■ 実装ショップで躾け済み仔実装を三匹買った。 みんなテチャテチャ鳴いてて小さくて可愛い。 ラッピングされたケーキ箱のような入れ物の中でも、暴れたりせず、媚びたりもせず、もちろん粗相もしない。 よく躾けられた個体だった。 赤緑の瞳をキラキラさせている。 帰り道、揺れる車の助手席。箱は開けられ仔実装たちには外が見える。 私は車を運転しながらたまにのぞき込む。みんな笑顔だ。そろって私を見上げている。 少しでもご主人様に気に入られようと。これからの幸せな飼い実装生活を想像しているのか。 「テチャアアー!?」 仔実装たちはリビングに入るなり悲鳴を上げた。 私が飼っているたくさんの禿裸の実装石たちを目の当たりにしたからだ。 リビングの真ん中を、私は育児用のベビーゲートで仕切っている。広さにして四畳半くらい。 床は掃除がしやすいようにビニール加工のマットを敷き詰めてある。 その空間に水槽が三つ。 飼い実装のためのハウスだ。 ハウスの中にはバスタオルもトイレも水も、実装フードも金平糖まで準備してある。 けれど、その水槽の外の空間、ゲートの中には飢えた禿裸が20匹、血涙を流しながらイゴイゴ蠢いているのだ。 みんな、ハウスの中の水やフードや金平糖に涎を垂らして、あるいは体当たりをして、なんとか食べられないか、 餓鬼のように膨れたお腹と枯れ木のように細くなった手足をぱたぱた揺らせているのだ。 「テッチャ…」 ご主人様、と飼い実装たちが私に問うた気がする。リンガルは見ない。私の言葉だけ伝わればいい。 「私の家へようこそ。名前をあげるね。君はイチ。君はニ。そっちの君はサン。よろしくね」 一匹づつ目を合わせてあたまを撫でる。少し嬉しそうだった。チョロい。 イチ、ニ、サンをそれぞれの水槽に入れた。 「今日は初めましてだから、もう少ししたらお風呂にするね。それまでご飯食べてて」 言ってるそばから、禿裸実装たちが水槽の壁をガンガン叩いている。 水槽は頑丈なやつだから、倒れないし割れない。大丈夫なやつ。今まで何度も試したのだ。 三匹はなんとか最初の食事をした。飢えた禿裸の罵倒や訴えの洪水の中で。 躾け済み実装にとってご主人様の言葉は絶対だ。 「オエップ」 ニが吐いた。 慌てて吐瀉物に口をつけて自ら舐め取った。きれいに、なかったことにした。 いい子だ。私は咎めない。 金平糖に口をつけたのはサンだ。 ショップの仔実装でも滅多に食べられないか、もしかしたら初めての味。 一粒食べて多幸感にしばしトリップしている。あるいは、この状況からの逃避行動か。 誰も漏らしていないのは好印象だった。値段だけはある。 「ご飯食べれた? じゃあ、お風呂にするねー」 三匹の水槽よりさらに大きな水槽を私は運んでくる。 浴室や洗面所には行かない。このリビングのゲート内にどかっと置いた。 降ってきた水槽に潰されまいと禿裸たちが散り散りになった。 その中へ三匹を入れる。 中には赤ちゃんを沐浴(入浴)させる時に使う器具。そこに寝かせて、お湯をかけたり洗ったりするための。 本来は赤ちゃん一人のためのものだけど、仔実装なら何匹だって乗せられる。 これからいっぱいお湯をかけるから、溺れないための台の役割。そのためだけに置いてる。 「シャワーだよー。あったかくなって、あわあわになって、きれいになろうねー」 浴室から引いてきたシャワー、というかケルヒャー的な掃除用具で、私は三匹の仔実装を洗った。 実装用のシャンプーとソープで髪も体も洗う。ショップの実装なので、もともとそんなに汚くない。 あわあわにして、きれいにした。 シャワーは水槽内で排水されないので、終わる時には仔実装たちの腰まで水位が上がっていた。 