「いないテチ！」「出てくるレチっ！」「自由レチッ！」

消灯した室内、いぞいぞと動き回るお馴染みのぶちゃいくな緑色のチビの群れ。仲良し仔実装と親指の三姉妹だ

ニンゲンのいなくなった時間が彼女たちの時間。小さな小人の探検隊が巨人の宮殿を大冒険だ。

「これはなんレチ！？」「ブーンってしててうるさいレチ！」

冷蔵庫の周りで大はしゃぎ

「テチャア！おっきなおフクさんテチ！？」「ニンゲンはいっぱいおフクを持ってるレチ！」

ハンガーにつるされたTシャツを指さして盛り上がる。

（出てきよる出てきよる、バレてないつもりなんだろうなあ）

設置型リンガルとゴープロで俺は別室からそれを映像越しに監視する。
俺の家に住み着いたこの姉妹に親はいない、非常食にされそうになったところを大冒険して俺の家に辿り着いたらしい。そう話していた。
面白そうだったので俺はこれを観察する事にして、はやひと月も経つ。

古民家暮らしは家の中でコオロギやらの虫に遭遇する事もよくあるが、まさか実装が住み着くとは……

しばらく探検を続けていた姉妹の動きが止まる。

「う、う、うんちの時間テッチャアアアアア！」「レチレチ！」「レチ！」

便意の襲来に突然叫びだす仔実装。おもしろ。

プリプリ…

俺が設置してやった令和最新ジソグループ製の実装トイレにダッシュし、姉妹揃ってうんこタイム。

「きもちいいレチ～」プリプリ…

都合よくこんなものが数日前から現れた事は不審がらないのが実に実装。
流石に床にされてた日々に耐えかねて設置したものだ。掃除代もバカにならないからね。

トイレの横にはイラストガイド看板が充実しており、文字が読めない実装にもわかりやすい使い勝手。

『えらいデス～』指定範囲内にされたうんこを検知したトイレが『褒め音声』を流し、横にある小さな自販機型の装置から実装フードをポンっと出す。ご褒美システムだ。
最初はハミださせたり頭を突っ込んだり失敗もしていたが姉妹は立派に使いこなしている。

えらいぞ！と少し小さな向上に対して優しい気持ちになったりした

「ご飯出てきたレチ」「おトイレかしこい仔はエライエライなのテチ」「おいちいレチ～」

あらゆる要素が実装石のトイレトレーニングをスムーズにする巧みな仕掛け。この姉妹もすぐに慣れてくれたのはよかった。

なお、出てきたフードの原料はうんこ
正確に言えば香料粉末と成長阻害剤『いつまでも仔実装ちゃん』と栄養剤が混ぜられて脱水されたもの。

「うんちスッキリでゲンキゲンキ、テチ！ふかふか地面さんの上でかけっこレチ～！」
ふわふわのカーペットに走り出す三姉妹、微笑ましいお遊戯は一時間ほど続き、遊び疲れたころに姉妹は住家である棚の裏へと去っていった。


……
……

一か月後……

「ウンチ投げたらニンゲンサンにばれるしメーワクになるレチ、だからやめるレチ」「レチ—」

それとなく実装石用の教育ビデオをつけっぱなしにしたりして誘導した教育だけでお利口に仕上がる辺り、本当に賢い個体群だ
特に人間に迷惑にならないことを意識しているのは素晴らしい。

（今日も面白いなあ、そういえば注文してたあの子は来月くらいに届くかな？）

わざと室内に異物を放置してみる、ミニミニ実装ハウスを置いたら住むのか実験する、突然電灯が灯ったらどうなるか観察する。
あらゆることをした、あらゆるリアクションを観察した、生き生きと楽しむ仔実装たちの姿には何度もこちらまで楽しませてもらった。
家の中を探検し、時に怪我なんかもしてしまったり、人間の道具をヘンテコな解釈をして大笑いしていたり……生き生きとしていた。

もっと実装を知りたいと思うようになって、俺も実装ナマモノについて勉強を重ね、奥深い世界に何度も感心させられた。

まったく無知だった実装石の世界を教えてくれた三姉妹は、俺の生活に他でもなく強い彩を与えてくれた。
「ありがとう」自室で小さく呟いて、俺は眠る。来月にあの子が届くなら、最後に見たかった光景をきっとあの三姉妹が見せてくれるだろう

