タイトル:【ドキュメンタリー】 ミドリの更生
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作者:PPP 総投稿数:6 総ダウンロード数:727 レス数:5
初投稿日時:2023/10/15-00:28:16修正日時:2023/10/15-00:28:16
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実装石ドキュメンタリー
—ミドリの更生—

飼い実装のミドリ、3歳。人で言うと40代くらい。
性格は凶暴、ちょっとしたことですぐに暴れる。
片耳は野良との喧嘩で失ってしまった。
飼い主との散歩中、近所の小学生にからかわれて激怒し、石を投げつけ怪我を負わせてしまう。
その場で叱ったが効果はなし。躾のため体罰を加えると狂ったように叫び出す。
他にも前科が山ほど。耐えかねた飼い主によって、躾のスペシャリストの元へと預けられた。

ここは、実装石を専門とした躾のための施設。
経営者の敏明氏は、躾専門のトレーナーとして有名。
彼にかかれば、どんなに問題のある実装石でも更生が可能と言われている。
独自の理論を持ち、昨年発刊した実装石の教育本はベストセラーになった。
初日の朝。預けられたミドリに会いに行くと、ケージの中が騒がしい。
「デエッ!デジャアアァ!」
ミドリが何やら大声で主張している。
「早くエサよこせって言ってるんですよ。かなり態度がデカいねこいつは。」
試しに我々がリンガルを起動してみた。
「さっさとワタシにウマウマよこすデジャアアアァ!」
正解。リンガルを使わずとも、表情と態度で何を言っているかは大体分かるらしい。
実装石の言ってることを信じすぎるとろくなことにならない。
必要以上に愛着が湧いてしまうのでリンガルは使わない主義、と敏明氏は語る。

敏明氏が、皿に実装フードを入れてケージの前に置いた。
「ミドリ待てっ!」
「デジャアアアアァ!」
ガシャンガシャン!!
敏明氏は命令するが、ミドリは全く聞く様子がない。
ケージに体をぶつけ、隙間から手を伸ばしてエサにありつこうとする。
「待てっ!」
「ハジャアアアアアァ!」
敏明氏は鋭い眼光で睨みつけるが、ミドリは意に介さない。
「じゃじゃ馬だなこいつは。」
ケージを開けるとミドリが飛び出してきた。
敏明氏は向かってくるミドリの頭を掴み、床に叩きつけるように組み伏せる。
「待てって言ってんだろ、こいつ!」
「ブジュアアアアァァ…」
手足をバタつかせながら唸り声をあげるミドリ。
ミドリが静まるまでに10分を要した。

