『実装石大法要』 「ようこそいらっしゃいました」 老禅宗実装寺では毎年、決まってこの時期に実装石供養の大法要を行っている。 祀られている『実装閻魔』と呼ばれているご本尊の美しい少女の像に祈りを捧げ、今年一年で命を落とした数多の実装石の供養を行うのだ。 なぜこの時期かというと、年明け前に慚悔を済ませ晴れ晴れとした気持ちで年末年始の行事を行って欲しいからである。 この行事には全国各地から実装石愛護派(本物)やブリーダーといった、実装石を『生かす』者が大勢参加している。 一方で各地の公園管理者や駆除業者といった、所為『殺す』者も数多く参加している。 流石に遊び半分の虐待派はやってこないが。 穢れなき深緑と見紛うほどの法衣に身を包んだ僧の厳かな言葉(説法)から、法要は始まる。 「この法要に参加される方はそれぞれに、実装石に対する思いを持っていることでしょう。 しかしそれは決して明るい色ばかりではないはずです。恐らく、冥い色の思いをお持ちの方も居られることでしょう」 僧の言葉に、思わず公園管理者や駆除業者たちが背を正した。 「この法要に参加される皆様に、心に留めておいていただきたいことがあるのです」 僧の背後では、厳かに名電翠星経……実装閻魔が発したとされる言葉の一字一句を余すことなく修めたとされるありがたい経文……が、僧の説法の邪魔にならない程度の大きさで響いている。 「実装石は、何の為に生きているのでしょう? 人間と神とに憎まれ呪われ、そして殺されるために生きているのでしょうか?……そうだとすれば恐ろしい事です」 今度は居合わせた一同全てが、身をすくめた。 「そのようなただ苦しむため生まれてきた存在があるという事を許して良いのでしょうか? 実装石が苦しむため生まれてきたのならば、その実装石を生み出した者こそ……最も罪深い存在であるはずです」 強い口調の説法に参列者は皆、固唾を吞むばかりだ。 「……しかしそうではないと、私は思っています。実装石を救うことも出来ると思っています。 そう思うものたちが集うからこそ、ここ『実装寺』は存在するのです」 空気が柔らかいものに変わったことを、参列者の皆が感じていた。 「公園の管理者の方や駆除業者の方が、街や人々のために野良実装石を片付けること……これが止むを得ないことであることも知っています。 それでも、心の隅には留めておいて欲しいのです……それらといたずらに殺生を重ねることは別物である、と」 公園管理者や駆除業者たちは、一斉に自然と頭を垂れた。 「そして実装石を愛好している方々にも、申し上げたいのです。徒に可愛がることだけが、救いではないと。 むしろ、実装石たちを救いから遠ざけてしまう行為であるということを……」 今度は実装石愛護派やブリーダーの諸氏が、頭を下げた。 僧の説法の後にコンペイトウを炊き上げる。 お堂全体に、甘い香りが広がる…… 『アリガトウ、ニンゲンサン……』 そんな声が聞こえてくるようだった。 大法要は、今年もつつがなく終わった。 一方その頃、地獄では……。 「いますぐあのアマアマのコンペイトウをワタチに捧げるデシャァァ!」 「はい地獄行きですぅ」 今日も実装閻魔は大忙しだった。 閻魔大王は地蔵菩薩の化身であるとする説がある。 地蔵菩薩は既に悟りを開いており、如来になってもいいのだが「最後の亡者の一人が救われるまで、私は地獄を彷徨います」と誓願を立て、あえて地獄に留まっているという。 閻魔として亡者を地獄に落とすのは苦しめるためではなく、教化……まっとうな道を歩んで欲しいがため、つまり慈悲を持っての行為なのだ、本来は。 さて、彼女……『実装閻魔』と呼ばれる存在……もまた、身勝手な『お父様』とやらに魂を吹き込まれ、自律稼働することができる身と、自分で考えることができる心を得た存在である。 つまりは、人間のエゴが生み出した存在以外の何者でもないのである。 その上に『アリスゲーム』なる殺し合いを強要されたのだ。そして彼女は、七人姉妹の中でもっとも荒事を嫌う性格であった。 そんな自分の影から生み出された望まれざる者……実装石にも一定の憐憫を持って接しているのだが……ほとんどの個体は我侭勝手を喋り倒すだけの俗に言う『糞蟲』ばかりで、とにかく猛省させるしかない状態であった。 「この調子じゃ、何年かかるかわかんねーですぅ……」 姉妹の誰かが『アリス』になって自分がただの人形になるか、この実装石たちがすべて真っ当な道を進むようなるか……そのどちらかでしか、自分の役目は終わるまい。 慈悲深いが故に、実装閻魔の苦悩は続く……。
1 Re: Name:匿名石 2023/12/25-23:49:54 No:00008561[申告] |
実装石を一番殺めてるのって実装石な気がしないでもない
普段個人活動の多いだろうその手の好事家がいたぶり殺す量なんてのもたかが知れてる気がするし |