タイトル:【虐他】 ジソコ
ファイル:トモダチの代用品.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:932 レス数:19
初投稿日時:2024/03/19-14:25:46修正日時:2024/03/19-14:25:46
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「ずっとおトモダチだよ!」

幼い少女が無邪気に、手のひらに座り込んだ『小さな友達』に語りかける。

「うれちいテチ!ジソコはちあわせテチ!」
フリルの過剰についた安っぽい色付きの実装服を着用した仔実装が手をイゴイゴさせ喜びを表現する。

「今日もいっぱいあそぼ!ジソコ!」「はいテチ!」

スポンジボールを取り出して、小さな庭でジソコと少女が仲良く遊び始めた。

引っ込み思案な少女の、唯一の友達だった。

視点を変えて、彼女の部屋の中。
そこには拙い描かれた実装石の絵が所狭しと並ぶ、ジソコがどれほど少女にとって大きな存在かを物語るよう。

……

「あなた、そろそろ」
「わかってるよ、もう春から学校だもんな、ハァ」

別室で少女の父母は暗い顔を見合わせていた。
春から学校。少女は小学校への入学を控えているのだ。

「やっぱり今のうちに俺がアレ捨ててくるよ、最近だって」
「捨てるだけじゃだめよ」

「やっぱりそう、だよなぁ」
「前から話してる私の案でどうにかしましょ」

何かについて話し込む、何かの処理について、何かを処分したがっていた。

「今よりずっとお金はかかるけどマシな選択よ、あの子も傷つけない」

「観念するしかない、か」
「アレ飼ってるってだけでイジメに遭いかねないわ」

「まあうちの子はただでさえ押しに弱い引っ込み思案だ」

アレの正体はジソコであり、両親はどうも少女からジソコを引き離したがっていた。

「世間じゃこうだし選択の余地もないな」
父親がスマートフォンに表示されたニュースを母親と共有する。

『実装連れインフルエンサーによる『映画上映中の実装による脱糞は許してほしい』コメントの問題点を考える。相次ぐ過剰愛護派問題、行き着く先は?』

……

1年前。

「情操教育になってくれたらいいけどなあ」
「私はよくないと思うけどね、あなた」

「友達を作る練習くらいはさせないとだぞ?」
「それもそうだけど…」

「むつかちいおはなしわかんないレチ!だけどこれからよろちくレチ!ゴシュジンサマ!」

「あ、ああ、よろしく」
「ハァ、はいはい、よろしくね」
ぺこりと頭を下げた親指実装に曖昧な笑みで返事を返した二人。

夫妻は悩んでいた。

スクスクと育つ娘だったが友達があまりできない。
押しに弱くて引っ込み思案、無口で物静か。
どことなく暗い雰囲気があるのか、あまり人を近づけない性質。

娘になんとか人と交流する術を育んでもらおうと、コミュニケーションの練習がてらと躾済み格安親指実装を購入した。
売れ残って処分間近の個体だとうが、性格面は良好だそうなのでと選んだ個体だ。

いわばそれはトモダチの代用品、そのようなものとして。

目論見は最初の頃は上手く行った。そういうふうに見えた。

「じっそう、せき?このこが私のおトモダチ?」
「ああそうだよ、仲良してあげてね」
「よろちくレチ!」

「う、うん…じっそうだから…お名前はジソコ…だね」
「おなまえレチ!?うれちいレチ!カンゲキレッチ~!」

……

「ママ!ジソコとかけっこたのしいの!」「かけっこレッチ~!」ジソコと共に駆け回る娘。やがて捕まったジソコがプリプリと糞を漏らす。
「パパ!ジソコが絵を描いてるの!」「たいさくなんレチ!」庭から家の壁にウンチを投げて絵もどきを描くジソコと笑う娘。

結論から言って、最悪の方向に事態は悪化した。

ジソコは躾済み故に所謂糞蟲ではないがとにかくシモの躾がなっていなかった。
世話が楽だからと親指を選んだのが仇となる、叱ればパキンしかけ、体罰ならそのまま命の危機となった事で夫妻はジソコに何もできずにいた。

糞の始末にだけ追われ続ける日々、娘は慣れて気にならないようだが異臭も凄まじい。
流石に娘も糞は汚がるが、生き物だから仕方がないとして気にも留めず、その処理をほとんど夫妻がすることもあってか大して気になりもしないようだった。

