■ 虐待派の敏明は、ペットショップで仔実装を買った。まとめて10匹。 家庭も恋人も、親しい友人にも縁がない敏明は、糞蟲の虐待だけが唯一の趣味だった。 いつもは廃棄実装石の店を利用している。格安だからだ。 だが今回はちょうど冬のボーナスが入ったので、半年ぶりにペットショップで見繕った。 年に二回の贅沢だ。 実際、ペット用実装は値が張る。一皮剥けばただの糞蟲の癖に、廃棄仔蟲の何十倍だ。 しかし、きちんと躾をされているだけあって、揺り返しとしての糞蟲度の期待値は高い。 帰宅するなり、全匹偽石を抜き栄養剤に浸け、服を奪い、髪を剃って禿裸にする。 慣れたもので、流れるような手際の良さ。今まで何十匹と潰してきたのだ。 テチャアーーー!!! 飼い実装になれたと、幸せ回路がマックスになっていた仔実装たちは 一気に底辺へと叩き落とされ、それぞれに嘆き、絶望の血涙を流した。 「ははっ。相変わらずテチャテチャうるせえ」 禿裸にしてからが虐待の始まりだ。 敏明のテンションも上がっている。 世間はクリスマスから新年に向けてのお祭り騒ぎだ。 ずっとそれらイベントには背を向けていた敏明だが、これは自分だけの個人的な祭。 敏明はわずか三畳の狭い納戸を虐待部屋にしていた。 わざわざ四方を鏡張りにしている。 躾済み仔実装たちはここで嫌でも自分が禿裸になっていることを見せつけられる。 テチャアアアーー!! たまらず多くの仔実装が糞を漏らし、また一部が醜い媚びをした。 テチャテチャテチャ。 ワタチたちはお優しいゴシュジンサマの飼い実装テチ。どうか飼い実装として扱って欲しいテチ。 テチャアーー。 オウチにはタオルもないテチ。ニンゲン、忘れたかテチ? トイレがないテチ。水皿がないテチ。餌皿がないテチ。 テッチテッチ。 おなかぺこぺこテチ。ずっとなにも食べてないテチ。ニンゲンさん、まずはご飯をくださいテチ。 あと服を返してくださいテチ。 テッチュウーン♪ クソニンゲンよく見るテチ。ワタチはこんなに美しいテチ。ワタチだけでも特別扱いするべきテチューン♪ 「うるせーーーー!!」 敏明はいきなり叫んで地団駄を踏んだ。 その狂気とも言える雰囲気にテヒャアと仔実装たちが怯えてさらに漏らす。 「俺はお前たちを飼ってやってるんだぞ! 餌なんかやるかよ!!」 さんざん繰り返されたテンプレートだが、むしろこれは様式美というものだ。 敏明の冬休みは、こうして始まった。 メリークリスマス! ■ 激高した敏明は、荒々しく仔実装たちを蹴り飛ばし、 全匹を四方の鏡にぶつけ、床に叩きつけ、這いつくばらせた。 テヒュ。テヒュゥ…。 仔実装たちが未だ信じられないといった様子で肩で息をしている。 「早速人間様へ要求か。糞蟲丸出しだな。躾済み仔実装が呆れるぜ」 敏明は吐き捨てるように言った。 「糞漏らしてるじゃねえか! 躾されたんだろ? 漏らす奴は糞蟲だってなあ!」 テヒャアーー。 ゴシュジンサマはギャクタイハだったテチ! ワタチたちとんでもないとこに買われたテチィ!! 恐怖にブリブリとさらに漏らす仔実装たち。敏明が下卑た笑顔をした。 「漏らした奴。糞蟲だ。さっき媚びた奴はさらに糞蟲だ。楽に死ねると思うなよ」 敏明の恫喝と暴力に漏らさなかった仔実装はいなかった。 ペットショップの躾済み仔実装たちは、わずかな間に10匹全てが糞蟲認定された。 「俺は糞蟲専門の虐待派だ。お前らを殺す。お前らはそのために買われたんだ」 敏明はそう宣言すると、一番最初に媚びた仔実装に全力のキックを見舞った。 テジャアア!! 内臓が破裂し、顎が砕け、壁の鏡にぶつかって床に叩きつけられて手足が折れた。 が、偽石が栄養剤に浸けられているため死ぬこともできなかった。 