タイトル:【観察】 お山の実装石(昔の罰当たりの話)
ファイル:お山の実装石(昔の罰当たりの話).txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:753 レス数:5
初投稿日時:2023/03/22-01:11:40修正日時:2023/03/22-01:11:40
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実装石親子、山に捨てられるの続きのお話デスゥ


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「嫌テチーーーー!助けてテチィ!ゴシュジンサマー!ママァーーー!」


穴の奥で木を建て、まるで牢獄のように監禁されているピンク服の仔実装。

山のカミサマに出会ってしまった四女だった。

来年の山の感謝の日までここで監禁される、逃げ出さないように。


「ママ…あの仔もう出れないテチ…?」

「山のカミサマに魅入られた奴はもう出れないデス、ずっと奥に閉じ込められるデス」

「…お友達になれると思ったのに残念テチ…」


ここのお山の山実装達は、集落を組んで住み着いている。

いくつかの穴をねぐらにし、集団で暮らしていた。

見張りを頼まれた親子も自分たちの巣へと戻り、遅くなった夕飯を食べようと木の実や果物を分け合った。


「ママ、聞いてもいいテチ?」

「…何デスゥ?」

「ママがさっき言っていた”昔の罰当たり”って何テチ?」


仔実装は親の顔を見た、なんだか難しそうな顔をしている。

何か機嫌を損ねてしまっただろうか…。


「…ママ?」

「…何でも無いデスゥ、お前にも話しておくデスゥ

 あれは3回前程の山の感謝の日だったデス…」



■■■



「面倒デスゥ…こんな美味しそうなものはワタシ達が食べたいデス…」

「オネエチャ、オオババ様からの言う事聞かないとまたご飯抜きになるテス」


二匹の成体になったばかりの実装石と中実装の姉妹がいた、貴重な仕事要因だった二匹の初めての感謝の日の食料集めだった。

この日は山の感謝の日、集落の動ける実装石達は全て木の実や果物等の食料を集める為に働く。

姉妹の住むお山は人間が滅多に訪れない静かな、動物達の楽園に近い場所であった。

オオババ様と呼ばれるリーダーらしき実装石が号令を出し、この日は皆いそいそと食料集めに精を出す。


「だけどあのオババの言う事なんて信じても良い事無いデスゥ、何でこんないい匂いするの食べれないデス…」

「早く集め終わらないと日が暮れちゃうテス、そしたら”カミサマ”来ちゃうテスゥ~」


山の感謝の日は夕暮れまでに食料を集めて、神様が来る場所に持って行かなければならない。

そうしないと神様に”見られてしまう”のだ。

オオババ様が言うにはこの日だけは姿を見られてしまうのは駄目なのだという。


「何であのオババだけカミサマの来る日知ってるんデスゥ?適当言ってるデス!」


ぶつくさ文句の言うオネエチャと呼ばれる実装石…仮に姉実装とでもしよう。

そしてそのオネエチャと呼んでいたのは妹実装。

若干糞蟲の気があった姉実装だが、野生の動物以外の天敵がおらず食料な豊富なこのお山では生かされ成長していた。

妹実装のフォローもあり、なんだかんだ仲良く暮らしていた。


「イモウトチャ、もういいデスゥ?カゴ一杯になったデスゥ」

「オネエチャ、流石力はあるテス~早くあの洞穴に持っていくテス、ほら行こうテス」


蔓の蔦で作られたカゴは貴重な集落の道具であった、指が無いので中々道具を生み出す事は出来ない。

なので何処かの世代で作られた道具がいくつかはあるが、何個も作れるものでも無いので大事に使われている。

そんなカゴを肩に担いで洞穴へと食料を持っていく姉妹。


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洞穴にはもう色々な木の実やキノコや果物、魚や鳥、兎や猪等も横たわっている。

