「グリーンはゴシュジンサマ大好きデッス~ン!」「そうか……」 飼い実装をどう処分すべきか悩んでいる。 「冬さんが過ぎて春さんが来たからゴーグルちゃんとつけたデス!妊娠しないようにきをつけるデス!」 ゴーグルをつけて避妊宣言。殊勝な心掛けと思うだろう。だが? 「コドモはゼッタイにゴシュジンサマと作るんデッス!」 実態はこうだ、気色悪いったらありゃしない。 ステップ踏んでニヤニヤモジモジ、くねくねしながら視界の端を占有するんだからたまったもんじゃない。 勿論、妄言は適当にはぐらかしているが時間の問題だろう、いつ夜這いを駆けてくるかもわからない。 とっとと処分すればいいだろうと思うだろうがそうはいかない、何故ならこいつは70センチ超サイズの超大型。 「今日もいっぱいシアワセデス~!」「そりゃ結構」 昨今の実装石は大きくなっても20センチ前後が平均で、俺も三年前にそのくらいだろうと想定して飼い始めた。 だが、どういう訳かトリプルスコアつけた肥大化をしやがったのだ。 その分ミソもでかくなって賢いが同時に自意識も肥大して自分は人間と同等と半ば思い込んで今ではこの通り。 「ゴシュジンサマのお嫁さんになる日が待ちきれないデス~!花嫁修業、がんばるデッス!」 恋する飼い実装である。 …… …… 保健所で処分してもらおうにもこのサイズの生体処分は特別な料金が取られて高くつく。 ヒャッハー系虐待派や実験派に渡そうにも連中さえ昨今の実装に慣らされている。 このサイズとなると「処分が大変だから」「でっか!きっも!無理!」と誰も手を出したがらない。 自身の手で殺そうにもこのサイズをつぶすのは流石に難しい、偽石を探して破壊しようにもこのサイズの中から見つけるのは至難の業。 やはり処分の手間がかかりすぎる。 …… …… 「それにしてもゴシュジンサマ、この前は大変だったデス~!グリーンをはなさないで♡デス~♡」 あらゆる手段で穏当に死んでもらおうとしたがコイツは強かった。 『30キロ先の山に遊びに行った際勝手に迷子になってしまった』体で死んでもらおうと放置したが、こいつは持ち前の知能と目立つカラダでヒッチハイクを発案しとっとと保護されて帰ってきやがった。 「うすらデカい実装飼ってる家」と言う情報だけで俺の存在は即座に情報網に浮上したらしい。クソが。 …… …… 「デデッ!オヤツの時間デス~!そうそう!ゴシュジンサマ、ちゃんと賞味期限には気を付けてほしいデス!」 「今日のはちゃんと大丈夫なヤツだから安心しろ」 俺はあきらめなかった。家実装対策に使われるコロリをエサに混入させ、ピクニック中に放置した。 グリーンが慌てて腹痛を訴えてトイレに駆けていった時は勝利を確信したが、すっきりした顔ですぐに戻ってきてしまった。 デカくなったコイツは毒に対してもタフすぎた。ハラを多少壊すだけで切り抜けてしまったのだ。 どうすればいいのか…。 …… …… そんなある日の事だった。 『わかってたデス』 へったくそな文字の書置きが机の上に放置されているのを発見する、赤緑のシミに何度も描きなおした後。 ふと急いで実装小屋の中を見るとグリーンの姿はなかった。開け放たれた部屋の窓を見ると、風がカーテンを揺らしていた。 そうか、賢いもんな、わからない筈がないか、実装石らしくもない。 最近妙に明るすぎたのはお前なりのラストアピールだったんだ。 その時、来客を知らせるチャイムが鳴る。 「今開けますんで!」扉を開ける。一瞬まさかと思ったがそのまさかだった。 「あの~!この子って確かお宅の実装石ちゃんでしたよね?河で遊ぼうとしてたのかな?溺れちゃってたんですよ!」 「ゴシュジンサマ」 沈んだ顔で泥まみれのグリーンと近所の親切なおじさんがそこにいる。 そりゃデカいもんな、見つからない筈がないし、救助されない筈もない。 「あっ、後の事はこっちでやるんで」「ちょっと…!」 グリーンをひったくって扉を閉める。リンガルを起動する。 俺とグリーンはその場で向かい合った。 「……グリーンはイラナイ仔なんデス、もう死にたいデス」 「おっ!じゃ話が早いんだけどパキンとかできないの?」 「デデッ……」 「なんで驚いてるんだよ早く死んでくれよ、死にたいんだろ、そうしたら俺も助かるよ!はやく!」 「は、は、はいデス、でも最後に聞かせてほしいデス」 「何?」 「ゴシュジンサマはワタシと暮らして、楽しかったこともあったデス…?」 「んなことどうでもいいだろ!?早くしてよ!