敏明氏は、落ち着いたミドリを立たせると、エサの皿を前に出し再び命令した。
「ミドリ待て!」
命令を無視し、エサにありつこうとするミドリを手で静止する。
「ミドリ!待て!!」
「デジャアアアアァ!」
ミドリは止まらない。
敏明氏は再度ミドリを組み伏せた。
「うるせえってんだよこいつ!」
「グルウウウウウゥ!」
まるで野獣だ。
「一回甘くするとつけ上がるんです。
こっちが上だと言うことを徹底的に教え込まないと。」
唸り声を上げながらミドリが鎮まる。疲れていたのか、今度は5分ほどで落ち着いた。
再び皿を前に出す。
「ミドリ!待て!!」
「デジャアアアァァァ!」
同じことの繰り返し。
しかし、今度は少し様子が違った。
「ウジャアアアァァァ!」
「いてっ!この野郎噛み付きやがった!」
ミドリが敏明氏に噛み付いた。
敏明氏がミドリを組み伏せる、が今度は少し違った。
「デジャッ!デジャッ!デジャッ!」
敏明氏は、両足でミドリを立てないように抑え込むと、素手でミドリの顔を叩き始めた。
バシッ!バシッ!
ミドリを叩く音が、小屋内に響き渡る。
「ハジャアアアァァ!ハジャアアアァァ!!」
殴られ気が動転したのか、ミドリが敏明氏を威嚇する。
「うるせえっつってんだよ!」
バシッ!バシッ!
敏明氏は、またもミドリを叩く。
「デギャアアアアァァァァ!!」
一際激しい叫び声を上げるミドリ。
このような躾をして、実装石は大丈夫なのだろうか。
「大丈夫です。実装石は見かけ以上に丈夫ですから。
ちょっとくらいの怪我ならすぐに回復してしまいます。
わざと大げさに泣いて見せて、我々は同情を誘ってるんです。
要するに我々は実装石になめられてるんですよ。」
それでも、いささか厳し過ぎる躾である。
何も知らない人から見れば、虐待と思われても仕方がない。
なぜ、このような躾をするのだろうか。
「こいつらはねっ返りが、人の世界で生きていくためにはね、こうしなきゃいけないんです。」
事実、敏明氏の元へ連れて来られる実装石は大半は処分寸前。
文字通り、人の手に余る状態。
ここで躾に失敗すれば、今度こそ処分されしまう。
それだけに敏明氏も必死だ。
「俺が躾に手を抜いたことで、こいつらが処分されてしまうのだけは何としても避けたい。
やっぱり、こんな凶暴なのでも実装石は可愛いからね。
心を鬼にしてやってますよ。」
何度とも叩かれミドリが、遂に威嚇を止め、放心したかのような表情で黙った。
敏明氏は、ミドリを立たせると皿を前に出す。
ミドリはフラフラとエサに向かって歩き始めた。
「ミドリ!待てっ!」
敏明氏が手で抑えるが、ミドリは手をくぐり抜けようとする。
「ミドリ!待てっ!!」
同じことの繰り返し。
敏明氏は、実装石との根競べと語る。
「ミドリ!待てっ!!」
数え切れないほどの応酬。ミドリはエサを前に根が尽きたかのように立っていた。
敏明氏を警戒しながら、待っているものの、隙あらばエサに食いつこうとする目つき。
「まだだ!待てっ!」
敏明氏の目は鋭く、決してミドリから目を離さない。
そのまま体勢で数分間待たせる。
たったの数分だが、ミドリには永久にすら思われた。
「よし!いいぞ!」
ようやくオッケーが出る。
敏明氏は、ミドリの背中を押すと、もの凄い勢いでエサを食べ始めた。
よほど腹が減っていたのだろう。
食べ方などお構いなし、次々とエサを口に掻き込んでいく。
「こりゃあ、食べ方も教えんといかんな。」
この一連のやり取りを食事の度に行なうと言う。
「当然です。食は躾の基本ですから。
ここで手を抜いたら何も始まりません。」
噛まれた手は平気なのか。
「このくらいはしょっちゅうですから。慣れっこですね。」
やはり、少し痛そうに傷になった手を擦る敏明氏。
傷口から雑菌が入り込み、手が腫れ上がることも珍しくないと話す。
「実は、俺の朝飯はこれからなんです。」
時計は10時になっていた。朝食と呼ぶには遅すぎる時間。
自分の食事を先に取らないのだろうか。
「それじゃあこいつらに悪いよ。
こいつらだって我慢してるんだから、俺も我慢しないとフェアじゃないです。
俺の世話はこいつらを躾けてから、ってくらいの気構えがないと躾なんか出来ない。」
そう話すと、敏明氏は遅い朝食へと向かっていった。