同じ集落の実装石達も次々と持ち込まれ、それはそれは山のように積まれていた。

姉妹もカゴに詰めた食料をそこに出し、汗を拭う。


「…オネエチャ?早く帰ろうテス」

「美味しそうデスゥ…美味しそうデスゥ…」


目を輝かせ、涎をダラダラ垂らす姉実装に呆れる妹実装。

ため息をついて手を繋いで、洞穴から引っ張り出す。


「ほらオウチに帰るテス~!早くしないと夜になっちゃうテス!」


釘付けになっている姉実装を引っ張り姉妹達は赤く染まり始める空の下、家路に着く…



集落に戻るとオオババ様の元、この感謝の日に皆の苦労を労う為に別で食料を集めていたものが用意されていた。

こちらもこちらで、神様への感謝を忘れない為のこの日の宴が始まるのだ。

感謝の日は特別月の明るい日、夜でも遠くが見通せるような日。


「お前達ご苦労だったデズゥ…!今日はカミサマが来られる感謝の日デズ、皆で祝うデズゥ」


オオババ様と呼ばれる皺の多い実装石が皆を集めて伝えると、一斉に食料に食らいつき後は歌え、踊れと大騒ぎになる。

今夜はまんまるなお月様が妖しいくらいに光る夜、集落の実装石達は普段のストレスを発散するかのように楽しむのだ。

あちこちで虫や、鳥、他の動物達の鳴き声も今日はよく聞こえてくる。

そんな大騒ぎをする実装石達を尻目に、姉実装は何かを考えこんでいる顔をしている。

隣で楽しそうに歌っていた妹実装もそれに気づいた。


「オネエチャ、どうしたんテス?ポンポンイタイタイテス?」


いつもはデスデス五月蠅い姉実装の顔を覗き込むとこちらに顔を向けてきた。

ニヤッっと笑ったその顔…、あの顔…あれは昔から良く見た顔だ…。


「…また何考えてるんテス…」

「イモウトチャ分かるデスゥ~?オネエチャは良い事思いついたデスゥ~♪」


手に持ったキノコをクチャクチャ食べるあの顔…あれは良からぬ事を思いついた時の顔だ…。

キノコを食べ終わると姉実装はスクッと立ち上がり、何処かへ行こうとする。


「ちょ、オネエチャ!?何処行…」


と言おうとすると姉実装は手を口の前にやり、まるで静かにしろと言わんばかりにこちらに顔を向ける。

…あれは絶対良くない事をする気だ。

止めないと不味いと思った妹実装も手を繋ぎ、その場を離れる。


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「オネエチャ!オネエチャ!一体何処に行くテス!」

後に着いていく妹実装、その前を歩く姉実装は迷いも無くやたら明るい子の夜の元、歩いていく。

ようやく追いついた妹実装が姉の手を掴んで止めようとした。


「何処行くんテス! …オネエチャまさか…」

「そのまさかデスゥ~♪あそこに行ってウマウマ独り占めするんデス♪」


そうニヤニヤしながらこちらを振り向く姉実装。

やっぱりか…とため息をつく妹実装はすでに呆れていた。


「流石にそれはオオババ様も言ってた”罰当たり”になるテス!帰るテスゥ!」

「お前そんな事信じてるデスゥ~?あのオババの言う事なんか当てにならないデス」


オオババ様はこの日の事は色々話してくれた、一年に一度の”カミサマ”に感謝する日。

お供え物をしないと罰が当たる、それを取っても罰が当たる。

なんでもそれで昔大雨で山が崩れて集落が酷い事になったとかなんとか…。


「それにオネエチャ!今年声が変わったんだから仔を産めるんテス!止めておくテッスン!」

「仔を”カミサマ”に差し出すとかもどうせ嘘デス~ン、オオババ様達が後であそこの食料独り占めするつもりデスゥ!」


見つかったら仔を産めなくなるとか、”カミサマ”にあげないといけないとも言っていた。

それなのに姉実装は信じようともしない、余り口に出来ない魚や肉を食べようと躍起なのだ。

独り占めされる食料が惜しいのかイラつく表情を見せる姉実装と心配そうにする妹実装。

