「ミドリ、今日はお出かけしよう」 「はい御主人様、分かりましたデス。さあお前たちもお出かけの準備するデス」 「ハイテチママ!」 「やったーテチ!お出かけテチャア!」 「楽しみテチ!」 実装石の家族を飼っているごくありふれた日常の光景だ。 親を仔実装時代にショップで買い、手塩にかけて育ててきた。 仔の出産も許し、3匹の子宝にも恵まれた。 だが決して愛護のためではない。ある趣向のためだ。 こいつらには月に一度はピクニックに連れていっている。 何不自由ない飼い生活とはいえ、ずっと屋内では息が詰まるし時々自然の空気を吸い風に当たり大地を駆け回りたいのは実装石も同じなのだろう。 ウキウキでお出かけの支度をし、いつもの実装石用ペットキャリーバッグへと入る。今日が飼い主との今生の別れとも知らずに。 このキャリーバッグはトイレと給餌器が備え付けられ、ある程度の生活を長時間維持出来る優れものだ。 本来長時間移動のために使われるものだが、これもある趣向のためのものだ。 隠しカメラと集音マイクを設置し内部の様子を観察出来るようにしておいた。 実装ネムリをスプレーし眠らせ、固く施錠し、いざ死出の旅へ **************************************************************************************************************** (ここからはおおよそ実装石視点になります) ~1日目~ 親が目覚める。しまった、寝ていた。今何時なのか?スリット状の小窓からは夕焼けの空、どこかの野山らしき風景がわずかに見える。 「デデ?ここは何処デス?御主人様はどうしてるデス?」 「御主人様~~!開けてほしいデス~!どこにいるんデス~!?」 …返事は無い 親の声に反応して仔たちも目が覚める。 「デェ…?御主人様いないデス?どこに行ったんデス…日も暮れるデス。」 「ママ~?どうしたんテチ?お外まだテチ?」 「分からないデス。うっかり寝てる間に何があったデス?」 状況がつかめない親仔。だがまだ事態を楽観的にとらえている。 「ちょっと腹ごしらえするデス」 給餌器からフードを出し、カリカリとかじり水も飲む。仔たちもそれに続く。 それから1時間も経つと、すっかり日が暮れ闇があたりを埋め尽くす 「ママ、怖いテチ、お出かけはもういいテチ、オウチに帰りたいテチ」 早くも仔たちが不満を漏らし始める。闇への恐れが心に染み込んでいき不安を駆り立てる 「デェェ…もう少しガマンするデス。御主人様はやく迎えにきてデスゥ…」 異常なほどの静寂。 時折風が吹いて木々がサワサワとざわめく。 ガサガサと何かが近くで動いている 「テヒィ!?」 その度に体がビクッと反応する。 仔はもちろん、親でさえ野生生活などしたことがなかった。 根源的な恐怖が実装一家を包み込む 「大丈夫デス、このキャリーは頑丈デス。それにママもついてるデス。もうしばらくの辛抱デス」 親子が抱き合って身をすくめ、ただひたすら待ち続ける。 いつ来るとも知れぬ主人の迎えを… **************************************************************************************************************** ~2日目~ チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえて親が目を覚ます。 いつの間にか眠っていたようだ、仔たちもスヤスヤ眠っている。 朝日の陽光と仔たちの安らかな寝顔に安堵する。 しかしそれもつかの間。未だキャリーバッグの中という状況に昨夜は夢ではなかったことに落胆する。 とりあえず腹ごしらえにフードをかじり水分も補給。そしてトイレにて用を足す。 普段から臭いを抑えるフードを常食し、このキャリーバッグもある程度の消臭力があるのだがくさいものはくさい 臭いで仔たちも起きてしまった。 仔たちもフードを食べ始める。