タイトル:【観察】 店頭展示
ファイル:店頭展示.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:750 レス数:8
初投稿日時:2023/11/02-19:25:07修正日時:2023/11/02-19:25:07
←戻る↓レスへ飛ぶ

店頭展示



12月、実装ショップではクリスマスセールが始まった。
早朝に入荷した、仮死状態で包装されたセール品に空気を入れて蘇生させる。
セール品はサンタ風の実装服を着た仔実装が全部で10匹。
大きめのケースに入れて店内の目立つ場所に置くと、途端に騒がしくなった。

『テチュ?』『テチュー!』『テッチュテッチュ』『テチテチ』…
「はいはい、まだ朝なんだからみんな静かにして。
 このお店に前からいるオトモダチはまだ寝てるんだよ?うるさくしたら迷惑だろ?」
『『『『テチューン』』』』

大半の仔実装は店舗に来る前の躾を覚えているので、店員の注意で大人しくなる。
だが、一匹だけが言うことを聞かずに騒ぎ続けている。

『テチッテチッ!テッチュー!』

出荷前のチェックをどうすり抜けたのか、この騒ぎ様は「商品」としては少々問題ありだ。
しかもそいつに誘発されて、他の仔実装までもが騒ぎ始めた。

『『『『テチュー!テチュー!』』』』
「しょうがねぇな、餌を少しやるか…躾済みの商品だしこれで大人しくなるだろ。
 はい、みんなー、おやつをあげるから食べたら大人しくするんだぞー。
 いいな、みんな1粒ずつだぞー」

店員のとしあきは、おやつ用の実装フードを持ってくると、ケースの中に10粒ばら撒いた。
フードを拾って大人しく食べ始める仔実装がほとんどだったが、
例の騒がしい個体は股の間に1粒抱え込んで座り、両手でもう1粒持って食べている。
そのせいで、1匹だけフードにありつけずにおろおろする仔実装がいた。

『テェ…?テチュ…?』
『チププ…テムテム…』
「おい、そこの足でフード抱えてるお前、1粒ずつって言っただろ!
 お前のせいでフードを食えない奴がいるんだぞ」

店員がそいつを注意するが、そいつはその言葉を無視してフードをがつがつと食べ終えると、
脚に抱えた方も手に取り食べようとする。

「こらっ、駄目だっつってんだろ!」
『テッチャァァァ!』

店員がフードを取り上げようとすると、そいつはその指に噛みついた。
仔実装の顎の力では人間に傷を負わせることはできないので問題はなかったが、
どうにも元気だけはあり余っている個体のようだ。

「うーん、一番元気な奴を見定めてからにしようと思ったが…。
 展示ケース行きはこいつで決まりだわ」

としあき店員は指を抑えながら、そいつを見下ろしてそう言った。




そして、クリスマスセール開始。
実装ショップの店頭では、入口の横に置かれた透明のケースに例の個体、
「カミコ」と名付けられた個体が入れられていた。
カミコはサンタ服を着て、店の前を通りかかる客たちにおあいそしている。
通行人の中には、それを見て「かわいい」と寄ってくる者や、店の中まで入る客もいた。

『テッチューン♪テッチュテッチュ♪』

カミコは反応してもらえるのが嬉しいのか、ニヤニヤと笑いながらおあいそしたり、
ヘタクソな踊りを踊ったりしている。
ケースに付けられたリンガルには、カミコの鳴き声に反応してこんな文章が表示される。

『いらしゃいませテチ!ぜひ店内も見てってくださいテチ!』
『ニンゲンサン、お店の中にはもっと可愛いサンタ仔実装がいっぱいテチ!』
『見テチ、見テチ♪ワタチ、可愛いテチ?テッチューン♪』

などなど、いくつかの文章がランダムで表示されるようになっている。
もちろん、カミコがそう言っている訳ではなく…ただの客寄せの文面だが、
それを見て店に入る客もたまにはいた。

数日経つと、カミコはあることに気がついた。

ワタチがここでおあいそをするとニンゲンが建物に入っていくテチ。
ほとんどのニンゲンは何も持たずに建物から出てくるけど、
一部のニンゲンは中にいるグズども(他の実装)を持って帰るテチ。
あれは飼い実装になったということテチ…。
どうしてニンゲンをメロメロにしているワタチが飼われずに、他のグズが飼われるんテチ?

