タイトル:【虐】 蛆実装が失恋死します。リーダー仔実装のキャラがお気に入りです
ファイル:実装石一家壊滅物語~初恋蛆実装、あんよ狩りに遭う~後編.txt
作者:おーるどきゃく 総投稿数:5 総ダウンロード数:1490 レス数:8
初投稿日時:2023/03/12-02:19:13修正日時:2023/04/24-01:42:16
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日も傾きかけた夕暮れの河川敷、堤防に茂る草の中を仔実装が登っていく。


蛆実装の足で進める道行ではないから、姉仔実装は蛆実装を抱えて進まねばならず、
決して順調ではなかったが、すっかり日が落ち、辺りが暗くなった頃、
ようやく2匹は堤防上の遊歩道までたどり着くことが出来た。
「テチ……」(疲れたテチ)
「レフン!レッフン!」(おそいレフあきたレフ)

蛆実装を両手で抱え、斜面を強行突破してきた姉は疲労困憊だが、
ただ運ばれてきただけの蛆実装は不満をたらたらとこぼす。
姉の腕の中で不快そうに身をよじる蛆実装は、堤防の反対側へ顔を向けた。

————街の明かりが瞬いていた。

「レフ……レフ……」(すごいレフきれいレフ)
今まで川沿いの河川敷を昼間に、姉に抱かれての移動しか知らなかった蛆実装にとって、
堤防の高さからの繁華街の明るい景色は、生まれて初めて見るものだった。
「テチテチ、テテチ」(あそこにニンゲンがたくさんいるテチ)
「レフ!レフ!」
「テチテッチ」(明日はあそこに行くテチ)
「レッフン!」(いますぐいきたいレフ!)
「テッチーッ!」(もう寝ろテッチー!)

駄々をこねる蛆実装の横腹を蹴り上げると、姉仔実装はゴロリと横になった。
今日は疲れている。母と姉妹を一度に失い、棲み家を捨ててここまで来た。
本来なら大声で「テェエエーン!」とでも泣きたいところだが、
明日も蛆実装を抱えての移動になる。
体力を回復したい。
役立たずで生意気な蛆実装を捨ててやりたいが、まだコイツには利用価値がある。
成体になって体力が付くまではムカつくが一蓮托生だ。
何も考えてないのか、もう横で寝息を立てている蛆実装をみる。

「テッチン!」イラッときたので蛆の顔面にパンチを入れた。
「レピャッ!」突然の殴打に蛆実装が鼻血を吹いて目を覚ます。

姉がこちらへ背を向け寝返りをうつところだった。
またいつ殴られるかわからないので、蛆実装は姉から少し離れると、身を縮めて蹲った。
「レェエエン……レェエエエン……」
家族を失ったことも理解せず、顔面の痛みだけを嘆いて蛆実装が泣いた。





翌日の昼過ぎ、堤防上の遊歩道を蛆実装を抱えて姉仔実装が歩いていた。
時折、横を通り過ぎる人間へ媚びてみるが、誰一人として足を止める者はいなかった。


もうどれほど歩いただろう。
仔実装の足とはいえ前日から歩き通しだ。
後ろを振り返っても自分達の住んでいた河川敷はもう見えない。
「テチュ……」
「レピャッ!」
ため息をついて仔実装が蛆実装を放り出すと、地面に腰を下ろした。



そこへ遠くから実装石の鳴き声が聞こえてきた。
「テチャチャ」
「テッチテッチ」
「テチューン」
複数の仔実装のようだ。
道路の向こう側に仔実装が5匹現れる。
こちらを発見するやいなや、
「テッチー!」
「テチテチー!」
「テチャアー!」
甲高い声を上げて駆け寄ってきた。
よく見ると1匹は棒を持って武装しているではないか。
姉仔実装は慌てて蛆実装を抱えると立ち上がったが、
逃げ出そうにも疲れており、走り出すどころか転んでしまった。

