タイトル:【虐】 Iのメモリー 5話(完)
ファイル:Iのメモリー #5.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:936 レス数:7
初投稿日時:2023/12/20-00:38:30修正日時:2023/12/20-00:42:59
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            『 Iのメモリー 5話(完)』





男は実装石に———それもあの仔実装に———取りつかれていると言っていい。


実装石はじつに奇妙な生き物である。

人間のような姿をし、機械越しにではあるが人間と言葉を交わせる。

賢く愛情深い者がいる一方で、わがままで傲慢な、糞蟲と呼ばれる者もいる。

誰かに依存せずにはおれぬ者も、己を犠牲にして誰かを助ける者もいる。

あるいは失敗から学ぶ者がいる一方、いつまでも愚かなままの者もいるだろう。

ひっそりとみじめな死を迎える者がいて、誰かに愛されて安らかに逝く者もいるかもしれない。

あたかも人間社会のパロディであるかのように。


だがそんな実装石とて、人間にとってはただの動物にすぎないのだ。

料理店で養殖実装肉を口にすることはもはや珍しいことではない。

街中の人間に媚を売る野良実装は路傍の石のごとく黙殺される。

ペット実装はただ愛嬌をふりまいてくれればそれでいい。

いたぶることに快感を覚える人間にはいい悲鳴を聞かせてくれる楽器だ。

そう、多くの人間にとって、実装石はそもそも取るに足らない存在でしかない。


男の実装石への傾倒ぶり、愛着の持ちようはそれとはどうやら異なっていた。

実装石好きの人間が示す愛情の注ぎ方とも、実装石をさげすむ人間が示す憎しみにも似た嫌悪感とも違う

異常とさえいえる執着心が男からは見てとれる。

それが男の体験、あるいは記憶のどこから発しているのかは定かでない。

むしろ、男にそうさせる何かを実装石の方が発しているのかもしれなかった。







*********************************************************************************************************







作業机の上には意識が戻らない仔実装と、裏仔実装の偽石が沈んだガラス瓶があった。

そばに立つ男は濃いめに淹れた、舌を焼くほど熱いコーヒーを飲みつつ眉をしかめて何か考えていた。
仔実装とガラス瓶を交互に見比べ、ときおり首を振っては無言で舌打ちをする。


「あまりグズグズしちゃおれんしな…」


フーッとため息混じりにぼやいた男がようやく行動を起こした
男は椅子に腰かけると、割れかけの偽石ではなく仔実装のほうを取り上げた。お気に入りで何着もある
ピンク色の実装服を手早く脱がせ、さっさと裸にむいてしまう。
仔実装は何をされようが反応を示さなかった。
念のため男は活性剤をスポイトで口に含ませておき、メスで手早く仔実装を開腹していく。
腹にメスを突き立てられても仔実装は無反応だった。うるさく痛がって暴れないので男にはありがたい
くらいだろう。“拘束具”も今日にかぎっては出番がなさそうである。
負担を軽減するためか腹部を控えめに切開すると、男はメスをすすいでガーゼの上に置いた。
次は開いた仔実装の腹に薄いヘラを突っ込んで開口部を固定する。
ピンセットで臓物をかきわけていくといつものところに偽石があるはずだ。


「ん…?なんだ…これ…」


男が思わず声を上げた。
どくどくと脈打つ血管や、ぶるりとうごめく内臓に取り囲まれた中に仔実装の“表”の偽石がある。
それはいつもの翡翠色とは違い、オレンジ色に明るく輝いていた。


「色が…。どうなってんだ…」


ピンセットでおそるおそる偽石をつまみ上げると、偽石はさしたる抵抗もなく外れた。
男はそっと偽石を手のひらに取ってみる。


「熱っ!!」


驚いた男が思わず偽石を手から放してしまった。燃えるように熱い偽石が宙を舞っていく。
偽石はフローリングの床にたたきつけられる数センチ手前で止まった。すんでのところでキャッチした
男は額から冷や汗を垂らしている。幸いなことにオレンジ色に澄んだ偽石には傷一つなかった。
男は熱い偽石をとりあえずガーゼの上に置いた。握っていた手のひらはうっすらと赤くなっている。


「一体どうなってる?…オーバーヒートでもしたのか?」


実装石の偽石は生物の器官として他に類をみないものだ。
思考し、記憶し、体を動かし、成長させる。時には少しずつ溶け出して自らの仔へ分け与えられる。
まるでラジコンのように、体から離れていても動作には何の支障もない。

こんな不可思議な器官を持つ動物は実装石だけである。

最も近いものは脳ということになりそうだが、男はむしろコンピュータに搭載されたマイクロチップや
ストレージなどの仕組みに似ているのではないかと考えついた。


「そうか…。生き物として考えちゃダメなのかもしれんな」


偽石があたかも機械のようにはたらくのなら、と男は仮定してみた。
それならこのオーバーヒートのような現象もなんとなく理解できるような気がする。
裏の偽石の自壊とこれとは関係がなくて、おそらく昨夜の出来事のほうが原因なのかもしれない。

仔実装は糞蟲と思い込んだ蛆実装たちを皆殺しにし、自分をごまかしてその肉を食べた。
目覚めてからもまた蛆実装を殺し、今度は目の前で殺したばかりのものを食わされた。
自分自身が最も嫌っている糞蟲に、己も堕ちたという事実を突き付けられて。
そして、食べたものがあろうことか自分の仔だったと教えられて。
仔実装はほとんど発狂寸前だったではないか。

その際に仔実装の内面で渦巻いた思考と感情のすさまじい情報量を一度に処理しきれず、偽石の回路が
ついにパンクを起こしたのだ。
そこを強制的にスプレーで眠らされたために、寝ている間もずっと偽石はそのままだった。
やがて溜まりに溜まった情報の熱量が偽石の発熱を引き起こしたのに違いない。


「こいつは生きているCPUかなんかかよ…。その割に処理能力が低すぎるだろ」


フリーズしたのに熱くなるのか、と男は苦しまぎれに笑った。
どうして過熱したのか分かっても、それをどうすれば元に戻せるのかはまだ分からなかった。

せめてもう少し考える時間が欲しい。そう思った男は裏仔実装の偽石をちらりと見やった。
状態は相変わらず悪いままだが、目に見えて崩壊が進行していくほどではないようだ。
男はガラス瓶に入っている液体を半分ほど洗浄皿に捨て、偽石強化剤を惜しげもなく注ぎ足した。

いくら考えても偽石のしくみなど分からないので、男は気分を変えて頭を冷やそうと思い立った。
立ち上がってキッチンにミネラルウォーターを取りに行く。
何の気なしに冷蔵庫の扉を開けようとして男ははたと気が付いた。


「頭を冷やす…そうか!冷やせばいいのか!」


単純なことである。熱いものなら冷ませばいいのだ。
男はステンレス製のボウルに冷凍庫から大量の氷をガラガラと移し、そこに冷えたミネラルウォーター
をなみなみと注いだ。急いで作業部屋にとって返し、仔実装の熱い偽石をそろそろと氷水に沈めてやる。
氷水からは少しだけ気泡がプクプクと浮かび上がってきた。

