山実装と不発弾

ドオォォォォォォン！！
付近の山から爆発音が響く。
事件？事故？火山の噴火？そうではない。
山実装の巣穴が吹き飛んだ音である。
毎年恒例のことで、もはや何とも思わない。
自分を含め住人は慣れっこである。
しかし、何故巣が吹き飛ぶのか、山実装の生態も踏まえ、順を追って説明する。

山実装は、実装石の一種である。
山に生息し、木の実、野草、昆虫、小型の動物などを好み食べる。
食物が無ければ共食いや糞食まで行う。
登山客などが山に捨てて行った物などを巧みに使いこなし、
巣の補強や外敵の駆除、食物や飲料の確保などに役立てているようである。
ここまでは町の実装石とさほど変わらない。

彼の生物の大きな特徴は、実装石とは思えない高度な社会性を発揮することである。
山実装は、山の斜面に出来た窪みなどを掘り進め住居とする。
野生の実装石としては珍しく集団生活を好み、
一つの巣の中で数十を越える多数の個体が生息している。
巣の中は親仔のみで構成されてはおらず、親仔や姉妹の仔と共生し、
それぞれが自らの仔でなくとも分け隔てなく面倒を見る。
山実装のコミュニティは相互扶助が基本である。
食料を確保する部隊、巣を見張る部隊、幼い仔実装達の面倒を見る部隊と
実に見事な役割分担が成されており、社会性を研究する生物学者から注目されている。

しかし、実装石と言えば糞蟲だ。
元々大変凶暴な生物であり、異常な自尊心を持ち無駄な自信に溢れた彼の生物に、
上記のような社会的生活が営めるのか甚だ疑問であった。
研究者によると、山実装は協調性に欠ける個体を自ら排除することで
高度な社会性を実現したようだ。
ここまで至ると、町に住む実装石達とはもはや別種の生物と言わざるを得ない。
実装石とは、自らの仔は自らに似て素晴らしく美しいと無条件に考える。
狭い環境下での町の生活は、同種の足の引っ張り合いが顕著と化すが、
厳しい山の生活ではそうも言ってられないのだろう。
敵は同種ではなく厳しい大自然であり、自分達を狙う他の動物達なのだ。
かような環境に長く晒されたからだろうか、コミュニティ全体が
より効率的に生きるために、自分達に不要な存在を間引くようになった。
山実装の仔は集団生活で厳しい教育を受け、素行が悪かったり能力の低い個体は
容赦なく篩に掛けられ、コミュニティから排除される。
巣内にあるトイレやゴミ捨て場に落とされ、非常食として扱われるのだ。
極めて凶暴であったり扱いに困る個体はその場で処分され、他の個体の食事となる。
巣の大きさは、コミュニティが大きく成るにつれ拡張されていく。
巨大なコロニーになると、巣の全長は数十メートルになり、
中の個体数は優に100を超えるものもあると聞く。
ここまで大きいコロニーが幾つも発生すると、人間社会でも問題になると思われるが、
現実としてそうはならない。
大きくなったコロニーは遠からず壊滅するからである。

さて、ここまで話したところで当初の話題に戻る。
何故山実装の巣が吹き飛ばねばならないかであるが、
実際のところ、原因はよく分かっていない。
山実装のコミュニティが発展し、個体数が増え巣が拡張されて、
コロニーが特定の大きさを越える秋口に差し掛かると、
何故か突如として巨大な不幸に見舞われ始めるのだ。
一例をあげると、毒性のガスが充満して全滅する、地下水を掘り当て溺死する、
巣が崩落し生き埋めになる、大量の野生動物が襲われる、
山実装専門の虐待派に襲われる等、バリエーションに暇がない。
ちなみに先ほどの爆発音だが、恐らく不発弾でも掘り当てたのだろう。

何故ここまで的確に不幸に導かれているかだが、ある研究者の論文によると、
実装石の周囲は確率の収束がマイナス方面に歪んでいるらしい。
「本来あり得ないことだが、あらゆる実験を重ねた結果、実装石自身が不幸を好み
呼び寄せているか、又は実装石が不幸に好かれているとしか私には判断できない」
とまるで匙を投げるような結論で論文は締め括られる。
あまりに悩み過ぎた結果、著者である研究者は発狂寸前に陥り、
精神病院のお世話になった後で実装石に関わることを止めてしまった。
懸命な判断である。

ドオォォォォォン！
本日二度目の爆発音が響く。
今日だけで、百体近くの山実装が死んだことになる。
幸運にも…いや実際は不運かもしれない。
とにかく生き残ってしまった山実装達には、秋の内に迫りくる冬に備える試練が課せられる。
きっとそれはとても辛く厳しいことになるだろう。
山実装の惨状を思うと同情すら沸いてくる。

しかし、あの山には一体幾つの不発弾が埋まっているのだろうか。
今年に入ってから、もう10回近くは不発弾と思わしき爆発が起こっている。
気になって以前調べたのだが、戦時中この地方に米軍が空襲をしたと歴史はなかった。
一体山で何が起こっているのだろうか。
それは当の山実装達ですら分からないのかもしれない。