一瞬の間があり、また姉実装が後ろを向いて歩きだす、周りの動物達もまだこの夜を感謝するかのように騒がしい。


「オネエチャ!」


結局上手く引き留められず、妹実装も後を着いていく形になってしまった。

…そうして例の洞穴が見えてきた、昼に見た時よりなんだか薄暗い、穴から何か出てきそうで背中に冷たいものが走る。

いくら夜が明るいとはいえ、暗いところは暗く、まるで何かを飲み込んでしまいそうにぽっかりと開いた穴。

しかし姉は自分の欲望一直線で、ずんずん洞穴に突き進んでいく。

もしかすると実装石いや、糞蟲特有の幸せ回路というのが周りを見せないように邪魔していたかもしれない。

山実装でそれを使う糞蟲も稀だが、豊富な食料や先に糞蟲の片鱗を見せた間引かれた仔がいたせいか。

とにかく色々なものが重なり運良く成体にまで育った姉実装、そして昼に見たあの食べた事も無いようなご馳走の山を目の前にし、より欲望を前に出していた。


「…ほらやっぱり誰もいないデス!オババの嘘だったんデスゥ~♪」

「オネエチャ…なんだか怖いテス…早く戻ろうテスゥ…」


ご馳走を目の前に目を爛々と輝かせる姉実装に対し、泣きそうな顔を見せる妹実装。

暗いはずの洞穴も、明るい夜のせいで今日頑張って集めた食料の山が見えていた。

デッス~~ン♪と声を上げてご馳走の山に走る姉実装。


「や、止めるテスゥ、”カミサマ”怒っちゃうテスゥ!」


妹実装のそんな静止はすでに聞く耳持たず、姉実装はガツガツとご馳走を食べ始める。


「美味しいデッス~~ン♪最高デスーーン! こんなの他の奴らにはもったい無いデスゥ♥」


中々味わえない果物や、滅多に食べれない魚や鳥。

姉実装はもう取りつかれるように貪っていた、それを入り口でオロオロして困っている妹実装。

そんな時に妹実装が気づく。


「テ…?テス?オネエチャ…?こんなに周り静かだったテス…?」


いつの間にか周りで祝うように騒いでいた動物達の声が聞こえなくなっていた。

いやあれだけ聞こえていた木の揺れや、草や葉の擦れるような音さえ聞こえない。

──音が無い、あれだけ騒がしかった山の様々な音や声が聞こえなくなっている。

それに気づいた妹実装の握る手に力が入る。


「オ、オネエチャ…なんだか変テス…音が、音が…」

クチャクチャ…
「音が何デスゥ?」

クチャクチャクチャ…
「こっちは忙しいんデスゥ」


全く危機感無く食べ続けている姉実装、妹実装はキョロキョロあちこちを向いて震えている。

そんな時に何か聞こえてくる、聞いた事の無いような甲高い声。

奇妙な音を聞いて妹実装が固まる、そして耳だけで何処か聞こえてくるのかを探る…。

すると頭に何か直接響いてきた。


(উৎসৰ্গা কৰক উৎসৰ্গা কৰক উৎসৰ্গা কৰক)


甲高い声と頭に響く声でパニックになってくる、遠くを見ても近くの林や生い茂った草を見てもいない。

おかしい、おかしい、おかしい、おかしい…。


(উৎসৰ্গা কৰক উৎসৰ্গা কৰক উৎসৰ্গা কৰক)


頭に響く声は甲高い奇妙な音と共に未だに聞こえる。

妹の握る手が余計に力が入る、ここは拙い、やっぱり来ちゃ駄目な場所だ。


「オネエチャ!」


妹実装が姉実装を呼び戻そうと洞穴の方を向いた。


              そこに何かいた、いや立っていた。
              
              見た事も無い葉で覆われた何か。
              
              まるで取ってつけたような手足のような木。

                                   いつからいたのか、いつの間に後ろにいたのか。
 
                                   これは生き物なのか、生きているのか。


(আপুনি আপুনি আপুনি আপুনি আপুনি আপুনি আপুনি)