しばらく放っておけば温度が十分に下がるはずだ。
そうすれば処理が再開され、偽石も元に戻るのではないだろうか。


「いまいち自信はないが…他に方法も思いつかないしな」


一安心という顔で、男はジャージのポケットからタバコを取り出して火をつけた。
お次の懸案事項は壊れかけている裏の偽石をどうするか、という問題である。
強化剤漬けにしたところでその場しのぎにしかならないのは男にもわかっていた。


裏仔実装を責め立て、死へと駆り立てるもの、それは言うまでもなく表仔実装の糞蟲化である。
自分だと思っていたものが自分でなくなっていき、糞蟲と化していくのを見ているしかない苦しみ。
男はその苦しみを裏仔実装だけに背負わせた。

そして昨日見せられたのは、自分“たち”が蛇蝎のごとく嫌うはずの糞蟲そのものだった。
それは己の分身が思うままに我が仔である蛆実装をいたぶって悦に入る狂気の姿だったのだ。
あれで裏仔実装の絶望に拍車がかかったのは間違いないだろう。

けれどそれこそが男が裏仔実装に求めるものの本質なのである。
何もかも忘れて白紙へ戻ってしまう表の自分の全てを見つめ、覚えておくこと。
その全てを引き受けて、忘れてしまった表の自分の代わりに苦しむこと。

男はその苦しむ姿を見たいのだ。
だから苦しみが長引くことを望みこそすれ、取り除いてやるつもりなど毛頭なかった。

ならば裏仔実装を救うためにまた適当な偽石をみつくろって供物にすべきだろうか。
だが、男にはちょうどいい偽石のストックがなく、そんなものを探す時間ももう残っていなかった。
それにどうせすぐに同じことの繰り返しになるのに決まっているのだ。
死を望む裏仔実装の思念を根本からどうにかするしかないことは男にも分かっていたのである。
絶望による偽石の自壊は男のこの“遊び”にずっと付きまとってきた問題だった。


男はどうやって裏仔実装を立ち直らせるつもりなのだろうか。
これまでと打って変わってひたすら可愛がってやればいいのか。
あるいはいっそのこと虐待行為を一切封印してしまえばいいのか。

それは違う。それではだめなのだ。男には分かっていた。

元は同じ一つの自我だったものが引き裂かれ、違う自分が目覚めたことが裏仔実装のそもそもの絶望を
生む原因である以上、分かたれた自我を元に戻してやればよい。

解決策はじつに簡単なことなのだ。偽石を二つとも仔実装の中に戻せばいいだけである。

だが男にはそれがどうしてもできなかった。
それをすれば、仔実装を特別たらしめているものがなくなってしまうからである。

偽石を元に戻せば自我と記憶は統合され、ただの仔実装に戻れるだろう。
せいぜい虐待された記憶と甘やかされた経験をあわせ持つだけの、甘ったれでおびえた仔実装に。
男にとってそれはなんとつまらないことだっただろうか。


「お前に死なれちゃ退屈だからな…」


白い煙を口から吐き出し、男はボウルの氷水にタバコを漬けて火を消した。
まだ長く残った吸いさしがジュッと音を立ててから水の中に沈んでいく。

水底の表仔実装の偽石は少しずつオレンジ色が薄くなっているようにも見える。
元の翡翠色に戻るまでにはさほど時間がかからないかもしれない。


「まぁ、焦っていても仕方がない」


そう言うと男はぶらぶらと水槽部屋へと廊下を歩いていった。
昨日の朝から放置していた蛆実装たちにエサをやり、ケースの掃除のひとつもするつもりなのだ。
どうせやらなければいけないのだし、それをやりながら裏仔実装の偽石を救う手立てを考えようという
ことなのだろう。

誰もいなくなった作業室の机の上では仔実装の腕がかすかに動いたようにも見える。
ガラス瓶の中の偽石だけがそれを見ていた。





                  ・
                  ・
                  ・





収納ボックスの中はずいぶん空室が目立っていた。男は先週から仔実装に強制出産させていなかったし
昨日は興が乗りすぎて12匹も景気良く使ってしまったのである。
男が“遊び”に夢中で忙しく、エサを入れてやるどころか何の世話もしなかったので、ケースの中では
何匹かの蛆実装が死んでいた。
自分の糞の中で溺れている者と、おそらく空腹かプニプニされないストレスでパキンした者。


「だいぶ減ったな。来週からフル回転で働かせてやる」


ぶつくさ言いながら男は蛆実装のケースの手入れをはじめた。
もう死んで硬直が始まっている蛆と糞のしみ込んだティッシュをまとめてゴミ袋に放り込み、ケースの
中をきれいに拭いてやる。
空腹を耐え忍んでいた蛆実装たちは当然ながら我先にとエサをせがんできたが、エサを食い終わるまで
待つより先にプニプニしてやったほうが効率がいいのでさっさと済ませていった。

男は他の水槽に入っているはずの何匹かの実装石のことをついでに思い出した。この連中は蛆実装以上
に放置されていたが、最近の男にとってほとんど興味を引く存在ではなくなっていた。
周りにある水槽に男が視線を移しかけたとき、部屋の外から何か音がした。


「ん?何の音だ…?」


水面で魚が跳ねたような、そんな音だったようである。
男は少しの間耳をすませてみたが、それきり音は何も聞こえてこなかった。
手元の蛆実装がプニプニされて「レヒャッ♪レヒャッ♪」と喜ぶ声だけが部屋に小さく響いている。


「気のせいか…」


また男はプニプニを再開し、次々に蛆実装たちを満足させていった。
練りフードを仕切りの中にたっぷりと入れてやればそれでこの作業は終わりである。

さらに男はしぶしぶといったやる気のない態度で、すっかり放置していたほかの水槽の実装石たちにも
エサをやり始めた。安物の実装フードを乱暴に投げ込んでいくだけのことである。
最下段の水槽の蓋を開けた途端、中にいた禿裸の成体実装が大声でギャーギャーわめき始めたが、頭に
パンチを一発見舞うと抗議はすぐおさまった。


「痛いデスッ!高貴なワタシになにをするデスッ!!」


禿裸はあの仔実装の実の母親であった。
仔実装を含めた7匹の仔たちを男に取り上げられたうえ“楽園”水槽からも追放されてしまったために
精神に異常をきたしたのである。仔実装の6匹の妹たちは冷凍され、裏仔実装の偽石を修復するために
使われてしまったが、同じく役割を終えたこの母実装を男は律儀にも生かしてやっていた。
母実装の水槽はずっと手入れをされなかったため糞まみれでうす汚れている。ところどころに糞を舐め
とったようなみじめな跡があった。


「おう、メシだ。食えよ糞蟲」

「デェェッ!ゴハンデス!ウンチじゃないゴハンデスゥゥ!」


男が徳用フードをザラザラと水槽にぶちまけてやると、四つん這いになった母実装はろくに味のしない
フードにヨダレをたらしながら飛びついた。


「ところでガキは元気か?」


エサに夢中になっていた母実装も『ガキ』という言葉にだけは敏感に反応した。


「あたりまえデッス!ワタシのカワイイ仔はいつも元気いっぱいデスゥ!」


ベチャベチャと口を動かしながら、母実装は腹の下に隠していたぬいぐるみを両手で高々と掲げた。
ぬいぐるみはところどころに糞がしみ込んで汚れていた。
先日仔実装に貸し与えたあと、男がこっそり母実装のところに戻しておいたものであった。


