実装石保護センター9 「最近うちの縁の下あたりにへんな声がすると思ったら案の定なのよ」 頬に手を当てて弱った素振りのご婦人。 実装石が家に湧いたので駆除して欲しいということだった。 指で指し示す通り、縁の下を覗き込むと段ボールと新聞紙で作られた実装石の巣があった。 どうやら今はご就寝中らしい。仔実装や蛆が親にまとわりついて寝息を立てる。 「ゲプッ」 寝ながらゲップをする親実装、腹一杯食べた後ということか。 「生ゴミとか荒らされたりおうちの食べ物が無くなったりしてたんだけど」 「どうかしら?この子達」 駆除できるかということを伺っている。もちろん、駆除できる。 「さっき餌を食べたばかりみたいですね。毒餌で誘い出すのは難しいでしょう」 「少し手荒いですがお任せください。」 そう言うと作業着の私は這いつくばり実装石の巣に目掛けて銛を投げ込んだ。 「デギュウアアアアア!!!!」 寝ていた親実装の顔面を的確に銛が突き刺さった。 突き刺さった銛にはワイヤーが絡みついてある。ワイヤーを手繰り寄せると刺さった獲物が縁の下から引き摺り出される。 「いやあ!気持ち悪い!大きい!こんなのがいたの!?」 ご婦人は手で顔を覆い、実装石に不快感を示す。 「デ、デヒュ・・・デ、デヒュウウ・・・」 まさに虫の息といったところの親実装。私は銛を引き抜くと頭陀袋に実装石を掘り込んだ。 「まだ子供とかが残っていますのでもしばらくお待ちください」 断りを入れて縁の下に潜り込んでいく。縁の下にある巣を掴むと根こそぎ引っ張り出した。 「テ!テチャアアアアアアア」 5、6匹はいようかという仔実装。有象無象の親指、蛆の群れ。 うまく巣ごと引っ張り出しに成功した。 「まあ!こんな小さな子もいるのね。かわいらしい。」 ご婦人はこの群れを見てそんなことを言い出す。勝手なものだ。 「原則として仔は残します。この小さいやつと蛆はこの場で処理しますが・・・」 私はため息混じりに含みを持たせた言葉を口にした。 「いいわ!やっちゃって!うちは猫ちゃんがいるからこんな子飼ってられないの」 「かしこまりました」 依頼主からのGOがでた。手筈通り執行する。 巣の隅で身を寄せ合い、怯える仔実装。訳もわからず私になついてこようとする親指と蛆実装。 母がいない、命乞い、餌をくれとなんらかの要求をしているのは実装リンガルを通さなくともわかった。 ・・・が、気にしない。 まず親指と蛆はシリカゲルが詰まった小袋の中に投げ込んだ。 中であっという間に干からびていく有象無象。 「テチャアアアアア!!」 カラカラになっていく妹達をみて絶叫する仔実装。 私は仔実装達に軽くおでこを指で弾き黙らせる。そして大きめのタッパーの中に回収していった。 「終わりました。このあとの縁の下の清掃などはその専門の業者にお願いいただけますか?」 「また実装石が湧く可能性がありますのでゴミの処分や戸締りなどにお気をつけください。」 私は帽子の鍔に指をかけ、クイっと頭を下げる。 「わあ、早いのね!本当にありがとう!もちろん気をつけますけど、湧いたらお願いしますね」 そういうとご婦人は謝礼の入った封筒と手提げの紙袋を渡してくれた。 中には飲み物とお菓子が入っていた。 私はご婦人にバインダーに挟まれた書類、作業完了票にサインをお願いした。 「恐れ入ります。それでは失礼いたします。」 一礼して、もろもろの道具を片付け、その場を後にする。 なんと言うこともない、いつも通りの日常。 社用車に仕事道具詰め込み、運転席に座るとスマホで作業終了報告する。 スマホの操作中、同僚からLINEでメッセージが飛んでくる。 「すまん!仔実装のCが死んじゃった!」 メッセージのあと、パンツ一枚で虚な生気ない笑顔の仔実装Cの写真が送られてきた。 か弱い生き物なので何が原因で死ぬかそもそもわからない実装石。 ハムスターやハツカネズミなんかと同じ括りと考えても良い。 次の設問前にリタイアしてしまったのは残念だが・・・・・・・。 「まあ仕方ないね。でもセレクションは続行だよ」 メッセージと共にグッドマークのスタンプを飛ばした。 そうか、これでBとDだけになってしまうのだな。 私はシートベルトを締め、車のエンジンをかけた。
1 Re: Name:匿名石 2023/02/28-02:10:49 No:00006880[申告] |
民家にまで巣を作るのは本当に害蟲すぎる… |
2 Re: Name:匿名石 2023/03/04-15:00:46 No:00006889[申告] |
古い家だと床下にネコが住みついたりすることあるなぁ
最近の家だと大丈夫そうだけど |