生き生きしている姿はもう十分だ、俺に生で『それ』を見せてくれ。


……
……

一か月後……

「こんにちは仔実装ちゃんとその姉妹！」「テェ！？」

住家（棚の裏）を暴かれ、口をぱくぱくさせてパンコンしながら立ち尽くした三姉妹。
ニンゲンに見つかってしまった！という衝撃が彼女たちを包んでいるのだろう。

「聞こえてる？俺の声、リンガル越しだからわかるよね～」
「わ、わかるテチ、ニンゲンサン、ワタチタチはニンゲンサンに迷惑かけてないテチ、だから」

「あー、そういうのは今いいよ！俺、君たちのおかげで実装ナマモノに興味が出てさ、君たちを飼ってあげようかとも思ったんだよ！」

「レェ！？飼いになれるんレチ！？」困惑から一転、希望に満ちた表情を浮かべる末の妹の親指実装。

「最後まで話を聞いてね！でも実装石の飼育について調べたらさ、あるものの存在を知ったんだ、出ておいで！」

俺の呼ぶ声にこたえて、俺の背後からあるナマモノ、実装石とは別種のそれが姉妹とご対面する。

「じゃーん、これね？実翠石、調べたらこんな子いるんだね！こっちのが好みだったからこっちにすることにしたんだ！」
「エメラルドです、よろしくです」ぺこりとお辞儀する実翠石。

「テェ！！シャアアアアッ！ジッスイなんかニセモノなんテチ！こんなやつよりワタチタチを飼うテチ！ワタチタチおりこうテチ！ジッスイどっかいくテチ！！！テシャアアアアアアッ！！」「レチャアアアアアア！」「レチィィ！！」

姉妹実装激しい威嚇！プリプリとクソを垂れ流しながらなのがとってもキュートだ！これも生で見たかったんだよなあ…
実装石は本能から実翠石に攻撃性を示すというが、まさかこれほどとは、ご対面させて良かった

「ということで君たちは用済みなんだ、最後に俺さ、実装石が生で死ぬとこが見て見たいんだよ、それも嫌いな奴に殺されるとこ！」
エメラルドにサインを出すと、こくりと小さく頷いた。

「ば……バイバイ、です～」エメラルドは手に持っていた実装コロリ・スプレーを姉妹へかける。言えと言っておいた台詞もバッチリ。
飽くまで小さなひとふき。

「テチァ…ッ！？ロパッ……ゴボッ！」「レチュ……？ヂ、ヂィッ！？オボゴッ！」「レェ……ブベバッ！オロロ…」

半端な量だったのが良かったんだろう。緑色の異臭を放つ吐瀉物と血液を吐き散らしてぴくぴくとする三姉妹。

縋るような目つきで血涙を流してこちらを見上げている。こんな風に苦しむんだな

「ほら、もっとかけてあげな」「で、です…」エメラルドに促すと、エメラルドは一瞬迷いながらもプシュプシュと二の矢、三の矢を放つ。

激しいのたうちの中で、もはや声も上げずにピクピクと震えながら姉妹の目が灰色に染まっていく。

「これだよこれ、実装石が死ぬとこ、見て見たかったんだよなあ…生で」ついに生で見れたその景色。俺は感動していた。

俺は楽しい世界を教えてくれたことへの感謝の気持が溢れてくる。コロリおっかぶった実装石はこうやって死ぬのか……！

ゴム手袋をして死体をつつく。やはり死んでいて、手に持ってみると重みが確かにそれが命だったことを伝えてくる。
まだ残った体温とうんこの温かみ。たしかにこの姉妹は俺の家で生きていたんだなと思う。

ゴミ袋に詰めてやる間、楽しい日々をくれた事への感謝の気持ちはいっぱいだった。
さようなら、俺の三姉妹。

……それにしても実翠石も面白そうだ。

自分を選んでくれたご主人様がいの一番にやらせたことが罪のない実装姉妹の殺害だったことにショックを受けているらしい。
肩をぷるぷると震わせて明らかにこちらにおびえている。

「殺す必要があったです？かわいそうです、一緒に楽しく暮らしたかったです」

勇気があるんだろう、道徳心も教育されていた時代にばっちりと育まれていたんだろう。でなければこんな言葉は出てこない。

「うーん、どうしても死ぬとこ見たかったんだよね」
「そ、そんな理由で殺させたんです！？ひどいです……」

小さな命も大事に思う心やさしい、とってもいい子じゃないか。
そうだ、こんなやさしい実翠石が実装虐待狂いになったり、悪い実装石みたいなウンチ漏らして暴れまわる性格になったら面白そうだ。

「まあ、明日からよろしくね、小さな隣人ちゃん」