夫妻はフラストレーションを貯めていく。

娘は口を開けばジソコジソコ、実装石のことばかりに夢中になっている。

数少ない人間の友達ともあまり話さなくなり、寝ても覚めても自分に構ってもらいたがる『小さなお友達』ジソコとばかり接するようになっていった。

片時もリンガルを手放さない、ずっとジソコとばかり会話をしている。

「こんな筈じゃなかったんだ」
「悪い予感がすると思った通りね」

頭を抱える夫妻。時を同じくしてだった、世間で『それ』が騒がれ出したのは。
あるいは、ジソコの粗相だけならば話は違っただろう。それこそ娘の言う『生き物だから仕方ない』といった話でギリギリの一線まで我慢はできただろう。
だが、立ちはだかっていたのはそんな範疇の問題ではなかった。

……

「実装石を電車に乗せて何が悪いんですか!?」
激怒する愛護派飼い主と、その飼い実装のマリアンヌちゃん。

「ワダヂもデンヂャ?にのりだいデヂ~」

仔実装だというのにひどく肥満して鳴き声はもはやガマガエルのできそこないじみた不協和音。
ブリブリと興奮してクソを漏らす。画面越しに臭ってきそうなほどの軟便。

SNSで拡散された、過度な愛護派の迷惑行動。
これを皮切りにするように、実装石を飼う人間の迷惑行為が叫ばれ、社会的に問題となりつつあった。

『拡散希望。実装ウィルスに脳を侵されると人間は実装石に依存しておかしくなるらしい!』

陰謀論系アカウントがSNSでまことしやかに囁く科学的根拠のない珍説。
しかし、夫妻にとっては真剣な危機を覚えさせる重みがあった。

このまま娘がジソコしか友達のいない生活を続けたら?
本当に実装ウィルスなどというものが実在したら?
じきに入る小学校で、実装を飼っている事から愛護派と同類の認定を受けていじめられでもしたら?
実装石にこのままのめり込んで行ったら?

あの映像の愛護派が、もし娘の未来の姿だったら?

「あなた」「ああ」

夫妻は耐えきれなかった、認めざるを得ない失態。実装石など与えるべきではなかった。

「もうこんなのはたくさんだ」今日も今日とてジソコの粗相を処理しながら、父親は呟いた。

ムリに『小さなお友達』ジソコを処分すればおそらく娘はもっと塞ぎ込む。
しかし一刻を争う状況だった。娘の未来がかかっている事態だった。

そうして、夫妻はある作戦を立案した。

……

実装ショップにて

「手痛い出費だ、当分は贅沢どころかメシも質素になるな」
「仕方ないじゃない、作戦通りにやりましょ?」

沈んだ面持ちの夫妻がぶつぶつと話し込む。
決して裕福と言えない家庭、老後のための貯金さえも食い潰す恐ろしいほどの値段がした。
それでも仕方ない、未来を守る分岐点が目の前に迫っているのだから。
少なくとも夫妻はそう考えていた。

重苦しい雰囲気の中、購入された存在が口を開く。

「む、むずかしいおはなしです…?お、お金のことはよくわからないですが、すぐならヘンピン?っていうのができると教えられたです」
「いや、返品はしない、お前には未来がかかってるんだよ実翠石」


実翠石。
希少な実装石の近縁種で、おとなしく、美しく、飼いやすく、故に途方もない値段のする存在。

実装石とは違い嫌われていない、ほとんど上位互換のような存在。
故に面白みがないとして愛護派には注目されない存在でもある。
手がかからなさすぎる彼女らは、たいてい暴走した庇護欲やら愛情のやり場として実装石を選んでいるに過ぎない過剰な愛護派からしてみればなんともつまらない存在なのだろう。

実装ショップの一角、ちょっとした休憩用フリースペースとなっている場所。

夫妻と実翠石はそこにいた。

「さて、とお前は主人の言うことをよく聞くんだな?」
「です」

「ウンチも漏らさないのよね!」
「です、ちゃんとおトイレできるです」

「……嘘をつくこと、それを守ることはできるか?」
「ご、ご主人さまのご用命ならできるです」

「賢いな。いいか、これから俺たちは非道で傲慢な事をする、言うとおりにしてくれ?」
「頼むからね、新・ジソコちゃん」

……
1日後、土曜、朝。

「ママ!パパ!起きたらね!起きたらね!ジソコが!ジソコがいないの!」
「どこに行ったんだろうな?パパが一緒に探してあげるからね」
「ママも一緒に探してあげる、ジソコはちっちゃいからよく探さないとね~」

