「マァマー、ドングリさん見つけたテチー」 「オマエは良い子デス、その調子でどんどん集めるデス」 自然豊かな秋の山、山実装の親仔が食料を集めている。 空は青く澄み渡り、鳥のさえずりが聞こえ、爽やかな風が心地よく吹いている。 平和な日常という表現がぴったりだ。 「このくらいデスね、では一旦ウチに戻るデス」 「ハイテチ!」 本日の目標としている量の食料を集め終わった親仔は一度住処に戻る。 住処としているのは山の斜面に掘られた横穴だ。 整然と等間隔で並んだ実装石用の集合住宅という様相である。 このコロニーは成体が十匹、仔は三十匹ほどいるだろうか。 中々の大所帯である。 リーダー実装を中心としてそれぞれが役割を担い、規律を守って暮らしている。 規律はそこまで厳しかったり数が多いわけではない。 だがそもそもルールという概念を理解出来ないことが多い実装石という生き物。 守れない糞蟲は他の実装石の糧となる、その中でこのコロニーは皆優良であった。 夜、先程の親仔が自宅となる巣穴でくつろいでいる。 「マァマー、明日もドングリさん集めるテチ?」 「そうデスね、明日もその先も同じデス…ずっと同じだといいデスね…」 「ママ?」 「サァ、そろそろ寝るデス。悪い仔は連れてかれるデスよ」 ======================================== この親実装は悩んでいた。 自分は今年初めて仔を産んだ。 自分から見れば皆かわいい仔『だった』。 何がいけなかったのか、産まれた仔は長女一匹を残して全員糞蟲であった。 糞蟲は即刻締められて保存食となった。 いくら糞蟲とはいえ我が仔、その仔が最期に放った恨み言が忘れられないのだ。 『ママもオバチャも皆クソムシテチィィィィ!!』 『クソムシは食われろテッチャァァァァァ!!』 リーダー実装はハイハイ、と聞き流しながら仔の首を720度捻り、 内臓を引きずり出し、保存食として食糧庫に並べていく。 「気にしなくていいデスゥ、こういうこともあるデスゥ。そのうち慣れるデス」 慰めの言葉を貰ったものの慣れるような気は全くしなかった。 せめてこの仔だけでも、とは思ったものの産んだ時期が悪かった。 今は秋である。 一緒に食料を集め、共に寝起きし、大事な家族ではあるが、 今は秋である。 山実装の社会では秋に産まれた仔は基本的に使い捨てである。 労働力として使い潰し、最後は保存食。服や髪まで余すことなく搾取する。 冬支度とはそういうものであると教わってきた。 だから何かの拍子で予定外の妊娠をした時浮かぬ顔をした。 皆の平和な日常のために我が仔を犠牲にするのか。 何か他に手はないのか? 悩んでも考えても答えは出ない。 あるいは何かこの日常を変えるような出来事でも起きないものか。 そうして親実装は眠りについた。 ======================================== それから数日後… この親実装はまだ皆が寝ているような早朝リーダー実装に起こされた。 そうしてしばらく山の中を歩いていた。 「どこへ行くんデス?」 「…いいところ、デス」 具体的なことは何も言わず、山の中を歩く。 この辺りまでは来たことが無い。景色に見覚えも無い。 巣穴から離れ過ぎるのは規律違反だ。 「どこまで行くんデス…?」 さらに歩いていくと小屋が見えてきた。 人間が建てた小屋だ。 「これは…なんデス?」 この親実装にとって初めて見る人工物である。 リーダー実装は慣れた手つきで、臆することなく扉を開けた。 「さあ、入るデス」 言われるままに先に入る親実装。 バタン。 扉が閉まる音に振り向くと、リーダーは外である。 出ようにも扉は開かない。実装石の手では中からは開かない仕様になっている。 「デェ!? これは…どういうことデス!?」 「悪く思わないで欲しいデスゥ…」 そう言うとリーダーは足早に去っていった。 しばらく脱出しようと動いていた親実装であったが、出口は無い。 そうしていると、ガチャリという音と共に人間が入ってきた。 もちろん人間を見るのも初めてだ。 「おー、今日はこいつか。中々良さそうな感じだな」 そう言いながら親実装の首元をむんずと掴み、持っていた袋に入れる。 もちろん抵抗はしたが全くの無駄である。 イゴイゴ蠢く袋を軽トラの荷台の『出荷用』と書かれたコンテナに詰め、 デスゥー!!デェースゥー!!!という悲鳴と共に軽トラは走り去った。 ======================================== ここは自然豊かな秋の山。 しかしその正体は山一つを丸々使った『山実装の牧場』である。 ほぼ自然環境そのままに自由に育った山実装という売り文句だ。 もちろん脱走や外敵の侵入は防ぐように広範囲にフェンスは設置されている。 