「チェェェ……なんでコンペイトウくれないんテチ…!?いじわるはクソムシテチ!?テチャアアア!」 「どうしてもどうしてもだめなんデス!」 「ダメなモンはダメだ」 …… 俺と我が家の飼い実装のハナ子は仔実装の振る舞いにアタマを抱える。 振り返ればハナ子がある日妊娠したのが事の始まりか。 ハナ子に『産むのはいいが最大で2匹しか飼えんからな』と忠告すると涙ながらにもハナ子は腹が膨らむごとに胎児を腹の上から潰していった。 そうして最後に残った仔が生まれたのがつい先月。 「テッテレー!生まれたテチ!お祝いはモチロン、おスシ!ステーキ!コンペイトウ!ぜんぶコウキュウなやつがいいテッチュ~~ン」 「なあハナ子これ……明らかにこれ……」 「アレデス。ごめんなさいデス」 哀れな事に見事な糞蟲が生まれてしまった。 「今すぐシメるデス」静かながらに血涙を流し、仔の首へ手をかけかけるハナ子。飼いの歴が長いハナ子はあらゆる点で利口だった。 「ノータイムでそういうのはちょっと無情すぎるから様子見ようよ」 流石に見ていられずに俺はそれを止めてしまった。 「いいんデス?」 「まあ躾とかでどうにかできたりするかもだしさ」 「本当に、いいんデス?」 「ゴチソウまだテチ?はやくよこすテチ!飢えるテチ」 即殺すのは流石に忍びないとして仔実装の命は繋がる。 そんなことを知らず喚き立てる仔実装をハナ子はやさしくなでて、声をかける。 「テェ?ママ?ゴチソウまだテチ?」 「たぶんママはオマエに生まれてきたことを後悔させると思うデス」 ハナ子はこちらを振り向いて言う 「やるからにはワタシがセキニンもつデス、ゴシュジンサマは見守っててほしいデス」 …… 賢明なハナ子は言葉通りにこいつへ鬼のように接した。 「こんなもん食えるかテチ!」 当然と言えば当然か、食育用の栄養はあるがまずい仔実装フードをムスメが投げ捨てる。 「まずかろうが食うデス、まずいモンに慣れておく期間が飼いには大事なんデス」 己の経験を語りながら、ムスメを抑えつけてその口にフードをねじ込み、咀嚼させるハナ子。 「グムムッ!?ムグーッ!……デヂャッ」 「吐くなデス、吐いたの飲み込むデス、ホラ」 ムスメが吐き、床にべちゃりと広がった液状のものを食べさせる。 「ンムッ、ンムム……」本気血涙を流しながら、モリモリとパンコンを膨らませてゲロかフードかわからない液を飲み込むムスメ。 「まずいデス?」「まずいテチ!ママはひどいママテ……」 「よくがんばったデス、ご褒美デス、ちゃんと食べられたオマエはおりこうデス」 優しくムスメを抱き、甘い乳を飲ませるハナ子。 「ママ」先ほどとは違った涙を流し、少し表情を柔らかくしたムスメ。 ニッコリとハナ子は目を合わせて微笑んだ。 「おいしかったデス?よかったデス」 「ママァ……!」 「でも見るデス、オマエのパンコンでママはクソまみれデス、つぎはトイレのトレーニングデス」 飽くまでもやさしい声のままだった。 何かを察したムスメの顔は強張った。地獄のような躾はまだまだ始まったばかりだったのだから。 「ゴチュインチャマ」すがるような目でムスメはこちらを見る 「悪い、俺は子育てには口出しできないんだ」 「テェ……!?そんなのギャクタイテ」 「また漏らしたデス」 ハナ子の言葉が聞こえた時、ピンと背筋を伸ばしたのが面白かった。 …… 「ママ!キレイキレイにおトイレさんできたテチ!」 「いいこデス!でもおトイレの水で手を洗ったデスね?」 「テ」 それから何度も何度も 「ママ!ゴハンさんぜんぶ食べられたテチ!」 「よくやったデス!だけどまわりにゴハンがぽろぽろ落ちてるデスね?」 「テチッ」 できたことは褒め、できなかった事は修正していった。 