『テチィッ!テチッテチッ!』

憤るテチコだったが、ケースに付けられたリンガルには鳴き声に反応してこんな表示がされ、
またしてもそれを読んで店に入っていく客がいるのだった。

『ワタチなんかよりお店の中を見テチィ!ワタチより可愛い仔がいっぱいテチ!』




その頃、店の中では店員たちが忙しそうにしていた。
店内にはセール品のサンタ仔実装の他にも、様々なランクの商品実装石や
各種実装グッズなども置かれている。
店員は客の質問に答えたり、会計をしたり、時にはうるさい商品を店の奥に連れて行ったり…
結構忙しいのだった。

店の中心の展示台に置かれた大型ケースには、数匹のサンタ仔実装が入れられている。
それぞれ遊んだり、踊ったり、あおいそしたり…中には眠っているのもいるが、それも御愛嬌だ。

「見て、店の外にも飾られてたサンタ仔実装がいるよ」
「あ、あの仔踊ってる、かわいいー!」

女子高生の2人組がキャッキャッと笑いながら、踊るサンタ仔実装を見て笑っている。
その仔実装の動きは両手をバタバタと交互に上下させながら足踏みしているだけで
踊りとも言えないようなものだったが、年頃の可愛いもの好きの子にはウケるらしかった。

『テッチュン♪テッチュン♪』

注目されているのに気づいたのか、踊っている仔実装はさらに熱を入れて踊り続ける。
それを見て女子高生がさらに笑い、仔実装はもっと踊りに熱を入れると言った具合だ。

「あー、ウケる。この仔、買っちゃおうかなー。でも世話すんの面倒だなぁ」
「あはは、もうすぐクリスマスだし、あんたの弟にあげたら?」
「ダメダメ、あいつにあげたらどんな扱いするか…」
「うちの弟が、小学校で実装四駆が流行ってるとか言ってたから、あの仔も改造されちゃうかも」

女子高生たちの興味が自分から逸れたことに気づかず、その仔実装はしばらく踊り続けていた。
そして疲れて踊りをやめた頃に、女子高生たちがいなくなっていることに気づき、
しょんぼりと腰を下ろしてケースの床に座り込んだ。
しかし、その落胆はすぐに覆されることになる。

「こちらのサンタ仔実装ですね?」
「そうそう、そのさっきまで踊ってた仔」
『…テェ?』

ケースの天板が開けられ、店員の腕がケース内に入ってくる。
踊り疲れていた仔実装は逃げたり抵抗する間もなく持ち上げられ、小さなケースに移された。

『…テッチュウ!』

仔実装はこのケースを知っていた。
この建物に来てから何回か、一緒にいたオトモダチがこのケースに入れられ、
ニンゲンサンに連れられて行くのを見たことがあった。
そう、飼い実装になったということだ。

『テェェ…』『テチィ…』『テチュ…』…

大型ケース内の他のサンタ仔実装たちが、その様子を羨ましそうに見ていた。
踊っていた仔実装はその視線に若干の優越感を覚えながら、それでも別れの挨拶を交わした。

『テチュー!テッチュテチュー!』

パタパタと腕を振りながら、小さなケースごとレジに運ばれる仔実装。
綺麗にラッピングされ、女子高生に手渡された。

「さぁ、名前考えてあげないとねー」
「テチコが良いんじゃない?」
「…何かロクな目に遭わなさそうでイヤ」

仔実装は飼い実装の生活に思いを馳せながら、飼い主を見上げて『テチューン』と鳴いた。
結局、この仔はテチコと名付けられることになるのだが、それはまた別の話。




さて、店の外に話は戻る。
自分は飼われないのに、他の仔実装だけが飼われていくことに不満を覚えたカミコ。
昨日も、自分と同じ服を着た1匹の仔実装が飼われていった。

どうしてテチ。可愛いのは自分なのに。気に入らないテチ!
そうテチ、ニンゲンにおあいそするのをやめてみるテチ!
そうすればこの建物に入るニンゲンはいなくなるはずテチ!

