■ 「そうだ、私ちょっと用事を済ませてくるから。エメラルドはここで少し待ってて」 広大な双葉公園の中央広場。女性はフリフリの服を着た涎だらけの仔実装にそう言った。 大量の金平糖と高級実装フードの袋を押し付けるようにエメラルドに持たす。 「テッチュウーン!!」 エメラルドは醜く皺の刻まれた歪んだ表情を一瞬で笑顔に変え、飛び跳ねて飼い主に媚びた。 飼い主の女性は、その顔すら見ようともせず、足早に駆け出して行く。 ピンクの実装服に高級な餌をいっぱい持ったエメラルドは、飼い主を待つことになった。 それを、野良のミドリは茂みからじっと見つめていた。 「捨てられたデスゥ。デププププ」 もちろん、ミドリの見立て通りだった。 エメラルドはまるで危機感もないまま、しばらく地べたに重い尻をつけて金平糖を貪った。 ピンクのフリフリ実装服がたちまち土に汚れていく。食べかすや涎でベタベタになる。 残飯や草や虫とは比べ物にならないくらいの、実装にとっておいしい匂いが辺りに広がる。 「美しいお嬢さんデス。双葉公園は初めてデス?」 ミドリは機を見てエメラルドに声をかけた。 すぐにほかの野良実装が集まってしまうだろう。 「汚い野良が話しかけるなテチ! すぐに奴隷ニンゲンがお前を殺すテチ! あっち行けテチ!」 エメラルドは自分よりも大きな体躯のミドリをまるで恐れず、激しく罵った。 ミドリはうやうやしく、まるでお姫様にかしずく従者のように笑顔でへりくだる。 「ここは陽射しが強いデス。せっかくの白い肌が焼けちゃうデス。いい日陰を知ってるデス」 ミドリは巧みに最短距離の茂みへとエメラルドを誘導した。何度もやって、慣れている。 「テチャアー!!」 茂みに入ってすぐにエメラルドが悲鳴を上げた。 ミドリの仕事は早い。エメラルドの首から肩をいきなり大きく噛みちぎった。 致命傷ではないが、それはたいした問題はない。目的は金平糖と高級実装フードだ。 「奴隷ニンゲン! 奴隷ニンゲン! 何してるテチ!! 高貴なワタチが汚い野良に襲われてるテチ!!」 人間は別に汚い実装の鳴き声など気にしないが、騒ぐほどにほかの実装の注目を浴びる。 ミドリはエメラルドの持っているフード類を袋ごと奪うと、中身の半分を辺りにばら撒いた。 手際がいい。 すぐに集まるほかの野良たちは残ったフードに群がるだろう。 ピンクのフリフリ服にも手をつけない。脱がされるなり、引き裂かれるなり任せよう。 「奴隷ニンゲン! 何をしてるテチ!! 早く来るテチ!!」 すでに目的は達成したミドリだが、最後の仕上げがあった。ここが狩りの醍醐味だ。 ミドリはわざわざ引き返すと、血を流し醜く悶えるエメラルドを蹴りつけた。 「ニンゲンは来ないデス。お前は捨てられたデス」 ニヤニヤと嗤いながらエメラルドを嘲った。 「そんなはずないテチ! 奴隷ニンゲンが来たらお前なんかすぐ殺すテチ! 死ねテチ!!」 元飼い実装には現実を受け入れる能力がない。受け入れたら終わりなのだ。 ますますミドリは嗤った。 「まだ飼い実装のつもりデス? うけるデス。お前はただの、捨て実装デス」 「ありえないテチ! こんなことあっていいはずないテチ! ニンゲン! 奴隷ニンゲン!!」 「聞いたデス? こいつは捨て実装デス! 捨て実装は惨めに死ぬだけデス。デプププププ」 餌の匂いに集まってきた実装たちに高らかに宣言して、ミドリは撤収した。 「テチャアアーー!!」 いっぱいのフードの袋を引きずるミドリの背に心地良い悲鳴が聞こえてくる。 「やめるテチ! 金平糖もフードも全部ワタチのものテチ!!」 「お洋服が破れるテチ! ビリビリテチ! これじゃもう着れないテチ! 奴隷ニンゲン!!」 「なんでワタチを殴るテチ! 齧るなテチ! 野良の癖に! 奴隷ニンゲン! 奴隷ニンゲン!!」 「痛いテチ! 今なら許すテチ! やめて下さいテチ! このままじゃワタチが死ぬテチィー!!」 「奴隷ニンゲン! 奴隷ニンゲン! 