禿裸実装たちが水槽の壁を叩いている。 「テチャァ……」 イチが私に何か言った。禿裸実装たちを見ながら。私は聞こえないふりをした。 「はーい。タオルふわふわー」 三匹を順番に抱き上げると、洗いたてのタオルでそれぞれ拭いた。 丁寧にドライヤーをし、ショップで買ったフリフリの実装服を着せて、水槽に戻し、金平糖も足した。 「また明日。いっぱい遊ぼうね」 私はそう言うと、リビングの電気を消して、自室に戻った。 もちろん本当にこれから寝るけど、私はリンガルの録音はきちんと撮っておく。 おやすみなさい。 ■ 翌朝。 今日は休日だけど、私は早起きしてリビングに行く。 20匹の禿裸たちだけど、数が減っている。 飢えて死んだのだろうけど、共食いの形跡もある。固く禁じていたはずだ。 水槽の中のイチとニとサン。 昨日と比べて様子は変わっているかな? 答え合わせをしよう——。 洗面所で顔を洗って髪に櫛を通すとリビングに戻り、淹れたてのコーヒーを片手にリンガルのログを見た。 「テヒャー。テッチャ。テチャ!」 お腹ペコペコテチ。もう死んじゃうテチ。コンペイトウを、フードでもいいテチ。こっちに投げてテチ」 「テギャアー!! テッヒャアー!! チャー!!」 このニンゲンは悪魔テチ! どうせお前たちもすぐ殺されるテチ! 逃げる方法を一緒に考えろテチ!! 「デスデスデスデス! デスデスデス!」 公園に帰るデス。子供たちがお腹を空かせてるデス。お前たち出口を開けて下さいデス! 「テッチュウ! テッヒャ! テギャア!!」 もうウンチ食べたくないテチ! ご飯を、ご飯を下さいテチ! お願いしますテチ! 「テプププ。テヒ。テッヒュ。テッチューン」 死んだ糞蟲はワタチのオニクテチ。今日もお腹いっぱい食べて、お前もいずれ喰うテチ。ワタチのために死ねテチ! 「テチュ。テチュ。テッチューン」 ゴシュジンサマ。お優しいゴシュジンサマ。ワタチはあなたの飼い実装テチ。何でもするテチ尽くすテチ。見捨てないでテチ。 「テジャアー!! テジャ! チャアア!!」 そのフリフリの服をよこすテチ!! 何で糞蟲が服着てるテチ! その髪もよこせテチ!! 「テヒャー。テッチュウー」 お腹ペコペコテチ。何か食べないと本当に死んじゃうテチ。死ぬのは嫌テチ。ニンゲンさん。ニンゲンさん。 「ロクとジュウサン。お前だね。分かってるから。共食いはだめ。お仕置きしないといけないね」 私はまず制裁を行うことにした。 「テギャアー!! テッチュ! テチュ!」 「テチテチテチ! テッチ! テッチュウーン」 「これが何だか分かる? お前たちの偽石だね」 栄養剤に漬けていた偽石を二つ、取り出して糞蟲の前に見せる。 糞蟲たちが言い訳だか命乞いだかをしているが今はリンガルを見ていないのでその内容は分からない。 ていうか正直どうでもいい。 「死刑。糞蟲は死になさい」 コリコリと偽石を指先で弄る。 激痛にロクとジュウサンが悶え、のたうち回る。可愛い。 私は構わず、それぞれの偽石をクルミを扱うように指先でゴリゴリ圧迫した。 ロクとジュウサンが泡を吹き、白目をむき、激痛に跳ね回る。 楽しい。砕いてあげたりなんかしない。 二つの偽石を両手で包み、ゴリゴリとさらに責める。 「アガガガガガガガ」 痛いらしい。激痛らしい。死ぬほどらしい。 思わず笑ってしまう。私はこんなにも楽しい。 ユルシテタスケテ!! ゴシュジンサマ!! 糞蟲の悲鳴が心地良い。 「ヂッ」 はい、死んだ。 ■ ログを確認する作業に戻る。 飢えて餌をねだった禿裸を前に、イチは何度かフードを投げようとしていた。 「テチテチテチテチ!」 水槽の壁は高い。 