『小さなお友達』ジソコの失踪を少女が騒ぎ、捜索が開始される。
やがて、リビングの角に緑色のワタの塊が発見された。

「うわあ!これはなんだ!?」
「もしかしてジソコ!?」
夫妻がわざとらしく驚く。ワタの塊が蠢く。

「そう、ジソコはここでーす」

「ジソコ!?」娘が驚きながらも駆け寄って行く。

娘がワタに近づき、覗き込むとワタを割いて中から現れたのは実装石ではなく、あの実翠石だった。

要するに替え玉作戦だ、実装狂いになるよりはせめてこの実翠狂いになった方がマシと言う判断。

実翠の知能は高く、見た目も人間に近い。
娘の『小さなお友達』をマシな方へすり替えようという、あらゆる点でリスクにまみれた苦肉の策。

「そうです、ジソコです、でも頭がボンヤリです~」
「大丈夫!?ほんとにジソコ?私だよ、覚えてる!?」

「よ、よ、よく思い出せないです、ごめんです」
「でもなんで?ジソコは実装石だったはずだよ!?なんで実翠石になってるの!?」

「じ、実はジソコはトクベツな実翠石のコドモだったんです~サナギでオトナになってたんです~」


もちろん実翠石に繭になるだとか、そんな生態はない。
わざとらしく記憶喪失をアピールする、夫妻に言えと言われた出鱈目な作り話。

「ジソコ…」涙目になる娘、固唾を飲んで見守る後方の夫妻。

『ニセモノ』は縋るような視線を送る。

失敗すれば娘はどうなることか?
『小さなお友達』の失踪に塞ぎ込むことは間違い無いだろう。

……

『ニセモノ』の運命もここで決まる。
失敗すればショップに戻ることになるかもしれないからだ。
ショップに戻れば『返品個体』として問題がある存在と扱われてしまう。

それだけならばまだいいが、実翠を本能的に嫌っている実装と同じ大水槽で暮らすハメになる。そう聞かされていた。
いくらそこにいるのが躾済みの実装たちとは言え、危機でしかない。それは避けたい。
ショップ時代、実装が雑居した大水槽から注がれていた粘り気のあるギラついた視線を思い出す。

実装の実翠への憎悪の証明。

きっとあれらに一斉に飛びかかられたら体格差において若干有利な程度では何も意味がないだろう。
脅しの冗談かもしれないが、少なくともショップではブリーダーの言うことは絶対だった。

(た、たのむです…!)祈る実翠の額には脂汗が流れた。

……

静止したような一瞬が動き出す。

「どこにもいかないでね!私の『小さなお友達』!」
ぎゅっと抱きしめられた『ニセモノ』は、安堵の笑みを浮かべた。

「どこにも、どこにもいかないしいきたくないです!」本心からの叫び。

成功した。
『ニセモノ』は『小さなお友達』に見事に成り変わったのだった。

「よかったなあジソコが見つかって」
父がしゃがんでまだ涙目の娘と目線を合わせ、どこかぎこちなく優しく微笑む。

「心配させちゃってこの子ったら」
母がジソコを撫でる。言葉にしない(よくやった)のサイン。

……

同日、時計を巻き戻して早朝。

「ここはどこテチ!?」
ごく狭く、暗い、暗い空間で旧ジソコは目を覚ました。

「テ!?お、フクがないテチ!?」
視界が効かないが、身体を触って気がつく違和感。全くの裸である。

「こ、こわいテチ!こわいテチィ!ママァ!ゴシュジンサマぁ!どこテチィィィ!?」
暗中模索、プリプリと糞を垂れながらジタバタと暗闇を動き回る旧ジソコ。

ぐらり。空間が揺れる。

「な、なんテチ!?なにがおきてるんテチ!?」断続的に揺れ続ける。やがて大きな衝撃が空間に走る。

「デチャアッ!いたいデチッ!」弾力のある身体がバウンドし、叩きつけられた旧ジソコ。
衝撃とともに光が見える、光の元へと這って行くと、自分が今どこにいるかがわかる。