助けろテチ! 助けてテチ! 死にたくないテチィ!!」 どうやら野良たちはフリフリの服を奪おうとしたが、破けて裂けてダメにしてしまったようだ。 エメラルドはその怒りを一身で浴びることになったらしい、 「ヂッ」 ミドリは双葉公園の野良の中でも、優秀な捨て実装ハンターだった。 捨て実装のみに狙いを定め、その仕事はあくまで迅速。全てを奪わず後続に任せる。 こうしてほかのどの野良よりも食べ、貯えを増やし、成長してきた。 「実装石の日常」にも似たスクがあり、状況は似ていて、これはパクリではなくリスペクトである。 言い訳。 ■ 「ここが双葉公園だ。大きな公園ってのはだいたいこんな感じだ」 「デッスーン!」 その日もミドリは茂みからニンゲンと飼い実装を見つめていた。カモだった。 「野良の実装は決してお友だちなんかじゃない。生きるために足を引っ張りあう、敵だ」 「デスゥ……」 若い男の笑顔は歪んでいて、飼い実装に愛情などないとミドリは思った。これからあいつを捨てるのだ。 だが、少し様子が変だった。 「ここは広いし野良たちも飢えていない。わりと平和とも言える」 「デス」 成体の飼い実装は神妙な面持ちで頷いた。 毛並みはそこそこだが、普通の実装服だ。 裕福な飼い実装だろう? 我儘三昧だろう? どうしてこんなに地味なんだ。ミドリは訝しんだ。 「まあ、好きにしろ。とにかく、誰も信用するな」 「デッス」 「じゃあ、元気でな」 「デス!!」 飼い実装が深々とあたまを下げ、飼い主は去った。 ミドリは困惑する。何だ? これは何だ? 「飼い実装が、公園に何の用デス?」 しばらくして、ミドリは飼い実装に近づいた。 何しろ、飼い実装は公園の広場の真ん中でずっとキョロキョロしたまま何をする様子もないのだ。 「オトモダチデスゥ?」 飼い実装はまるでアホ丸出しの顔でそう返してきた。 ミドリは飼い実装を値踏みする。あたまがお花畑なのはわかる。 身なりは大したことない。多少フードも持たされているだろうが、せいぜい二日分程度だろう。 成体だが、出産の経験もなさそうだ。飢えを知らないから、糞喰いも共食いもわからないだろう。 糞蟲でないということは、賢いとか善良だとかにはならない。何も知らない馬鹿がいる。 「オトモダチじゃないデス」 ミドリは少し険しい顔で返した。 こいつは、苦手だ。苦手ということは、嫌いだ。 「でも話しかけてくれたデスゥ」 飼い実装はアホ丸出しで笑顔だ。 どうする? ミドリは考える。こいつは捨て実装か? そうじゃないのか? 状況から考えるとどう見ても捨てられた。その状況に気づかないお花畑だ。 「お前は飼い実装デス? なら名前があるデス。ワタシはミドリデス」 「ミドリサンデス? 初めまして、ワタシは『ゴミ』デス♪」 飼い実装は笑顔で返事をした。 「とにかく、こんなところにいたら危ないデス」 「この公園は平和だって聞いたデス」 「平和デス。でも明日はどうだかわからないデス。いいから来るデス」 「ありがとうデスゥ」 ミドリはゴミの手を引き、茂みを抜け、広場から離れ、遊歩道からも反れてさらに歩いた。 身長ほどもある草木の中をさらに歩いて、もっと歩いて、やっと同属の匂いのしない草むらの中、 ミドリのハウスはあった。 「おじゃましますデス」 「ダンボールハウスは初めてデス? お前にはさぞかしみすぼらしく見えるだろうデス」 「そ、そんなことないデス。ここはあったかいデスゥ……」 「ふざけるなデス」 しかし、ミドリとゴミがしばらく話すと、ゴミが暮らしていた場所は、 確かに人間の家だったが、ここより狭い水槽の中だったと言う。寒かったと言う。 「……ぶっちゃけて聞くデス。お前は飼い実装デス? 本当にニンゲンに飼われていたデス?」 ミドリが聞く。当初の飼い実装狩りの目的も忘れていた。それくらい、ゴミには財産がない。 ゴミは笑顔で答えた。 「ゴシュジンサマは虐待派デス。たくさんのオトモダチを殺したデス。