今はもう思い出せないよ!もう邪魔な記憶しか出てこない!死ね!パキンしろ!」 「そうデスか…じゃあサヨナラデス」 乾いた割れる音が鳴ってグリーンはくたばった。 実際は嘘だ、楽しかったことだっていっぱいある、だけど、それを伝えてしまったら多分俺自身が叱責に苦しむことになる。そんなのはゴメンだ。 『冷酷なご主人様に突き放されて死んだ』そういう形に丸め込めば、俺だって引き摺らない。 実を言えば、ヒッチハイクして帰ってきやがった時は正直言えば嬉しかった、殺そうとしていた筈なのにお前の姿が誇らしかった。 そうさ、三年あればいろんな思い出がある。 それこそ仔実装だったお前に苦労をかけさせられた記憶があるからこそ、機転と発想力で窮地を切り抜けて証明した聡明さに感動さえした。 でも何もかも愛着も感情もペットとしてだ、愛する存在や伴侶としてじゃない、お前は実装石なんだ、だからダメだったんだ。 お前の事が好きだったがそういう意味じゃあなかった。何でお前は俺と繁殖を望みなんかした? 「うすらでかいゴミ」を苛立ちのまま実装ゴミ袋に仕舞う、死に顔を見てすぐ目を逸らした。 なんでそんな顔してるんだ。 家を出て、近場にある指定の実装ゴミ箱へそれを放り込んだ。 そのまま俺はコンビニへと出かけようと思った。何かこう、腹が減っていた。 空気から自由の味がして、全身があらゆる意味で軽くなった気がした。 おわり
1 Re: Name:匿名石 2024/03/03-23:58:14 No:00008849[申告] |
理解がありすぎる実装石だ電源オフするみてえにパキンしたな…
ほのぼのギャグ路線にでも持っていけるような世界観でお互いの利害が一致せずに不幸になるのはなかなか心に来るものがあるな余韻がある |
2 Re: Name:匿名石 2024/03/04-04:56:09 No:00008850[申告] |
片目にハンダごて突っ込んで焼き潰してやるだけで妊娠もできなくなるし
主人の気持ちも伝わっただろうに つーか >それを伝えてしまったら多分俺自身が叱責に苦しむことになる のところは「良心の呵責に苦しむ」って書きたかったのかな? 叱責は他人にされるもんだぞ |
3 Re: Name:匿名石 2024/03/04-07:08:35 No:00008851[申告] |
悲しい…これだけ賢くて自害までできるレベルなら話し合いで折り合い付けられんかったんかな |
4 Re: Name:言い訳 2024/03/04-07:55:58 No:00008852[申告] |
直接処分に困る70センチ超えの存在にハンダ突っ込めるかって話デス、自分は無理なんでそこはただ感覚の違いデス
表現の誤りについては単純に今後気をつけるデス |
5 Re: Name:匿名石 2024/03/04-10:04:21 No:00008853[申告] |
70センチとか大型犬サイズだもん
そのサイズに手をかけるとか誰でも躊躇するわ 昔は60センチとかそういう設定があったけど 扱いに困るから 小さくなってきたよね |
6 Re: Name:匿名石 2024/03/04-20:33:03 No:00008856[申告] |
ニーズが無いって事は価値もまたって事
悲しいね |
7 Re: Name:匿名石 2024/03/04-21:04:23 No:00008857[申告] |
賢いしゴシュジンサマに発情さえしなければシアワセに暮らせたのに… |
8 Re: Name:匿名石 2024/03/05-06:59:41 No:00008858[申告] |
わかってたんなら首吊って死ねや |
9 Re: Name:匿名石 2024/03/10-16:33:45 No:00008881[申告] |
自殺する気なんて無かったんだろうな…最後まで小賢しい |
10 Re: Name:匿名石 2024/03/10-17:11:49 No:00008883[申告] |
誰だって生きてる限り死にたかないからね
でも無駄にデカい色情蟲なぞも誰も要らんのよ |
11 Re: Name:匿名石 2024/03/10-23:20:49 No:00008885[申告] |
最後は自死して見せたし“本物”だと思う |
12 Re: Name:匿名石 2024/04/06-14:17:22 No:00008984[申告] |
あるいは最後の顔は安らかだったりしたんだろうか |