クリスマス前のプレゼント 11月の中頃の、寒い昼下がりのお話です。 緑の服を着た少女が、冬支度をする実装一家の前にやってきました。 「こんにちはですぅ!サンタさんがやってきたですぅ!」 サンタと名乗ったその少女は、しかしサンタ服を着ている訳でもなく、袋も背負っておらず、 トナカイの引くソリに乗って来た訳でもなく…どう見てもサンタではありません。 そして何より、今はまだクリスマスと言うには早すぎました。 『デェ?サンタさんデスゥ…?』 『ママ、サンタって何テチ?』 『三女チャはサンタさんも知らないテチ?サンタさんはプレゼントをくれる優しいニンゲンサンテチ!』 『長女オネチャは物知りテチ~!次女オネチャは知ってたテチ?』 『も、もちろん知ってたに決まってるテチ!サンタさん、早くプレゼントよこすテチ!』 いきなり現れたサンタと名乗る少女に、怪訝な表情をする親実装と楽しげに喋り始める仔実装姉妹。 反応は違えど、一家は木の実拾いを中断して謎の少女を見やります。 『な、何か御用デスゥ…?』 親実装は仔たちを抱き寄せながら、おどおどとその少女に話し掛けます。 かつて人間に虐められたことのある親実装は、初めて見る少女を警戒しているようです。 「怖がらなくてもいいですぅ。クリスマスが近いのでサンタさんがプレゼントをやるですぅ」 彼女はそう言って、実装親仔を見返しました。 言うほどクリスマスは近くありませんでしたが、野良実装の一家にそんなことは分かりません。 そして親実装は彼女の態度を見て、問答無用で虐めてはこないだろうと判断して少し警戒を解くと、 抱き寄せていた仔を放して彼女に問い掛けました。 『プ、プレゼントってどんなモノが貰えるデスゥ?』 「何でもいいですぅ。お前が望むモノを、何でも与えることができるですぅ」 そう答える彼女の言葉が本当かどうか、親実装には判りませんでした。 ですが、実装一家は冬支度の真っ最中だったので、欲しいモノはすぐに思い浮かびました。 『じゃ、じゃあ…食べ物に困らないようにして欲しいデスゥ…。 冬の間だけでも、ムスメたちがおなかを空かすことがないように…』 『ママ、ワタチはスシがおなかいっぱい食べたいテチ!』 『ワタチはステーキが良いテチ!』 『コンペイトウ!コンペイトウもテチ!』 親実装の我が仔を想う切実な願いに対し、仔実装姉妹の願いはいかにも実装石でしたが、 その少女は嫌な顔ひとつせず実装一家の願いを聞いていました。 「それじゃあ、これからお前たちが食べ物に困らないようにしてやるですぅ。 そう…スシとステーキとコンペイトウがいっぱい食べられるようにするです。それで良いですぅ?」 『お、お願いしますデス…』 『『『よろしくお願いしまテッチュー!』』』 実装一家の返事を聞いた少女は、一家のそれぞれの手にさっと自らの手をかざしました。 「…これでお前たちが触れたモノは何でも、スシ、ステーキ、コンペイトウに変わるようになったですぅ!」 『デェ…?どういうことデス…?』 親実装が訝しんでいると、仔実装たちが騒ぎ始めます。 『ママ、ドングリさんがなんか変なモノに変わったテチ!』 『こっちのドングリさんはお肉になったテチ!』 『木の葉さんがトゲトゲの硬いモノに変わったテチ!』 「それがスシとステーキとコンペイトウですぅ。さっそく食べてみるといいですぅ」 『お、オマエたち待つデ————』 少女の言葉を聞き、仔実装姉妹は親実装が止める間もなくそれらを食べ始めました。 『スシおいしいテチュー!』 『ステーキあったかくてウマウマテッチューン♪』 『こ、これが憧れのコンペイトウの味テッチュー!』 『————だ、大丈夫デス…?』 仔実装たちの様子に、親実装がドングリをひと粒拾ってみると、それはステーキに変わりました。 良い匂いで温かな、柔らかそうなお肉…親実装はゴクリと唾を飲み込むと、そのステーキに噛り付きます。 『うっ…ウマウマで肉汁たっぷりのステーキデッスーン!』 