ワタシは、たぶん飼い実装じゃないデス」 「どうしてお前は死ななかったデス? ていうか、どうして公園で離されたデス?」 ミドリは同情しているのではない。 長く捨て実装専門で狙い、襲ってきた。それは日々の糧や貯えを得るためではない。 飼い実装になりたかったのだ。 その方法は二つあった。 一つは、賢いワタシをいつか王子様みたいなニンゲンが救い出してくれること。 もう一つは、幸せな飼い実装を殺し、成り代わること。 ミドリの目には、ゴミは、幸せな飼い実装に見えていたのだ。 ■ 「ゴミという名前は、いらない子という意味デス。でも、いらない子だから、虐待もされなかったデス」 「信じられないデス。虐待派から虐待されないって、普段どんな感じになるデス?」 「お水もご飯もないデス。治らないように焼かれたりはしないデスが、切られたり刺されたりするデス」 「そ、それでどうやって生き延びたデス。仔実装からどう成体になったデス」 「ウンチ食べたデス。死んだオトモダチ食べたデス」 「マジかデス」 ミドリは諦めた。 こんな奴に成り代わっても、幸せな飼い実装にはなれない。 ゴミにはなんの利用価値もなくなった。 「それで、お前はなんでここにいるデス? 捨てられたデス? じゃないなら、何が起きてるデス?」 ゴミは答えた。 ご主人様が上機嫌で言った。虐待を耐えた褒美に願いを叶えてやると。 (ゴミの虐待されてなかったという認識は誤りだった) 「公園を見たいと言ったデス。実装が産まれ、育ち、生きていく場所が見たいと言ったデス」 「公園に住むから、お前は捨てられたデス?」 「そこはわかんないデス。今のワタシが公園で生きていけるはずがないデス。数日でいいから見たいと言ったデス」 「お前の飼い主は何て言ったデス? 許可したからここにいるデス」 「そうデス。どうせすぐ死ぬと言われたデス。同属に喰われておしまいデス。ワタシはそれでも良かったんデス」 そういうきれいな思い入れや感傷はどうでも良かった。大事なことは。 「ニンゲンは、迎えに来るデス?」 ミドリは唾を飲み込んだ。 欲しい答えがそこに待っていたから。 「三日後に見に来ると言ったデス。どうせ死んでいると言われたデス」 ■ 「これを着るデス」 ミドリは貯えからピンクのフリフリの実装服を取り出してゴミに与えた。 「これは、貰えないデス! 高級なやつデス!」 「いいから着替えろデス。お前の服は汚くて臭ってるデス。ニンゲンは汚い実装が嫌いデス」 理屈で言い含めると、ゴミは着ていた深緑の服を脱ぎ、ピンクのフリフリの実装服に袖を通した。 その肌触りに、しゃらんと流れるスカートに、贅沢なフリルに夢中になった。 「お姫様になったみたいデスゥ」 「じゃあお姫様は食事を摂れデス。ガリガリに痩せた実装は醜くてニンゲンは嫌うデス」 ミドリは高級実装フードを出した。金平糖も三粒混ぜた。 「これは…!! これはおいしいデス! おいしいなんてレベルじゃないデス!! 天国デス!!」 最初は何か疑うかのように恐る恐る手を出し、毒見をするように齧り、その味に跳びはねて。 まさしく美味の虜になった。 頭から行って、犬喰いだ。唾液も食べ物の欠片もまき散らし、ガツガツと喰い漁る。 虐待されていたというのは本当らしい。ゴミは絵に描いたように堕ちた。 ゴミはフードを半分食べ、その後は涎を垂らしてずっと金平糖を舐めている。 ずっとだ。高級なピンクのフリフリ実装服はあっという間に涎でベタベタになった。 「残ったフードはいらないかデス? いらないなら下げるデス」 ある期待とともに問うミドリ。 「いらないデス。この金平糖に比べたら、まずいフードなんてゴミそのものデスゥ」 バカなのも、虐待されていたのも事実だったのだろう。 即堕ちだ。 ゴミはすっかり、糞蟲の本性を丸出しにした。 「もっと寄越すデス! これっぽっちじゃまるで足りないデス!!」 歯を剥き出して、言わば恩人のミドリに叫ぶゴミ。 