カミコはその日、朝からケースの中でゴロゴロしていた。
だが、サンタ服を着た仔実装は見た目だけは可愛らしかったので、
何もせずにゴロゴロしているだけで客を引き寄せた。

「わぁ~、このサンタ仔実装寝てるよ!」
「かわいい~!」
「前に見た時は踊ってたけど、寝転がってる姿もかわいいよねー」
『…チププ…テッチューン♪』
「あっ、おあいそした!」
「やだ、かわいいー!」

実装の悲しいサガか、注目を浴びると思わずおあいそしてしまうのだった。
それでもいつもより客足が鈍っていたのか、閉店時に店員がやってきてカミコに言った。

「お前、今日はちゃんと仕事しなかったからエサ抜きな」
『テェッ!?』
「お前の仕事は客寄せなんだよ。仕事ができないならエサはやらん」
『テチュー!テチュー!』
「何?明日から頑張るからエサをくれ?そういうセリフは頑張ってから言うんだな」

店員はカミコのケースを店内にしまうと、水だけ取り換えて行ってしまった。
その日、カミコは腹をすかして泣いた。

それからしばらくは真面目に客寄せをしていたカミコ。
少なくともそうしていればエサは貰えるし、身体も洗ってもらえる。
何より、綺麗な服(サンタ服)で着飾れるのが嬉しかった。
他のグズどもが飼い実装になるのは気にいらないが、自分もいずれはセレブ人間の目に留まって
セレブな家の飼い実装になるのだと自分自身に言い聞かせていた。




————クリスマスイブ。

「さ、今日で最後だからな。しっかりやれよ」
『テェ…?』

店員の何気ない言葉に、カミコは不安になった。

最後って何テチ?
この毎日はワタチがセレブな人間に飼われるまで続くんじゃないんテチ?
…終わったらどうなるテチ?

「ほら、おあいそして!」
『テッ!…テチューン♪』

いつもエサをくれるけどちょっと怖いニンゲンに促され、カミコは通行人におあいそし始めた。

「やれやれ…俺の指を噛みやがったこいつともやっとお別れできるぜ」

としあき店員のボヤキは、カミコの耳には入らなかった。
…そして時間は流れ、閉店後の店内で。

『テチィィッ!』
『テェェェン!』
『チュワァァッ!』
『テチュアァァァァ!』

売れ残ったサンタ仔実装たちが、服を剥ぎ取られて裸にされていた。

「売れ残ったのは4匹か…何回か追加発注したから結構売れたよね」
「そっすね店長…あ、表のあいつもいるから売れ残りは5匹っす」
「あぁ、あいつ忘れてた。私はこいつらをワケあり実装として登録し直しとくから、
 としあき君はあいつ片付けてきて」

売れ残ったサンタ仔実装は服だけ剥ぎ取り、裸仔実装として叩き売られる運命だ。
一方のとしあき店員は、店の表に出しっぱなしになっていたケースの中身のカミコを、
店長の言いつけどおり「片付け」に行った。

「おー、悪い悪い、お前のことすっかり忘れてたよ」
『テチュー!テチュテチュー!』

いつもならとっくに店内にしまわれエサを貰える時間なのに放置され続けたカミコは、
ケースの中で腹をすかせて鳴き叫んでいた。

「はいはい…今、リンガル持ってないから何言ってるか分かんねーけど、
 まあエサくれとか言ってんだろうな…とにかくお店の裏に行こうね」

としあき店員はケースを抱えると、家の裏手の狭い路地へ向かった。
そしてケースの天板を外し、ケース内のカミコを摘まみ上げる。
そのままサンタ服を脱がせようとしたが…手の中でイゴイゴ暴れられて苦戦していた。

『テチュー!』
「おい、暴れんなって!…くそ、元気だけは良いなこいつ!」

としあき店員が思わずカミコにデコピンしてやろうかと構えた時だった。
店長がやってきてそれを制止した。

「としあき君、待った。そいつ殺しちゃダメだよ」
「えっ、さっき片付けていいって言ったじゃないですか」
「言ったけどさ。よく考えたら、それだけ元気なら正月セールの展示用にも使えそうだなって」