何度もトライアンドエラーを繰り返してハナ子はなんとかムスメをそこそこ行儀のいい仔実装程度には育て上げた。 …… そうして過ぎる事ひと月。 「よかったなムスメ、お前はここにいていい存在といってもよかろう」 「よ、よくわかんないけどやったテチ!ママ!」 「がんばったデス、よくがんばったデス」 涙を流すハナ子。めいっぱいムスメを抱きしめている。 「はは、今日は仕事帰りにムスメにご褒美を買ってきてやる、楽しみにしてろ?」 「テェ!ゴチュインチャマ、アリガトウゴザイマチテチ!」 無事に躾を乗り越え、ムスメも我が家の一員となったその日。 浅い夜に事件は起こった。 仕事帰りに実装ショップで購入したコンペイトウ、それをついにムスメへプレゼントしたその時だった。 「ほらこれがコンペイトウだ、おいしいぞ」 「テェ!アマアマなにおいテッチ!」 「欲張らず食べるデス、お行儀よく、デ?」 「おいちいテチ~!テチッ?……」 コンペイトウを口に含み、飲み込んだムスメの様子がおかしい、突如その場で静止してしまったのだ 「どうした?そんなに美味しいのか?」 「動かなくなったデス」 美味しさに感動して固まったとか、そういうものではない。ハナ子はゆさゆさとムスメを揺さぶるが、反応はない。 なにかこう、もっと重大な硬直とかそういうものだ。 「もしや」俺はコンペイトウのパッケージを確認する。 『しびれるウマさ!アマアマスパーク! 実装石用』電撃のようなエフェクトと黄色いコンペイトウを笑顔で食べる実装石のイラスト。 いかにもお菓子然としたパッケージ。裏面を見る。製品としてこれは……やっぱりだ。 「あっ」 「どうしたデス…?あっ…デス」 …… ※本製品は味を調整したタイプの『実装シビレ』です。ペット実装向けの飼料ではありません。 …… 「テェ…?ママ、ゴチュインチャマ?オハヨウゴザイマテチ!ワタチ寝てたテチ?」 「い、生きてた」「死んでなかったデス!よかったデスゥ!」 数分後、起き上がったムスメに俺とハナ子が安堵しているとムスメは笑顔になった。 「生きてるテチ!元気いっぱいテッチ!」 「ごめんなムスメ、これからは気を付けるからな」 「なにをテチ?そういえばコンペイトウ、ピリピリでウマウマだったテチ!次はいつもらえるのがたのしみテチ!」 シビレとは劇薬である、あんなものを与え続けたら死んでしまう。 「それなんだがな…絶対にもうあげられないんだアレは」 「何があってももうあげられないデス、大変なモノなんデス」 「チェェェ……なんでコンペイトウくれないんテチ…!?いじわるテチ!?テチャアアア!」 「どうしてもどうしてもだめなんデス!」 「ダメなモンはダメだ!」 涙を流すムスメを前に、俺とハナ子は頭を抱え続けるしかなかった。
1 Re: Name:匿名石 2024/02/20-16:38:28 No:00008752[申告] |
おぉ、まともな躾で糞蟲が治るのもいいもんですね
シビレが駄目ならはじけるキャンディをあげよう あれなら刺激が強くて喜んでくれるかもしれない |
2 Re: Name:匿名石 2024/02/20-21:45:33 No:00008754[申告] |
気付きと自発性が伴わない矯正だけの躾ってメッキがすぐに剥げそう。ベースが糞蟲なら尚更
なので生まれて性質を確認してから選別の方が結果的にペットとして破綻なく寄り添える存在に成り得るかも まあ間引きを身近に感じさせるのがどう転ぶかのリスクもあるが |
3 Re: Name:匿名石 2024/02/20-22:38:02 No:00008755[申告] |
だからこそハナ子はまずシメようとしたのかもしれない
|