お見送り。
時間にして一時間程で終わった。
「お疲れ様、若菜。足は大丈夫か?辛くないか?」
退屈なら別室で待ってくれていいよ、と言ったのだが、若菜は最後まで足を崩さず私の隣に寄り添ってくれていた。
頭を撫でると嬉しそうにするが、手を離そうとすると若菜の両手に掴まれる。
「お父さま、ちょっと屈んでほしいです」
何だろうと思いつつも言われるがままに屈むと、頭を包み込むように抱き締められた。
「若菜?」
「つらいのは、お父さまのはずです・・・」
若菜の言葉に、私は何も言えなかった。
「朝からずっと、つらそうなお顔をしてたです」
努めて平静を装っていたつもりだったが、無駄な努力だったようだ。
「お父さまから愛されて、わたしはすごくすごく幸せです」
耳元で囁かれる言葉に、脳が痺れるような錯覚を覚える。
「だから、お父さまが辛いなら、わたしがお父さまを癒してあげたいです」
頬に数瞬だけ触れる、唇の感触。
「お父さまから愛してもらって、幸せにしてもらった以上に、わたしも、お父さまのことを愛して、幸せにしたい、です」
若菜の言葉が耳元で紡がれる度に、心が満たされてゆく。
「わたしは、ずっとずっと、お父さまのそばにいるです」
妻と娘は、もう居ない。それは今日改めて思い知った。
でも、若菜が側に居てくれる。それが、たまらなく嬉しくて、愛おしかった。
いつの間にか、涙が溢れて止まらなくなっていた。
思わず抱き締め返すと、あっ、と小さく声を漏らし抱き締め返してくれた。
「ありがとう・・・ありがとう・・・若菜・・・」
何とか絞り出した声は、自分でも情けないほどに震えていた。
再び耳元で紡がれた言葉が、私の心に、どこまでも甘く響く。
「大好きです。わたしの、わたしだけの、お父さま・・・」



—終—

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1 Re: Name:匿名石 2024/04/22-23:27:11 No:00009044[申告]
手向かね
事故以前からも度々世話になってた?
2 Re: Name:匿名石 2024/04/23-12:31:53 No:00009046[申告]
若菜と飼い主の関係が父と娘の域すら超えて破滅に向かいそうでドキドキする
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