「テチィ!」
その周囲を5匹の仔実装が取り囲む。
リーダーらしき仔実装は割り箸を両手で構えていた。
上手く割れずに上部分が尖ってしまった割り箸を拾い、槍のように使っているらしい。
「「「「テテッチー!」」」(ワレワレはあんよ狩り隊テチー!)
割り箸槍を構えた仔実装が切っ先を姉仔実装に突き付け鋭く鳴いた。

「テテテチュ」(その蛆を差し出せテチュ!)
「テ?」
勇ましく名乗るわりにはショボい要求に姉仔実装は困惑した。
そして素直に応じた。

「テチュ」(どうぞテチュ)
「テッチュン!」(ありがとうテチュ)
従順な態度にあんよ狩り隊も丁寧に返礼した。
「テチュテチュテッチューン!」(ワレワレあんよ狩り隊はー!)
リーダー仔実装が気勢をあげる。
一見、仔実装姉妹達の戦争ごっこのようだが実は違った。


このあんよ狩り隊、姉妹でもなんでもなく赤の他人同士、
家族を失った仔実装の寄り合い所帯だった。
なんとなく集まって、外敵から逃げ回る生活を続けていたが、
5日前に人間の弁当ゴミから、尖った割り箸を拾ったことから事情が変わった。

他所の成体実装石に襲われた時に、
思わず突き立てた割り箸が刺さり、成体実装石は逃走した。
連れている仔実装も共に逃げていった。
後には蹲る蛆実装だけが残されていた。
その蛆実装を標的に見立て、仔実装達は割り箸槍の訓練を始めた。
特に小さな足を狙ってえぐる攻撃は、技量を磨くのに最適だったらしい。

以降、仔実装達は自らを「あんよ狩り隊」と名乗り、
周辺に住む実装石の棲み家を親がいない間に襲い、
蛆実装を拐っては訓練の的にして、いたぶり殺す行為を繰り返していた。
蛆実装の小さな足をえぐり取っては食べ、尻尾や耳をえぐり取っては食べ、
いまや蛆実装専門の襲撃チームになっていた。


そのチーム趣旨を聞いた姉実装石はいたく感激した様子だ。
「テチュ!テテチュ!」(すばらしいテチュ!仲間にはいりたいテチュ!)
「テチテチ」(歓迎するテチ)
リーダーは度量が広い性格らしい。
もう蛆実装の世話をしながら、人間からの施しをせがむ必要は無い。
もともと人間からの餌をもらえる確率は低く、
それに生活を賭けるには、姉実装石も不安を感じていたところだ。
これで仲間を得たし、邪魔な蛆実装も始末して、当面の食事にもありつける。
良いこと尽くしではないか。
「テッチューン♪」(よろしくテチューン♪)

それでは今日の訓練かつ狩りの開始だ。
「レフ!レフ!レッフーッ!」
蛆実装が慌てて駆け出す。
仔実装達の会話を聞いて状況は理解した。
このままだと割り箸槍で足をえぐられ、突き殺され、今夜の食材にされてしまう。

しかし蛆実装とは四肢が未発達だからこそ蛆なのだ。
自力での移動速度は冗談のように遅い。
あっという間に回り込まれ、槍の切っ先が胴に刺さる。
「レピャアアアーッ!」
実はあんよ狩り隊も自身が言うほど槍捌きは上手くない。
丸い両手ではさみこみ、柄の端を自分の胴に当て、
体当たりのように切っ先を対象に突き立てるのだ。
狙った箇所にはなかなか当たらず、何度も刺し直すため、
今まで犠牲となった蛆実装はみな穴だらけにされて死んでいった。
「テチィー!」(次は当てるテチ!)
ぶすり
「レピィイイイーッ!」
蛆実装がまた悲鳴をあげる。

 あんよだけはダメレフ
 あんよだけはぜったいダメレフ
 ニンゲンさんになってりっぱなあんよをもらうんレフ
 だからあんよをいたいいたいはダメレフ

蛆実装は腹側へぎゅっと小さな手足を縮こまらせると、身体を丸めて蹲り、強く目をつむった。
「テチテチー」(防御の構えテチ)
「テチャアー」(生意気テチ)
あんよ狩り隊は狙いのあんよを内側に隠されたのが、とても気に入らないらしい。
蛆実装をぐるりと囲み、蹴りまくる。
どれもポスポスと軽い音しかしないが、蛆実装の身体もヤワなため、
振動が周囲から集まり、真ん中に押し込んだ頭がくわんくわん揺れる。