昼。敏明氏が様子を見に行くと、ケージが糞だらけに。
ケージ内ではミドリがニヤついた顔で笑っている。
敏明氏は、すぐにケージからミドリを引っ張り出した。
「こらっ!ちゃんとトイレでしろって言っただろ!」
敏明氏がケージ内のトイレを指差して叱る。
ケージ内のトイレは未使用だった。
にもかかわらず、ミドリはトイレ以外で糞をした。何故だろうか。
「多分、さっきの仕返しですね。わざとですわざと。
こいつらはね、人が糞を処理してくれることを知っていて、わざとこんな嫌がらせをするんですよ。
きっと飼い主さんのとこでも似たようなことしたんでしょうね。」
叱られている最中、ミドリはずっとニヤニヤしながら敏明氏を見つめていた。
だが、敏明氏に容赦はない。
すぐに水の入ったバケツと雑巾を用意され、ミドリの前に置かれた。
「自分で掃除しろ!」
「デエッ!」
ミドリはバケツを蹴り飛ばし、暴れ始めた。
「デジャアアアアァァァ!デジャアアアァァァ!」
何と言ってるのだろうか。
「多分、高貴なワタシが何で掃除なんかするんだ、みたいなこと言ってますね。
今まで掃除なんかしたことないんでしょう。」
リンガルで翻訳すると、正にその通りの会話が表示された。
「掃除をしろ!!」
強めに差し出された雑巾をミドリは一切受け取ろうとしない。
「デスッ!」
敏明氏が、懸命に雑巾を受け取らせようとするが、逆に手を叩かれてしまう。
「掃除をしろって言ってんだよ!コラ!」
敏明氏は、ミドリの頭を掴むと糞の塊にミドリを押しつけた。
「デジュワアアァァァ!ウブブグオエェェェ!」
臭いのキツイ糞に顔を押し付けられたミドリが呻き声を上げる。
「何騒いでる!お前が出した糞だろ!」
実装石に掃除をさせるのは難しいのではないか。
我々はそう尋ねてみた。
「そんなことありません。実装石は賢いんです。
野良は自分で住処の掃除をしますし、飼い実装だって躾ければ掃除くらいします。
いくら掃除したことがなくてもこいつらだって実装石ですからね。
出来ないと思ってやらせないと永遠にやりませんよ。
ここも根競べです。」
暴れることを止めた後も、ミドリはうつ向いたまま掃除をしたがらない。
「本当に頑固だなお前。
掃除が終わるまでエサは食べられないぞ。
ここはそういう場所だ。」
いつまで経っても掃除をしたがらないミドリに残酷な言葉が告げられる。
ミドリは驚愕した表情で顔を上げた。
「掃除をしろ!ミドリ!」
しばらく、駄々をこねながら、敏明氏と睨み合いを続けていたミドリだったが、
数時間後、渋々と言った様子でケージの掃除を始めた。

1時間後、ミドリにとって初めての掃除が終わる。
「ようし、よくやった。偉いぞミドリ。」
敏明氏は、ミドリの頭を撫でながら優しい声をかける。
ミドリはうつ向いたままだったが、敏明氏の手を払わず素直に撫でられていた。
「ちゃんとやったら褒めてあげることが必要です。
厳しいだけだと、こちらには絶対に懐きませんから。
それだと、飼い主の家に帰ったら元通りです。
厳しく躾けて、ちゃんとできたら褒める!飴と鞭の使い分けが重要なんです。」
ベテラントレーナーはそう語った。
日が暮れる。
ミドリは、夕食時も「待て」を忘れて騒いだが、朝と比べると驚くほど早く食事を終えた。
「今日は、待てと掃除を教えました。
まだまだ教えることはありますが、この二つが非常に重要です。
食事では我慢を覚えさせて、自分のケージは自分で掃除させます。
これを反抗しなくなるまで、毎日しつこいくらい続けます。」
ミドリの躾は、まだまだ先が長いようだ。

2週間後。ミドリの様子を見に我々は敏明氏のところへ向かった。
「いやあ、どうもどうもお久しぶりです。」
敏明氏が笑顔で迎えてくれた。
ミドリの様子はどうだろうか。
「ミドリですか?調子は良いですよ。ようやく我慢が出来るようになってきました。」
躾は順調のようだ。
敏明氏に連れられ、我々はミドリのところへ向かう。
「ミドリ、エサだぞ!」
「デッス~ン♪」
敏明氏を笑顔で迎えるミドリ。
どうやら、だいぶ懐いたようだ。
「ミドリ!待て!」
2週間前とは打って変わって、我慢が出来ている。
「まだだ!まだだぞ!」
敏明氏の待ては数分続くが、ミドリはまだ待っている。
物欲しげな表情はしているが、以前のような食い入るような眼ではない。
「ちょっとテストをしようと思います。」
敏明氏は、ハードルを一段上げたようd。
「ミドリ!待て!」
敏明氏は立ち上がり、ミドリの元から遠ざかる。
「いいか?そのまま待ってろよ~」
そう言って、敏明氏はミドリの視界から完全に消えた。
離れて様子を見るつもりだろうか。
敏明氏は家の中に入り、モニターの前で座った。
「監視カメラでミドリの様子を見ます。
これで待てたら合格です。」
モニターを見ると、エサをじっと我慢しているミドリの様子が写されている。
長時間待たされ、ミドリの口元からヨダレが垂れた。
遂に我慢できなかったのか、ミドリが動く。
「あ~こりゃダメかな~」
ゆっくりとエサに近づいたミドリは、エサの入った皿を近くでじっと眺めたり、
指で軽く触ったり、辺りを伺うようにキョロキョロと視線を動かしていた。
そして、誰もいないと分かると、皿に入った実装フードを一つまみ、口の中に放り込んだ。
「あ~やっちゃったか~
ちょっと叱りに行ってきます。」
早足にミドリのところを走る敏明氏。
「こら!ミドリ!待ってろって言っただろ!!」
体をビクリ!と反応させて、ミドリが驚き、顔を向けた。
「デェッ!デスデスデス!!」
「食べてない!?嘘つくな!俺には分かるんだぞ!!」
リンガルを使わないのは相変わらずのようだ。
「メシいらないのか!?」
「デスデスデスデス!!」
「欲しいんだったらちゃんと待ってろ!
いいか、俺がいなくてもちゃんと待ってろよ!!」
リンガルなしでも会話が成立していることが、少しだけ微笑ましく見えた。