頭に痛いくらいに声が響いた。

再度妹実装が振り向き、姉実装の方を見る。

姉実装もようやく気付いたようで、手に持った魚を落とし”それ”を見上げていた。

凍り付く間、一瞬まるで自身の”石”を握りしめられるかのような痛みが走った気がした。


「デギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」


姉実装が大きい悲鳴を上げて洞穴から逃げ出す。

妹実装もそれで体が動くようになったのか、手を握り姉実装の後を追う。


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姉妹は走る、頭が痛いくらいの静寂に包まれた山の闇の中を。

必死に走る姉実装が後ろを振り向く。


「デギャ!?い、いる!着いてきてるデズァァァ!!!」


姉実装には見えた、木の陰から”あれ”が着いてきている。

なりふり構わず走る、すでにパンコンし、糞が下着から足を前に出す度に漏れてくる。

それは妹実装も同じだった、しかし怖くて後ろを振り向く事が出来ない。

先程まで聞こえていた奇妙な甲高い音だけが、妹実装の後ろから離れず着いてくる。


          オギャーオギャーオギャーオギャーオギャー!


人ならばあれが赤ん坊の声だと気づくだろう、しかし山実装だった姉妹には見た事の無い人の赤子の声など分からない。


          オギャーオギャーオギャーオギャーオギャー!


明るい夜の闇の中を走る、走る、走る。

姉実装が振り切ったかと後ろを向く。


「な、な、なななな!なんデスゥ!あいつ何々デスゥゥゥゥゥ!!!!」


必死に走った、それこそ実装石に出せるのかと思うくらいに。

しかし後ろを向いても先程見たのと同じ距離で、木の陰から”あれ”が顔を覗かせている。

いや、同じ距離では無い、徐々に近づいてきていた。

まるでいたずらをした者を遊びながら追い立てるように…。


          オギャーオギャーオギャーオギャーオギャー!


声以外音もしない、あいつはどうやって、どうやって追ってきているのだ。


「ギャ!オ、オネエチャ!早く行くテス!」


追いついた妹実装がぶつかるが姉実装は動かない、いやじわりじわりと後ろに歩みを進めている。

姉実装の目には見えていた前の草木からあいつが顔を出してこちらを見ている、見つめている。

妹実装にはそれが見えていない、しかし声は後ろから追ってくる。


          オギャーオギャーオギャーオギャーオギャー!

         (শাস্তি শাস্তি শাস্তি শাস্তি খোৱা খোৱা খোৱা খোৱা)


尚も頭に何かが響く、姉実装が妹実装を突き飛ばし後ろへと走る。

急に声がする方へ走る姉実装に、妹は慌てて姉を見る。

                         …何故いるのか。
                         
                         そこにはあの”あれ”がいた。
 
                         逃げたはずの姉があの、仔実装が遊びで作ったかのような取ってつけた手で掴まれている。



「デェェェ!!!!離すデスゥ!!!離すデス!!!イモウトチャ助けるデェェェズウウウ!!!」


喉元を掴まれ手足をじたばたさせる姉実装。

しかしびくともしない、あの細い出鱈目な木の腕が全く動かない。

恐怖で漏らしているのか、ボタボタと緑の糞が地面に落ちる。

妹実装は全く動けない、土下座をするような恰好で顔だけを”あれ”と姉実装に向けている。


(ニエニエニエニエニエニエニエニエニエニエニエニエニエニエニエニエニエ)


妹実装は糞を漏らしながらも、それから目が離せない。

恐怖で体を震わせながらも思った、あれがきっと…”カミサマ”なんだと。

そう思った瞬間鮮血が飛ぶ、それと同時に姉実装の絶叫が山へ響く。


「デギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


”カミサマ”の背中越しから見える姉実装の半身が無くなっていた。

姉実装の血がボタボタと糞と一緒に混じって落ちる。


クチャリ…クチャクチャ…

「イタイデジャアアア!!!!た、助けデス!助けデズウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!」