「喜んでもらえて何よりですぅ。これで冬の間もおなかいっぱいですぅ?」 少女が微笑みを浮かべて見つめるその側で、実装一家は落ちているドングリに次から次へと触れていき、 スシとステーキとコンペイトウを次々に食べました。 『サンタさんありがとテチュ!』 『ワタチたち凄いテチ!カミの手テチ!』 『これでもうひもじい思いはないテチ!』 『オマエたち…良かったデス…!』 親実装は涙を流しながら、食事を続ける娘たちを抱き寄せます。 『『『テッ…!』』』 しかし次の瞬間、姉妹はスシとステーキとコンペイトウに変わっていたのです。 長女はスシとなって地面で崩れ落ち、次女はステーキになって良い匂いを漂わせ、 三女はコンペイトウになって転がりました。 『デデッ?ムスメたちが消えたデス。どこ行ったデス…?』 いきなり姿を消した娘たちが、まさか足下のスシとステーキとコンペイトウに変わったとは夢にも思わず、 親実装はきょろきょろと辺りを見回しましたが、当然その姿は見当たりません。 『ま、まあ、おなかがいっぱいになって腹ごなしに遊びに行ったデスね…。 ワタシはもう少しゴハンを食べるとするデス!』 突然の出来事に理解が追いつかなかったのか、親実装は事態を都合よく解釈して勝手に納得すると、 足下のスシ(長女)とステーキ(次女)とコンペイトウ(三女)を拾い、一息に食べ尽くしました。 『うまいデスッ!これでもう食べ物には困らないデスゥ!』 その時、一家の様子をじっと見続けていた少女が、微笑みながら言いました。 「それは良かったですぅ…でも、気をつけるといいです。触ったモノは何でも食べ物に変わるですぅ…」 『デェ?…ドングリさんや木の葉さんじゃなくてもデス?』 「そうですぅ…他のモノでも、それこそ実装石もスシとかに変えられるです…。 さて、ところでお前の仔たちは、一体どこへ行ったですぅ…?」 少女の言葉に親実装はしばし考えていましたが、はっと両手を見つめます。 『ま、まさか…さっきのスシとステーキとコンペイトウは…ワタシの…! そ、そんなはずないデスゥ!ムスメたちはどこかで遊んでるだけデスゥ! 長女…!次女…!三女…!みんな返事をするデスゥ!』 「くすくす…まだ言ってなかったですが…メリークリスマスですぅ」 少女はニヤリと笑ってそう言うと、親実装に背を向けて去って行きました。 親実装はそれを気にする余裕もなく、必死に我が仔を探して走り回っていましたが、 額に流れる汗を拭おうと自分の顔に触れた瞬間…。 『デッ…!?』 あとには大きなステーキが一枚、地面に落ちていました。 少しすると匂いを嗅ぎつけたのか、近所の野良実装たちがやってきて落ちているステーキを見つけました。 野良たちはキョロキョロ辺りを見回していましたが、やがて誰ともなくステーキに噛り付くと、 先を争うように食べ始め…大きなステーキ肉も、周囲に落ちていたスシやステーキやコンペイトウの残りも、 あっと言う間に食べ尽くされてしまいました。 こうしてサンタさんにプレゼントをもらった野良実装は、その力で他の野良たちの栄養になったのです。 …クリスマスにはまだ早い、実装石たちが冬支度に勤しむ11月のお話でした。 終わり ———————————————————————————————————————— スレに投下したスクを加筆修正しました。 勢いで書いたスクが原型なので設定は適当です。
1 Re: Name:匿名石 2023/11/12-19:58:28 No:00008454[申告] |
ギリシャ神話の話を思い出すね
あっちは触れたものが黄金に変わるように神に頼んだのだが |
2 Re: Name:匿名石 2023/11/23-22:35:18 No:00008489[申告] |
こういう奇妙な寓話みたいなのが偶に紛れて来るのが実装石の面白い所
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