「ここ、ゴミすてばさんテチ!!」

実装ゴミ用のビニール袋越しに旧ジソコは叫んだ。
ビニール袋に包まれた小さな段ボールの中に旧ジソコは詰め込まれていたのだ。

落下した衝撃と共に上面が破れ、景色を確認できた格好だ。

「な、なんでワタチがゴミさんテチ!?テェッ!パパさんテチ!?待っテチ!助けテチィ!」

ビニール越しに叫ぶ旧ジソコ。

自分を捨てていったとも知らないからか、あるいは知っていてもだろう、かつての主人の後ろ姿にただ助けを求め続ける。

「もっといい子になるテッチ!こんなのまちがいなんテチ!」
ブリブリと糞を絶え間なく漏らし続けながら、遠ざかって行く背中に絶叫を繰り返す。

すると、徐にその背中が振り返った。大騒ぎに気がついたのだろう。

……

わざと緩く固定していたダンボールの上面、目を覚ましたジソコの絶叫を聞いて父親は笑顔になった。

わかっている、傲慢だ、自分たちの都合で飼って自分たちの都合で放り出す、しかも生きたままだ。
いや、苦しんでほしいからこそ生きたまま放り出した。

(家に帰れば嫁と一緒にお前の糞の掃除、疲れてようがイヤな事があろうが掃除、掃除、掃除、もう疲れたんだよ)

(そりゃ悪いと思ってるよ、実装石についてまともに調べもしなかったのも悪いと思ってるよでもさ、)

(もう限界だったんだわ、一思いにぶち殺してから捨てようかとも思ったさ?最初はさ)

(なんか、俺も嫁もお前に苦しんで死んでほしいなって思っちゃったんだよ)

(だからさ、そのまんま死んでくれよ、頼むよ、生きたまま破砕機かなんかに詰め込まれて、苦しみながらぐずぐずになってくれよ)

(……それが俺と嫁を幸福にするから、さ)


……

「悪いとは思ってるよ、でも、じゃあなゴミクズ」
振り返って吐き捨てられた言葉。


「テ」
静止するジソコ、意味はわかっている。躾済みらしくそこそこのニンゲンの語彙は理解できる。

「ゴミクズ、テチ?」ポツリとつぶやいた。血涙が流れ始める。

「テッチャアアアアアアアア!!!ゴミクズちがうテチ!!」
必死でビニールに噛み付く。脱出しようともがき始めたのだ。

「ほんわかまんまるでこうきな、いい子でやさしくてこうきなカイジッソウなんテチ!!」
精神的なショックが深く、もはや糞蟲じみた言葉でメチャクチャな言葉を口走りながらビニールを破ろうと四苦八苦する。

「ニンゲンのおトモダチなんテチ!テチャアアアッ!」
喉奥から出せる限りの声を出しながら、奇跡的な頭の回転でざらざらとした地面にビニールを擦り付けて破る方法を発見する。

手先が削れるのも気にしないで猛烈な勢いで擦り付ける。ここまでの執着を見せるのも、幸福な日々があってこそか。

「イダイデチャアッ!空いたデチャアッ!で、出るテチャァ!!」
ビニールがやがて破れると、小さな穴ができる、身を捩るようにして旧ジソコは外へと脱出を図る。

「デェデェ…おうちに戻るテチィ!」

そこそこは賢い躾済み。
果たして旧ジソコは家に帰りつけるのか。
もっとも、そこは果たして今現在、旧ジソコにとって家と呼べる場所なのだろうか?

……

数時間後。昼過ぎ頃。

「ねえジソコ、本当に何も覚えてないの?なんにも?」
「ごめんなさいですぅ」

「じゃあまた一緒に思い出をつくろうね!ずっとオトモダチだよ!」
「はいですぅ、お嬢様とずっとトモダチですぅ!」

「今日はお庭であそぼ!ジソコ!」
「わかったですぅ~」

ジソコは旧ジソコの位置を完全に乗っ取る事に熱心な様子で、楽しそうに庭へと共に駆けて行った。
(はやいとこジソコの記憶をわたしで塗り替えるですぅ)

……

「キャアアアアッ!ジソコ、来て!」庭の隅。少女の叫ぶ声。その視線の先。

「テェ、テ?ジソコはワタチテチ!」
血と糞まみれの汚らしい裸の仔実装、もとい旧ジソコは、庭へと奇跡的な帰還を果たしていた。

「ど、どうしたんですぅ!ですっ!?」
ジソコはその存在を見て確信する。ホンモノだ、おそらくホンモノが戻ってきたんだ。
見たことこそないがおそらくあれがホンモノのジソコだ。仔実装がここまでの執着をそれ以外に見せるものか。