妹実装と目が合う、姉実装があんな顔をしているのを見るの初めてだった。

いたずらした時も、怒られた時も、悲しい時もあんな顔をした事は無い。

絶望し、痛みに耐え、本気で助けてを求める顔なんて──


「イモウトチャ−−−!!!イモウトチャ!助けデェェェェエエエ!!!」


叫んでいる最中にもそれが姉実装の体を貪る。

”カミサマ”の後ろ姿しか見えず、姉の体が次々に無くなっていくのを見ているしか出来なかった。


クチャクチャ…クチャ…

「もうワルイゴドじないデズウウウ!!!イモウトチャ!オババ!!ママァーーーー!ママァーーーー!助け!タズゲェデズウウウウウ!!!」             

「死にたく無いデズ!仔を産んでシアワセにぃぃぃぃ!  デヂュ!」


姉実装が一際大きな声を上げ、動かなくなる。

顔の半分を喰われ、目に光が無くなる。

その目はまるで、妹実装を恨むかのように見つめていた。


「…テ、テ、テ、テテテテテテギャアアアアアアアアアア!!!!!!」


それを見て妹実装の体もやっと動いた。

握りしめる腕に力が入る、必死に集落へ、ママ達の元へ帰ろうと走る。






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どれくらい走ったか、足が痛み緑の靴が赤く染まってきている。

それでも逃げようと走るが、おかしい事に気づいた。

あの木、大きなあの木。

あれはさっきも見た、何でだ、何でまたあれがあるんだ。

そう気づいた瞬間、またあの甲高い”カミサマ”の声が聞こえてきた。


                   オギャーオギャーオギャーオギャーオギャー!


ヒッっとなって後ろを向くが追っては来ていない。

少しホッとした妹実装がまた走ろうと前を振り返る。

血が凍り着いたかと思った、妹実装も見てしまった。



数メートル前の木の横に”カミサマ”がいた。

顔は口の周りが赤く染まっている…あれはニンゲンの顔だ。

妹実装は、昔姉実装に連れられ山に来たニンゲンを何度か見た事があった。

しかしあれより大分違う顔をしている。

妹実装は見た事が無いだろう、”カミサマ”と呼ばれるそれは赤子の顔をしている。

しかも笑っている、屈託の無い笑顔だが妹実装はそれを見てゾッっとする。

笑っているはずなのに、感じた事の無いような恐怖が体を駆け巡る。

──逃げなければ。


先程よりも甲高い声が辺りにまで広がってきた。


                   オギャーオギャーオギャーオギャーーーー!


泣いているのか怒っているのか分からない、それに声が色々なところから響いてくる。

”カミサマ”に捕まらないように道を逸れて走る。

姉実装に散々連れ回されたので山の中は把握しているつもりだった。

しかし何処をどう走っても、あの大きな木の前に来る。

妹実装は気がおかしくなりそうだった。

だが、妹実装にも逃げなければならない理由もある。

その時あの大きな木から”カミサマ”が顔を覗かせる。

こちらにじっと見つめてくる、あの赤子の顔が笑っているのに悪意に満ちた顔に見えてくる。


(ই তুমিয়েই ই তুমিয়েই ই তুমিয়েই ই তুমিয়েই)


頭に低く、低く声が響く。

妹実装はぎゅっと抱きしめ、また痛い足に鞭を打って走る。




────どれくらい走っただろうか。

どれだけ走ってもあの木の前に来てしまう。

”カミサマ”が自分の物を取ろうとした者に、罰を与えるかのように弄んでくる。


「テェ・・・・テエエエエ・・・・・」


妹実装は血まみれの足がもう限界に来ていた。

その場に倒れ、泣き崩れる。

ふと自分の目の前が暗くなる。

顔を上げた、そこには”カミサマ”がいた。


(ニエ、ニエ…ত্যাগ ত্যাগ ত্যাগ)