仔実装が決してそこから逃げ出せないように、飢えた糞蟲が襲えないように、わざわざ選んだのだ。 イチは何度も何度も、フードを投げて、禿裸たちの怨嗟に答えようとして、何度も何度も。 それこそ、夜が明けるまで延々とフードを投げ続けていた。一度だって成功しなかった。 なんて。なんて。 私は笑った。諦めない無駄な努力を。愚かで、善良で、素直で。可愛かった。 ニの顔は真っ青になっている。 「テチテチテチテチ」 こんなの変テチおかしいテチ絶対間違っているテチ。 飼い実装ってこういうものテチ? どうして禿裸のオトモダチがみんな泣いてるテチ? ワタチのフリフリのお洋服に文句言うテチ。ワタチがこれを着ているのは間違ってるテチ? どうしてオトモダチはみんな禿裸でワタチはフリフリで、それを脱げってよこせって脅されてるテチ? 「ウエップ」 ニは何度も吐いていた。 フードや金平糖どころか、水を飲む様子すらない。 ショックらしく、メンタルに重くダメージを受けているみたいだった。繊細すぎる。ウケる。 禿裸の餌の要求に答えられない無力感も追い打ちをしているようだった。 水槽の隅であたまを抱え、小さくなって微動だにしない。 「テプププ! テヒャアー! テッチュウン!」 サンは夜通し笑っていた。 飢えた糞蟲たちの慟哭に、けれど水槽の壁が厚く固く安全であると確信したあたりから、 糞蟲を目の前にわざとフードを食べ、金平糖をボリボリ噛み、ミツクチを醜く笑顔に歪めた。 明け方には水槽の壁に糞まで投げた。 「テプププ!!」 お前たちは糞蟲だから飢えるテチ! ワタチは高貴な飼い実装だからコンペイトウもモグモグテチ! ムシャムシャテチ! バーカバーカ死ねテチ!! 水槽の壁に糞を塗りたくり汚い嘲りさえ繰り返した。躾け済み仔実装が一晩で。 面白いし、そもそもこれが実装の本性だ。 「サンは糞蟲だねー」 「テヒャア!?」 私はそう宣言すると、サンを水槽から出し、禿裸たちが蠢く床の上に落とした。 何か叫んでいるが聞く気はない。 「糞蟲は禿裸にされちゃうんだよー」 剃刀と実装ショップの脱毛剤と傷口に塗り込む用塩を準備して、私は微笑んだ。 サンを禿裸にして、その他大勢の仲間入りをさせた。 もともと見た目に全然違いのない実装石たちだ。すぐに違いが分からなくなるから。 私はハンダごてを取り出して電源に繋ぎ、禿裸にしたサンの背中に「三」と焼き入れた。 「テヂャアー!」 肉が焼かれるいい匂い。私は実装食の趣味はないけど、この瞬間だけはおいしそうだと思った。 ■ 「水槽が空いちゃった」 私はサンがいた水槽を見てわざとらしく言った。禿裸たちの視線が私に集まる。 「一晩だけだもんね。まだきれいだし、使えるね」 禿裸たちがキュイキュイ鳴いて跳ねる。 ひと月に一回くらい起こる出来事。 けれど、寿命の短い実装たちにとってはものすごく久しぶりの出来事なのだ。 つまり、飼い実装の水槽に入る権利が訪れたということ。 「誰にしようかな……」 私は15匹ほどの禿裸を物色する。 それぞれ、テチュテチュ言ったり、媚びたり、或いはうつむいていたり、背を向けていたり様々だ。 こんなに小さくて儚いのに個体差があるのが本当に面白くて可愛い。ただの糞蟲の集まりなのに。 「ニジュウニ。君に決めた!」 「デッ!?」 唯一の成体実装がびっくりして声を上げた。 このスペースにはほぼ仔実装しかいない。親指もいた時もあるが、すぐに死んで今はいない。 ニジュウニとの付き合いはそれなりに長い。 そこまで粗相もしなかったし、悪い子でもなかったので、たまたま一番長くここで生きている。 ちょっと面白いのは、その期間に成体になっただけの元仔実装なのに、 「公園に仔を残している」という妄想に囚われていることだ。 