「そりゃ良かったな。他のガキどもはどうしたんだ?」

「何を言うデス。ワタシの仔はこの仔だけデス。可愛くて賢い自慢の娘デスゥ♪」

「そうか。他にも何匹かいたように思ったんだが」

「ワタシにはこの仔だけいればいいデス。ワタシの仔はみんないい仔デス」

「ワタシの仔には糞蟲なんかいないデス。だからワタシの仔はこの仔だけデスゥ」


母実装は無表情にそれだけ言うとまたフードにかかりきりになった。
男は失笑とも苦笑ともつかぬ薄笑いを浮かべてそっと水槽の蓋を閉めてやった。

その時、また部屋の外から音が聞こえた。今度はさっきよりもずっとはっきりしていた。
ガラス製の物が砕け散ったようなガチャンという鋭い音だった。

「なんだ!?」

「くそ!まさか…!」







****************************************************************************************************







(テェェェ…。アタマがぐるぐるするテチィ…)

目を覚ました仔実装はあまり見覚えのないどこかの天井を見上げながら考えた。
できる限り考えてみたが、どうにもぼんやりしてしまって頭がうまくはたらかなかった。
自分はいつから目が覚めていたのか、いつから寝ていたのかも思い出せない。
まるで起きたまま夢の中にいるような感覚だった。

それになんだかお腹のあたりがスースーして妙にうすら寒い。
何か大事なものが抜け落ちたような喪失感さえしてくる。
仔実装は起き上がろうとしたが、途端にひざから力が抜けてしまった。


(なんでテチィ…。ワタチのおカラダなんかヘンテチュゥ…)


かろうじて腕だけは少し動かせそうだった。足を動かしたかったがどうもうまくいかない。
腕をひねって体を横向きにすると、見慣れないモノが目に飛び込んできた。


(ここどこテチュ…。ワタチのオヘヤどっかいったテチュ…?)


目の前には半球をひっくり返したような形の銀色に輝く大きな物があり、その隣に緑色の水が詰まった
透明な円筒形の物がある。初めて見るモノなので仔実装にはそれが何かわからなかった。


(ママどこいったテチュ…。ワタチをほっとくのはゆるされないテチュ…)


仔実装は大きな声でニンゲンママを呼びたかったが、ノドが痛くて鳴き声が出ない。
困ったことに痛いのはノドだけではなくて、お腹も痛くてたまらないのだ。
ゆっくり首を曲げて腹の方を見るとその原因が視界に入った。
なぜか仔実装は服を着ていなくて裸ん坊で、しかもあろうことか大きく腹が裂けているではないか。


(テェェ…!オナカがイタイイタイになってるテチュ…!)


これでは痛いのも当然である。しかし傷はうっすらとふさがり始めていた。
動けないのではどうしようもなく、仔実装は痛みに耐えながらあたりを眺めまわした。
するとある物に視線が釘付けになった。

向こうにある緑色の水が入った透明な円筒。それはさっきも見た。
だがその中に何かがある。水底に何か沈んでいる。

黒っぽい緑色の“あれ”は何だろう。

仔実装にとって見るのは初めてのはずなのにそれがどうしても気になった。
はっきり覚えてはいないがどこかで見たことがあるような気がする。
そして“あれ”はとても大事なモノである。

そうだ、目覚めたときに大事な何かをなくしたような気がしていた。
だとしたら“あれ”がそのなくしたモノなのだろうと仔実装は確信した。


(テェェ…。こ、こうちてはいられないテチュ!)


仔実装は力を振りしぼってなんとか“あれ”の元に行こうとした。
よろけながら必死に立ち上がろうとしたが、やはり足に力が入らずバランスを崩してしまう。
仔実装はとっさに銀色の半球に手をついて体を支えた。それは大きさの割にあんまり安定していなかった
ようである。仔実装が手を付いただけでグラグラ揺れ、上からバシャリと水が降ってきた。


(つめたいテチャァ!なんでオミズふってくるテチュゥゥ!)


仔実装は氷水をたっぷり満たしたステンレスボウルを揺らしてしまったのだ。
凍てつくような冷たい水を浴び、腹の傷にしみてひどく痛んだ。
寒さと痛みにブルブル震えながら仔実装はボウルにつかまり立ちをして円筒へと近づいていった。

それは黒く染まりかけた奇妙な宝石のような結晶だった。
元は美しい緑だったであろうその姿は、不思議と仔実装の心を打った。


(キレイテチュ……。すごくキレイなおイシテチュ…)


この宝石が何なのか仔実装にはっきりとはわからなかった。
どこかで見覚えがあるがどこで見たのかは覚えていない。
でも、欲しい。欲しくてたまらなくなった。


(ほちいテチュ…。これはきっとはじめからワタチのものだったんテチュ)


そうだ。自分はこの宝石を見て直感的に大事なものだと思ったではないか。
ならその直感に従うべきだ。自分はとても賢いから間違っているはずがないと仔実装は思った。


(このほうせきはワタチにこそふさわしいテチ)

(ワタチこそこのキレイなおイシをもてるトクベツなこなんテチュ!)


仔実装の心はきまった。ならばやるべきことは一つだ。

仔実装は透明な円筒を押してみた。大きさは仔実装の背丈とたいして変わらない。
ただ、中が液体で満たされているそれは見た目より重くてうんともすんとも言わなかった。

押してだめなら今度は思いっきり叩いてみればいいのではないだろうか。
そう考えた仔実装は、自分のパンチで円筒がこなごなに砕ける様を夢想した。


(チププ…。ワタチのジャマをするオマエがわるいんテチュ♪)


うなりをあげて繰り出した渾身の右ストレートが硬いガラスに叩きつけられた。
あっけなく右手の先端がぐしゃりと潰れ、仔実装は声にならない絶叫を上げた。


(テッピャァァ!いたいテチュゥゥ!オテテつぶれたテチャァァ!!)


仔実装は目を大粒の涙でいっぱいにし、右手を舌でペロペロ舐めて痛みをやわらげながら、ガラス製の
円筒を悔しそうににらみつけた。


(それはワタチのものテチュゥゥ…。オマエにはやらないテヂィィ!)


宝石を硬い殻で頑固に守る円筒はびくともせず、憎々しげに立ちふさがっている。

あきらめきれない仔実装はいいことを思いついた。
ひっくり返すことができればこいつは苦しがって宝石を吐き出すかもしれない。
役立ちそうなものを探して仔実装が周囲を見回すとキラリと光る何かが見えた。
さっき自分が寝ていた場所のそばの布の上に、これまた銀色にピカピカ光る細長い棒がある。


(あれをつかえばなんとかなるかもしれないテチュ!)


元いた場所まで戻るのは大変だったが、仔実装はなんとかやり遂げた。
少しずつ足が動かせるようになっていたのだ。
仔実装の目の前にある細長い棒は不思議な形をしていて、一方が薄くて反対側は少し太くなっている。
右手が使えない仔実装は薄い方に左手をかけて持ち上げようとした。
その瞬間、強烈な痛みが走った。


(テチャァァ!!オテテいたいテチュッ!かまれたテチュゥゥ!!)