頭の中に痛いくらいに声が響いた、そこで妹実装の意識は遠くなった。



・
・
・
・



ふと妹実装が目を覚ます。

いつの間にか周りは先程のような喧騒を取り戻している。

そして朝日が顔を出そうとしていた。


「…助かったテス…?」


妹実装がふらふらと腕に力を入れ歩く。


「… …あれは夢…だったテスゥ…?」


恐怖から逃れられ、悪夢のような夜が終わった。

だが、妹は見つけてしまう。

血まみれの足を引きずり、そこに駆け寄る。

そこには糞と血、そして姉実装の匂いと血の付いた頭巾が落ちていた。


「テ…テェエエ…テエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!」


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「か、帰ってきたデス!」

妹実装が集落へ、なんとか戻る事が出来た。

そこには愛するママとオオババ様が待っていた。

娘の変わり果てた姿に驚き、泣きながら駆け寄るママ。


「マ、ママァーーー!テエエエエエエエンテエエエエエエエエエエン!!!!」


ママの胸の中で泣き崩れる妹実装。

それを同じく泣きながら抱きしめるママ。

しかしそれを険しい顔で見つめるオオババ。


「…お前、ちょっと顔を見せるデズ…」


涙でグズグズになった顔をオオババ様に捕まれる妹実装。

じっと見つめる…。


「…やっぱりデズゥ…、なんて罰当たりデズ…」


オオババ様が妹実装の瞳を見つめてそう言った。





■■■




「…とそんな話デスゥ」

「…ママ?そのイモウトチャはどうなったテチ?」

「イモウトチャ…イモウトチャはその後…」


妹実装はあの四女と同じく魅入られていた。

魅入られた者の目は黒目の中心に線が入るのだそうだ。

そして仔を捧げなければならない、それはオオババ様が知っている昔から伝わる話。


「だからイモウトチャもあのピンクの仔がいるところと同じようになったデス」

「…怖いテチィ… …アレ?でもあそこにイモウトチャいなかったテチ?」


1年目の時妹実装は強制的に妊娠させられ、仔を産まされた。

そしてあの洞穴へと生贄として捧げられた。

妹実装はもちろん激しく抵抗した、この集落では成体、デスと声変わりをしてから一人前と認められ仔を産める仕来りになっている。

むやみに増やさない為であるが、特に妹は初めての仔なのだ。

実装石にとって仔を産むのは何よりの幸せである。

待ち待った愛する我が子があの恐ろしい”カミサマ”の生贄になるとするならば抵抗するだろう。

しかし捧げなければ山に災いが起きる、その時の引き裂かれる親と仔の叫びは他の者も聞くに堪えなかった。

3匹産まれたが糞蟲がいなかったのだ、余計に心苦しかったに違いない。


(何でデスゥーーー!ワタシの仔、ワタシの仔デスゥーーーー!連れてっちゃダメデスゥ!!!!!取るなデスゥーーーーー!!!)

(ママァー!ママァー!助けテチィー!助けテチィーーー!ママァァァァァ…)