一度だって妊娠も出産したこともないのに。 そもそも、仔実装の育て方、分かってるのかな? 今ここにいるのは、全部糞蟲だけど、全部私が実装ショップで買ってきた躾け済み仔実装なのだ。 「ニジュウニはめでたくハウスに昇格だから、まずはお風呂できれいにしようねー」 再びお風呂タイム。 もちろん浴室にも洗面所にも行かない。ここに、大きな水槽をまた持ってくる。 イチとニももちろん入浴。 ので、まあ大きいお風呂用の水槽に今日はイチとニと成体実装のニジュウニが入れられた。 面白いことに、イチとニとニジュウニも完全にされるがままだった。 何かを訴えることも、抗うこともなかった。きれいにするのが楽だった。 「あったかいねー。あわあわだねー」 お湯とソープとシャンプーの刺激。 やっぱりだけど、気持ちいいらしい。 「タオルで拭くよー。ふわふわー」 イチもニも目を閉じてうっとりとしている。 「デスゥ……」 ニジュウニに至っては、ぷるぷる震えて、血涙まで流している。 それにニジュウニ自身すら気づいていないようだ。全く、実装は単純で可愛い。 イチとニとニジュウニにフリフリの服を着せ、それぞれの水槽に戻した。 もちろん水槽の中はきれいに掃除してあるし、タオルも新しいし、フードも金平糖もある。 「テエェ……」 イチは力なく小さく鳴いて。少しフードを齧るとタオルの上で横になった。 まるで心を閉ざして精神を守っているかのように、そのままずっと動かなかった。 「ウェップ」 ニはまた吐きそうになって、床に転がり、だいぶ経ってから金平糖のところへ行く。 ちょっと舐めた。 「テェッ!?」 もっと舐めた。 涎を垂らして舐めた。 「テッチュ。テッチュウーン」 金平糖を抱えて舐めて。全身ベタベタになりながらなおずっと舐めていた。 ■ 「デッスゥ……」 ニジュウニはまだ自身の感情の置き所に戸惑っているようだった。 餌も与えられない禿裸の「その他大勢」扱いから、突然のまさかの飼い実装昇格。 長年の垢はお風呂で落として貰っているし、フリフリの服は着ているし、目の前に餌がある。 「デッスゥ……」 体が軽い。シャンプーや石鹸のにおいがあまりにも心地良い。清潔にして貰ったことを感じる。 しゅりっ。 肌に触れるフリフリの実装服の感触は柔らかく。 昔ワタシはこんなふうに服を着ていたのだと、これはそれより良いものだと。 とても良いものだと。 良い扱いを受けていると。 「デッスゥ……」 涙が溢れて止まらなかった。 服を着せられただけでこれだ。 目の前にはふわふわのバスタオルが、実装フードが、何より金平糖があるのだ。たまらない。 ニジュウニは漏らしそうだ! しかし、元躾け済みショップの仔実装だったニジュウニ。さすがに粗相はしない。 ただ、金平糖を目の前にして何度も涎を飲み込んだ。 抗えない魅力に飛びついた? わけではなかった。 抗えない魅力だからこそ、粗相をした同胞が容赦なく殺されてきた過去の映像が浮かんだ。 ニジュウニはショップの躾け済み飼い実装なのだ。 「デッスゥ……」 水をいっぱい飲んだ後、意を決して実装フードを齧った。 信じられないくらいの美味の快楽がニジュウニを翻弄した。 ■ 「どうしたの? 全部貴女のものだよ。全部食べていいんだよ」 今日も私は水槽の中の三匹に優しく声をかける。 「テッチ」 イチはまた少しだけフードを齧り、少しだけ水を飲む。 耳を塞いでいる。 水槽の外からの怨嗟から逃れようとしているみたい。 毎日痩せていっている気がする。 「テッチュウーン」 ニはすっかり金平糖の甘味の虜だ。 一切フードを食べなくなった。 