ひとしきりミドリを叱ると、再び小屋から離れる敏明氏。
罰則の意味も込めて、今度は少し長めに待てをさせる。
「見てないところでズルするようじゃ、まだ人間を馬鹿にしてる証拠です。
こうやって、見てなくても分かるんだぞってことを教え込むんですよ。」
敏明氏がモニターと睨めっこして10分ほど。
「そろそろいいかな。」
ようやく、OKが出たようだ。
足早にミドリのところへと向かった。
敏明氏は、笑顔を浮かべながらミドリに近づき、そして。
「よ~しよしよしよし!ちゃんと待てたなミドリ!
やればできるじゃんお前!偉いぞ~!」
両手で抱き上げると、抱きしめながら頭を力いっぱい撫で回した。
ミドリも嬉しそうに撫でられている。
こんなところも2週間前とは大きく違った。
毎回、このような褒め方をしているのだろうか。
「あれくらい、大げさに褒めてやることが重要なんです。
あ、これをやると人間が喜んでくれるんだな、って実装石も学習しますから。
実装石だってそりゃ褒められることは嬉しいわけですよ。」
ひとしきり褒めたところで、ミドリを解放する。
そして、笑顔のまま食事の許可を出した。
「食べてよし!」
敏明氏の号令で、エサに走り出すミドリ。
しかし、以前のようにエサに飛びついたりはしない。
エサの皿の前に座り、一つずつ味わうように実装フードをいただく。
こんなところにも、敏明氏の躾が行き届いてるようだ。
このペースなら、卒業の日も近いのではないだろうか。
「いやあ、まだですね。
実装石はね、人に慣れたら慣れたで新しい問題が出てくるんですよ。」
敏明氏の言葉は厳しい。
どうやら、まだ我々の知らない問題が待ち受けているようだ。

それは、敏明氏がミドリをケージから出し、遊ばせている時に起こった。
「デッス~ン♪デッス~ン♪」
ミドリが、敏明氏の足に抱き着き、股間をすりすりと擦り付けているように見える。
実装石の求愛のポーズだった。
「あ~始まっちゃったか~」
敏明氏は、遂にと言う表情をしている。
「実装石はね、自分の認めた人間に求愛をするんですよ。
自分との子供を作って欲しいってね。
実装石から愛されて嬉しいと言う人も中にはいますけど、これは躾の対象です。
生物としては当たり前の行動でしょうけど、
飼い主から気持ち悪いと言われて捨てられることも少なくないですから。」
見境なしに人に発情するようでは飼い実装として落第である。
「こら!ミドリ!人に発情するな!」
敏明氏は、ミドリを足から引き剥がすと、頭に拳骨を浴びせた。
「デエッ!」
ジリジリと痛む頭を押さえながら「何故?」と言う表情で敏明氏を見るミドリ。
殴られた理由が分からず、その場に立ち尽くす。
突然、何かを思いついたかのように急に仰向けになると、
両足を開き、手で局部を弄りながら、もう一度求愛をする。
「デッスゥ~ン♪デッスゥ~~ン♪」
「気持ち悪いんだよ!俺で発情するな!」
そう言うと、もう一度拳骨を浴びせる敏明氏。
「デエエエェェン!デエエエエェェェン!」
最近は躾のため叩かれることもなくなっていたミドリ。
そんな中、求愛するほど信頼していた敏明氏に叩かれた衝撃は大きかった。
ミドリにとって初めての失恋だった。
「デエエエエェェン!デエエエエェェェン!」
憐れみを誘うような悲痛な泣き声が小屋の中に響き渡る。
「次同じことやってみろ!こんなもんじゃ済まねえからな!」
敏明氏の容赦のない追い打ちに、ミドリは一際激しく号泣した。
ミドリが泣き止んだのは、それから一時間が過ぎた頃だった。