育ち盛りの仔だ、後先考えず腹一杯に食べて腹に収めていく。 当然、糞もブリブリとひり出す。早くもトイレの糞を貯められるタンクはいっぱいだ。少しあふれ返ってすらいる 「クサイテチ」 仔の1匹が不満を漏らす。 「デェェ…、困ったデスゥ…」 「クサイテチクサイテチクサイテチクサイテチクサイテチィィィ!」 癇癪を起こしたように他の仔も続く 生まれてからずっと清潔な飼育下にいたのだ。正直親もこの臭いはこたえる。 親は御主人様が迎えにくるまでキャリーの中でおとなしく待ち続けるつもりだった。 何処とも知れぬ野外に出るのは危険だと判断したからだ。 しかしいつまで経っても御主人様が来ない。親は方針を変えることにした 「分かったデス。とりあえずここから出るデス。でも決して遠くに行っちゃダメデス」 親が出入り口を開けようとする。勝手知ったるキャリーバッグだ。実装石の不器用な手でもこれくらい余裕…ガチャガチャ ………? ガチャガチャ 「フン…!グクッ…ヌン…!?デッス!デ…?デ…!?」 どれだけいじろうが力を込めようが扉が開かない。 中からは分からないが外側をチェーンで巻いて南京錠で施錠してある 仮に実装石でなくとも絶対に開けられないようになっているのだ 「デデっ!?何でデス!何で開かないんデスゥ!?」 ガンガンと殴りつけても蹴りつけてもびくともしない 「テッチャアー!このクソ扉!さっさと開けテチャア!」 仔たちも参加し扉に体当たりをする。当然効果なし やがて万策尽き、息を切らした親仔がへたり込む 「ど…どうしてデス?何で開かないデス…何で…」 「テェェェェン!ママー!疲れたテチ!もう嫌テチ!オウチに帰りたいテチィィ!」 仔たちの我慢も限界だ。大声で騒ぎ、泣き始める 「デェェ…と、とりあえずフードでも食べて落ち着くデス。必ずママがなんとかするデス」 カリコリカリコリ 他にどうすることも思いつかなかった。とりあえず仔たちを食事でなだめすかしこれからどうするか思案することにした。 ここから出られない、御主人様は来ない、キャリーバッグ内の環境悪化… 心も体も消耗し、少しずつ事態が逼迫に向かいつつあった しかしまだ親はどこか楽観的にとらえていた。フードと水さえあればしばらくはもつ。御主人様さえ迎えに来れば解決するのだ。 そんな言い訳じみた籠城作戦で自分を納得させた。 しかしそこへ全てをひっくり返す一言が耳に入る 「テェ…?フードがもう無い無いテチ…?」 この日も御主人様は迎えに来ず日が暮れていった **************************************************************************************************************** ~3日目~ 「ママ、お腹すいたテチ~」 「ワタチもテチ」 「まだオウチ帰れないんテチィ?」 もはや不満しか口に出さない仔たち 「静かにするデス。ママだって昨日の朝から食べてないデス。我慢するしかないデス」 どこか棘のある言い方になってしまったことを悔いる。だがどうしようもないのだ。無いものは無い。 生まれてから人間の庇護下にある親実装にとって食べ物とはいくらでもあるものだった。 たとえ今は無くともいずれは人間が補充するものだった。長くても半日以上の時間、食事を切らしたことがない。 ペース配分を間違えた。まさかこんなことになるなんて。 「ママ~お腹~」 「テチ~」 「金平糖でいいから欲しいテチ」 「…喋ると体力を消耗するデス」 「お腹ペコペコテチ」 「テチャー」 「今なら寿司とステーキで許すテチ」 注意されても口の減らない仔たち 「…」 返事をするのも億劫になってきた 「ねえママ~聞いてるテチ~?」 「ウンチ出るテチ」 「ワタチもテチ」 ブリブリブババ 更に環境を悪化させる仔たち トイレは既に機能を果たしていない。仔たちは所構わず排泄するようになった。 親の心の中で煮えたぎる何かがこみ上げてくる 「ねえママ~」 「ウンt…」 「デジャアアアアアア!!うるさいうるさいうるさいデズアアアアアアア!