敏明は部屋のいくつかのウェブカメラのWi-Fi設定を確認すると、退出した。 待つのも虐待の醍醐味だ。 敏明はそのまま何日も放置した。 テチャア。 テッチ。テッチ。 テヒャアー。 テチャ! テチテチテチ。 水も餌もタオルもトイレもない部屋に放置された仔実装たちは、たちまち飢えた。 最近のショップでは、仔実装にトイレの躾ができているかどうかは重要視されていない。 糞をする、それこそが悪印象だと、極端に餌を減らしているのだ。 飼い実装になったら食べろ。 飼い実装になったら腹いっぱいフードを食え。 そう躾されていた。 飢える。 ペット用仔実装として、ショップでは躾に耐えることもできたが、 ここにはもう、店員さんはいない。 限界まで耐えても、金平糖や練乳や糖蜜シロップをくれて褒めてくれる躾師はもういない。 テチャアー。 狭い三畳に10匹の仔実装。 四方の鏡は、飢えた禿裸のみすぼらしい姿を嫌でも見せつけてくる。 どこを見ても、水も、餌も、タオルも、トイレもない。 あるのはパンコンして飛び散った仔実装たちの糞だけだ。 かつての躾師の教えに従って、耐えるしかなかった。 それも二日が限度だった。 ■ テチャア。 お腹空いたテチ。もう限界テチ。ギリギリになるとテンインさんがアマアマをくれて褒めてくれたテチ。 テンインさん来ないテチ。遅いテチ。もう限界って言ってるテチ。何をしてるテチクソニンゲン!! テヒャァー。 怒っても無駄テチ。疲れるだけテチ。ここはもうあのギャクタイハの家テチ。テンインさんはいないテチ。 ワタチたちを殺すって言ってたテチ。ワタチたちギャクタイハに皆殺しにされるテチ。 テヒィィー! 死ぬのは嫌テチ! 死にたくないテチ! ワタチたち飼い実装のための躾を乗り越えてきたテチ! 飼い実装になったはずテチ!! テチャア…。 ギャクタイハだって言ってたテチ。飼い実装じゃないテチ。ワタチタチみんな虐待されるだけテチ。 お腹減ったテチ。ペコペコテチ。何でもいいから食べたいテチ。お腹減ったテチ。 テチャア! お腹減ったって言ってもウンチしかないテチ! 最後の手段テチ! ウンチ食べるしかないテチ! テヒャー。 ウンチ食べるのは糞蟲テチ。 テッチュ! テッチュア! でも食べなきゃ死ぬテチ! アタチは死ぬのは嫌テチ! ウンチ食べるしかないテチ! 食べるテチ! グエップ。まずいテチ。でも死にたくないテチ。ウンチ食べるしかないテチ。 まずいテチ。吐くテチ。ゲロゲロゲロ。もったいないテチ。食べるテチ。 テッス…。 ウンチ食べるのは嫌テチ。死ぬのも嫌テチ。ゴシュジンサマにお願いしてちゃんと飼って貰うテチ。 ワタチタチはきちんと躾された高級飼い実装テチ。そこいらの糞蟲とはわけが違うテチ。 選ばれた存在テチ。ニンゲンサンとちゃんと話して、ワタチタチの価値を分かって貰うテチ。 テチィ。 もっといい方法があるテチ。 テチ? いい方法ってなにテチ? テッチ! テチャア! お前を喰うテチ! 一番高貴で優秀なワタチこそが生き延びる資格があるテチ!! ワタチはお前を喰って、本当の飼い実装になるテチ!! テギャアアーー!!!! やめるテチ! 糞喰いどころか共食いは完全に糞蟲テチ! そんなこと思いつくお前は本当の糞蟲テチ!! ニンゲンさん! ニンゲンさん助けテチ! テチャアー!!! うるさいテチ! ギャクタイハのクソニンゲンなんかどうでもいいテチ! ワタチはお腹ぺこぺこテチ! いいからさっさとワタチに喰われるテチ!! テチャアーー!! ふざけんなテチ! 返り討ちテチ! お前なんかに喰われるワタチじゃないテチ! テヒャアーー。 オテテがー! ワタチのオテテがないテチィ! ママー! ママー! 下賤な糞蟲に何でワタチが喰われるテチ!? ありえないテチこんなの絶対おかしいテチ! テギャア! ありえないのはお前テチ! 