正月セール…それは年末年始に実施されるセールで、
着物風の実装服を着た仔実装が入荷し、店の目玉商品として売り出されるのだ。
もちろん店の外には、展示用に1匹だけケースに入れられて置かれることになるのだが…。

「実は着物実装服のサンプルが届いているんだよね。それをその仔に着せて展示用にしよう」
「えぇぇ…こいつで遊べると思ったんだけどなあ」
「仮にも商品だよとしあき君。粗末にしちゃダメだ」

としあき店員は残念そうに、手に持ったカミコを見下ろした。
カミコは乱暴なニンゲン(としあき)を止めてくれた店長の方を潤んだ瞳で見つめていた…。




————12月26日。
実装ショップの前の展示ケースの中で、着物風の実装服を着たカミコが踊っていた。
時折、通行人がケースを覗いては何やら笑って話している。

「あはは、これ見て、着物みたいな服着てるよ」
「でもパンツは穿いてるんだね」
「実装石だよ、当たり前じゃん」
「確かにそうだね、あはは」

『テッチュ、テッチュ!』
「踊ってるー、おもしろーい!」
「かわいいー!」

ニンゲンがワタチを嬉しそうに見てるテチ!
ワタチはここにいるテチ!もっと見テチ!そしてセレブニンゲンサンに飼ってもらうテチ!
そのためならもっとおあいそするテチュ!もっと踊るテチュ!
もっともっとワタチを見テッチューン!

サンタの時より熱心に愛想を振りまくカミコ。
それは自分を助けてくれたニンゲンサン(店長)に、こう言われたからだ。

「一生懸命おあいそしたら、君を飼ってくれるニンゲンが見つけてくれると思うよ。
 それもセレブで素敵な、君だけのゴシュジンサマが来るかもしれないね」

来る、と断言はしていないのだが、カミコはそんなことには気づかなかった。
飼いへの希望を胸に、今日もケースの中でおあいそする。

…だがその希望が続くのも、正月セールが終わるまでである。


店頭展示
  完

————————————————————————————————————————

正月の後は節分セールとかバレンタインセールもありそうだけどちょっと間が空くので。

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため5281を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2023/11/03-00:40:26 No:00008197[申告]
商品未満の糞蟲の割には長生きできてシアワセだったろう…
2 Re: Name:匿名石 2023/11/03-00:58:17 No:00008198[申告]
もう直ぐクリスマスシーズン
実装にとって天国か地獄か…って考えるまでもなかったわ
3 Re: Name:匿名石 2023/11/03-02:36:25 No:00008199[申告]
クリスマスの鶏モモ焼みたいな運命だと思ったら
正月まで使い回すテリーヌだった
4 Re: Name:匿名石 2023/11/08-21:58:51 No:00008426[申告]
ショップ実装なのにそこらの野良と変わらんやんけ
教育してないとかどんだけ詐欺
と思ったけど今までのショップ実装生まれてすぐの仔実装にいつ教育したのかという疑問も
5 Re: Name:匿名石 2023/11/08-23:16:26 No:00008428[申告]
成長スピードには作品で結構ムラあるけど、それでも時間的にはタイトだよね
仔実装で商品価値があるのが授乳期後から中実装手前かもってなると
成長抑制の餌を使うって話があるのが頷ける
6 Re: Name:匿名石 2023/11/08-23:42:22 No:00008431[申告]
抑制餌で死ぬまで仔実装って設定の作品もあるがエスターみたいでキモいな
実年齢おばはんなのにテッチュ〜ン♪とか言ってガキの知能のまま可愛く甘えてくるんだ
7 Re: Name:匿名石 2023/11/09-04:41:54 No:00008433[申告]
実装のエゴと人間のエゴ
ペット実装には何処か歪んだ共依存がまとわりついて何とも言えない感覚になるのがいい
8 Re: Name:匿名石 2023/11/24-00:20:53 No:00008491[申告]
クリスマスと正月ってのが今の時期実に絶妙だな
しかし実装石が何かの狂言回しみたいに見えて深い作品…かも?
戻る