仔実装は痛みにもだえて転げまわりそうになるのをなんとか我慢した。さっくり切れた手の傷からポタ
ポタと血がこぼれ落ちている。それは男がガーゼの上に置きっぱなしにしていたメスだった。
運悪く仔実装は刃の付いた方をつかんでしまったのだ。


(テェェェ!なにするんテチュ!オマエはクソムシテチュ!)


仔実装は意地悪なメスに八つ当たりしようとしたが、他に使えそうなものは見当たらなかった。
おそるおそる、今度は反対側の太い方をつんつんと足で蹴ってみる。
こっち側はどうやら噛み付いてこないようである。

傷を負った両手が痛むうえに血でヌルヌルすべるのでメスが持ちにくかった。
仔実装は脂汗を流しながら、メスの柄を口でくわえて後ろ向きに引っ張っていった。


(オマエをこらちめてやるテチュ!これをこうやって…)


どうやら仔実装は細長いメスをテコのように用い、ガラス瓶を横倒しにするつもりらしい。
ウンウン唸りながらメスの薄い刃を瓶の底と机との隙間に差し込もうとしている。

特殊合金製のメスは非常に軽くできていて、持ち上げるだけなら仔実装でも難しくはない。
だが、手が痛いうえにぶきっちょな仔実装ではなかなかうまくいかなかった。しまいに癇癪をおこした
仔実装がメスの先端でめくらめっぽうにこじると、偶然にも瓶底と机の間に刃がすべり込んだ。


(やったテチュ!やっぱりワタチはかちこいテッチュ~ン♪)


両手の痛みをこらえながら差し込んだメスを少しづつ持ち上げてやる。
ガラス瓶はやがてある一点でバランスを失い、ごろんと横倒しになった。


(テッチュ~♪うまくいったテチュ!)


喜び勇んで瓶に駆けよろうとした仔実装が足元に倒れていたメスにつまづいた。
蹴り飛ばされたメスが当たったはずみで、押された瓶が勝手に動きだしていく。
つかまえようとした仔実装の手は空振りし、瓶はゴロゴロとゆっくり転がっていった。


(テェェ!どこいくテチュか!にげるなテチュゥ!)


ガラス瓶が転がっていく先は机の端だった。
大事なものを逃すまいと仔実装は必死に追いかけたがとても間に合わなかった。
裏仔実装の偽石が入ったままのガラス瓶が机から飛び出し、落下していく。
その瞬間、仔実装は自分がなにか間違ったことをしでかしたのに気がついた。

“あれ”はとても大事なモノ。
絶対に落としてはいけないモノ。
割ってしまったら取り返しがつかないモノ。

ガラス瓶がくるくる回転しながら落ちていき、やがて堅いフローリングの床にぶち当って砕けていく
様が仔実装の目にはスローモーションのようにゆっくり映った。

呆然と机から見下ろす仔実装の真下で、濃い緑色の液体が静かに床を染めていった。







****************************************************************************************************







「な、なんだこりゃ!どうして…。あっ…!!」

「あいつッ!!」


駆けつけた男が見たものは無残に砕け散ったガラス瓶だった。
床の上には強化剤と活性剤の混合液が緑色の池を作り、ガラスの破片が散乱している。
あぜんと立ち尽くした男が、机の端で固まったまま動かない仔実装を見つけた。


「おまえ!何で動けるんだ!いや、そもそも何をやったかわかってんのか!」


仔実装はまるで金縛りにあったかのように男の大声を浴びても動かなかった。


「おい!なんとか言え!偽石は、偽石はどうした!!」


何も答えようとしない仔実装にしびれをきらし、男はとうとう床に這いつくばった。
顔を床にくっつけるようにし、裏仔実装の偽石を探しはじめる。
男の目には散らばるガラス片のどれもこれもが偽石の破片のように見えて仕方なかった。


「これか?違う。……これは?いや違う」

「ない。ない。…………あった」


見つけ出した裏仔実装の偽石は無残な姿になりはてていた。
砕けてこそいなかったのは不幸中の幸いだったかもしれない。

しかし偽石は完全に黒く変色し、蜘蛛の巣のように微細なひび割れが全体を覆っていた。
少しでも指に力を込めれば簡単にこなごなになってもおかしくはない。
もう長くはもつまい、というのが男の率直な見立てだった。

それでも男は偽石を潰してしまわないよう、細心の注意を払ってガーゼの上に載せてやった。

男には仔実装がなぜ動けたのか、どうやってガラス瓶を動かしたかなどはもうどうでもよかった。
どうしてこんなことをしたのかだけを知りたかった。


「おい。生きてるか?生きてるな。俺のことがわかるか?」


男は机の上の仔実装をつかまえて手の上に載せた。なぜかびっしょりと水に濡れた仔実装はふるふると
小刻みに震えるだけで、男の声に答えようとしなかった。


「どうしてこんなことをしたんだ。…怒ってるんじゃないぞ」


仔実装は震えながらゆっくりと男の顔を見上げ、か細い声で「テチィィ…」と鳴いた。
男はポケットに入っていたスマホを取り出すとリンガルアプリを立ち上げ、仔実装に近付けてやった。


「ニンゲンママ…ママテチュ。ママにあいたかったテチュ」

「なんだかさむいテチュ…。ママァ、もっとあっためテチュゥゥ…」

「なんでこんなことをした?偽石を取り返そうとしたのか?」

「テェ……オイシテチュ…?…オイシ……ほちくなったテチュ…。キレイなオイシだったテチィィ」

「偽石が綺麗だったから…。そんなことで…」


男は驚いた。仔実装が偽石の存在に気づき、ほとんど動けない状態からここまでやってのけたことも
あったが、何よりその強い執着心に実装石の本能のようなものを感じたのである。
なおも仔実装は独りでしゃべり続けていった。


「だって…ワタチはトクベツテチュ…。かちこくて…かわいくてトクベツなんテチュ」

「トクベツだから…もらえないとオカチイテチュ…。ワタチだけの…タカラモノにするテチュ…」

「あのオイシは……きっとワタチのモノって…はじめから…きまってたテチュ…」

「お前…何言って…?」

「だれにもやらないテチュ…。トクベツな…ワタチのためのオイシなんテチュ…」

「オイシもってたら…トクベツなオイシがあったら…」

「ラクエンにいけるんテチィィ…」

「らく……えん…?…そうか、そういうことか…」


仔実装が語ったのはたどたどしい思いこみばかりだったが、不思議と男には理解できた。
なぜ仔実装がそこまでして偽石を欲しがったのかということである。

表の仔実装にとって裏仔実装の偽石は自分のものでありつつ、そうではないとも言える。
そもそも一目で自分の偽石だと看破できることは考えにくかった。
仔実装からは自分の偽石を見た記憶も、男に取られた記憶も失われているはずである。
それなのに仔実装がかたくなに偽石に執着した結果がこれだったのだ。

あれは綺麗で美しい。あれは自分のもの、自分だけのもの、特別な自分にふさわしいもの。
まるで糞蟲と呼ばれる実装石そのもののような、異常なエゴむきだしの言葉を仔実装は発し続けた。
仔実装が異様に偽石にこだわったのはそのエゴが以前よりはるかに強まっていたからだ。
それは、男自らそうなるように仔実装を仕向けてきたからだった。