「レフ……レフ……」
必死に耐えている蛆実装だが、だんだん頭に響く振動に気分が悪くなってきた。

「レヴォロロロロロ……」
丸めた姿勢の真ん中で蛆実装がゲロを吐く。
それを見て、あんよ狩り隊が笑い出した。
「テチャチャチャ!」(ゲロ蛆テチャ!)
「テピャピャア!」(酸っぱ臭いピャア!)
ゲロへ顔を押し込むようにさらに激しく蹴りまくった。
それがマズかったのだろう。
縮めた身体に頭が押し当てられ、蹴りの衝撃が腹部へ伝わり、
結果として蛆実装は激しくセルフお腹ぷにぷにの体勢となった。
あとは決壊まで時間の問題である。

「レップ!レッピ!レップ!レッピ!」(やめてレフ!おなかぷに!ぷに!ぷに!)
「テチテチー!テチテチー!」(ぶりぶりーぶりぶりーテチ!)
「レッピャアアアーッ!」(でるレフ!でちゃうレフーッ!)

丸めた姿勢の真ん中で蛆実装の総排出口が緩んだ。
その向かい側には至近距離まで縮めた蛆実装の頭部があった。

「レロレロレロレロヴォヴォボボーッ!」(やめてレフ!くさいくさいレフ!)
蛆実装の水っぽい大脱糞が自らの顔面を襲う。
「テピャピャピャピャ!」(自分で自分を便器してるピャ!)
「プチャーッ!」(プギャーッ!)
防御姿勢の真ん中からゲロと糞を吹き出した蛆実装を、仔実装達が盛大に笑った。
大脱糞で身体から力の抜けてしまった蛆実装が虚ろに鳴く。
「レェ……レフ……レフ」

 ウジちゃんちからがはいらないレフ
 はやくニンゲンさんになりたいレフ
 はやくたすけにきてほしいレフ
 ニンゲンさん……ニンゲンさん……まってるレフ……
 
蛆実装はすっかり弱って、身を投げ出した状態だ。
しかしあんよ狩り隊は、これからが本番とばかりに盛り上がっている。
まずは4箇所ある小さな四肢を壊し、耳を千切り、目を潰し、口を突き刺し、
息絶えるまで破壊可能な箇所を攻撃し続けるのだ。
これは訓練であり、狩猟であり、娯楽なのだから。
「「「テッチューン!」」」
さっそく蛆実装の後ろ足めがけて槍が迫る。
しかし不器用な槍は外れて尻に刺さった。
「レヒィッ!」
もう一度後ろ足を狙って槍を突く。
それでも切っ先はズレて脇腹へ刺さった。
「レフィン!」
地面すれすれの位置で、なおかつ上に胴体が乗っている蛆実装の足は的が小さい。
実装石の槍術では当てる難易度がなかなかに高い。
そうでなくては楽しくないのだが。

しかし10回以上も外すとゲームも停滞してくる。
そこで姉実装石が得意技の脇腹蹴り上げを披露した。
「レプゥッ!」
くぐもった悲鳴を上げて蛆実装が横転する。
小さなあんよが丸見えになった。
「テチャーッ!」(もらったテチャ!)
リーダーが振るった槍が見事に蛆実装の後ろ足を貫いていた。
「レッピャアアアアアーッ!」

 ウジちゃんのあんよ、だいじなあんよ
 まだりっぱになってないだいじなあんよがこわれたレフーッ!
 ウジちゃんなにもわるくないのにあんよだいじなのに
 ウジちゃんニンゲンになるのにひつようなあんよのにレフーッ!