下賤なのはお前テチ! 死ねテチ! 死んでワタチのお肉になるテチ! 生き延びて飼い実装になるのはワタチテチ!! テチャァーー。 ■ 「ははっ」 敏明はノートPCでウェブカメラの映像を見ながらストロングゼロを煽る。 わずかな放置で、糞喰いどころか共食いが発生している三畳の映像は地獄絵図だ。 暗い笑いが止まらない。 買った仔実装たちの体格はほぼ変わりなく、成長の差による優位はまるでない。 共食いを選んだ仔実装が逆に返り討ちに合い、或いは相打ちになり、 貧弱な仔実装の微笑ましいぽふぽふバトルの結果は、共倒れ四匹の死骸だった。 やがてバトルに参加しなかった生き残りがそれに群がり、死肉を食べ始める。 三日目に起こった共食いバトル。四日目にはその死体はきれいさっぱり消え失せていた。 「お前たち、糞を喰ったな。しかも、共食いした。糞蟲だな」 敏明が生き残りの六匹に声をかけた。 Bluetoothスピーカーが仔実装たちのいる三畳に敏明の声を鳴らせた。 敏明は別室から、マイクを通じて音声だけを送っている。 虐待派のニンゲンの唐突な糾弾に、仔実装たちは騒然となった。 テチャアー!! テチィ…。 テッチューン♪ 2匹がただ泣き喚き、 2匹が絶望にうつむき押し黙り、 2匹はわけもわからず虚空に媚びた。 敏明は別室のPCから映像を見ている。。 虐待派なりに、ウェブカメの解像度でもそれなりに個体の区別はついた。 媚びた2匹は論外だ。 どちらも共食いの、死体を食い漁った汚い証拠がはっきりと口元にこびりついてる。 泣き喚いた2匹はどちらも糞喰いをした。一匹は死体を食べることもしていた。 そのどちらもしていない、うつむいた2匹。飢え痩せ細った仔実装に敏明は声をかけた。 「全部見てたぞ。お前らは糞喰いも共食いもしなかったな? そこまで飢えていた癖に」 「腹が減ってるだろ? 腹が減れば糞蟲は糞を喰うし共食いもする。美味いらしいぞ? どうしてそれに耐えられた? お前たちはどうして、ほかの糞蟲に同調しなかった? 何故だ? 答えろ」 テヒャア…。 それは絶対やっちゃだめなことテチ。 飼い実装になるためには、超えちゃいけない一線があるテチ。 ずっと躾師さんにさんざんオシオキされたテチ。 ワタチたちには、躾済みペット実装のプライドがあるテチ。 ガリガリに痩せ、2匹の仔実装はわずかに顔を上げそう答えた。 その瞳には未だ理性と知性が宿っていた。 「そうか」 敏明はくっくっと喉の奥を鳴らして笑った。スピーカーのボリュームを目一杯上げる。 「バカが!! この糞蟲ども!!」 テチャアーーー!! 「俺は虐待派だと言ったろ? 飼い実装になる? ペット実装のプライド? 鏡で自分の姿を見てみろよ! 禿裸の糞蟲がまだありえねえ夢見てんのか!?」 テジャアアア!! 「おいお前ら! 糞蟲ども! 俺は糞蟲専門の虐待派だ! 一番嫌いな糞蟲がなにか教えてやる。糞蟲の癖に、糞蟲だって自覚がない糞蟲だ!」 テヒャアアアアア!! 「この糞蟲の手足を喰え。飼い主が許可してやる。共食いは不問にしてやる!」 「根元まで喰らい尽くせ! だが絶対殺すな。喰っていいのはこの糞蟲の手足だけだ! 俺は全部見てるからな。その後で腹が減ったら糞を喰え!」 音量マックスでそう命令すると、通信を切る。 ストゼロを煽り、汚いシングルベッドに倒れ込んだ。 酔いが回っている。敏明はそのまま寝ることにした。 三畳の風景は全部録画しているのだ。 テチャアアアーーー!!!! ワタチのオテテが! ワタチのあんよが!! 痛いテチ! やめろテチ! ひどいテチ! 痛いテチ! 仔実装のか細い鳴き声は最高のBGMだった。 さらに数日放置した。 ■ その間に飢えた一匹が偽石を崩壊させて死に、すぐに喰われた。 禿裸のペット仔実装は、五匹がなお三畳で生きていた。 「ペット実装のプライド」仔実装2匹は敏明の命令の通りに手足を喰われ、 ダルマ状態で部屋の隅で虚空を見上げヒューヒュー言っている。 しかし、肉はもうない。 ダルマ実装をこれ以上喰うことは許可されていない。 狭い鏡張り三畳の虐待部屋は、仔実装の糞で汚れるかと思いきや、意外にもきれいだった。 ダルマ実装以外の生き残りの三匹は、それぞれに耐えるか、糞を喰うかした。 それこそ、床を舐める勢いで全ての糞は三匹の仔実装の腹に収まった。 冬休みに入った敏明は、連日ストゼロを煽りながら、満足げにそれを眺め、 ふらつく足で自室を出ると、虐待部屋の扉を開いた。 大晦日だった。 テチャアーーー!! 「よう糞蟲ども。まだしぶとく生きていやがったか」 泣き喚き逃げ惑う仔実装三匹を見下ろしながら、そう言った。 ウーバーイーツしたフライドチキンの箱をぶら下げ、何本も酒を持ち込み、 満足そうに部屋の真ん中に座る。 テッチャー。 突然現れたニンゲン。ずっと姿を見せなかったニンゲン。恐しい虐待派の到来。 改めて見ても、ニンゲンは山のように大きく、わずか10cmの仔実装たちには脅威そのものだ。 テッチュウン。 しかし、狭い三畳に広がるほかほかのフライドチキンの匂いに仔実装たちは涎を流した。 息も絶え絶えのダルマ実装すら覚醒し両目を見開く。 テチ。テッチ。 お腹空いたテチ。オニク食べたいテチ。 ニンゲンさん、ちょっとでいいから分けてほしいテチ。 テチュテチュー! クソニンゲン! 美しいワタチが飼い実装になってやるテチ! だから早くその肉をよこせテチ! テッチュゥーン♪ 愛しいゴシュジンさまはシャイが過ぎるテチ。でもやっと姿を見せてくれたテチ。 さあ、高貴で可愛いワタチこそがニンゲンさんの飼い実装テチ! 早くご飯をくれテッチューン♪ テヒャア…。 オテテもあんよもないままテチ。もうずっと治らないテチ。でもご飯食べたら治ると思うテチ。 ニンゲンさん、ワタチをどうか助けテチ。 テヒィー。 どうせ死ぬテチ。限界テチ。お肉の匂いも拷問テチ。食べる力もどこにもないテチ。 仔実装たちを完全無視してチキンを頬張る敏明。矢継ぎ早に酒をぐびぐび飲む。 うまい。うまい。 「ウィング(手羽先)は食べでがあるよな。 脂コッテリなドラムやサイはつまみにいいけどやっぱ淡白なキールが一番好きだな」 ■ テチテチテッチィ! ニンゲンさん、聞いてるテチ!? 早く、今すぐその肉を食わせろテチ!! テチュテチュ! こっち向けテチ! なんか言えテチ! ウマウマをワタチが貰ってやるって言ってるテチ! クソニンゲン! テ、テチュウーン♪ このままじゃ可愛いワタチが飢え死にテチ! 死んじゃうテチ! ニンゲンさん! おいクソニンゲン! テヒャァー。 おいしい匂いテチ。ちょっとでも食べれば手足治ると思うテチ。ニンゲンさんお願い助けテチ。 テェー。 どうせ死ぬテチ。みんな死ぬテチ。殺されるテチ。何もかも終わりテチ。 「おっと、忘れてた」 敏明はテチテチ言う仔実装たちを全く無視しながら、 持ち込んだタブレットでyoutubeを再生する。推しのVtuberの年越し配信が始まっていた。 敏明に紅白を見る趣味はなかったが、これも立派に有意義な年末の祭の一部だ。 「推せるわー」 酔ってふらつく目線でタブレットを見つめる。 チキンを食べ、酒を次々空ける。コメントも書き込む。 ポテトをつまみ、ビスケットにメープルシロップをたらたらかける。 全く無視されている仔実装たちが、やがて敏明の足元に集まって来ている。、 しかしそれでも敏明が何の反応も見せないので、仔実装たちは困惑した。 