「俺が……俺がやってきたことだったな…。ハハハハッ!」


仔実装はぼんやりとした焦点の合わない目でまだテチテチと何か話し続けている。
アプリで翻訳されたその言葉はもう、意味の通った文章ではなくなっていた。


「ラクエンテチュ…。ここはラクエンテチュ。……やっぱりエラバレテよかったテチュ」

「ラクエンさむいテチ…。さむくてだれもいないテチィィ…」


仔実装はだんだんと目を閉じていった。眠っているようにも見えたが、顔から血の気が失われて蒼白に
なっている。男は手のひらに伝わる仔実装の体温が下がっていくのに気付いていた。
仮死状態に陥った実装石にはまれにこういう現象が起こる。だが男の見立ては違っていた。


「そんな簡単には死なねぇだろう、お前らは」


男はボウルに沈めた表の偽石を取り出してみた。氷のように冷えた偽石はすっかり色が元に戻っていて
いつものような澄んだ翡翠色をしていた。


「ちょっと冷やしすぎたか。まぁこっちはもう大丈夫そうだ」


偽石が冷えすぎたせいでこうなるというのは生き物の機能としてはデタラメすぎたが、偽石こそが本体と
いっていい実装石ならあり得なくもないか、と男は苦笑まじりに思った。
男は手のひらで眠るように意識を失った仔実装を見下ろして少し考え始めた。

今しなければいけないこと、それはただ一つ。
裏の偽石をどうにかして救うことだけだ。

そして男はその手立てに何の心当たりもないわけではなかった。
しかし、それをすればどうなるのかだけはやってみるまでわからなかった。
男はあごに手をやって思案しながら部屋の中を歩き回り、やがて決心して顔をあげた。


「よし。やるしかない」


男の手のひらにある仔実装は、まるで死んだように眠り続けていた。







****************************************************************************************************







仔実装は夢を見た。

自分によく似た仔実装や、たくさんの小さなウジちゃんと遊んだ夢の続きだった。

明日もいっしょに遊ぼうと決めてから、仔実装はずっとわくわくし通しだった。

あんまり楽しみなものだから、なかなか寝付けずにママに心配されたほど。


約束の時間になると仔実装は行ってきますをしてオウチを飛び出していった。

「行ってらっしゃい、気をつけて」とママがいつものように言ってくれる。

ママのお顔は笑っているけどなんだかちょっと寂しそうだった。

どうしてだろう。ママもいっしょにオデカケしたかったのかな?

仔実装は少しだけ雰囲気の違うママを見て不思議に思った。

やがて息せききらして駆けつけた仔実装を、お友達は約束通りに待っていてくれた。


それはとっても楽しい一日だった。

仔実装たちは昨日よりもっと上手に二匹で歌って踊りまわった。

その様子を見に来るジッソウセキも大勢いて、仔実装たちにやんややんやの大喝采。

大きなオトナも小さな仔たちもウジちゃんも、みんな楽しそうだった。

その中の一番小さい仔にお歌を教えてあげると仔実装はなんだかママみたいになれた気がした。


けれどお空が赤くなったころ、お友達は帰らなきゃと言いだした。

「きょうはとっても楽しかったテチ!でもワタチはもう行かないといけないテチ…」

仔実装は急にさびしくなってきた。だってこんなに仲良しになったのに。

「心配いらないテチ!ワタチはずっとお空から見守ってるテチィ!」

あんなにたくさんいたジッソウセキたちも、知らない間にどこかにいったみたいだ。


仔実装はイヤだイヤだとわんわん泣きだした。

みんなとずっと一緒にいたかったから。

それに本当は、独りでラクエンに行かなければいけないことも思い出した。

今日はラクエンに行く日だから、それでママは寂しそうにしていたんだ。

でもみんなと一緒にラクエンに行けば、独りよりももっとシアワセになれるかもしれない。

「仕方ないテチィ~♪これからはワタチがいつでも一緒にいてあげるテチ!」

お友達は困り顔で、でもとっても優しい困り顔でほほえむと、仔実装をだきしめてくれた。

そうすると、仔実装とお友達の背中にまっ白で大きな羽がにょきにょきとはえてきた。

「これで一緒にラクエンに行けるテチ~♪ウジちゃんたちも待ってるテチィ~♪」

これでもう大丈夫。

仔実装は大きな羽をはためかせ、ラクエンにむかってはばたいた。

そばには優しいお友達も、小さな羽のウジちゃんたちもみんな一緒だ。

さぁ、ラクエンはもう目の前。

それはとっても楽しくて、ちょっと切ない夢だった。








****************************************************************************************************








「さぁ、始めるぞ」

机の上に寝かした仔実装を横目で見やりつつ、男は偽石強化剤のボトルを取った。
裏仔実装のためにもうだいぶ使ってしまっていたが、まだそれなりの量は残っている。

男はそれを、ガーゼの上にある割れかけの偽石に静かに一滴ずつ注いでやった。微細なひび割れが飲み
干すようにじわじわと浸透していくのが見える。
だが、こんなことをしても時間稼ぎが精一杯というところだろう。それは男も承知のことだった。

男は仔実装の体を手元に引き寄せると、置いた覚えのない場所にころがっているメスを手に取った。
仔実装がこれでガラス瓶を動かしたことに男はやっと気づいた。机の上で仔実装に動かせそうな重さの
物はこれっきりなのだ。


「そうか、これを使ったんだな…。意外とやるじゃねぇか」


感心したようにメスを少し眺め、男はおもむろにそれを下ろした。
メスの刃が向かう先はもうすっかりふさがっている仔実装の腹の切開線だった。
先ほどまで表仔実装の偽石が収まっていた場所をぐっと開く。そこは今はもう空っぽになっている。

男はそこに“裏仔実装”の偽石を慎重に、ひどく慎重な手つきでそっと置いた。
そして強化剤を今度はたっぷりと垂らしてやる。これで強化剤の瓶が空になってしまった。

男がしばらく仔実装の様子を見ていると、やがて首と手足がモゾモゾと動きはじめた。まるで仔実装の
手足がそれぞれ勝手に動き始めたかのようだった。
ところが次の瞬間には機械のスイッチを切ったように、突然四肢が力を失った。