ミドリは少しだけ嘆息すると、口元を醜く歪め、ゴミの顔面を蹴った。 「デギャ!」 「ただで餌が貰えるわけないデス。今のはワタシの好意デス。これ以上お前にやる理由がないデス」 ミドリはゴミの全身を改めて値踏みする。 虐待されていた、切られたり刺されたりしたが焼かれなかった。 確かに、ゴミの体は貧相だが、髪も服も健在だった。 実のところ、ほんの少しだけアホ丸出しのゴミの性質に、ほぼ捨てられたも同然の身で ヘラヘラしていることに、初対面のミドリに無警戒にオトモダチなどと言ったことを、 ほんの少しだけミドリは好ましく思っていたのだ。 もしかしたら初めての感情だったかもしれない。 だが、目の前のゴミは今、こうだ。 「金平糖くださいデス! 何でもするデス! でもこのフリフリの服はもう返さないデス!!」 目は血走り、舌は出しっぱなしで涎をまき散らし、要求だか物乞いだかわからない状態だ。 「糞蟲は簡単に贅沢に堕ちるデス」 ゴミをさらに三発殴って転ばせた。 起き上がるゴミの目は糞蟲のままだ。虐待されていただけあって、痛みには慣れているらしい。 痛みは日常で、飢えは日常で、だから今のウマウマに執着している。 しかし、もはや正気ではなく、まともな会話も成り立たない。 「金平糖をくれてやってもいいデス」 「本当デス!? よこせデス!! 何でもするデス!!」 「ワタシがお前に金平糖を一つやるごとに、お前の髪をむしるデス。抜けた髪は二度と戻らないデス」 ■ 甘味の虜になったゴミは簡単にその条件を受け入れた。 もともとバカな上に、虐待下の状況にいたのだ。ゴミには自尊心も常識もなく、 転げ落ちた精神は無軌道で、破滅的だった。 ゴミの髪をひとふさ、またひとふさひっこ抜きながら、 ミドリはまるでニンゲンの虐待派のようなことをしているデス、と思った。 名前を与えられているだけあって、かつてのミドリは飼い実装だった。 ニンゲンを知っているし、共に暮らした経験もあり、虐待もされ、そして今はただの捨て実装だった。 それでも、実装の本能が、ニンゲンを求めてしまう。 飼い実装の夢を追い求めてしまう。 ミドリがゴミと暮らしたわずか三日の間に、 ピンクのフリフリの実装服を着たゴミの頭は完全に無毛に、禿になっていた。 「金平糖を下さいデス! 金平糖が欲しいデス! よこせデス!!」 ゴミにはもう対価として差し出す髪がないのだ。 ミドリは腹いせに毎日ゴミを殴打していた。 ゴミの顔は、皮膚は内出血で真っ黒だし、血ぶくれでどこもかしこもパンパンだ。 けれど、虐待が日常なゴミは全然気にしていなかった。金平糖され貰えればそれでいいのだ。 「お前と遊ぶの飽きたデス。残りの金平糖が欲しければ、お前はワタシに、」 ミドリは言った。 「お前の名前を寄越すデス」 「名前をデス? ミドリちゃんがゴミちゃんになるデス?」 ゴミはバカなのかそうじゃないのか、話が早かった。 「いいデス! これからはミドリちゃんがゴミちゃんデス!!」 あっさり了解した。けれど。 「……ワタシがゴミじゃなくなったら、ワタシはじゃあ、何になるデス?」 ミドリは元ゴミをこれ以上ないくらい全力で蹴りつけ、ハウスの外に追い出し、 首を掴んでめちゃくちゃに走れるだけ走った。 そこで再び元ゴミの顔面を殴ると、その後、約束通りため込んでいた金平糖の全てを渡す。 「お前は、ただの糞蟲デス」 そうして、ミドリは「ゴミ」になった。 ■ 「ようゴミ。約束の三日後だ」 ニンゲンが現れたのは実際は七日後だった。 「飲み会が続いたんだよ。悪かったな。で、どっちがゴミだ?」 三日目に、中央広場で延々と待っても来なかったニンゲンへの怒りに、 元ミドリこと現ゴミは、元ゴミことただの成体実装を捨てた場所へ戻っては殴打を加えた。 ピンクでフリフリで禿の元ゴミは、痛がりこそしたが、そこまで気にしなかった。 袋ごと貰った金平糖を舐めること以上に大切なことはないし、金平糖の量は何日分もあった。 