「ハァハァ、やっどもどってきたデチィ、テテ!?なんでニセモノがいるんテチィ!シャアアアアア!」
実翠への忌避感から本能的な威嚇をかますジソコ。ブリブリと脱糞しながらの大激怒。

「な、なんなの!?汚い!怖い!助けてジソコ!」
少女はといえば初めて見る実装石のその行動、威嚇の不気味な様子に怯えて泣き叫び大混乱となる。


「お嬢様に近づくなです!」
殺さねばまずい。旧ジソコをジソコは蹴り飛ばした。汚れるのも構わない、殺さねば。

「デチャアッ!け、けったテチ!ワタチはここのカイジッソウテチ!」
「ですぅ!?」
やはりまずい。生かしておいてはバレる。なおもジソコは焦った。

「ずっとオトモダチって言ってたのはウソだったテチ!?助けテチ!」

「し、しぬです!」
「デチャアッ!アァ、チベッ」

旧ジソコが叫んだその時、全体重をかけ決断的に旧ジソコを踏み潰したジソコ。
頭部が崩れ同時に偽石も割れたらしく旧ジソコはぴくりとも動かなくなる。即死である。

「……じ、ジソコいい?い、今の子、リンガルを見たらね、ずっとオトモダチって、ジソコしか知らないはずなのに」

仔実装殺害現場に顔を青ざめさせて、気が動転して涙目ながらにもリンガルを見れる程度には正気に戻った少女が震えた声で言う。

「きっとさっきのわたしとお嬢様のおはなしを聞いてたんです」
「そう、かな?」

「それよりこれのおそうじが必要です、ママさんとパパさんを呼ばなきゃです」
「う、うん、そうだね、私呼んでくる」

(あぶないとこだったです……)
ほっと胸を撫で下ろすジソコ。
おそらくもう少し喋られていたら危ない所だっただろう。

あの汚物が少女とホンモノのジソコしか知らない事を喋り出せばどうなっていたことか。

(わたしが、ジソコです『小さなお友達』なんです、ぜったい渡さないんですぅ)
足元の肉片を、ジソコはもう一度強く踏んで潰した。

冷たい目でそれを見下ろし、ぞっとする笑みで侮蔑する。
この家で利口ぶって楽しく暮らそう、従順で幸福な実翠のジソコとして私は幸せになるんだ。そう誓う笑み。

ニンゲンのウソとエゴに相乗りして得た幸福になんとしてでもとしがみつくその姿は、まるで下劣な実装石のようだった。

……
数ヶ月後。

「それでね?マナちゃんったらすっごくオシャレでね!」
「友達がいっぱいできたみたいでママ嬉しいわ」
笑う娘に微笑む父母、一家の団欒がそこにある。
ジソコはといえば、少し離れた位置でもくもくと洗濯物を畳んでいた。

学校に入った少女はすぐに友達を作った。

ある同級生を「ジソコに似てる」と言ってしまった出来事があり
「実装石に似ているとは何事か」と一触即発になったそうだが、
その後すぐにジソコが愛らしき実翠石であるとわかると鉄板の笑い話になったそうだ。

今ではその子と仲良しになり、すっかり明るい子になった。
ジソコは大きな役割を果たしてくれたと言える。

(ありがとうな、ジソコ)小さく心の中で父親がつぶやいた。
古いジソコのことも少し思い出し、胸の中に少しの痛みを覚えもするが、今が幸福ならばと思い、目を閉じた。
娘の本当のトモダチを奪い去った事実は明かされずともずっと消えることは無いだろう。


……

一方で、当のジソコはといえば、人間の友達同士で遊ぶことが最も興味関心の先となった少女にとってもう友達としては力不足だった。

仕方のないことだが振れる話題の幅もあるはずがなく、共感を呼ぶような経験もない。
次第に、以前ほど過剰には構われなくなった。

正しくペットとニンゲンの距離感となったといえばそうなのだろうが。

春の前には子供部屋中に飾られた二人で描いた絵も、今ではクラスで流行っているらしいアニメやら漫画のグッズに置き換えられてしまっている。

「ジソコ~おやすみ~」
「おやすみなさいです」

こうして時折声はかけてくれるし、たまには遊んでもくれる。
嫌われたとか飽きられたとかの話ではない、よくある形へとまとまっていっただけだ。

そんな中で、ジソコはなんとなく悟る。自分、いや自分「たち」に託されていたその役割を。
そうか、きっと先代も、自分も、究極的には人間のオトモダチの代用品だったのだ。