パチリと仔実装の目が開いた。

男がじっと見ている前で、仔実装の体の奥から“顔”が発するかすかな声が響いてきた。


「テェェ……。私…まだ生きてるテチュ…?」

「生きてるが、もう死にかけだ。お前はいくら俺を困らせたら気が済むんだ」

「ニンゲンさん…。ごめんなさいテチュ…。でも…私はもう…」

「あいつを、もうひとつの自分を見てるのが耐えられないわけか」

「そう…テチュ。あっちの“ワタチ”は…もう…元に戻れないテチュ?」

「そうだ。あいつはもう元の同じお前には戻れない」

「私は……わるい仔になっちゃったテチィ…」

「あっちは糞蟲になった。それだけだろう」

「そうじゃないテチィ…。あっちの“ワタチ”も自分なのに…私は逃げ出したテチュ」

「私は…“ワタチ”を見捨てて…早く楽になりたかったテチュ…」


裏仔実装はかぼそい声で語り始めた。それは男に向かって語っているようにも思えたが、あるいは自分
自身に言い聞かせているつもりなのかもしれない。


「ウジちゃんたちみんな殺しちゃったテチュ…」

「あの仔たちは…一度もママに抱かれずに死んじゃったテチィ…」

「“ワタチ”がクソムシになったからテチュ…。もうあんなのは見たくないテチィ…」

「だから終わりにするんテチュ。私のオイシがパキンしたら…全部終わるテチュ…」

「ずいぶん勝手だな。お前が死ねばあいつも死ぬかもしれん。でもそうじゃないこともある」

「確かなことは誰にも、俺にもわからん。もちろんお前にも。そうだろう?」


裏仔実装の話をさえぎって男は言った。
これから死んでいこうとする裏仔実装を気持ちよく旅立たせる気はないようだった。


「そんなわけないテチュ…。パキンしても大丈夫な実装石なんかいないテチュ…!」

「そうかな?…お前とあいつの偽石は繋がっていない。もしかしたら平気かも知れないぜ」

「そうなりゃ、これからも俺はずっと楽しませてもらうぞ。
 あいつに仔をたくさん産ませて、食わせて、殺させるだけさ」


これは男のハッタリだった。さすがに片方の偽石が割れて何の影響もないはずがない。
二つの偽石があってはじめて、この仔実装はやっと普通の実装石並みに生きられる体なのである。
これは裏仔実装にありもしない希望———いや、絶望を抱かせるための嘘だった。
しかし、裏仔実装は男のついたこの嘘に最高の絶望で応えてくれた。


「ニンゲンさんは悪魔テチュ…。“ワタチ”をクソムシにしてまだ足りないテチュか!」

「絶対に許さないテチュ…!あの“ワタチ”をいつか…きっと取り返すんテチュッ!」

「だからニンゲンさんみたいな悪魔を…やっつけなきゃいけないテチュゥゥ!!」

「ハハハッ、これから死ぬのにどうしてそんなことが出来るんだ?」


男は無力な裏仔実装を煽った。
絶対に手出しできない安全な高みから見下ろすような顔でせせら笑った。


「テチャァァ!死にたくないテチュッ!死ねないテチィ!“ワタチ”を置いていけないテチュゥゥ!」

「許さないテチュッ!私をこんなにしたオマエを許さないテチュゥゥゥ!!」

「助けろテチュゥゥ!クソニンゲンッ!お前をぶっころすから私を生かすテチャァァァ!!」

「死ぬのイヤテチィィィ!死にたくないテチィィィィ!!」


仔実装を嘲るような笑みを崩さずに、男は裏仔実装の“絶望”の味を思う存分に味わった。
それは地下の暗闇で熟成された極上のワインのような、深くて豊かな余韻に満ちていた。
この味はしっかりと記憶に留めておかなければなるまい、と男は思った。
もう、これほどのものは二度と味わえないだろうから。


「残念だが、俺にはお前の偽石を元通りにする方法なんてわからない。
 最後の願いがあるなら聞いてやる。ああ、生き返らせろ、なんてのは無理だぞ」

「死にたくないテチュゥゥ!!死にたくない……死ぬのイヤテチュ……」

「でも……もう死ぬテチュ…?もうダメなんテチュ…?」

「ああ、そうだ。お前はもう死ぬ。だがそれはお前が望んだんだ」

「そうだったテチュ…。“ワタチ”も私も…バカでクソムシだったテチュか…」

「ニンゲンさん…。最後のお願い、あったテチィ…。どうか聞いて欲しいテチュ…」


動けない裏仔実装は、諦めのにじんだ声で最後の願いを語ろうとした。
もう残り時間がないことを、死から逃れられないことを悟った声音だった。


「いいぞ。言ってみろ。できることなら叶えてやる」

「私に……私たちに…“名前”を下さいテチュ…。それだけでいいテチュ…」






****************************************************************************************************







願いを聞き届けられた裏仔実装は、満足そうな声で一言だけつぶやいた。


「ニンゲンさん、ありがとうテチュ…」


それきり声は聞こえなくなり、仔実装の目はゆっくりと閉じていった。
男は普段めったに見せないような複雑な表情を浮かべ、一度だけ仔実装の頭をなでてやる。


「ありがとう…か。実装石に言われたのは初めてだな…」


裏仔実装の偽石は、それでもまだ自壊せずに踏みとどまっていた。
男は偽石に顔を近づけてしみじみ眺めると、一言「よし」とだけ声を発した。黒い偽石の周りを緑色の
ねっとりしたゲルが取り巻いている。偽石の成分と強化剤の反応が進み、徐々に固まり始めているのだ。
これだけ固まってくれば、以前のように偽石同士をくっつけるのには十分だろう。
そして、ここにあるのは“表”の仔実装の偽石だけである。

男はその“表”の偽石をピンセットでそっと取り上げた。
冷たく薄緑に輝く石を見つめる男の目には、何かの思いが巡っているようにも見えた。


「やれやれ…。この遊びも今日で終わりかな…。残念だ」

「本当に…残念だ。お前だけは…俺を裏切らないと思っていたのに」


本当は、男にはきっと分かっていたのだろう。裏仔実装は最期に自分を許したのだと。
男にとって自分を許して死んでいった実装石は初めてだったはずだ。
それなのに裏仔実装の最期を“裏切った”と表現したのは、男なりの愛情なのかもしれない。
そしてゆっくりと“表”の偽石を仔実装の腹の奥に安置された“裏”の偽石に近づけていった。

男は表と裏の偽石を真の意味で一つにしようと考えたのである。
偽石は実装石の命であり、魂そのものと言っていいかもしれない。
だから修復に使う偽石は誰のものでもよいという訳ではないことを、男は長年の経験で知っていた。


それは、近ければ近いほどいいのだ。
命の形が。魂の波長が。


魂の入れ物があるとすれば、その形は最初から決まっているのかもしれない。
親、姉妹、仔。とりわけ実装石においてそれらはよく似ているはずなのだ。
ましてや自分自身の魂ならどうだろう。それは瓜二つと言ってもいいのではないだろうか。
ならば魂の入れ物が壊れても、同じものを使って直してやればいいだけだ。
男はそう考えていた。


「さて…うまくいけばいいんだが」


男の手によって“表”の偽石が、寸分たがわぬ大きさの“裏”の偽石の上に載せられた。
偽石の間に磁力がはたらいてでもいるかのように、二つの偽石がぴったりと合わさっていく。
その様子を見届けて、男は静かに仔実装の腹を閉ざした。

仔実装の腹の奥には裏仔実装の元になった顔が今も残されているはずだ。
もう用がなくなった顔を、男は切除することをしなかった。
それを思いつかなかったのか、あえて残したのかは分からない。
しかし、彼はこれから二度と顔だけの仔実装と会話をかわすことはないだろう。


