「オ、オバチャン、こんなところにワタシを連れてきて、いったいなにをするつもりテチ……?」 その仔実装は不安そうな表情で自分よりはるかに大きな成体実装を見上げていた。 仔実装は第七労働供給所のコミュニティに所属している。 彼女の母親は同コミュニティにおいて最も優れたデッカープレイヤーであり、同地区内に二つあるチームの片方のエースを務めている。 その長女である仔実装も同年代では頭一つ抜けたプレイヤーで、ジュニアの部の大会では最優秀選手賞をもらったことがある。 デッカーが上手い者が栄誉を得られる第三期楽園。 この社会において、彼女は生まれも育ちも才能にも恵まれた『持つ者』であった。 「……」 対してそれを無言で見下ろすのは暗い表情の成体実装。 仔の頃こそ周りに混じってデッカーに興じていたが、才能は皆無。 障害があるわけではないが、周りより明らかに身体能力が劣っていた。 人生で一度もゴールを決めたことがなく、試合ではいつも所属したチームのお荷物。 そんな彼女を周りの爽やかプレイヤーたちは一度も責めたことはない。 けれど「ドンマイ」と肩を叩かれるたびに滓のような苦みが腹の奥に溜まり続けた彼女の気持ちを知る者はいなかった。 デッカーが下手。 それだけで彼女はこの社会では『持たざる者』だった。 「オラッ、デス!」 持たざる成体実装は手に持った石片を躊躇なく振り下ろす。 石片は仔実装の足に突き刺さり、容易く骨ごと切り落とした。 「テチャアアアアッ!? ワ、ワタシの足ィィィィl!」 デッカープレイヤーにとっては命の次に大事な足。 幼いながらも努力して必死に鍛えた大切な部分が無慈悲に失われる。 「イタイ、イタイテチィ! オバチャンなんでこんなことするテチィ!? これじゃワタシ、足が治るまでデッカーできないテチィ!」 「治るまで、デス?」 見当はずれな仔実装の叫びに持たざる成体実装は口の端を歪めた。 そして無事な方の足を掴んで持ち上げ、仔実装を宙づりにする。 「イタイテチ! イタイテチ! オバチャンはやくベッドに連れて行って安静にさせテチ!」 「バカを言うなデス!」 「テチャアアアアアア!?」 成体実装は仔の石片を切り落とした足の傷口に差し込んでぐりぐりと抉る。 今までの生涯で味わったことがない尋常ではない痛みに仔は半狂乱だ。 「イダイ、イダイデヂィ……!」 「はぁはぁ……これだけぐちゃぐちゃにすれば、再生しても奇形になるはずデス」 「テ……」 「もう二度とデッカーできないねぇ(笑)……デス、デププププッ!」 「テェ……テ……テッチャアアァァァァ! テェェェェェェェェン!」 恐ろしいほどの痛みに加え、青春と情熱をかけたデッカーが二度とできないという、信じられない現実に仔は慟哭する。 「なんで、なんでこんなひどいことするテチ!? ワタシ、オバチャンに何も悪いことやってないテチ! なんでテチ!? どうしてテチ!?」 「なんでか、デス?」 成体は石片を振り上げ、仔実装の瞼上を叩く。 「テヂャッ!」 流れた血は仔の左目を赤く染める。 実装石の身体が繁殖の合図を受け取り、仔の体内で新たな生命が生み出される。 「テェェェ……オナカが、オナカ……テチャアアアッ!?」 「テッテレー」 「テッテレー」 「テッテレー」 「ウジチャン、サンジョウレフ」 「ハジメマシテレフ。トツゼンレフガ、プニプニヲヨウキュウスルレフ」 まだ幼い仔の肉と栄養を強引に奪い、いくつもの蛆実装が総排泄孔から産み落とされる。 無理な強制出産に仔はみるみるやせ細っていった。 反対にその心は湧き上がって来た見知らぬ感情に支配され、温かさすら感じていた。 「ウジチャン……ワタシが、アカチャンを産んだテチ……?」 強制とはいえ仔を生んだ実装石の心には母性が目覚める。 善良な仔だからこそ、その誇らしさが一瞬とはいえ足の痛みすら忘れさせた。 しかし。 「♪だっ(レピャァ!?)、けっ(レピャァ!?)、どっ(レピャァ!?)、きに~なるデス~(レピャァ!?) ♪こんなキモチは何故デス~(コレハヤマダカツテナイキョウレツナプニプニノヨカンガスルレフウジチャンノジッソウセイニジュウイチビョウメニシテサイダイノヨロコビノトウライニワクワクガトマラナレピャァ!?)」 