実装生配信（１／６）


「テェエェェ…」

＞お。餌探しの留守中に貯め込んだ食料総ざらいで盗られたな
＞完璧な防衛も成体のパワーの前には無意味だな
＞いいねぇ、あの絶望に潤んでる瞳！最高だわ！

チャット欄に罵詈雑言と嘲笑が溢れかえるが、無論当事者の仔実装は知る由もない。
耐水加工され各所に出入り口が設けられ、内部も過ごし易く嗜好の凝らされた段ボールハウス。
各所をガムテープで補強されたソレは、公園の茂みの中で正に難攻不落の居城だ。




実装生配信（２／６）

無論、それは仔実装サイズで考えて、でしかない。
一度飢えた野良実装に襲われれば段ボールハウスはひしゃげ、容易く入り込めてしまう。
実は、壊し易いよう切れ目が入っていたり、内部からは分らぬ継ぎ目が設けられているのだ。

「お腹すいたテチィ…寒いテチィ……ママァ…ママァアァァァアァーーーーッ！！」

＞あー、やっぱこの仔も無理だったかー、良い線いってたのになぁ
＞今の所、１２匹残らず全滅か。やっぱ間抜けに外へ出かけるのが敗因だよな。
＞初期アイテムでハウスに食料有っても親不在のアゲンストは覆せないか


実装生配信（３／６）

ハウスの各所に設置された極小カメラが膝を抱えて泣きじゃくる仔実装を冷たく見つめている。
強引に飼い実装である親から引き離され公園で野良生活を強いられる仔実装の姿に視聴者は釘付けだ。

「うーん、同接は五千を少し超えたくらいで上下か…そろそろ次の手を打つ頃合いかな〜」

俺は基本的に何もせず、仔実装が厳しい野良生活に苦しむ姿を配信しているだけだ。
愛護派のバカ共が自慢の実装を飼い犬の様に可愛がり自慢している配信を見て閃いたのだ。
逆に仔実装が悲惨な目に遭う姿を配信したら人気が出るんじゃないのか、と。


実装生配信（４／６）

まずは初期投資だ。ペットショップで売れ残りだがマシな実装を購入する。
最低限の躾と知識を備えていないと面倒だからだ。
野良から仔をさらって観察も手だがソレは別企画の予定なので乞うご期待。
次にネット情報に従い順当に仔を生ませ、ある程度育児をさせる。
そこそこの知識を与え、外界での生活や野良の存在も認識させた頃合いで公園へゴー！
仔実装が住むには上等すぎる段ボールハウスで最初の数日は難なく公園で野良生活が経過する。
備え付けの水と食料が尽きた所からが本番だ。視聴者の数もこの辺りから目に見えて増えてきた。
いいぞ、そこら中の虐待派掲示板で宣伝しまくった甲斐があった。




実装生配信（５／６）

ただ、仔実装の不可解なオツムの中身は誰にも理解出来ないので、ここからが中々に面倒なのだ。
基本、活動的な仔実装ほどすぐに飢えた野良実装に見つかり食い殺されてしまう。
余りに呆気ない幕引きではなかなか視聴者数は増えない。
逆に怖がりでなかなか外出せぬ臆病な仔実装ではなんの変化もない映像が続くだけだ。
変り映えしない映像を垂れ流していては視聴者は退屈してすぐ消えてしまう。
色々思案して最初頑丈過ぎた段ボールハウスも壊れ易くなる細工を施した。
食料と水の量の配分や、野良をおびき寄せる細工等々、安全過ぎず危険過ぎずのバランスが難しい。

「そーら、飴の時間だ。大好きなママだぞー。録音した親の声でも聴いて希望を持ち直してくれ」


実装生配信（６／６）

「…テヒッ！？　マ、ママ！？　ママの声テチィ！？　ママどこテチィーーーーッ！！」

＞お。壊れかけてたのに復活しやがった
＞疲れ果て食い物も奪われ寝床も荒されて、それでも母の声は全ての絶望を覆すか。泣けるねぇ。
＞ちょっと甘すぎじゃないか？　もっとドン底へ叩き落せよ。腕の一つでもへし折れって！
＞イヤイヤイヤ、この暴力は欠片も無い、純粋に精神的な責め苦の連続具合がいいんじゃあないか

仔実装が甘い希望にすがりつきながらボロボロと壊れていく様を、画面は克明に映し出していた。
まぁまぁの接続数だな。さて、次の奴にはもうちょい面白い嗜好を凝らした細工を仕込んでやるゾ。