蛆実装が歯を食いしばり泣いている。
蛆実装のコンプレックスは足だった。
この足さえ成長してたら、姉妹と一緒にいじめられず暮らせたのだ。
この足さえ残っていれば、大きく長く成長して人間になれるのだ。
そして人間になったら、公園に戻り実装石の短い手足を嘲笑ってやるのだ。
人間と結婚して人間の幸せを得るのだ。
そのために絶対必要な足だったのに、4つあったのに3つに減ってしまった。

「レェエエエエエーン!レェエエエエエエーン!」
蛆実装が初めて声を張り上げて泣いた。
悲しくて今までに一番大きな声で泣いた。
その時、また小さな足を槍に貫かれた。
「テチョウ!」(その足いただきテチョ!)
「レフィヤァアアアアアアアーッ!」
蛆実装の希望は半分まで減った。

「レヒ……レヒ……」
蛆実装がもぞもぞと身をよじり、なんとかうつ伏せになろうともがく。
もう泣いてる場合じゃない。
残った足を死守しなくては。
しかし、この体勢では為す術がない。
蛆実装は全筋力を動員して身体を丸めた。
そのままバランスを崩して倒れるのが目的だ。
「レッピュ!」

 ウジちゃんがんばるレフ!
 ウジちゃんがんばっておわりまでまつレフ
 ウジちゃんみんながかえるまでずっとまつレフ 

一大決心を気合に込め、蛆実装はV時バランス型に身を起こした。
あとは倒れて縮まるだけでいい、そのはずなのに、
前後左右からあんよ狩り隊が蛆実装を持ち上げV字型に支えた。
まるで宙に浮かされているように倒れることが出来ない。
そして、V字の合間に挟まれた残り2つの足めがけ、槍が何度も突き入れられた。

「レピピピィーッ!レピピピィーッ!」
眼前で身体に槍を突き立てられる光景は、
蛆実装の正気を飛ばすのに十分な恐怖だったようだ。
「レフェフェフェ……フェフェ……」
虚ろな泣き声を漏らしながら抵抗らしい反応を示さなくなった。
あんよ狩り隊はぐったりした蛆実装を踏みつけると、
歓声をあげながら残りの小さな足を削ぎ落としていく。
蛆実装は自らの身体を削られながらも静かに涙を流すだけだ。

 ウジちゃんいたいレフ!こわいレフ!
 あんよないないイヤイヤレフ!
 だいじなあんよもうないレフ!
 ゆるしてレフ!ゆるしてレフ!
 ウジちゃんいいこになるレフ!

恐怖に退行した蛆実装は心で泣き叫んでいる。
しかし顔は固まり、声も出せず、涙を流して泣くしか出来なくなっていた。
蛆実装は壊れてしまったのだ。

「チププププ」「テチュチューン」
訓練が終わった仔実装達が固まっている蛆実装を笑う。
今日の成果は上出来だ。
なかなかの抵抗を受けたがチームワークで対策し、槍捌きに上達の実感もある。
新しく加わった仲間は早くも馴染んだようだ。

では最後の仕上げといこうか。
リーダーが蛆実装の耳を狙い槍を構え直し鋭く突いた。
しかし耳を貫いた槍の戻りが引っかかる。
「テチ?」
槍の先端に糸が絡まっていた。
細くしなやかで輝くような光沢の糸だった。
その糸は蛆実装の口から伸びていた。

全ての四肢を失って蛆実装の希望は潰えたかに思えた。
蛆実装自身も絶望していた。
しかしその瞬間、蛆実装が身体の奥に暖かさを感じた。
暖かさだけではなく、それは柔らかく、穏やかな光にも感じられた。
蛆実装は直感で理解した。
これは実装石の繭糸だ。
実装石はごく稀に、本当に極稀に、強い想いを素にして繭を作り、
望んだ姿へ羽化することがある。
まだ希望は消えてはいなかった。
まだ力が残っていた。
蛆実装は奇跡を信じた。