親実装は妹実装の悲痛な叫びを、まるで先程あった出来事のように思い出していた。


「ママ?どうしたんテチ?」


我が子の顔を見て、それが被ってしまう。

そっと抱き寄せ頭を撫でり、匂いを嗅ぐ。

優しくぎゅっと、我が仔の体温をしっかりと感じるように。

そうすると仔実装もぎゅっと握り返してきた。


「…何でも無いデスゥ、お前は良い仔で良かったデスゥ」

「変なママテチィ~」


おかしな事が起こったのは翌年だった。

同じように我が仔と引き裂かれる…と思ったその日の朝に妹実装と娘達がいなくなる。

いや、正確には”服”だけ残していなくなったのだ。

だがあの牢屋から逃げ出せる術も無い、まるで”神隠し”にあったように。

皆が必死に探すが足跡すら無かった、だがその年は何事も無く平和な一年だった。



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「さぁご飯も食べたから寝るデスゥ~」

「ママ?」

「何デス?」

「怖いからそばにいテチ…」


あんな話を聞いた後だからか、仔実装が震えていた。

親実装がそっと抱きしめ横になる。


「大丈夫デス~ママは何処にも行かないデス~」

「ママ…大好きテチ♪」

「ワタシもお前が大好きデス~♪」


そう言って優しく、優しく頭を撫でると仔実装もにっこり笑って返す。


・
・
・


深夜、親実装は起きていた。

そして穴から外を眺めている。

決して星を見ているだとか、外の風に当たっている等では無い。


「… … … 近くなってるデス…」


親実装の視線の先、森の木の陰に何かがいる。

──”カミサマ”がこちらを見ていた。


「…どうしてデス…」


何故親実装が”カミサマ”に見られているのか。

それはあの姉妹は、3姉妹だった。

妹実装と一緒に手を繋ぎ、時には抱っこされたりしていた小さな仔実装。

大人しい仔実装が妹実装と一緒にあの場に来てしまっていたのだ、まさかこんな事になるとも思わず。

仔実装は逃げる時から妹実装に抱きしめられているから”カミサマ”は見ていないはずなのだ。

オオババ様も瞳を確認し、魅入られてはいないと言ってた。

それはオオババ様とママといなくなった妹実装しか知らない事実。

大事な、大好きな三女の仔実装をなんとしても逃がす為…それが妹実装が逃げなければならない理由だった。

──なのに何故、何故…。


「…笑ってるデス…」


”カミサマ”の顔が笑ってる…だが親実装はそれを見て言った訳ではない。

葉っぱの部分、”カミサマ”の体の部分。


「オネエチャ達が笑ってるデス…」


体の部分の葉っぱから親実装の、あの姉実装と妹実装がこちらを見てニタリニタリと笑っている。

それに一緒に見える顔は妹実装の娘達だろうか…。

最近少しずつだがそれが近づいているように見える。

遠くにいるはずなのに何故かくっきり見える。


…”カミサマ”が見えるようになったのは妹実装が消えて少し経った頃だ。


実装石は通常多産である、だが妹実装が消えたその次の年、つまり今年。

親実装の仔を生す時期だったが、何故か仔が1匹しか生まれなかった。

そしてその日から”カミサマ”見えるようになり、仔が成長してきたにつれ姉と妹が”カミサマ”から顔を出し始めてきた。

…いつしか無表情だった二匹がニタリと笑うように…。

親実装が後ろを振り向く、愛する我が子が静かに寝息を立てて寝ている。


「…次はワタシもデス…?それとも… …いやそんな事させないデス…」


じっと見つめ、これ以上動きが無いのを確認すると寝床に戻り仔を抱きしめる。

あの時の恐怖は覚えているが、愛する我が仔を渡したくは無い。

そんな事を思いながら眠りに落ちる親実装。

遠くであのピンクの服の馬鹿な飼い実装の声が聞こえる気がした。








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<続いてのニュースです、○○県の県道××号で車の事故があり男性が重傷です。