静かにしろと何べん言えば分かるデス!!ご飯なんてどこにも無いデス!!!!」 ついにキレた。 しかし驚き怯える仔たちの顔を見てハッと我にかえる。しかしその冷静も一瞬で覆る プリッ 「ウンチ出たテチ」 「デズアアアアア!!トイレ以外の場所でウンチするなといつも言ってるデス!飼いならトイレを守るのは当たり前のことデス!粗相をするのは糞蟲デス!オマエは糞蟲なんデスゥ!?」 そう、飼い実装ならトイレの躾けは当たり前のことだ。 この親はブリーダーによる教育時代それを嫌というほど叩き込まれた。 出来ない仔はその場で殺処分なんて日常茶飯事だ。そんな光景は飽きるほど見てきた。 当然我が仔にも躾けてきたつもりだ。しかしこの親は甘かった。想定以上に仔たちの糞蟲気質が高かったのである。 こういう個体は見せしめに1匹殺すくらいの苛烈な教育が必要なのである。 「ご、ごめんなさいテチ。でもママが怒鳴るからビックリして出ちゃったんテチ。それにおトイレがもういっぱいテチ」 仔には仔なりの理があったのだろう、つい口ごたえしてしまった。 甘やかされて育てられたので危機に対する勘というものが欠けていた。 上下関係は絶対だ。口ごたえなぞもってのほか。だから厳しい躾けを乗り越えてきた親の逆鱗に触れた。 「ママのせいにする気かデス!?言うことが聞けない仔はこうデス!」 バキィ! 「テベッ」 初めての体罰。 殴りつけられた仔は吹っ飛んで壁に激突し床にキスをする。 「テ…テ…テェェェェン!ママが…ママがぶったテチャアアアアアアアア!痛いテチィィィィ!!!」 堰を切ったように大声で泣きわめく仔。他の仔2匹は豹変した親に怯え震えている。 「それくらい何デス!ママが小さい時はもっと痛いことも悲しいこともされたデス!反省するデス!お前たちもよく分かったかデス!?」 「テェ!?テピャアアアアアアアアアア!!!!」 やさしく慰めてくれるかと思ったのに更に突き放す言葉にショックを受け一際大きく泣きわめく仔。他の仔は言葉も無くコクコクと頭を上下するのが関の山だ。 「フン」 泣く仔を無視しそっぽを向いて横になる親。 少しやりすぎたか?いやいやこれくらい当然だ。思えば今まで甘かった。これを機に分別をわきまえてくれれば…などと自分を納得させる。 仔の泣き声が響く以外何もないまま時間だけが過ぎていく。 「テック…テック…」 やがて泣きつかれ嗚咽する仔。 他の仔はとばっちりをくわないようにやや離れてじっと横になっている。親もそっぽを向いたままだ。 泣いていた仔は孤独を感じまたショックを受けるが、声を殺してむせび泣いた。 この日も御主人様は迎えに来ず日が暮れていった **************************************************************************************************************** 一方その頃の飼い主はというと ククク…いい感じに荒れてきたな 快適な自室に籠もって菓子をつまみながらそう言ってほくそ笑む 内部カメラと集音マイクで中の様子はリアルタイムで分かるようになっている。 限界環境下での飼い実装の観察。 それが今回の趣向だったのだ。 公園にリリースだと同族のリンチで終わることが多く、今回は監禁という形になった 友人の私有地を借りてまで屋外の要素を取り入れたのは暗闇や野生生物に怯えてほしかったからだが、2日目早々に慣れてしまったようだ。 改善の余地ありだな。 甘やかして育ててきたのは温室から厳しい環境への落差を楽しむためだ ストレスでイライラして本来抑えられていたものが発露するのは狙い通りだった さあ素敵な悲鳴を聞かせておくれよ?俺の愛しの糞蟲ちゃんたち♪ ~~~~~~~~~~~~~~~続く~~~~~~~~~~~~~~~~ あとがき >そういうキャリーをがっちり施錠して出られないようにして人のこない野山に放置したい >内部カメラ設置して頃合いを見て回収も良し 実装石スレでそんなレスを自分でして自分で話を膨らませてみました 過去作 冬の温もり