「話が違うデス!」 とか言いながら毎日元ゴミを殴打する元ミドリ。 そんな二匹の前に、突然本当に飼い主が現れたのだ。 「デスゥ……」 実装からしたらあまりにも巨大なニンゲンを見上げる元ミドリ。現ゴミ。 「ゴシュジンサマデス」 金平糖を舐めながら、一瞬記憶の繋がったボケ老人のような反応をする元ゴミ。 「おーおー。きったねえピンクの禿だな。どこから金平糖手に入れた? こっちのお前もみすぼらしいな。それ、ゴミの服じゃねえか」 ニンゲンがニヤニヤしている。 どっちがゴミか、聞かれているのだ! 元ミドリ、現ゴミは右手を挙げた。 「ワタシがゴミデス!! ワタシがゴシュジンサマの飼い実装デス!」 そう高らかに叫んだつもりだった。 そのはずだったのに。 元ミドリ、現ゴミは挙げた右手を頬に当て、小首を傾げて、 「デッスゥーン♪」 媚びていた。 まさかの。自分でも知らないうちに。 「デスーンじゃねえよ。仔実装ならまだしも、なんだお前キモい」 ニンゲンの容赦のないヤクザキックが元ミドリ、現ゴミの顔にめり込んだ。 「デビュフッ!!」 久しぶりに味わう暴力だった。元ミドリは何メートルも飛ばされて血と糞の噴水を上げた。 「それで? どっちがゴミだ?」 「デスッ」 ワタシデス。ワタシがゴミデス! 鼻血を出し、歯の折れた口から血と涎を垂れ流しながら、元ミドリは立ち上がってそう答えた。 「本当か? なあ、どうなんだそっちのお前?」 ニンゲンが元ゴミに覆いかぶさって聞く。ニヤニヤしている。 「デス」 元ゴミは短く本当デスと答えた。 とにかく、金平糖を舐めるのに忙しいのだ。それ以外はどうでもいい。 「そうかそうか。まあいいいや。ゴミ、よく生き延びたな」 ニンゲンは薄笑いを続けながら、元ミドリの頭に手を伸ばして撫でた。 元ミドリはデスゥ、と鳴くのが精一杯で、ものすごく久しぶりのニンゲンの手の感触に夢見心地になった。 「そうかそうか。まあいいや。まあいいけど、何だこの状況?」 ニンゲンはヘラヘラしながら、けれどもちろんどっちがどっちか分かっていた。 「成り代わり」が目の前で起きているが、どうやらどちらも納得づくのようだ。 大体、ゴミを殺して成り代わっていない以上、俺が虐待派だってことは伝わっているだろう。 ゴミも、禿にこそなっているが、こ汚ねえピンクのフリフリ服を着て、金平糖を貪っている。 糞蟲の間で、どんなやりとりがあって、こうなったかは知らないしどうでもいい。 が、これからどうするかだ。 ニンゲンはニヤニヤ笑いながら二匹を見下ろしている。 「デスッ」 ニンゲンを憧れの王子様のように見上げる現ゴミ。 ニンゲンからすれば、実装の遊べるピークをとうに過ぎた汚い成体でしかない。 大体、実装の希望をことごとく無視することこそが虐待派の醍醐味だろう。 じゃあ、自分がゴミデスと、連れ帰ってまた一緒に暮らすデスと目をキラキラさせている自称ゴミの、 その期待に答えてやらないことこそ、虐待派だとニンゲンは思った。 ただ、珍しい状況に、気の迷いが起きた。 「正直どっちがゴミかわかんねえな」 ■ 「デジャアァァァァ!!」 めちゃくちゃに針を突き立てられている元ミドリ。ここは念願のニンゲンの家だ。 狭くて汚くて貧しそうなワンルームだった。 「俺が虐待派だって知ってたろ? 何で成り代わってまで飼われたがるんだ?」 「テギャ。デ。デッ。デスーン♪」 ついついニンゲンに媚びてしまう元ミドリ。さらに苛烈な虐待を浴びる。 「デスゥ。デッスーン♪」 公園ではそこそこ賢く立ち回っていた元ミドリだ。 自分でもどうしてここまで馬鹿になってるのかと思いながらも、媚びる声が止まらない。 虐待は止まない。 ニンゲンに飼われる、飼い実装になる。 それこそが最終目標だ。 だから、今が正しい。 どんなことになっていても、飼われている今が正しいのだ。 元ミドリはそう心から思いながら、ゴミデス、ゴシュジンサマのゴミデスと叫び続け、 媚び続けるのだ。 