実装種はよく生き人形の出来損ないなどと言われるが、質感からすればぬいぐるみ。

それこそ「ジソコ」とは本質的に飯事遊びのぬいぐるみだったのだ。

……

「ジソコ、最近さみしい?」
リビングに備え付けてあるジソコ用のベッドにアンニュイな表情で横たわったジソコに、母親が声をかけた。
「ちょっとだけです」
ジソコは顔を見られないように毛布で全身を隠しながらそう答える。

「今日は一緒に寝ていいよ、ジソコ」
「ほんとです?」
ひょこっと顔を出したジソコは夫妻の寝室に連れられた。
時折許される同衾は、自分たちのエゴとウソを貫き通してくれたジソコへの労いだった。

身を寄せ合い、共犯者たちは眠りに落ちていく。きっと暴かれる事のないウソを抱えあって。
誰だって、幸福は手放せない。

おわり

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1 Re: Name:匿名石 2024/03/19-14:42:37 No:00008915[申告]
初代も二代目も役割は果たしたな
ジソコには幸せになってほしい
2 Re: Name:匿名石 2024/03/19-18:23:07 No:00008916[申告]
悪いと思ってんならぶっ潰してから捨てろや
3 Re: Name:匿名石 2024/03/19-19:45:01 No:00008917[申告]
実装なんてどう考えても情操教育に良い訳ないんだよなぁ…
ウイルスはともかく衛生面では最悪だし
ある意味実翠石も災難ではあるが人間側のエゴや思惑を理解した上で内に秘める情緒と取り繕う社会性は持ち合わせてるのよね
4 Re: Name:匿名石 2024/03/19-20:30:48 No:00008918[申告]
読み直してみるとマジで実装自体はうんこ垂れなだけで被害者でしかないんだな
5 Re: Name:匿名石 2024/03/19-22:30:13 No:00008919[申告]
じゃあなゴミクズが酷すぎて笑う
6 Re: Name:匿名石 2024/03/19-23:38:52 No:00008920[申告]
無自覚とはいえ躾直しが厳しい状態で
娘の寵愛を担保にした能天気な糞垂れ蟲の日々続くエンドレス粗相に腹を据えかねてたんだろうね
7 Re: Name:匿名石 2024/03/20-02:20:55 No:00008921[申告]
>生きたまま破砕機かなんかに詰め込まれて、苦しみながらぐずぐずになってくれよ

ここを他人に委ねてるあたりが虐待派から見ても不快な夫婦だよな
そう思ってんならティッシュにでも包んでボキボキっと握り潰してからトイレに流せばいいだけの話なのに
結局は二代目ジソコがその処理をする羽目になってるし
エゴ以前の問題として責任逃れ癖が酷すぎるわ
娘が大きくなってもなんか問題が起こったらお互い責任をなすりつけ合った挙句に離婚しそう
8 Re: Name:匿名石 2024/03/20-02:38:44 No:00008922[申告]
躾済みの癖に糞を垂れ流すジソコはもう根本的に糞蟲だと思う
野良じゃないので毎日風呂も着替えもさせて貰ってただろう
それを糞を漏らして毎日汚す
対応する両親の困った顔に気づかないはずがない
ジソコは共感性がないのではなくて「それを特権だと満喫してた」のだろう糞蟲だから