成体実装は生まれたばかりの蛆たちを無慈悲にステップを踏みながら潰していく。 「テチャアアアアッ!? ウジチャン踏まないでテチィ! ワタシの赤ちゃんを殺さないでテチィ!」 「♪いまいち~、ばん~(レピャァ!?) 糞蟲の、絶望に染まる顔に、会いたい~デス!(レピャァ!?)」 すべての蛆が地面の染みと化し、仔実装の母性は、底知れぬほどの喪失と絶望に塗り替わる。 「テ、テ……!」 「ねえねえ、どんな気分デス?w 大切な足も蛆も、ワタシみたいなカースト底辺に奪われてどんな気持ちデス?w」 「アクマテチ……オマエは、アクマテチ……」 本来なら栄光を約束されていたはずの未来ある仔。 そのすべてを奪い、最高の称賛を受けた持たざる者は愉悦の哄笑を上げた。 「デプププププッ! そうデス! チワッス、ワタシはアクマでありますデス!w デププププププププッ!」 ※ 「実装石による仔実装の監禁凌辱事件?」 「はい。第七供給所で、すでに二体の仔が犠牲になりました」 「間に合わなかったか……」 命の危険はない群れの中で、劣等感に苛まれた個体がとる異常行動。 それは、どうやら最悪な形で顕現してしまったようだ。 実装石が人間の虐待派を思わせる方法で同属の仔を猟奇的に嬲るという痛ましい事件の発生。 襲われた仔は命こそ助かったものの、あまりの苦痛と絶望に精神に異常をきたしている。 「犯人の実装石は?」 「3件目の事件が起きる直前に監視ラジコンの熱線で撃ち殺されました」 「なぜ、初めの2つの事件は防げなかったんだ?」 「犯行は非常に慎重に、隠れて行われていました。3件めはそれ以前の事件の発生を受けて重点的に周辺を監視していたからこそ気づけたんです」 普通、実装石が他者に暴力を振う時は、相手に言うことを聞かせたり、自己の優位性を誇示するために行う。 攻撃は公に行われ、すると監視カメラにはすぐに見つかってしまう。 第二期の初期に行われた粛清がそうだったように。 だが今回は違う。 犯行の動機は己の境遇の不満を昏い欲望に変えて弱者にぶつける事。 暴力が悪い事だというのは百も承知であり、そのため犯人は被害者を人目の届かない場所に連れていった。 これでは未然に阻止することはほぼ不可能である。 最後の事件が未遂に終わったのは不幸中の幸いだったと言えるだろう。 「起きてしまったことは仕方ない。類似の事件が起こる前に先日完成したばかりの『アレ』を投入しろ」 「わかりました」 博士は奥歯を噛み締めながらモニターを睨む。 「可哀想に……すまんな、我々が遅れたばかりに……」 哀悼の言葉は犠牲者になった仔実装だけでなく、犯人である異常行動を起こした負け実装にも向けられていた。 狂ってしまうほどに鬱屈した劣等感を抱えながら生きるのはさぞつらかっただろうに…… ※ 「あー暇デス」 拉致監禁事件が起きたのとは別のコミュニティにて。 これまたデッカーの才能がない、一匹の負け実装が鬱屈としていた。 「周りの糞蟲どもは毎日毎日デッカー、デッカー。クッソくだらねえデス」 昼のエサを食った後はやることもなくダラダラ寝転がるだけ。 外からは仔たちの耳障りなほどに元気な声が聞こえてくる。 「ボールそっち行ったテチィ!」 「ワタシに任せるテチ! 必殺シュート、テチッ!」 この世には楽しいことしか存在しないと信じているような無邪気な仔たち。 そんな声を耳にしていると、負け実装のイライラは募る一方だ。 「あー、ムカつくデス。こうなったら拉致監禁凌辱殺石事件でも起こして最期のひと花を咲かして……」 ぽふ、ぽふ。 思わず昏い独り言を呟いた。 そんな彼女の肩を別の成体実装が叩く。 「デッ!? い、いや、今のはただの冗談デス。デププ、まさか本当にそんなことするわけないデス?」 「ちょっとついてくるデス」 よく見ればコミュニティでは見かけたことがない個体である。 負け実装は訝しく思いながらも、今の独り言を誰かに告げ口されたらマズイと思って彼女に付き従った。 