毎日一粒だけ入れる金平糖を全身で抱え込んで舐め続ける。ニの体はベタベタだ。 金平糖を嘗め尽くすと、それこそ一日かけて糖蜜でベタベタになった自分の体を舐めるのだ。 それはそれで、幸せそうで可愛い。 「デッス」 ニジュウニは毎日、フードの半分だけを食べる。 金平糖には手をつけない。 ニジュウニはすでに成体実装だ。それでは栄養がまるで足りないのだが、これを何日も続けている。 水槽の外の禿裸たちは、飢えたり、共食いをしたり、共食いの罰で私に処分されたりしている。残りはもう10匹を切った。 またショップで買ってこようかなと思う。 実装石の時間は短い。これでも、せいぜい一か月の出来事だ。 なんなら、ニジュウニだってここに来てまだ三か月だ。それでも最古参ではあるのだけれど。 私は実装石虐待を趣味にする変態だから。 実装の生き死にに干渉する悦びに私の時間を費やすことはきっとずっと止められない。 誰に知らせるつもりもない。情報交換もしない。仲間を募ることもしない。 検索でこれはつまりこういうことだなーって実装のことが分かるのはいい。 実装石虐待の仲間は欲しくない。だって、こんなことする奴はみんな最低のクズで変態だから。 ■ 「みんなー。今日も元気かな? うん。元気そうだね。肌もつやつや」 私は今日も三つの水槽の中に笑顔で声をかける。 水槽の外の禿裸たちは何匹いようがいないも同然なのであまり気にしない。 「キュウ。ジュウヨン。ジュウハチ。みんな元気だねー。可愛いっ」 虐待をしてる身でありながら、それぞれがどう生きたか記録を取っていることは、 実装界隈の芸風が違うエリアの側からすれば異常なことだと思う。 それは大丈夫。私は十二分に異常な自覚がある。 それはそれで、今回は少し特殊だったから、特別だったから。 たまに、いいえ、よくその記録を見返したりしている。 「テッチュ」 「だめだよ。もっと食べないと。もうガリガリじゃない」 イチはストレスに食事を取らず痩せていった。 私は暗い虐待派特有のサディスティックな欲望で言葉責めをしようとしたりもした。 けど、イチと話すと、彼女の言うことはどんな時も一貫していたのだ。 「オトモダチがお腹空かせてるテチ。フードを投げることもできないテチ。悔しいテチ」 私が飼ってひと月以上経ってもなお、同じことを言うのだ! 飼い実装のためのショップの教育を私はそこまで信用していないが、 ここまでの「いい子」を見たのは初めてだった。 自己嫌悪に陥るくらいの経験だったと言っておく。 イチを幸せにするための手配にはだいぶ時間がかかった。 だって私は、実装趣味の誰とも交流をしていなかったので、ゼロから何かを起こすことは大変だった。 私はイチに優しくはしなかったが、たぶん、これからはたくさんそれを味わえるだろう。 「テヒャアーー」 ニはすっかり金平糖ジャンキーになっていた。 フードを食べず、金平糖だけ舐め続ける。それを放置していた私にも責任はある。 ちょっと興味があった。 水槽の外、禿裸たちがニの舐める金平糖を羨み駆け付け、罵倒し、壁を舐め、時折り憤死する。 ニは大丈夫だった。 私は色々な実装石用の金平糖をニのためにネットで買った。 違法な、なんかすごいケミカルでアッパーでサイケデリックなやつをわざと買って与えたのだ。 「テッチャウアァウワァアアー」 望むままに与え続けたと思う。ニは幸せだったと思う。 目をぐるぐるにして、舌をだらだらに伸ばし、初めてパンコンしながらニは死んだ。 ニジュウニの話。 彼女は二ヶ月、それはとてもとても幸せそうに暮らし、 「こんなに良い服を貰ったデスゥ。あの仔たちに自慢したいデスゥ」 いつもそんなことを言っていた。 