タイトル:【観察】 大晦日の朝
ファイル:大晦日の朝.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:617 レス数:6
初投稿日時:2023/12/31-08:13:03修正日時:2023/12/31-08:13:03
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大晦日の朝



「デスゥ♪」
「テッチューン♪」
「テチュテチュ!」

昨日…12月30日の昼間は割と暖かかった為か、うちの隣のやぶに棲んでいる野良一家が
冬ごもりを中断して俺の家の前で無邪気に遊び回っていた。

貯えていたのであろう木の実も遊びながら食べ始め、
もう春が来たとでも言うように一家で元気に走り回っている。

が、やがて日が傾き気温が下がってくると、野良たちはうちの窓を叩き始めた。

「ニンゲンサン…助けて欲しいデス…」
「中に入れくださいテチィ…」
「テチューン」

ようやくと言うべきか、まだ冬だったことに気づいたようだ。
一度はやぶの中の家に戻って冬ごもりを再開しようとしたようだが、
半端に冬ごもりをやめた所為で身体のサイクルが狂って、
冬眠に近い省エネのような状態になることができないようだ。

「寒いデス…」
「入れテチ…」
「テチュー」

おまけに貯えていた木の実の大半も食ってしまったとあっては、
もはや隣に住む俺に頼るしかないと思ったのだろう。

俺は今まで一度たりともその一家を虐待したことはなかったので、
連中にとっては俺は「怖くないニンゲンサン」という扱いらしかった。

俺の機嫌を損ねないように暮らしていたようで、俺と顔を合わせれば挨拶してくるし、
俺の家の庭をなるべく汚さないように、ゴミを散らかさないように暮らしていた様に見えた。

そんな中、凍死するかもしれない危機的状況に置かれて幸せ回路がフル回転し、
俺は連中の頭の中で「怖くないニンゲンサン」から「優しいニンゲンサン」に
ランクアップしたのかもしれない。

もっとも、俺は無関心なだけだったのだが…。

「デスゥ…ニンゲンサ…デェ…」
「テ…テェ…」
「テチュ…」

実装一家は夜になってもしばらく窓を叩いていたが、やがて静かになった。



大晦日の朝、起きて窓の外を見ると、雨が降りしきる中で野良一家が凍え死んでいた。
親実装は二匹の仔実装を抱きかかえて、寒さから守るように身を丸めていた。

俺はため息をひとつ吐くと、軍手をつけて庭に出た。
そしてゴミを摘まむトングで仔実装を実装ゴミ用の袋に入れ、親実装も同じ袋に放り込むと、
その袋をポリバケツの中に入れて蓋を閉めた。

さて、年明け最初の実装ゴミはいつだったかな…。



終わり

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1 Re: Name:匿名石 2023/12/31-15:43:28 No:00008578[申告]
特に糞蟲行動したり男が虐待することもなく普通に死んだ…
ありふれた光景なんだろうなあ
2 Re: Name:匿名石 2024/01/01-02:46:49 No:00008579[申告]
掃いて捨てる程いる越冬や人間を舐めてる連中だなあ
捨てる方の手間も考えて欲しいね
3 Re: Name:匿名石 2024/01/04-08:10:58 No:00008588[申告]
ちょっと暖かい日があっただけで冬眠中断・そのまま食べつくしするようなデタラメっぷりでは
どうせこの先も生きていけなかったろうし、悲惨な目に合う前に家族みんなで終われて良かったのかもしれない…
最後まで手を出してこない優しいニンゲンサンで良かったね
今年の冬は暖かったけど同じように冬眠から覚めちゃった動物とかいるのかな
4 Re: Name:書いた人 2024/01/04-11:19:21 No:00008589[申告]
>今年の冬は暖かったけど同じように冬眠から覚めちゃった動物とかいるのかな
実はこれ書いたのは前日の昼間に窓の外で蛾が飛んでたのがきっかけです
調べたら冬に飛ぶ蛾もいるらしいけど、普段はあまり見たことないし、
何よりちょっと暖かいからってそんな飛び回って…
冬が終わったと錯覚してはしゃぐ実装石みたいだと思って書きました
5 Re: Name:匿名石 2024/01/04-13:34:15 No:00008590[申告]
ただでさえ難しそうな子連れの越冬には蓄えが少な過ぎてジリ貧だったろうな
お目溢しする人間にひと時のシアワセな宴、まだ恵まれた方だったのかもね
6 Re: Name:匿名石 2024/01/05-06:03:59 No:00008599[申告]
暖冬が続くねえ
逆に夏は暑すぎるし冬眠より夏眠した方がいいかもな
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