その実装石に先導されてやってきたのは、コミュニティの端にある小さな小屋。 中にはよくわからないキカイがあった。 「なんデス、ここは……」 「お前に『楽しさ』を教えてくれる場所デス」 「どういうことデス?」 「そこに手を入れてみるデス」 そのキカイはまるで見たことがないものだった。 人間の世界を知っていれば、台の上にテレビモニターのようなものが付属し、手前側には腕を入れる穴が二つあることに気づく。 負け実装は言われるままに穴に手を入れた。 すると先導実装はキカイの横にあったボタンを押す。 「デエッ!?」 モニター画面が突如として明るい光を放つ。 そこには薄緑色の文字でこう書かれていた。 JISSO INVADER。 ※ 左腕をぴくんと動かす。 それに応じて画面の中の自分によく似たキャラが動く。 右腕をぴくんと動かす。 それに応じて画面の中の自分によく似たキャラが弾を撃ち、上から攻めてくるニンゲンをやっつける。 「デッヒャアアアッ! こいつはおもしれえデスゥゥゥゥゥ!」 いわゆるコンピューターゲームである。 実装石の棒のような腕でも操作ができるようにコントローラーを改良してあるが、 大本となるのは人間の世界で数年前に流行ったインベーダーゲームを改良したものだった。 初めての体験に人生のすべてを諦めていた負け実装はすぐに夢中になった。 そして日がなこの小屋に通い、ゲームをプレイしてストレスを発散する。 「よっしゃあデス! 今日こそは最高得点を目指すデス!」 運動神経に劣る自分でも十分に楽しめる刺激ある遊び。 決して少なくはない負け実装たちは素晴らしい娯楽を得て毎日に潤いを得た。 ※ 「ジッソーインベーダー筐体、すべての居住者のいるコミュニティに二台ずつ設置しました」 「こいつはすごい、鬱屈してた負け実装たちがイキイキとしてますよ」 「ふふふ……」 活躍できないからつまらない。 周りに認められないから面白くない。 コミュニティの関係性がすべてだと、持たざる者は日陰に隠れながら生きていくしかない。 だったらコミュニティの外に生きがいを与えてやればいい。 ゲームと言う楽しさを覚えた負け実装たちは、もはやデッカーが下手な自分に劣等感を抱くことはないだろう。 各コミュニティに数名ずつ存在していた負け実装たちはもう犯罪者予備軍ではない。 日向者には日向者の、日陰者には日陰者の。 今風に言えばネアカにはネアカの、ネクラにはネクラの。 未来風に言えばリア充にはリア充の、陰キャには陰キャの楽しみ方がある。 生きがいさえ持てば、そうそう生活を捨ててまで異常行動を起こそうとなどしなくなるはずだ。 これが人間だと余計に孤独を深めて生涯独身になりそうだが、単体で生殖できる実装石ならあまり問題にならない。 仮に負け実装の出産率が落ちても、最悪コミュニティを崩壊させるような事件さえ起こさないで生涯を終えてくれれば、それで十分なのだ。 「主流のデッカープレイヤーたちはゲームに興じる負け実装たちをどう見ている?」 「別に気にしてないみたいですね。彼女たちにとってはデッカーの方がずっと楽しいんですから」 第三期の主流派である爽やかな陽キャ実装たちは細かいことを気にしない。 住み分けによってじょうずに生きていく。 これなら第三期の楽園はこれからも上手くやっていけるだろう。 ※ ところが、ジッソーベーダーを設置してから半年あまりが経った頃。 事件は再び起こってしまう。 「また監禁凌辱事件が起こっただと!?」 しばしの平穏を破り、異常行動を起こして他者に危害を加える負け実装が現れ始めた。 事件が明るみに出れば犯人は即座に処刑されるが、主流派である陽キャデッカープレイヤーたちの間に動揺が走るのは社会に大きな打撃となる。 「事件が起きたのは第十一供給所のコミュニティか。いったい何故、こんなことになった?」 「それが……ここ一か月ほど、第十一コミュニティのジッソーベーダーはプレイされた形跡がありませんでした」 「なんだと?」 一言で言えば、飽きられたのだ。 