■ 「テチャァー!!」 土砂降りのある日、飢えた仔実装姉妹が古民家の門の前までなんとか辿り着いていた。 「家テチ! ニンゲンの家テチ!! ここで飼ってもらうテチ! 飼い実装になるテチ!!」 仔実装の妹が叫んだ。目の前も霞むほどの豪雨だった。 地面が草木か土かアスファルトかも分からない中、人家の前まで辿り着けたのはまさに奇跡だった。 「テチャァ…」 姉は閉じた錆びた鉄の門の奥を睨む。田舎特有の、家までの長い距離。というか、家が見えない。 土砂降りはますますしぶきを上げ、仔実装姉妹を容赦なく叩きつけ、視界も気力も奪っていく。 「向こうに行けないテチ! ニンゲンは目の前なのに行けないテチ!」 姉が叫んだ。鉄の門は古びていて、別に閉じてはいなかったが、それに気づけないのが実装だ。 「嫌テチ! 寒いのはもう嫌テチ! お腹ペコペコももう嫌テチ!!」 泣きじゃくる妹。雨は激しく冷たい。絶望に座り込んだ姉は一つとして希望の言葉をくれない。 「終わりテチ! ワタチタチはここで飼い実装になれないまま終わりテチ!!」 姉が血涙を流して叫ぶ。 「死ぬのは嫌テチ! 絶対嫌テチ! ワタチは飼い実装になるテチ! 楽園に行くテチ!!」 しかし、どこにそんな力が残っていたのかという勢いで駄々をこね続ける妹。 飛び跳ね、鉄の門を叩き、転び、イヤイヤと喘ぐ。豪雨の勢いは収まらない。首まで泥に染まる。 「妹チャ…。もう限界テチ。ここで終わりテチ。諦めるテチ」 姉は雨水に頭を半分浸かりながらぶくぶくと言った。体が寒い。息が苦しい。死が目の前にある。 「嫌テチ!! 嫌テチ!! お腹すいたテチ!! あったまりたいテチ!!」 「諦めるテチャァ……」 未だ激しく跳ね回る妹を抱きしめようとして、再び泥の中に転がり沈む姉。 「オネチャ!? オネチャ嫌テチ!! 嫌テチ!!」 まるで反復横跳びのように飛び跳ねる妹。どこにそんな力が残っているのか。妹もとっくに限界だ。 やっとのことで抱きしめる姉。妹の体温も急激に失われていく。 死ぬ? いよいよ死ぬ? 「死ぬのは嫌テチャャァーーー!!!!」 叫んだのは姉だった。 泥から顔を上げ、無駄に跳ね、まるで意味のないジャンプを繰り返しながら叫び続けた。 たとえ体力を消耗するだけだとしても、実装石のサガに「甘んじて死を受け入れる」はないのだ。 「オネチャ! オネチャ! よかったテチャ!」 妹も跳ねて手を叩いて喜ぶ。飢えた限界の体で全身から喜びを表現する。意味のないことだ。 チリィ儚い実装たちはこうして誰にも気づかれることなく死んでいく。公園で。道端で。草木の隅で。 残酷で、しかし美しい自然の摂理だ。様式美だ。 しかし。 奇跡はまた起きた。 「オウチが! オネチャ!! オウチがあるテチ!!」 妹がちょうど門の前、屋根のある小さなハウスを見つけたのだ。 それはドーム状で、横に入り口があって、屋根があって。雨をしのげる形状だった。 「妹チャでかしたテチ!!」 死ぬ死ぬ言ってたはずの姉が、跳ねるように飛び我先に中に入る。 遅れて妹も続いた。 「あったかいテチャァ…」 「生きてるテチ…」 ざあざあざあざあ。 未だ豪雨の音が響き続ける。 しかし、このハウスには屋根があり、入り口も地面から高さがあり、水の侵入がない。 濡れていないというだけで、ずっと中はあたたかい。 ダンボールハウスより少し広い。 壁はニンゲンが作ったプラスチックで頑丈であたたかい。屋根が雨を弾く音がたのもしく思える。 いのちを繋ぐ安心感があった。 潜り込んだ仔実装姉妹たちは、ここは安全だと思った。 本能が忌避する怖いケモノの匂いがあるが、それはもはや薄れつつあり、過去のものだと感じた。 つまりここは、捨てられた猫トイレの中だった。 「ウマウマがあるテチ! 山ほどあるテチ!!」 「おいしいテチ! おいしいテチ! 最高テチ! 幸せテチ!!」 豪雨の中、けれどもう濡れない。湿度もあって中は驚くほどあったかい。 そこで実装姉妹は一緒に入っていた猫餌を思う存分貪り喰らった。 とんでもなくおいしかった。命の味がした。 実装姉妹は絶望から一転、まるで楽園の住人になったかのよう。幸せを享受した。 飼っていた猫を失った家主の老夫婦たちは、ゴミとして出した猫トイレの中に猫餌も入れていた。 或いは、黄泉路もおなかいっぱい行けるようにと考えたのか。 