「終わった…。それにしてもこいつは手間ばかりかけさせやがるな…」


全てを終えた男は額の汗をぬぐい、天を仰いだ。

男は自分にとっての実装石はどういうものなのか、いまだにとらえあぐねていた。
憎しみの対象だろうか。だから虐待してひたすら苦しめたのかもしれない。
あるいは愛情の対象だろうか。裏仔実装の最期の願いを聞いてやったのはそれが理由かもしれない。
そのどちらでもなく、もしかしたら両方であるのかもしれなかった。


「ああ、そういや飯を食ってなかった。腹へったぜ」


男はぶつぶつ愚痴をこぼしながら、処置の済んだ仔実装の腹に包帯をぐるぐると適当に巻きつけた。
仔実装はまだ意識が戻らないが、穏やかな呼吸をしているのは見てとれた。


「しかしこいつがいつ起きるかわからないのは厄介だな」


仔実装の新たな門出を実際に目の前で“祝福”したいと考えたのか、男は少し首をかしげると仔実装を
抱えてリビングの方に向かった。おおかた近くに置いて見守るつもりなのだろう。

今、仔実装の全てが終わり、これからまた新しく始まることになる。







********************************************************************************************************







カーテンを開け放った窓から日差しが部屋いっぱいに差し込んでいた。
窓の外からはマンションに住む子供たちのものだろうか、エントランス前の広場に集まってにぎやかに
遊び回る声が届いてくる。気持ちのいい陽気の休日の朝だった。

男はリビングのソファにもたれ、スマホをいじりながらコーヒーを楽しんでいた。
テーブルの上には、ネット通販のマークが付いた小ぶりの段ボール箱がコーヒーの受皿と朝食代わりの
クッキーとともに置かれている。
開け放たれた段ボール箱には清潔なタオルが隙間なく敷き詰めてあり、その上で仔実装が昨日と変わら
ない姿で横たわっていた。
男は夜の間に仔実装が目覚めることを考慮して、それなりに夜更かしをして見守っていたのだが、結局
それも無駄になってしまったのだった。


「それにしてもよく寝る奴だ。悪い奴ほどよく眠ると言うが…」

「とんでもない糞蟲が出来上がってたらそれはそれで面白い」


独り言をつぶやき、男はぬるくなったコーヒーを一息に飲み干した。
仔実装が目を覚ます可能性があるのでせっかくの休日でも彼は外出を控えるつもりだった。
とはいえ、もともと人付き合いをしないこの男が休みに外出することは滅多になかったのだが。
コーヒーのおかわりを淹れようと立ち上がった男は、ふと段ボール箱の中に視線を移した。
一瞬、何か動いたような気がしたのだ。

今度は箱にもう少し顔を近づけてじっくり目を凝らした。
仔実装は相変わらず呼吸する胸がわずかに動くだけで目を覚ました気配はない。


「おい。起きたのか?」


男は思い切って声を掛けてみた。
やはり何の反応もなかっ—————————いや、あった。
仔実装の目が数度瞬いて、やがてゆっくりと開いていった。


「やっと起きたか。お前、自分がどうなったのか覚えてるか?」


さすがの男もほっとしたのか、親しげな口調で仔実装に話しかけた。
仔実装はけだるそうに半身を起こし、きょろきょろ周囲を見回したあと、ややあって男の方を向いた。
そしてようやく声を発した。


「オマエ、だれテチュ?」

「……うん?……おい…いま何て?」

「ここはどこテチュ?…オマエは…ニンゲンテチュ?」

「おい、分からないのか?…それとも忘れたのか?」

「なんでワタチはここにいるんテチュ?おちえてほちいテチュ」

「ホントに分からないのか…。お前は……一体どっちのお前なんだ?」


目覚めた仔実装はきょとんとした顔で言ってのけた。


「ワタチは……だれテチュ?」

「なんだって!?」

「ワタチは……だれなんテチュ?…わかんないテチュ」


男はもはや絶句するしかなかった。
2つの偽石が融けあって一つになったことで何が起きたのか、それは男にもわからなかった。
しかしこの仔実装は本当に何も、自分のことも、男のことも一切覚えていないようである。
そしてまた、何者でもない仔実装が口を開いた


「ニンゲン!オナカへったテチュ。ゴハンだすテチュ!」

「あ、ああ…メシな。…わかった。じゃあこれでも食ってろ」


遠慮のない仔実装の態度に当惑を隠せず、男は卓上にあったクッキーを一枚渡してやった。
両手に余る大きさのバタークッキーを抱えた仔実装はクンクン鼻を鳴らして匂いを嗅ぐと、気にいった
のか目を細めてかじりついた。


「テッチュ~ン♪これ、ウマウマでおいちいテチュ。ニンゲン!オマエのものテチュ?」

「あん?…そうだけどさ。もっとほしいのか?」

「たべるテチュ!オマエのゴハンはおいちいテチュ!」


ボロボロと食べカスを腹の上にこぼしながら仔実装はクッキーをぱくついた。
しかし2枚目に少し手をつけると、それで満足したのか残りをタオルの上に放り出してしまった。
男の目には以前の仔実装に比べてずいぶん小食になったようにも見えた。なにしろ仔実装は丸一日以上
何も食べていないはずだったからだ。偽石が融合して一つになったことがその原因だろうか。


「お前、もういいのか?まだたくさんあるぞ」

「テプーッ♪ワタチはもういいテチュ。あとはオマエにやるテチュ」

「あっそう…。それにしてもお前、本当に何も覚えて…いや、知らないのか?」

「そうテチュ。だからこまってるテチュ。ワタチはワタチがだれだかわかんないテチュ」

「……あんまり困ってなさそうだな、お前…」


仔実装はまるで中身だけがごっそり入れ変わってしまったかのようだった。
男にはそこにいるのがごくごくありふれた、特徴のない、普通の仔実装にしか思えなかった。
男と話すのに飽きてきたのか「チュワァ~」とあくびをしはじめた仔実装だったが、何かを急に思い出した
ようで急にテチテチ騒ぎ始める。


「そうテチュッ!ニンゲン!もちかちてオマエ、ワタチのママテチュ?」

「ママだって…?どうしてそう思うんだ?」

「オマエはおいちいゴハンくれたテチュ。“オウタ”できいてたとおりテチュ」

「オウタ…?歌か?」


仔実装は眠っている間に歌が聞こえてきたと不思議なことを言い、にわかにその歌を口ずさみ始めた。
それは男もよく知っているはずの歌だった。


「ワタチとママはなかよちテッチュン♪イッパイあそんでニコニコテッチュン♪

 ママのてづくりウマウマゴハン♪フカフカタオルでぐっすりオネム♪

 タノチイいちにちはじまるテッチュン♪きょうもあちたもワクワクテッチュン♪

 ママといっしょにオハヨウダンス♪ずっといっしょにシアワセテッチュン♪」
 

その一節はあの表仔実装が毎朝のように繰り返していた歌だった。
おはようダンスと称して、男を喜ばせるつもりで歌い踊っていたものである。


「どうして…。おい、それを聞いたって言ったな。いつ、どこでだ?」

「ねてるあいだテチュ。だれかがうたってくれたテチュ」

「そんな…そんなことがあるのか…?そうだ、そいつは他に何か言っていたか?」

「あんまりおぼえてないテチュゥ…。そういえばラクエンにいくっていってたテチュ」
 
「ラクエンいくとシアワセになれるんテチュ♪」

「そこってどこテチィ?そこにいけばワタチもシアワセになれるテチィ?」


男は途中から返事をするのも忘れて仔実装の言うことにただあっけに取られていた。
ひとつになった偽石の中で何が起こったのだろうか。
やがてあることに思い当った男は仔実装に言った。