仲間と協力し、お互いを高め合い、成長を実感できるデッカープレイヤーたちと違って、コンピューターが相手の負け実装たちはひたすら同じことを繰り返すだけ。 これではやがて情熱もなくなって、惰性でプレイをするだけになる。 そうして負け実装たちはまた生きがいを失って鬱屈した生活を送るようになってしまったのだ。 「彼女たちを飽きさせてはならん、定期的に新しいゲームを投入するんだ!」 「は、はい。なんとか開発を進めます」 ※ 「新作ゲームの『デストロイド』デス!」 「おおっ、これは面白そうデス!」 飽きたデス。 「『デスアーガの塔』デス!」 「むむっ……ちょっと難しいデス……」 飽きたデス。 「『スーパーミドリブラザーズ』デス!」 「ちょwwww神ゲーデスwwwwwメチャクチャおもしれえデスゥwwwww」 飽きたデス。 「『連続殺石事件』デス」 「……? ちょっとこれはよくわからないデス」 「『ヒネモスクエスト ~勇者エメラルの冒険~』デス」 「超名作ktkrデスwwwwwww 寝る間も惜しんでプレイしまくるデスwwwwwwww」 飽きたデス。 「『栄光のデスリンピック』デス」 「なんだこりゃクソゲーデス。もっと面白いゲーム持ってくるデス」 「『ヒネモスクエストⅡ ~強欲の神々~』デス」 「名作の続編だけあって面白いデス! ……けどちょっと難しすぎデス」 飽きたデス。 「『楽園三国志』デス」 「はぁ……難しくて全然意味が解らないデス」 研究員たちは市販のゲームを(勝手に)改造して実装石にも遊べるようローカライズし、先導実装を通して定期的に楽園の筐体に供給していった。 しかし負け実装たちもすべてを受け入れてくれるわけではない。 ハマった時は長く楽しんでくれるが、内容次第ではすぐに飽きられたり、そもそもプレイすらしないこともある。 普段の仕事と並行しつつ、月に1本のペースで新作ゲームを投入するのは、研究員たちにとって大きな負担となっていた。 「だ、ダメです。第六コミュニティでまた拉致監禁拷問事件が発生しました……」 「何をやっているんだ! 負け実装たちを飽きさせるなと厳命してあるだろう!」 「それが無茶なんですよ。あいつら負け実装のくせにメチャクチャ我儘だし、バカだからちょっと難しいと内容が理解できなくなるし」 「貴様! 負け実装とはいえ、実装石を馬鹿にするような言動は慎め!」 「いやそうは言いますけどねえ博士、こっちももう限界なんですよ。普段の業務に加えてゲームの改良まで。完全にキャパをオーバーしてます」 「実装石が何を気に入るかなんて人間には理解しがたいもんなあ。ただのボール蹴りにあれだけ夢中になったかと思えば、PRGはちょっと難しいとすぐ投げるし」 「もうこうなったら負け実装そのものを間引いてやったほうが早いんじゃないっすか? デッカープレイヤーたちだけなら問題なくコミュニティを維持できてるんですから」 「……なんだと?」 思わず口を滑らせてしまう研究員。 博士は懐からM1911(ガバメント)を取り出して彼に銃口を突きつけた。 「な、何するんですか!?」 「言うに事欠いて間引きだと!? 貴様は実装石の命を何だと思ってるんだ! 貴様のような命を大事にできない奴は殺してやる!」 「いやいや言ってることが矛盾してますよ! ちょっと落ち着いて、ともかく銃を下ろしてください!」 「うるさいッ!」 逆鱗に触れられた博士は本気で怒っており、いつ本当に引き金を引いてもおかしくない。 他の研究員たちも止めるに止められず、研究所内は一触即発の空気で満たされていた。 そんな時だった。 「あのー、ちょっといいですか?」 ひとりの若者が堂々とした態度で二人に話しかける。 どこか超然としたアルカイックスマイルを浮かべた目の細い男だ。 「なんだ貴様は」 博士が尋ねると、彼はそのたらこのような唇で訥々と言葉を紡いだ。 「いまそこの研究員さん? 『命を大事にできない奴を殺すっていうのは矛盾してる』って言ったじゃないですか。 これと似たようなこと言う人ってこの日本に結構いるんですけど、ぼくこれいう人ってみんな頭悪いと思ってるんですよね。 だって、これって別に矛盾でも何でもないじゃないですか。