人間の注目を受けたい実装石のサガが、これっぽっちも満たされない寂寥の心の飢え。 仔実装たちは口々に要求を訴え、敏明をポフポフ叩いた。それでも無視される。 まるでどこにもいないかのように扱われている。 テチャアーー! わずかな食べこぼしを狙って、無謀にも敏明の膝に登ろうとする。 飢えからの食欲が八割だが、仔蟲にも自覚できない、注目されたいという本能があった。 ウマウマをよこせテチ! ワタチを見ろテチ!! デコピンが襲った。 登ろうとした仔実装たちは淡々と敏明のデコピンに弾き飛ばさる。 テチャア! テチャア!! どうしても餌にありつけない仔実装たちはそれでも訴え、嘆き、媚び、 それぞれ必死に懸命にアピールし続けた。 しかし敏明は仔実装たちを全くいないものとして扱い続けた。 ■ テチャアー! もう無理テチ! 喰える肉はお前しかいないテチィ!! 飢えた仔実装の一匹がついにダルマ実装に食らいついた。 テヒャアー。 分かってたテチ。どうせ死ぬテチ。でも食べられるのは痛いから嫌テチ。 はやくオイシをパキンさせて楽になるテチ。 「ダルマは喰うなと言ったよな?」 テギャアアアア!! 敏明は冷たくそう言って、キッチン鋏を取り出す。、 ばちんばちんと、ダルマを食おうとした仔実装の手足をあっという間に切断した。 ダルマが増えた。 テッチュウン。 糞蟲の手足がばらばらテチ。 お肉ができたテチ。 ご飯テチ。 テチャアーーー! やめるテチ! ワタチのオテテとあんよテチ! 喰うなテチ!! 仔実装二匹が、散らばった肉に群がる。 餌テチ。ご飯テチ。お腹ぺこぺこテチ。 死にたくないテチ。 ダルマになった仔実装の千切れた手足は食べ尽くされた。 それだけじゃない。 テチャアアアア!! やめるテチ! 食べるなテチ! 美しい飼い実装のワタチを食べてはいけないテチ!! 必死で訴えるが、新たなダルマ実装は敏明が言った「決して殺すな」の対象ではない。 tレギャアアアアアー!! カケラも残さず喰い殺され、部屋の生き残りは四匹になった。 ■ テチュテチュテチュテチュ。 こんなの地獄テチュ。パキンしたいテチュもう限界テチュ。 ダルマの一匹がさらに同じことを叫び続ける。 栄養剤に浸けられた偽石の色が急速に黒く染まっていく。 パキン。 テヒャアー。 ダルマの一匹はどこか満足そうに自壊し、死んだ。 テッチュウン♪ 死んだテチ! 死んだからコイツはもうただの肉テチ! ワタチのご飯テチ! 一匹がその死体に覆いかぶさるように飛びつき、グチャグチャと食べ始めた。 Vtuberの配信を見ている敏明は咎めない。 酒を飲み、チキンを食べている。 テチャアー!! ワタチも食べるテチ! 食べないと死ぬテチ! 死ぬのは嫌テチ! もう一匹が慌てて、肉にありつこうと遅れて飛び出した。 しかしダルマの死体は一匹が独占している。 近づこうとしたら激しく威嚇された。 なので、生きているもう一匹のダルマの腹に食らいついた。 テジャアアアアアアア!! 「本当、糞蟲は馬鹿だな」 ばちんばちん。 敏明は「ダルマを殺すな」ルールを破ろうとした仔実装の手足をキッチン鋏で切断した。 流れるような手際だった。 テ? テチ? 死体を食べ終わった仔実装は上を見上げて少し考えた。 目の前にはダルマ仔実装が一匹。これは食べるなと言われている。 その横には今さっき敏明にキッチン鋏で四肢切断された仔実装がテチャテチャ呻いている。 これを食べるなとは言われていない。 テッチャーーー!! やめるテチ! ワタチを食べるなテチ! ワタチを食べてはいけないテチ!! テププププ。 お前はバカテチ。糞蟲テチ。クソニンゲンはお前を食べるなとは言ってないテチ。 ワタチは賢いから覚えてるテチ。知ってるテチ。 テチャアアアア!! 待つテチ! 