【今日は焼肉】



テーブルの上に置いた卓上コンロとフライパン、肉と野菜、そしてミドリ。
いや、勘違いしないで欲しいがミドリは食材じゃない。
俺が飼っているペットだ。
今日はミドリと一緒に焼肉パーティーなのだ。
卓上コンロにフライパンを乗せて火を点ける前に、俺はミドリに注意する。

「いいかミドリ、このフライパンは熱くなるから触るんじゃないぞ」
『テチッ！』
「よし、いい返事だ。じゃあ焼くぞ…」

ジュ～…ジュ～…
肉が良い音を立て、旨そうな匂いが部屋中に漂い始める。
焼肉の時に買うのは決まって安売りの肉だが、俺にとってはたまのごちそうだ。

『テェェ…』
おいおいミドリの奴、よだれを垂らしてコンロに近寄っていくぞ、大丈夫か？

ｼﾞｭ…
『チュワァァッ！』
ほら言わんこっちゃない。
ミドリめ、近づきすぎてフライパンに手を乗せてしまった。
俺は慌てて火を止めると、ミドリをフライパンから離して注意する。

「触るなって言ったばかりだろ…何で手を置くんだ！
　熱いから触るな、いいな？　じゃあ続けるぞ」
『テチッ！』

まったく…返事だけは良いんだよなこいつ。
俺はミドリをコンロから遠ざけ、再び卓上コンロに火を点ける。

「おっと、タレを出すのを忘れていた」
『テチャ、テチャ！』

俺が冷蔵庫からタレの瓶を出している間に、ミドリが何やら騒いでいた。
タレを取り出して振り返ると…。

…ｼﾞｭｼﾞｭｯ
『ヂュワワッ！』

ミドリのやつ、卓上コンロからフライパンによじ乗るなんて馬鹿な真似を！
俺は慌ててミドリをトングで摘まむとフライパンから下ろし、火傷の様子を確かめる。

「何やってるんだミドリ！　肉が焼けるまで待て。興奮してフライパンに乗ろうとするな！」
『テチッ！』

幸い、靴を履いていたので火傷は大したことはなかった。
足の裏が少し赤くなっていたが、まあ痕はほとんど残らないだろう。
まったく、足も靴もよく洗ってからテーブルに乗せたとは言え、フライパンが汚れてないかな…。

俺はミドリを摘まんだトングの代わりに菜箸を持ってくると、
ミドリが踏んだ辺りから肉や野菜を遠ざけた。

『テチッテチッ！』
…ｼﾞｭｰｯ!!
『テヂィィィッ！』

しかし俺が肉や野菜に気を取られている間に、ミドリはまたフライパンに触ってしまった。
いつも思う事だが、馬鹿なのかこいつは？

「何、肉が焦げる？　焦げてるのはお前だよ。手をこんな火傷して…」
『テチィ…』
「危ないから今日はもう焼肉は中止だ！　乗せてある具材だけ焼いて終わりにするぞ」
『テチャッ！？　テヂャアッ！』

怒った俺がそう言うと、ミドリは抗議の声を上げて両腕をイゴイゴと動かした。
リンガルの表示を見ると、焼肉を続けろと言っているようだ。

「…本当にいいんだな？　もう止めないぞ。じゃあこの焼けた肉を…俺が食べる」
『テチャアーッ！』
…ｼﾞｭｼﾞｭｩｩｩ
『ヂィィィィ！？』

あ、目の前で肉を食おうとしたら興奮のあまりバランスを崩して卓上コンロに倒れ込みやがった。
後ろ髪に火が燃え移り、頭巾も燃え上がり大騒ぎだ。
どうにか火を消してやったが…なんて馬鹿な奴なんだ。
あーあ、大火傷だよ…偽石摘出してあるとは言え大丈夫かな。

『ﾃｪ…ﾃｪｪ…』

おっ、生きてる。
しょうがない、後で治療してやるか…。

「ミドリ、焼肉するたびに火傷して…いい加減学習できないのかお前？」
『ﾃﾁｭ…ﾃﾁｭ…』
「何、肉食わせろって？　…ほら、しっかり食え」
『ﾊﾌﾊﾌ…ﾃｯﾁｭｰﾝ♪』

おぅおぅ、旨そうに食いよるわ。
さて、火傷した部位を削り落として再生させてやらないとなあ。
個体差があるのか知らんが、こいつの場合は偽石を焼酎漬けにして酔わせておけば
麻酔の代わりになるらしく、火傷部位をピーラーで削っても騒がれないのは楽で良い。
ただ、削る過程で血まみれになるし面倒なのがなあ…。

何かの記事で見た、脳を摘出して偽石と一緒にして、身体を焼却処分したうえで
活性剤の中で再生させる事で、記憶を維持したまま綺麗な身体に再生させる方法でも試すか。
そうすりゃ焼けた髪も元に戻るだろうし。
でも…。

「ミドリのやつ馬鹿だから、記憶を維持したところで同じ失敗を繰り返すんだろうなあ」

え、ミドリが焼肉のたびに同じ失敗を繰り返すのを知ってて何も対処しないお前はどうなんだって？
だって、可愛いペットが馬鹿やるの見るのは楽しいからな。
デタラメな生命力を持つ実装石なら、多少火傷しても気にならないし。

「ミドリ、火傷が治ったらまた焼肉しような」
『テチッ！』

…ホント、返事だけはいいわこいつ。



終わり

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昔、スレに投下したスクに加筆修正しました。