「…そうだ。ここが楽園なのさ。選ばれた仔だけが行ける楽園だ」

「やったテチィ!じゃあワタチもえらばれたんテチュ?」

「そうさ。お前は選ばれたんだよ。今日から俺がお前のママさ」

「テチィィ!ママテチュ!ワタチのママテチュ~♪ワタチはママとシアワセになるテッチュ~ン♪」


あの時と同じだ、と男は思った。この仔実装の無邪気な喜びようはかつての仔実装と同じだった。
初めて水槽に連れてきた時のことを男は思い出さずにいられなかった。
仔実装のユニークな体質に目を付けた男はあの母実装から仔実装を引き離し、元々は家族全員で住んで
いた水槽を、仔実装のためだけの楽園として改めてあてがった経緯があったのだ。


「クククッ…。幸せにしてやるさ。あいつらの分までな…」


男にとってこの仔実装は、あの二つで一つの仔実装の生まれ変わりなのかもしれなかった。
仔実装はきっと、偽石の中でさらにもう一つの自分を生んだのだろう。
苦しみや悲しみをすべて忘れた、まっさらな白紙の心に戻った新しい自分だ。
そして2匹は偽石の中に作り上げた自分たちだけの“楽園”とやらに行ってしまった。

男は今はそう考えるしかなかった。


「そうか…あいつらは置いていったんだな。こいつを代わりに」

「実装石のくせにクサいことしやがるじゃねぇか…」


仔実装は男のつぶやきが何のことだかわからず、ただポカンと男を見上げていた。
しかしもうすっかりなついたのか、すぐにタオルの上を嬉しそうにトコトコ駆けまわり、男に向かって
しきりに手を振りながら鳴き声をあげた。


「ママッ!あそぶテチュ!ワタチとイッパイあそぶテチュ!」

「ああ、遊んでやるよ。せっかくの置き土産だ。ありがたく遊ばせてもらうさ」

「そうテチュ!ママァ!ワタチはワタチがだれかわからないテチュ。ママはちってるテチュゥ?」

「ああ…知ってるとも。お前にはな、ちゃんと名前もあるんだ」

「なまえテチィ?…ほちいテチュ!ワタチおなまえほちいテチュ!」


仔実装を見つめる男の目は優しいのか、悲しいのか、不思議な色を帯びている。
彼の脳裏にはいま、あの仔実装とすごした数十日の記憶が去来しているのかもしれない。

痛いこともした。悲しいこともした。
さんざんに罵声を浴びせ、仔を産ませ、それを食わせ、あざ笑った。

男は本当のところ、仔実装を嫌っても憎んでもいなかったはずだ。
どうしてそうせずにいられなかったのか、彼自身もすぐには答えかねる問いかけかもしれない。
しかしそうすることで仔実装が泣いたり、怒ったり、悲しむ姿が男は好きだった。

一方で手のひらで遊ばせ、風呂に入れてやり、寝ている間にずれたタオルを直してやったりもした。
男には仔実装を可愛がっているつもりもペットとして飼っているつもりもなかっただろう。
けれども仔実装が喜び、甘え、手の上で安らいでいる姿も決して嫌いではなかったのだ。

どんな形であれ男は実装石を、いや、仔実装を愛していたのかもしれない。
彼にしか分からない、彼なりの歪んだやり方ではあったかもしれないが。

だからこんな名前を与えるのだろう。
それは逝こうとする裏仔実装の願いにこたえ、男がくれてやった名前でもあった。


「お前の名前は……アイ…。そう、アイだ。いい名前だろ?」

「ワタチは…アイ…テチュ!ママッ!アイはうれちいテチュ!」

「それはな、お前のお姉ちゃんにもつけてやった名前なんだ」


自分に“姉”がいたと聞かされた“アイ”は不思議そうに小首をかしげた。


「テチュ?アイにオネチャがいたんテチュ?」

「そうさ。でももう遠いところに行ってしまった」

「テチュ~。アイもオネチャにあいたいテチュ。きっといつかあえるテチュゥ?」

「そうだな。いい仔にしていたら会えるかもしれないな」

「わかったテッチュン♪アイはかちこいからいい仔になるテチュ!」

「テチュ~。ママッ!アイとあそぶテチュ!アイはママがだいすきテチュ~♪」

「ああ、いいよ。遊ぼうか…。じゃあ、アイ。こっちにおいで」


男は段ボールの中の仔実装———アイ———に手を伸ばし、アイも男の指をつかんだ。

手のひらにのせたアイの頭をなでながら、男はリビングを静かに出て行った。
向かうのは水槽部屋の楽園水槽だろうか。それとも作業部屋の作業机だろうか。
分かっているのは、男はアイを彼なりのやり方で愛することしかできないということだろう。


そしてもう一つ分かっていることがある。
それは、男はこの先もずっと忘れないだろうということだ。


“ワタチ”と“私”という一人称———二つの“I”を持つ仔実装がいたことを。

男が男なりのやり方で、傷つけ、苦しめ、それでもなお愛した仔実装がいたことを。

不完全な偽石の闇から生まれ、そしてまた闇へと消えていった哀れな仔実装がいたことを。

男は決して、その記憶を忘れることはないのだろう。

あの仔実装の思い出———“アイの記憶”を。








《 Iのメモリー 完 》


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1 Re: Name:匿名石 2023/12/20-07:51:45 No:00008547[申告]
もはや純愛だよ
2 Re: Name:匿名石 2023/12/21-01:50:19 No:00008549[申告]
すごい文章力
読ませるわ・・・
3 Re: Name:匿名石 2023/12/21-20:44:23 No:00008552[申告]
ラクエン、トクベツ、クソムシ、それらに呪いのごとく囚われる仔実装とその仔実装に執着する男
偽石実験系の話の枠を超えて
加虐と愛執、歪んだループの集まりが崩壊してまた始まる様がなんとも良かった
4 Re: Name:匿名石 2023/12/23-02:22:46 No:00008553[申告]
長いけど傑作
ただの虐待ネタなら途中で読むの止めてた
5 Re: Name:匿名石 2023/12/27-11:40:46 No:00008564[申告]
めちゃくちゃ読み応えがありました
6 Re: Name:匿名石 2023/12/30-10:21:28 No:00008572[申告]
超大作だったデス
今なら言えるデスここがそうラクエンデス
7 Re: Name:匿名石 2024/03/18-08:06:26 No:00008913[申告]
凄かった
とてもとても凄かった
愛とは執着であるならば正しくアイの話
グロテスクで暴力的で虐待ものである以上
表立って語ることが出来ないのが悔しいくらい凄かった
この手の虐待ものだと、対象であるキャラは出鱈目な生態で、愚かしくて傲慢で脆弱なことが多くて
それはつまり人間の誇張表現で
だからこそ人間の持っている業の部分を見せ付けられる事だってある
この作品はそういった泥濘の作品で、同時にその中にある何か、不変なものを感じました
長文失礼しました
ありがとうございます
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