 ウジちゃんふわふわになるレフ
 ウジちゃんあったかあったかレフ
 ウジちゃんあんよないないもうちがうレフ
 ウジちゃんニンゲンさんとあんよでアマアマいっぱいレフ


蛆実装の口から糸が紡ぎ出されていく。
蛆実装は穏やかな笑顔を浮かべていた。
どこからか歌声が聞こえてくる————

「チートーテチテチ♪チートーテチテチ♪」
(いーとーまきまき、いーとーまきまき♪)
蛆実装から伸びる糸をあんよ狩り隊が、手に巻き取りながら歌い踊る。
「チーテチーテチョンチョンチョン♪」
(ひーてひーてとんとんとん♪)

「レッピャアアアーッ!」
ほとばしる絶叫。
蛆実装一世一代全てを賭けた奇跡が、パーティー盛り上げグッズに使われていた。
「レェエエエエーン!レェエエエエーン!」
泣いたところでもう遅い。
身体を覆い羽化に使われるハズだった糸は、殆どが巻き取られてしまい、
ちょうど今、蛆実装の口から糸の終わる末端が吐き出されたところだ。
今度こそ完全にお手上げ、打つ手なし、詰みである。
蛆実装はまたもや静かに泣くモードに入った。
これ以上どうしろというのだ。


 ウジちゃんのあんよどこレフ?どこレフ?
 ウジちゃんのおマユつくれなかったレフ?
 ウジちゃんもうおててもあんよもないレフ?
 うじちゃんもうニンゲンさんになれないレフ?


退行した蛆実装は虚ろに涙を流し、自問自答を続けるしかなかった。





ちょうどその時、堤防上の遊歩道を2人組の男が歩いてくるところだった。
もう陽が傾き始めてくる時間帯だ。

道の端に近づいたところでようやく仔実装たちに気がついた。
「おや、今どき仔実装だけの群れとは珍しい」
「なんだコイツら、ずいぶん盛り上がってるなあ」
蛆実装が泣き崩れ、あんよ狩り隊が戦勝会に浮かれている横を、
男の1人が通り過ぎようとして、足を止めた。

「あれ?キミは向こうの河川敷広場に居た家族の子だよね」
「テチュ?」話しかけられて姉実装石が男を見上げる。
「やっぱりそうだ。すごいな、あそこからここまで2キロ近く離れてるのに」
「なに、知り合い?」
「ほら鼻の穴デカくて特にブサイク顔してるだろ。だからすぐわかったんだ」
「テチューン」
姉実装石は会話内容がわからないらしく、男へ媚びた声で鳴いた。
「母親が見当たらないけど、キャラメルで死んじゃったのかな」
「なにそれ」
「こいつらにキャラメルやガムみたいな甘くてくっつく食べ物やると、
 がっついて食べるせいでたまに喉に詰まらせて死ぬんだよ」
「それをやったのか」
「でも前回に見た時と違って、親がいないし、
 姉妹の数も多いし、どういう状況なんだろう」
「てかさ、隅っこに血まみれで死にかけてる奴いるぞ」
「ああ、蛆実装だね。脆いからすぐ死ぬんだ。気にするな」

ここであんよ狩り隊リーダーが前に進み出た。
槍を構えて振り回し、鼻息荒く盛んに鳴いている。
「テッチー!テチテチ!」(ワレワレはつよいテチ!)
「テチュチュワーン!」(見逃してやるから去れテチ)
「もしかしてケンカ売られてる?」
「リンガル無いからわからない」
「テッチン!テッチン!」(ワレワレになんの用テチ)

「はい、武装解除」
仔実装の持つ割り箸を、男が摘まみ取り上げた。
仔実装達には一斉に動揺が走る。
「「「テッチー!」」」
「人間相手に威嚇しちゃダメだよ」
「テテチュ、テチュ」(お願いテチ、大事なヤリを返しテチ)
「実装石相手じゃ言ってもわかんないか」

男は摘んだ割り箸を持ち替えると、リーダー以外の仔実装4匹を串刺しにする。
わずか数秒の間にあんよ狩り隊はほぼ壊滅した。
リーダーは呆然として声も出ない。
男は4匹を束ねた串を川めがけて放り投げた。
今いる位置は河川敷の幅が狭く、遊歩道と川の距離が近い。
夕日を照り返し、黄色くキラキラ光る川面で、ポチャンと小さな水音が鳴った。