というか普通に考えればわかることなんですけど。 そちらの博士にとって大事なのはあくまで実装石の命であって、それを奪おうとする研究員さんを殺すのは、結果的に実装石の命を多く助けることになるんですよ。 あなたの命を奪うことでより多くの命が助かるんだから、合理的に考えて博士の行動は全然正しいんです。 あなたは博士が命の大切さについて語ってるのを見て、無意識に自分の命も大切にされるべきだと思いこんでるんでしょうけど、それ間違ってます。 はっきり言いますと、そちらの博士、あなたの命なんかなんとも思ってませんよ(笑) 助かりたいから自分の命と実装石の命の価値の重さをわざと混同してるのか、頭が悪くて理解できないのかはわかりませんけど。 あと、そもそも日本で銃を所持するのは銃刀法違反なんで、博士をどうにかしたいならそこに突っ込むのが先だと思いますよ。 銃を向けてる姿をカメラで撮影しておいてください。これ殺人未遂の証拠として十分に通用するんで、映像があれば警察は動かざるを得ないんです。 いきなり銃を突きつけるような頭のおかしな人を言葉で説得しようとしてもフランスじゃ普通に撃たれるだけなんで。 まあ、頭の悪い部下を持った上司も、頭のおかしな上司を持った部下も大変だなって、そういう話です。はい(笑) それじゃ次の」 パーン! 「……済まなかった、少し冷静さを欠いていたようだ」 「いえ、僕の方こそ感情的な発言をしてしまい申し訳ありませんでした」 冷静さを取り戻した博士と研究員たちは、現状この問題をすぐに解決するのは難しいということで、とりあえず場当たり的な応急手段を話し合うことにした。 「そういえばあれ、なんと言ったか。最近発売したOSのパソコン……」 「ウインドウズ95ですか?」 「それだ。あの中にいくつかゲームが入っていただろう。とりあえずインターフェースだけ改良して、アレをやらせておくのはどうだ」 「GUIのマウス操作なら実装コントローラーに落とすのも可能ですね。ソリティアは少し難しいかもしれませんけど、マインスイパーならなんとか……」 「よし。なら早速取り掛かってくれ」 「それでも、あんな単純なゲームじゃ一、二か月くらい持たせられたら上等だと思いますよ?」 「今はそれでいい。その猶予で今後の対応策を考えよう」 ※ 「爆弾ゲームも飽きたデス。あーあ、早く次の新作ゲームが空から降って来ないかデス。オマエもそう思うデス?」 「……」 研究員の予想通り、ウインドウズ搭載のゲームも負け実装たちはすぐ飽きてしまった。 しかし、一部の負け実装は今日もじっと画面を見つめ続けている。 ゲームに飽きるまでの時間の長短は個体差があり、難解でほとんどの負け実装が投げた『楽園三国志』ですら遊ぶ個体は存在していた。 だが、今回はそれとも少し様子が違っているようだ。 「どうしたデス? 文字ばっかりの画面を見つめて何が楽しいデス」 「これは……デーシック文法……J言語……矢印で文字を打つのは可能デス……?」 「変な奴デス」 その個体がやっているのはゲームではなかった。 どうせ実装石には理解できないだろうと研究員たちは思い、パソコンの中にゲーム以外の何が入っているかなど見てもいない。 自分たちが与えたモノがとんでもない変革を起こすなど想像すらしていなかった。 「ワタシはもう少しこれで『学んで』いくデス。オマエは変な気を起こさないでゆったりしてるデス」 そして負け実装たちがパソコンを与えられて二か月目。 その特異な実装石……個体名・デッシュネルは、同じコミュニティの友人である負け実装仲間の肩を叩いた。 「ちょっといいデス?」 「なんデス。ワタシはもはやすべてに飽きてるデス。そろそろ生涯最期の楽しみとして拉致監禁凌辱殺石事件を起こしてひと花咲かせるデス」 「その前にこれをやってみるデス」 デッシュネルは一枚のフロッピーディスクを友人に差し出す。 「それはなんデス?」 彼女は友人の質問にニヤリ笑って答える。 後に第三期楽園の特異点となり、平穏な社会に革命を起こすその一言を。 「ワタシが『作った』ゲームデス」 ——つづく。