<ハンドルを誤って切ったのか、ガードレールにぶつかり…


とある個人経営の食堂でのTVがニュースを伝える。

二人の作業服を着た男達が、一人はメニューを眺め、また一人はぼんやりニュースを眺めていた。


「はぁ、若い男が田舎で一人…車で何しに来たんだかねぇ…」

「ああ…うん、そうだな」

「二葉敏明…あんまりここらじゃ聞かない苗字ですね、先輩」

「ああ…そうだな、おばちゃん!」


もう一人の男もメニューが決まったのか店の店員を呼ぶ。


「先輩あんまり話聞いてないでしょ…」

「ああ?ああ、すまねぇ、なんだっけ」

「いやもういいっすよ…車の事故の事でしたけど大した事無いです」


そう言われメニューを決めた男が、店員に伝えるとTVを見る。

どうにも見通しのいい直線で事故を起こしたようだ。


「はーよそ見かね、馬鹿だねぇ まさか”あの山”から来たんじゃあるまいなぁ」

「…あの山って前に調査しに行った人達が全員怪我しちゃった奴ですか?」


お茶をぐいっと飲み、そんな質問をした若い男の方に振り替える。


「そうそう、お前元々ここの出じゃないもんな、あそこはむか~しからここらの人間じゃ寄り付かないとこだよ」

「そうなんです?熊でも出るんですか?」


先輩と呼ばれている男がハハハと笑って、また話を続ける。


「いやいや、ちげーんだわ あそこは”神様”がいるんだとよ」

「”神様”?神様なら守ってくれるんじゃ?」

「いやいや、それがな…神様とは名ばかりで元々あそこら一帯の祟り神みたいなもんでな…」

「タタリガミ?なんすかそれ」

「まぁ簡単に言えば悪さしてた神様って言った方が分かりやすいな、それをあそこの山に封じ込めたって昔話でな

地元じゃ滅多に人なんて行かんわな、だからあの辺崩して開発しようとしてたけど、怪我人続出で今は中止って訳よ」


言い終えた男が、店員にお茶のお替りを頼む。

後輩と思われる男の方は、そんな話あるのかと言わんばかりの顔だった。


「は~この現代にそんな話あるんですかね」

「さぁな、まぁでも触らぬ神に祟りなしって訳よ、あんなとこで仕事は俺はごめんだね」


言い終えてお替りをもらったお茶をもう一口飲む。

TVでは事故の車が映されている、その後部座席に空のペット用のケースが見えていた。




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続きのリクエストありがとうございましたデス。

山実装はよくいる実装石達も身体能力や頭がいい代わりに少し成長が遅い設定にしてるデス

もしなんだそれはと思った人がごめんデスゥ

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1 Re: Name:匿名石 2023/03/23-02:53:58 No:00006966[申告]
護られてるというより実は邪霊の足下にいたってのは常に薄氷の上を行く実装石っぽくて良かった。
結構丁寧だったけどその分3女(母山実装)に突然感ある
洞穴にはついて行かなかったけど姉妹だったってだけで縁を手繰り寄せてやって来る方が理不尽で祟り神味増し増しって感じがする。自動車事故とも繋がるし
葉っぱっぽい所に呪われた連中混ざってるのが凄く良かったのでもっと生かして欲しかったな。読み手の想像してたビジュアルを裏切るのに使ってたらもっと驚いたと思う
2 Re: Name:匿名石 2023/03/23-03:10:33 No:00006967[申告]
カミサマは祟り神だったんですか…道理でなあ
続編ありがとうございました
3 Re: Name:匿名石 2023/03/23-10:21:17 No:00006968[申告]
普通なら生贄要求してくる時点でとんでもない祟り神なのに多産かつ糞蟲性格が大体湧いてくる実装石からすると怖い程度の守り神なのがいい
4 Re: Name:匿名石 2023/03/24-18:15:54 No:00006972[申告]
禁を犯すと生きたまま頭から喰われた上呪われて取り込まれるのはだいぶ恐いんだよなぁ
糞蟲じゃなくても巻き込まれあるし
でも、実装の命の軽さからすれば瑣末事か
5 Re: Name:匿名石 2023/03/29-20:59:30 No:00006985[申告]
ご感想ありがとうデスゥ~嬉しいデッスン
>結構丁寧だったけどその分3女(母山実装)に突然感ある
母実装が心配させないようにオオババとママだけの秘密にしててそれでもところどころに握ったとか抱きしめとか謎の行動出してたけど薄すぎましたデスね
次回に生かさせて頂くデス
また洒落怖も実装石に絡めそうな話思いついたら書かせて貰えれば嬉しいデス~
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