はっと我に返ったようにリーダー仔実装が男達に背を向けると、
一目散に駆け出した。
それでも所詮は仔実装のダッシュ、人間が追いつくのは容易だった。
リーダー仔実装が、自分のすぐ左側に人間の足首を見た時、
上手く踏みつけ攻撃をかわしたと思った。
しかし、それは右足が蹴るための軸足であり、
仔実装は背後からサッカーボールを蹴るかのような強烈なキックを浴びた。

ぱぁん!

衝撃で実装服もパンツも前掛けも前部が弾け飛び、前髪も吹き飛んだ。
前面のみハゲハダカとなり宙を飛びながら絶命する瞬間に、
リーダー仔実装の頭を占めていたのは
「半分だけ裸んぼう恥ずかちいテチィ!」
という羞恥心の苦しさだった。




「さて」
あんよ狩り隊を潰した男が姉実装石に向き直る。
姉実装石は鼻の穴を5割増しに広げながら呆然としている。
死んだ隊員達と違って、修羅場をくぐった経験のない子だ。
多少聡明とはいえ、意思疎通する気のない暴力人間に対して、
有効な対応など取りようがない。
「キミはずいぶん遠くへ来てしまったようだから」
「テチュ?」
「途中まで送ってあげるよ」
「テ、テ、テチーン」
ぎこちなく右手を添えて媚びポーズを取った。
せめて人間に対して敵意が無いことだけは伝えたかった。

 だから許しテチ、見逃しテチ

しかし、男の手が姉実装石を無遠慮に掴む。
「キミの家はあっちの方角だろう」
男が河川敷広場のある方角へ向き、仔実装を掴んだまま大きく振りかぶる。
そのまま野球のフォームで仔実装を投げた。
「テチィ——————————ィィィン、ヂベッ」
仔実装の悲鳴がエコーを響かせながら遠ざかり、
30メートルほど先のアスファルトの上に赤緑の液体が飛び散った。
「帰宅までの距離は少し稼いだけど、頑丈さが足りなかったな」
「うわ、どれも瞬殺だよ。餌やったりしてるのに実装石キライなの?」
「ウチの花壇と家庭菜園を何度も荒らされたから野良実装石は嫌いだね」




蛆実装は熱い眼差しで2人組の一方を見つめていた。
あの男の顔には見覚えがある。
以前に自分にキャラメルを食べさせてくれた人間だ。
しかも家族の中で一番最初に自分がキャラメルをもらったのだ。
この人間は最初から自分を気に入っていたのだ。
ずっと信じていた。
また会えると信じていた。
そして彼は実際に現れ、蛆実装へ苛烈な暴行を加えた悪い仔実装達を全員倒してくれた。
これは奇跡か運命だ。
蛆実装はもう声を出せなかったが涙は流れる。
しかし、これは悲しみではなく嬉しさがきわまった幸福の涙だ。
蛆実装は静かに微笑んでいる。

 ニンゲンさんだいすきレフだいすきレフ
 ニンゲンさんあいしてるレフいちばんあいしてるレフ
 ニンゲンさんウジちゃんはここレフここにいるレフ
 ニンゲンさんウジちゃんをたすけてレフ
 ニンゲンさんのおうちにつれていってニンゲンにしてほしいレフ

足のない蛆実装はもう歩けない。
身体も切り刻まれ動かない。
熱く潤んだ瞳で人間をみつめながら、鼻息をピスピス鳴らすしかできない。

姉実装石を投げ捨てた人間がこちらへ戻ってくる。
蛆実装は自分へと人間の手が降りてくるのを期待して、頬を赤らめていた。
しかし2人の人間は話しながら、蛆実装を無視して傍らを通り過ぎて行く。
ピスピス!ピスピス!
蛆実装の必死な鼻息が早まった。

 ニンゲンさんまってレフまってレフ!
 ウジちゃんをおいてっちゃいやレフ!
 ウジちゃんあんよないないからあるけないレフ!
 ウジちゃんおててもあんよもいたいいたいないないレフ!
 ニンゲンさんがウジちゃんをだっこしてほしいレフ!
 はやくウジちゃんをたすけてレフ!ウジちゃんしんじゃうレフ!