実装石に求愛されることは嬉しいか、敏明氏に聞いてみた。
「複雑な心境だよね。
誰でもそうでしょうけど、好意を向けてくる相手にこういうことするのは苦しいですよ。
でも、俺じゃあこいつらの愛には応えられないからね。
こいつらのために出来ることは、きっぱりと振ってやることくらいです。」
敏明氏は、何とも言えない苦みの走った顔をしていた。
「ここを合格すれば、後少しだね。ただ、ここが一番難しいんですよ。
実装石と適度な距離を保ちつつ、信頼を得ないといけないんです。」
一度築いた信頼が、全て崩れてしまうこともあると言う。
求愛を拒否され、信頼が揺らいだミドリに対し、敏明氏は最新の注意を払って接していた。

ミドリが敏明氏に預けられて2か月。
今日は最終テストの日。
朝食の場面。今ではすっかり当たり前のようになった光景が見られる。
「ミドリ、待て!」
ミドリは微動だにしない。
まるで待つのが当たり前のように振る舞う。
「食べてよし!」
ゆっくりと食事を摂る。
当初は「量が少ない!」「マズイ!」と文句ばかり言っていたが、それもすっかり見られなくなった。
「今までは食い過ぎてたんですよ。
ギャー!と騒げば美味しいエサが出てくるんです。誰だって調子に乗りますよ。
うちではそんな贅沢は絶対許しませんからね。
その代わり、締めるところは締めますが、緩めるところは緩めるんです。」
良い子にしていたら、日に一度だけ、少量だがおやつをあげるのだと言う。

食事が済むと、最終試験が行われる。
テストの内容は、他の実装石とのコミュニケーション。
ワガママを言わず、誰とも争わずにいられたら合格である。
テスト用の実装石達が小屋に入ってくる。
この実装石達も、ミドリと同じくかつて敏明氏から躾を受けた。
しかし、様々な理由から飼い主が引き取りを拒否したため、やむを得ず敏明氏が引き取った。
「頑張って更生したのに戻る場所がなくて処分なんてのは、流石に悲惨過ぎますからね。
躾の間に新しい実装石を飼いだして、古い方はもう要らないなんて話は普通にあります。
金払うから処分しといてくれなんて言った人もいましたね。
無責任な人達ですよね。」
もしそうなった際、引き取り賃が発生する旨が契約書に記載されているが、
実際は払ってくれない場合の方が多いらしい。
「そうなったら、当然赤字ですね。
躾代は前払いで頂いてますけど、飼っていればエサ代がかかりますから。
正直大変ですけど、自信を持って更生させた俺自身が見捨てるのはね。」
大人になった実装石は人気がないため、引き取り手はほとんど無いと言う。
敏明氏は、自ら引き取った実装石達を同情するような目で眺めていた。

「今日は俺が忙しいからこいつらと遊ぶこと。
みんなミドリと一緒に遊びたがっていたんだ、仲良くするんだぞ。」
ミドリに軽く説明をして、小屋から出ていく敏明氏。
そのまま、監視カメラのある部屋に直行した。
「俺の見てないところで、ちゃんと耐えられるようだったら合格ですね。」
実は、このテストには仕込みがあるんです。
敏明氏は種明かしをした。
モニターでは、ミドリはが実装石達と一緒にボールで楽しそうに遊んでいる。
しかし、次の瞬間。
「デエッ!」
ミドリの隣にいる実装石が、ボールを受け取ろうとしたミドリとかち合いぶつかってしまう。
体当たりされたミドリは勢いよく転び、膝に擦り傷を作ってしまった。
「始まりましたよ。」
これはわざとだと敏明氏は話す。
実装石達には、ミドリに対し、偶然を装って適度に危害を加えるよう言い含めていた。
自分達も通った関門だったので、説明をすればすぐにピンと来たらしい。
わざと激突した実装石は、転んだミドリの元に駆け寄ると、頭をペコペコと下げて謝罪をした。
「デ、デスゥ…」
ミドリは痛みに耐えて立ち上がると、素直に謝罪を受け入れたようだ。
よく我慢しましたね。
「いやまだまだです。どんどんキツくなりますよ。」
敏明氏の言葉通り、実装石達のミドリへの当たりは、時が経つごとに激しくなっていった。
「デエッ!」
ボールを追いかけてる最中に足を引っかけられ転ばされる。
「デギャッ!」
ミドリの前で、わざとで転んだ実装石の頭突きを顔面で受けてしまう。
「デギャアアアァァ!」
壁に立てかけてあった木材が何故か倒れて、ミドリの頭にぶつかってしまう。
「デジャッ!デジャアアァァ!!」
後ろから押され、トイレに頭から顔を突っ込んでしまう。
これは厳しい。
痛みは我慢できたとしても、不潔なのは我慢できるだろうか。
驚いたことにミドリはその全てを我慢していた。
実装石達の謝罪を受け入れ、汚れてしまった衣類を自分で洗濯している。
その様子を眺めていた敏明氏は笑顔だった。
ミドリは合格ですか。
「合格です。この後、飼い主に連絡します。」