人の手は加えないとは言ったが、一番人間が干渉しているのがリーダー実装である。 教育済みの個体をリーダーとして山のあちこちに配置し、統制させている。 一つの山に複数のコロニーが存在するが、問題を起こさないようにさせている。 各コロニーのリーダーにはこう教えている。 『人間の要求を満たす実装石を引き渡せば平和を約束しよう』 断る、もしくは要求を満たせなかった場合、どうなるか。 それを容易に想像できる高い知能をどのリーダーも有していた。 秋から冬にかけては一番要求数が多い時期だ。 冬に備えてたっぷりと脂肪を蓄えた山実装はグルメにも大変好評だ。 管理されずに放置され荒れた山を山実装の牧場に整備し直す人はそれなりにいた。 先の整然と並んだ集合住宅のような巣穴も人間が整備したものだ。 ちなみに注文はつけるがどの個体を生け贄にするかはリーダーに任せている。 リーダー以外の実装石はここが人間に管理されていることは知らない。 今回の要求個体は若い成体。 仔実装よりボリュームがあり、老実装より柔らかく臭みが無いので人気だ。 この親実装が選ばれたのはこの先やっていけるか不安視された部分もあろう。 親仔の巣に戻ってきたリーダー。仔がピョンピョン飛び跳ね無邪気に尋ねる。 「オバチャ! 起きたらママがいないテチ! どこ行ったか知らないテチ!?」 リーダーは仔を抱え上げフゥー、と一息つくと 「オマエのママは…楽園に行ったデス」 コキャリ 「?」 仔が何か声を上げる前に首を540度捻り殺した。 「そのうち慣れるデス… もう慣れたデスゥ…」 親仔が消えた理由を他の成体実装に適当に説明をしておいたリーダー。 残念そうな顔をする者もいるがリーダーを疑う者はいない。 それよりこれから冬が来るのだ。気にかけている余裕はない。 牧場といえども自然そのままなのだ。 今までこのリーダーについてきたからこその平和である。 平和をわざわざ壊す必要はない。 皆そう思っている。 (たとえ食肉として管理された平和であってもデス…?) リーダーは自分の娘の困惑と悲しみの混ざった最後の顔を思い浮かべるのであった。 ======================================== 「デスン… デスン…」 「悲しいデス…」 「ナニが…?」 「ナニか悲しいことがあった気がするデス…」 「ココロとカラダにポッカリ穴が空いたようデス…」 『ママ…』 「その声は…」 『ママー!!』 「死んだハズのワタシの仔たち… でも長女がいないデスゥ…?」 『ママ! ワタチの言った通りになって嬉しいテチ!』 『ママはクソムシだからココに来たんテチ!』 『クソムシは食われる決まりテチ!』 「!? な、な、ナニ言ってるデスゥ!?」 『ママー!! 会いたかったテチ!!』 「長女!? 急に現れたデス!?」 『オバチャがママは楽園に行ったって言ってたテチ! 本当だったテチ!』 いや 待て ここは楽園なんかじゃ そんなワケが ない 「デェェェェアアアァァァァァァァ!!!!!!!」 「あ 起きた」 「糞抜きして開きにされても起きなかったけど焼かれたら流石に起きるのな」 「それにしても凄い表情だな、普通の実装より苦悶が濃いというか…」 「まあその方が美味しいと言うし…」 「燃えろファイヤー!! たーたーかえー!!」 「おい酒入るのはえーなコイツ」 「じゃあまずはビールで乾杯か」 長女… ママ… 何がいけなかったんデス…? 変化を望んだからなんデス…? こんなことは望んでない…デス… パキン
1 Re: Name:匿名石 2024/02/07-09:05:11 No:00008687[申告] |
山丸ごと使って牧場にするのいいね
あとリーダーの代替わりの時にどう引き継ぐのかちょっと見てみたい >あるいは何かこの日常を変えるような出来事でも起きないものか 起きたよ、良かったねぇ… |
2 Re: Name:匿名石 2024/02/07-14:48:23 No:00008688[申告] |
糞蟲庇って暴れたとかの落ち度もないのに悲しい…
リーダーは人間が用意しそうだがコロニー形成後にポッと出だと受け入れられなさそうだし皆殺しにしてコロニーごと作り直しかな? |
3 Re: Name:匿名石 2024/02/07-23:32:58 No:00008691[申告] |
労働実装とかあるけどあの手じゃ何もできねえしな
全部食肉に回すしかねえ ますます二足歩行するだけの豚に |
4 Re: Name:匿名石 2024/02/09-01:25:18 No:00008693[申告] |
実装なんて山ではニッチで外様、街ではスカベンジャー
それが牧畜であっても現状は十分平和であろう…楽園?んなモノねえよ |