ただ翠は作中で言われている通り本当に実装の上位互換なので
普通の感性なら翠だけで良いし実装はやがて駆除されると思うこの世界だと

胸糞とかはわたしは感じなかったな しょうがないよなって思う
9 Re: Name:匿名石 2024/03/20-03:24:08 No:00008923[申告]
スレで感想間に合わなかった、保管ありがとう!
父親なんてひどいやつだ!と思ったけど全て娘のためを思っての行動なのよね
じゃあなゴミクズは酷くて笑うけど、旧ジソコのこと愛情も微塵も感じてなくて、どうでもいいというより厄介払いできた感じが伝わって来てすごくよかった
ほんと語らせる名作
10 Re: Name:匿名石 2024/03/20-04:24:28 No:00008924[申告]
実装の本質的な部分として糞蟲的思考や衛生問題は常に付き纏う
でもそれは躾や本石の経験や気付きによってある程度回避は可能場合が多い
元ジソコにはどれも無かった自覚も機会も、結局行き着く先どっち道破滅だったかもしれない
よく調べもせずに飼い途中で排除するエゴ、実翠石に重責を担わせたエゴ、娘の為とはいえ自らの傲慢な行為には気を病んだはずだ
最後の夫婦と実翠石の共犯から始まる関係性はペットの域を超えてて何処かザワつかせるものがあって面白い作品だった
11 Re: Name:匿名石 2024/03/20-04:24:29 No:00008925[申告]
実装の本質的な部分として糞蟲的思考や衛生問題は常に付き纏う
でもそれは躾や本石の経験や気付きによってある程度回避は可能場合が多い
元ジソコにはどれも無かった自覚も機会も、結局行き着く先どっち道破滅だったかもしれない
よく調べもせずに飼い途中で排除するエゴ、実翠石に重責を担わせたエゴ、娘の為とはいえ自らの傲慢な行為には気を病んだはずだ
最後の夫婦と実翠石の共犯から始まる関係性はペットの域を超えてて何処かザワつかせるものがあって面白い作品だった
12 Re: Name:匿名石 2024/03/20-09:02:03 No:00008928[申告]
共通している事としては皆不幸から逃れたがっている事だね

夫妻は自分たちを不幸にしてる実装を処分したかった
実翠は大水槽に移される恐怖を消すべく実装をさっさと始末した
実装は捨てられてしまった事実を認識しようとしなかった

そう見ていくと娘は不自然の塊な二代目の言葉を信じたのがそれだと思うんデス
汚い仔実装の言葉を信じたら不幸になってしまうからこそ二代目を信じた、ということなんじゃないかと
13 Re: Name:匿名石 2024/03/20-15:04:53 No:00008931[申告]
何時の日かバレて全員不幸になって欲しい
14 Re: Name:匿名石 2024/03/20-15:43:20 No:00008932[申告]
初代ジソコを切り捨てたことでいい方向に向かう展開だと思ってる
少なくとも娘と二代目ジソコは幸せになってほしいわ
15 Re: Name:匿名石 2024/03/20-21:52:35 No:00008933[申告]
思いのほか早い二代目のお役御免
自分の立ち位置や求められている物を正確に把握できる頭の良さが却って苦悩を生みそうですね
パパさんママさんはペットして可愛がってあげて欲しいな
16 Re: Name:匿名石 2024/03/20-23:47:17 No:00008934[申告]
夫婦破滅してよ〜
17 Re: Name:匿名石 2024/03/21-02:20:03 No:00008935[申告]
処分理由が理由だからどう足掻いても娘の入学前までの運命という
買われた時点で詰んでるが買われてなきゃそのまま死んでたジレンマ
あるいはそのまま死ねた方が良かったのか
18 Re: Name:匿名石 2024/03/21-15:12:40 No:00008937[申告]
スレ投下の時より父親の心情がわかるようになってる!
どうせなら車でちょっと遠い場所にでも捨てて来れば良かったのに…まあ殺さないのも含めて
実装への理解が足りてない一般人って見るとこんなもんなのかもしれないね
旧ジソコはちょっと可哀そう…って気持ちと早く死ねや糞ひり出し仔蟲がって気持ちが同時に現れる良い実装だったと思います
ちゃんと役目を十分に果たしてた新ジソコはほどほどに平和に暮らしていけるといいな
19 Re: Name:匿名石 2024/03/25-18:33:50 No:00008950[申告]
色々覚悟キマッてないとサンドバッグなんかにしないでしょ家中尋常じゃない糞まみれになる
リンガルは特に違和感は無いと思うけどなあ
室内飼いの場合、しかも子供や家人とのコミュニケーション必要なら尚更
虐待派や意図的に実装の主張を排除したい者とかじゃない場合以外は特に翻訳をオンオフする必要が無いからね
連中は言葉が通じないと解ってるとロクな事言わないし糞蟲化の前兆を見逃す事になりかねない
リンガルと可能なら見守りカメラ併用でお前の動向は筒抜けだからなって緊張感持たせんと安心して家に入れられない
勿論あえて実装の言葉シャットアウトするスクは好きだけど
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