都会だったらカラスや実装被害もあって批判に晒されたかも知れないが、ここは田舎でご近所もいなかった。 降り続く雨音をまるで子守歌に、おなかいっぱいになった実装姉妹は眠りについた。 翌日からはうって変わって晴天になった。 地面は乾き、空気はあたたかく、実装姉妹の前途を祝福するかのように、お天気になった。 「喉が渇いたテチ」 「お水飲むテチ」 豪雨の後の田舎のあちこちには普通に水たまりでいっぱいで、仔実装姉妹は頭から飛び込んでがぶ飲みした。 「ウンチ出るテチ」 「漏れるテチャァ!」 猫トイレことハウスを飛び出した姉妹たちは思い思いの場所で排便した。 このハウスにはトイレがないが、なに、外は永遠に広がるワイルドウェストだ。 ハウスはほぼ楽園だったので、ハウスだけ無事なら何も問題なかった。 仔実装姉妹たちはいつしか、門の奥のニンゲンの家のことも、そこで飼い実装になりたいという欲も忘れていった。 「あら? 可愛い店子さんね」 ある日、腰の曲がった老婆が猫トイレ内の仔実装たちを見とがめて微笑んだ。 燃えるゴミを出していた。 仔実装姉妹は飛び上がって震えた。何しろ、初めて見るニンゲンだ。 飼いになるとかのレベルじゃない。目の当たりにしたニンゲンは天より高く、足が伸びるだけで潰される。 とんでもない恐怖だった。頭を抱えて地面にひれ伏し怯えた。 しばらくの後、燃えるゴミを回収にきた軽トラの姿もとんでもなく怖かった。 ハウスの中でウンチを漏らし、それを外に掻き出すだけで一日が終わった。 しかし、古民家の老婦人は猫トイレ内に住み着いた仔実装姉妹を悪くは思わなかったようで、 日々寝る前に猫餌をつぎ足してくれた。 仔実装姉妹はますますこの猫トイレを楽園と信じ、ハイテンションで日々を過ごした。 「死ぬテチ! 死ねテチ!」 「お前なんかこわくないテチ!!」 おなかいっぱい、気力充分な仔実装姉妹は、そこそこに充実し増長し、 迷い込んだカマキリの子を踏み躙り、ズタズタに引き裂いて殺し、楽園にある自身の幸せを確認した。 ある日の夜。 「妹チャ。ママのことを思い出してたデス」 猫餌を貪りながら、姉はとつとつと語る。成体になり、声変りをしていた。 ここの家主は飼い猫を失ったのだ。自身が老いていることも踏まえ、次を飼うことをせず、人生の清算に入っていた。 「ママは『渡り』をすると言ったテチ」 妹が目を細めて、懐かしそうに答えた。飢えることがなくなったからか、その態度には余裕がある。 「そうデス。ワタシタチは公園に住むものデス。でも、何か理由があって、ママは公園から『渡り』をしたデス」 「ママはバカテチ。お外はめちゃくちゃで怖くて、結局ママも死んでどこにも行けなかったテチ」 「ワタシには分かるデス。生きることは大変で、生きるためにママはきっと公園を捨てたデスゥ」 「生きることは大変かもテチ。だからニンゲンを見つけて飼い実装にならなきゃテチ!!」 姉実装は微笑んだ。 「そうデス。それこそが実装の幸せデス」 燃えないゴミの日が来た。 この地域は月に一度きりなのだ。 トラックは実装姉妹ごと楽園の猫トイレを積み込むと、やがて集積所へ着き、 ガチで燃えないゴミとの分別を逃れて、超高温の焼却炉行きとなった。 13年越し@ijuksystem ほとんど記憶にないですが一月にかいていたらしいスクも発見したので投稿します。 まるで推敲もしていません。ごめん。 次はちゃんとしたのがかけるとイイナ!!
1 Re: Name:匿名石 2024/03/09-12:49:15 No:00008876[申告] |
不相応なシアワセを享受しながらさらなる高みを求めた矢先に焼却
ザマミー |
2 Re: Name:匿名石 2024/03/09-13:08:20 No:00008877[申告] |
ビバークどころか成体まで居座った挙句処分場まで執着してんのか…
まあロクに生きる知恵の継承もされてなさそうだしね 母実装の決死行における開拓精神はここに完全に弊えた |
3 Re: Name:匿名石 2024/03/11-18:13:50 No:00008888[申告] |
糞蟲のもがき苦しむサマがねえぞ? |
4 Re: Name:匿名石 2024/04/02-20:24:05 No:00008980[申告] |
このままならよくわからない内に焼却されてあまり苦しまずに死ねそう
最後まで幸運な仔たちだ。よかったねぇ! |