数日後。今日はミドリの卒業式である。
飼い主がミドリを引き取るため、敏明氏の元へ訪れる。
久々にミドリに会う飼い主は喜びと共に不安が入り混じっていた。
「やはり少し不安ですね。
あんなに酷かったミドリが、実際どの程度更生しているのかは見てみるまで分かりませんから。」
施設へ着いて事務所に入ると、敏明氏と共にミドリが待ち構えていた。
「ミドリちゃん!」
「デスデスデスーーーー!」
ミドリが飼い主の元へ駆け寄った。
飼い主も両手を開いてミドリを迎え入れると、そのまま抱きしめて頭を撫でる。
「ミドリちゃん、よく頑張ったわね。本当に偉いわ。」
「デスデスデス~」
ミドリは、丁寧な挨拶を披露し、上品に食事を摂り、他の実装石達と仲良く遊ぶ様子を見せる。
飼い主はそれらを見て、盛大に驚き、そして心の底から喜んだ。
かつては凶暴な上に傲慢で、世界で一番自分が偉いと思っていたミドリ。
敏明氏の躾を受けることで、それが間違いであり、飼い主がどれだけ自分に優しかったかを知った。
ミドリを見る敏明氏の目は本当に嬉しそうだ。
この瞬間を見るのがたまらなく好きだと言う。
「やっぱり、飼い主と再開して抱き合ってるところを見るのが一番嬉しいですね。
ああ、自分のやったことが役に立ったんだなって分かりますから。」
ミドリが敏明氏に振り返り、ぺこりと頭を下げた。
これが最後になるからと、ミドリの頭を撫でる敏明氏。
そして、卒業の証だと、頭に特製のリボンを付けた。
その時、自他共に厳しい彼の目元に一瞬涙が浮かんだのは、我々の見間違いだろうか。
飼い主の車に乗り込み、ミドリが施設を去る。
敏明氏とすっかり友達になった実装石達に手を振って見送られながら。
この施設は遠い。
おそらく、もう会うこともないだろう。
この施設には、いずれ新しい実装石が連れて来られる。
それが、どんなに問題がある実装石であっても、敏明氏のようなトレーナーがいる限り、
また今日のような微笑ましい光景が見られるに違いない。
ー終ー

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1 Re: Name:匿名石 2023/10/16-00:45:48 No:00008118[申告]
こういうの好き
2 Re: Name:匿名石 2023/10/16-21:00:25 No:00008121[申告]
こういう風に見ると半端に人間に似てるから醜悪さが際立つだけで他の動物と変わらないんじゃないかとも思う
3 Re: Name:匿名石 2023/10/18-14:53:06 No:00008125[申告]
実は虐待派って展開じゃなくて良かった
動物だから多少の欲情も仕方ない派だったがはっきり40代のおばはんと言われるとキッツいね…
4 Re: Name:匿名石 2023/10/28-01:30:17 No:00008173[申告]
昔みたいにこのスクの成体実装が基本の話に戻ってほしい
今は仔実装や蛆実装の話ばかり、設定めちゃくちゃになるし
5 Re: Name:匿名石 2023/11/24-01:44:20 No:00008492[申告]
なんか平成初期のドキュメンタリーでありそう
見てないのに番組見た気になっちまう
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