あの仔たちにあげると言って金平糖を蓄え、自分は一度もそれを食べなかった。 私は変態の虐待派だけども、少しだけ胸が痛んだ。 虐待派のテンプレなら、公園の巣を襲い、目当ての実装以外は殺してるので、 「その子はもうどこにもいないよ。私が殺したからね」 そう言えるのだけれど! 「ワタシは双葉公園で春に四匹産んだデスゥ。とくに次女チャンが優秀で、きっと末永く生きるデスゥ」 うっとりと遠い目をして語る思い出は全て、彼女の存在しない記憶で、妄想なのだ。 「ニジュウニは糞蟲じゃないし、いい子だったから、ご褒美をあげたいな」 ある日、私はそんなことを言った。 ニジュウニは私の想像通りの返事をした。 「双葉公園に帰りたいデスゥ。わが仔のもとに、また帰りたいデスゥ」 「もちろん。連れて行ってあげる」 双葉公園ってどこだろう? グーグルマップで検索したけどそんな公園は近くにも遠くにもない。 近所の大きな公園といえば、小金井公園だ。私はそこを、ニジュウニの公園だと説明した。 「ここデスゥ! ここが双葉公園デスゥ! この景色、この匂い」 私と一緒に出かけて、小金井公園の入り口に来たニジュウニはハイテンションだった。 たくさんの金平糖とフードを腰の袋に重そうに。 「そうなんだ。よかったね」 私はそれだけ言うと、ニジュウニとお別れした。 たぶん、三日ともたず死んだだろう。 末路を追いかけたいとは思わない。私の虐待は、私の部屋だけで起きている内緒の行為なのだ。 おしまい ■ お久しぶりです。 10月末に赤ちゃんが生まれてから、ずっと夜はリビングで見守りをしている日々です。 部屋のPCに触る余裕がないのでノーパソを新調しました。 夜中のちょっとの時間、これをかいていました。 ざざっと見返しはしましたが、眠気とか酔いとかの中で、かいた記憶のない文章だらけです。 あんまりに荒いかとは思いますが、とりあえずオチたので、投稿します。 もう少し余裕ができたら、またいくらかかけるかと思います。 コンゴトモヨロシクデスゥ。 十三年越し@ijuksystem
1 Re: Name:匿名石 2024/03/08-06:01:51 No:00008868[申告] |
部屋の中、ゲートに仕切られた地獄とその中に恵まれた水槽
理想や妄想に悶え喘ぐ蟲。干渉する変態。読んでる変態。 なんて素敵な入子構造 |
2 Re: Name:匿名石 2024/03/08-22:57:45 No:00008873[申告] |
イッチ大勝利 |
3 Re: Name:匿名石 2024/03/09-02:31:49 No:00008874[申告] |
イチの実装石らしからぬナイーブさや共感性が自分だけ幸せになる事を果たして許せるのか |
4 Re: Name:匿名石 2024/03/09-03:19:57 No:00008875[申告] |
お守りおつかれさんデス
楽しんでるので無理せずぼちぼち続けてくれたら嬉しいデス 最期を想像させるニクい終わり方デスゥ |
5 Re: Name:匿名石 2024/03/12-09:28:32 No:00008891[申告] |
生粋のペット実装なのに自分を仔持ちの野良だと思いこんでいるニジュウニが斬新ですね
イチは文面から察するに愛護派辺りに譲渡されたのかな? |
6 Re: Name:匿名石 2024/03/18-20:37:09 No:00008914[申告] |
二の終わり方が一番好み
死の直前までパンコンを我慢したのが自分を追い詰めた ご主人様の為だと想像も出来て最高 金平糖ジャンキーになったけどストレスで偽石は ドス黒いんだろうな |