「デジャアアアアア!! デジャアアア! 返すデス! 殺してやるデス! 絶対に殺してやるデスゥゥ!!」 一緒にニンゲンに持ち帰られた元ゴミの変貌は驚くほどだった。 わずか三日で(七日だ)ここまで変わるのか、とニンゲンはびっくりした。 元ゴミはあまりにも反抗的で、攻撃的で、ことあるごとに叫び、威嚇を続ける。 あまりに手に負えないので、早々に四肢を落とし、飲まず食わずで吊るしているが、 それでも元ゴミの憤怒の形相の威嚇は止むことがない。 「デジャアアアアアアア!!」 「すげえな。うるせえ。これ普通ならとっくにもう死んでるだろ?」 「デギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」 ニンゲンは、ついでに元ゴミを連れ帰る際、一緒に金平糖の袋を持ち帰らなかった。 ニンゲンにとっては、たかが菓子だ。 しかも、とっくに汚い実装の唾液でベタベタになっている。 袋の中にいくら残っていようが、ゴミはゴミだ。 しかし、家に持ち帰ってからずっと、元ゴミは狂ったように威嚇を繰り返しているのだ。 「返すデス! あれはワタシのデス! ミドリちゃんと約束して、貰ったものデス!!」 「デジャアアアアアアアアアアアア!!!!」 「ワタシのデス!! ワタシのコンペイトウデス!! ワタシのシアワセデス! あれ以上のヨロコビなんてあり得ないデス!!」 「デジャアアアアアアアア!!!!」 「それをそれを、お前は、お前は!! 奪いやがって!! 絶対に許さないデス!! 死ねデス!!」 「デジャアアアアアアアアアアアア!!!!」 「あーあー。うるせえうるせえ。いいから早く死ねよお前」 ニンゲンは元ゴミを、たまたまあった「ひっぱりだこ飯」の空ビンの中に頭から突っ込むと、 ティファールの電気ケトルの熱湯をひたひたに注いだ。 「アガガガガガガガ。デジャアアアアアアアアア」 手足を落とされて熱湯の海に頭から沈められてなお、元ゴミは声を限りに絶叫し続けた。 おしまい ■ 13年越し@ijuksystem さっき三時間くらいでかけましたが推敲はしませんする余裕がないです! このあと昼間寝たら今日は夜勤なのデスゥ。 またかくデスゥ。よろしくお願いしますデスゥ。
1 Re: Name:匿名石 2024/03/12-12:20:05 No:00008892[申告] |
人間に寄り添わないと生きていけない実装石の哀しき性 |
2 Re: Name:匿名石 2024/03/12-14:30:41 No:00008893[申告] |
知能高めで虐待派と理解してても飼われずにいられない媚びずにいられない
元ミドリ特有の性質なのかな |
3 Re: Name:匿名石 2024/03/12-19:35:07 No:00008894[申告] |
ニンゲンを求めてしまう本能がある実装いじましくも図々しくて好きすぎる |
4 Re: Name:匿名石 2024/03/12-20:50:20 No:00008895[申告] |
良個体に見えてあっさり堕ちたゴミもおもしれえ
所詮糞蟲 |
5 Re: Name:匿名石 2024/03/12-21:47:49 No:00008896[申告] |
飼われる事を終着点にしてる時点で未来は無いわな
虐待派にしてみたら変化を期待してつまらないアホを放置していったら 薄っぺらい知性を纏った糞蟲と贅に堕ちた糞蟲2匹が返って来たって感じか、得したね |
6 Re: Name:匿名石 2024/03/21-15:18:09 No:00008938[申告] |
人間と絡んでしまって今までのような感情の制御が出来ず
本能のままに媚びちゃうの悲しさすら感じてしまいそうで好き |
7 Re: Name:匿名石 2024/09/16-19:21:21 No:00009339[申告] |
意味不明ゴミ |