地面でもぞもぞと身をよじる蛆実装に気付く様子もなく、
男達は遠ざかって行き、すぐに見えなくなった。

「レ……レピィ……」
全身の力を総動員してようやく呻き声を出すことができた。
さらに気合も総動員して、蛆実装は普段のうつ伏せ姿勢にもどることができた。
男達の向かった方角へ進もうとして激痛が走る。
切り落とされた手足の傷口をアスファルトに摺る痛みに、蛆実装は歯を食いしばり耐えた。

なんとか5センチほど前進したが、もうそれ以上は耐えられそうになかった。
すっかり夜になった遊歩道には街灯も無く、あたりは真っ暗だ。
しかし道路の向こうに繁華街の明かりが見える。
だが見えるだけだ。
蛆実装の行きたかった人間の世界が見えているのに、そこへ向かう方法がない。


 ニンゲンさんがたすけてくれればよかったレフ……


先程から頭に浮かぶ考えはそればかりだった。
そこから先を考えたくなかった。
人間は蛆実装を無視した。家族も蛆実装を邪険に扱った。
簡単なことだ。
蛆実装に助ける価値など無い。


 ウジちゃんうまれてこなければよかったレフ……


眼前の街明かりが滲んでよく見えない。
蛆実装の目からまた悲しみの涙が流れていた。
アスファルトに血と涙の水たまりを作り、
そこに小さく身体を縮め丸くなると、蛆実装は声も無く静かに泣き続けた。

やがて、街の明かりも消え日付が変わった頃、
蛆実装はそのままの姿でひっそりと息絶えていた。





終わり










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10年前のパスワードが不明なため、
関連スク一覧にリンクを追加できませんが、

2047「笑う飼い主と仔実装・前編」
2048「笑う飼い主と仔実装・後編」
2185「小さなピチをネグレクト」

が同作者の関連スクになります。




おーるどきゃく

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1 Re: Name:匿名石 2023/03/12-03:21:04 No:00006904[申告]
絶望→希望→絶望→希望→絶望という
蛆に対するジェットコースターのような上げ落としが最高だった
個人的には蛆がちゃんと繭化してたらどうなってたかというIfも気になるけど
最後は安易にパキンさせずしみじみと逝くのがいいね
2 Re: Name:匿名石 2023/03/12-05:38:02 No:00006906[申告]
蛆ちゃんの申し訳程度の足と思考にここまで注目して掘り下げてる話も珍しくていい、実に無意味で無価値な実装生がしっとりと街明かりと共に消えてゆくのもなんとも言えない
3 Re: Name:匿名石 2023/03/13-23:16:50 No:00006913[申告]
素敵な作品をありがとう。
4 Re: Name:匿名石 2023/03/15-15:20:06 No:00006921[申告]
ウジちゃんにも幸せはない!それが実装石だから!
5 Re: Name:匿名石 2023/03/19-03:45:53 No:00006947[申告]
最期まで愚かで実に可愛らしい蛆ちゃんだった
6 Re: Name:匿名石 2023/03/19-10:43:30 No:00006949[申告]
凄い力作だ…面白かった
7 Re: Name:匿名石 2023/03/22-03:01:08 No:00006961[申告]
あぁ~ウジちゃん可愛いくていいわぁ~
強くて大きい存在に憧れてそれ以外の周りがどんどんくだらなく思えてしまって
糞蟲みたくなっていく過程も良い…最後に5㎝も進んだの本当に頑張ったね!
8 Re: Name:匿名石 2023/04/27-13:37:22 No:00007101[申告]
蛆実装キモいし楽ばっかしてるの腹立つしマジで虐待したい実装No.1や
ありがとう!
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