【蛆ちゃんの糸】



としあきが飼っている蛆実装は、緑茶から取って「リョクちゃん」という名前だ。
実装ショップで安売りされていた蛆実装を購入して飼い始めたのは一週間ほど前だが、
いつもリョクちゃんをプニプニしたり撫でたりして可愛がっていたし、
アマアマおやつにウマウマごはんを食べさせ、あったかい布団で眠らせていた。

「蛆ちゃんはゴシュジンサマにかわいがられてシアワセいっぱいレフー！
　でも…ゴシュジンサマにかわいがられるだけでいいんレフ…？」

リョクちゃんは、蛆実装である自分がゴシュジンサマとは吊り合わないのではないかと思っていた。

（蛆ちゃんは手足の小さい蛆ジッソーレフ…もっと大きな大人のジッソーセキになりたいレフ…。
　そうしたらゴシュジンサマをプニプニしてあげたりできるレフ…）

いつものようにそう思いながら眠りについたある夜、奇跡が起きた。

リョクちゃんは鼻がムズムズするのを感じて目を覚ました。
そしてまどろみの中、リョクちゃんは自分が鼻から糸を出している事に気づく。

（糸さんが出てるレフ…マユさんになれるレフ…蛆ちゃん大きくなれるんレフ…！）

夢うつつの中で喜ぶリョクちゃん。
…そして想像の中で、ゴシュジンサマの隣に立つ手足の伸びた自身の姿を思い浮かべる。

ゴシュジンサマと同じようにイスにすわり、テーブルでゴハンも食べられる。
ゴシュジンサマのお腹をプニプニもできる…！

そんな妄想に浸るリョクちゃんだったが、そのうちに何か様子がおかしいことに気づいた。

（レフ…何だかおかしいレフ…。
　カラダが糸さんに包まれていないレフ…）

通常ならば糸が身体を包んで繭になるはずであるが、そうなっていないのだ。
リョクちゃんはそれが異常な事態であることを、蛆実装の本能で知っていた。

（糸さん、どうして蛆ちゃんを包んでくれないレフ…？）

リョクちゃんが目を凝らしてよく見てみると、糸は寝床の外へ伸びて行き、棒状の物に巻き取られていた。

（ダメレフー、糸さん取っちゃダメなんレフー！
　蛆ちゃんがマユさんになるためのダイジなものなんレフー！）

しかし無情にも糸は巻き取られ続ける…。
リョクちゃんは転がって糸を身体に巻きつけようとしたが、大きな布団が邪魔で身体を動かせない。

「レフー、レフー！
　フトンさんジャマしないでレフー！」

そうこうしているうちに、ついに糸は出尽くしてしまった。
リョクちゃんは蛆実装の本能で知っていた。
糸が出尽くしてしまったら、もう自分は繭になって成長する事はできないのだと。

「レ…レ…レフェェェェン、レフェェェェェン！」

悲しみのあまり泣き始めるリョクちゃん。
薄暗い部屋の中から、糸が巻き付いた棒を持って部屋を出て行くとしあきに気づく事なく、
リョクちゃんはいつまでも泣き続けた…。

　　　*　　　*　　　*

翌朝。
布団の中でパキンしているリョクちゃんを見つけたとしあきは…。

「ご苦労さん、お前の出した糸は高く買ってもらえる事になったよ。
　いい小遣い稼ぎになった…ありがとうな」

そう言って、絶望に歪んだ表情で事切れたリョクちゃんの亡骸をゴミ袋に入れた。

としあきには蛆実装を可愛がる才能があった。
だから時折こうして、蛆実装から糸を取って金に換えている。
リョクちゃんが『何匹目』かは、もうとしあき自身も覚えていなかったが、
またしばらくして遊ぶ金が欲しくなった頃、安売りの蛆実装を買ってきて同じ事をするだろう。



終わり

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スレに投下したスクに加筆修正しました。
よくある話。

追記
リョクちゃん布団で寝てるけど、糸を巻き取られなかったらどうなってたんだろう…？
後で気づいたけど身体以外の物を巻き込んで繭になっちゃうと危なそう。