待ってテチ! お前と同じようにお腹が空いてるテチ! 食べたかっただけテチ! テプププププ。 うるさいテチ。どうせ糞蟲のお前はすぐに死ぬテチ。 だったらワタチの肉になるのがずっといいテチ。お前はそのために産まれてきたテチ。 テチャアアアアアア!!!!!! やめるテチ! ワタチを食べるなテチ! クソニンゲン、ワタチが死ぬテチ! ワタチを助けテチーー!! 「お。年越しか。新年おめでとー。ことよろです、と」 敏明は推しのVtuberに2000円くらいのスパチャを送る。 ベロベロに酔った状態で狭く汚い三畳に目をやると、生き残り仔実装は2匹になっていた。 「ハッピーニューイヤー」 ぐるぐる回る視界の中で笑顔でそう言うと、そのまま床に寝落ちした。 ■ 元旦。 とんでもない実装臭と腐臭と糞臭の中で敏明は目を覚ました。 さすがに飲みすぎた。糞蟲どもの虐待部屋で寝落ちするとは。慌てて浴室へと駆け出す。 当たり前だが、酷い二日酔いだ。 シャワー中に一回吐いたが、そのせいか大分楽になってきた。 丁寧に髪と体を洗い、せっかくだから湯船にお湯を張って、ゆっくりと入浴した。 ドライヤーをして、すっかりきれいになると、ふらふらベッドに入ってそのまま眠った。 目覚めたのは翌日。日付は1/2。 夜明け前だったが、貴重な元日をまるまるダメにしたことに敏明はしばらく後悔した。 「くそがー」 敏明の冬休みは明日で終わりだ。 今年はちゃんと楽しめただろうか? ちゃんと日々のストレスを癒せただろうか? まあいい。 三日まで休みだ。 その間は無礼講。どれだけ酔っても自己責任だ。 カシュッ。 敏明は迎え酒を始めながら、改めて三畳の虐待部屋に向かった。 テヒー。テヒー。 テッチャアアアア!! 生き残りの仔蟲は二匹。 半端に賢かったためにダルマにした一匹と、 ほかの全ての肉を共食いして生き残った糞蟲だ。 さあどうやって遊ぼうか。 「…ってお前、なに勝手に遊んでんだよ」 虐待部屋の臭いはすさまじかった。 吐き気を催すほどの実装臭。 急速に醒めて行きそうになる酔いを何とか押しとどめようと、敏明は酒を飲んだ。 テッチュウーン♪ 生き残りの糞蟲は、共食いで充分に肉を食べていたから、元気が絶好調で有頂天だった。 そこかしこに大量の糞をひり出していて、置き忘れたチキンのボックスの中は糞の山だ。 わずかな食べ残しを骨までしゃぶって、その代わりとばかりに糞を詰めたのだろう。 まるで託児の跡の惨状のようだ。 それどころか。 「殺すな」と命じたダルマ実装に強制的に糞を喰わせたようだ。 テヒー。テチャアー。 もうウンチ嫌テチュ。死にたくないテチュ。おいしいテチュ。ご飯もっと食べるテチュ。 ダルマ実装の片割れは、プライドこそあれど、食欲もあって生きたがりだった。 嫌々ながら、というていで仔蟲の肉やチキンの肉の混じった糞を食べたのだろう。 偽石が栄養剤に浸けられていたこともあってか、失った手足が再生しかけていた。 それを糞蟲が食べた形跡があった。 ダルマが糞蟲の糞を食べる。 ダルマの手足が再生し出す。 それを糞蟲が食べる。 糞蟲は虐待部屋の生き残りとして、ただ一匹の勝者の栄誉を思う存分満喫していたのだ。 「お前すげえな。さすがにドン引きだよ。糞蟲中の糞蟲だわ。楽しそうじゃねえか」 思わず素直に賛美を送ってしまった。 スパチャなら500円くらい払ったかも知れない。 テッチュウーン♪ 空気は読めないが、注目されることに敏感な糞蟲が、誇らしげに頬に手を当てた。 敏明に向かって媚びる。悪臭のするミツクチが、汚い歯が、醜く笑顔のかたちを真似る。 テチュテチュ。テッチュウーン♪ ゴシュジンさま、ワタチが一番だったテチ。 ワタチだけが、ゴシュジンさまのお家の中で元気にお腹いっぱい幸せに生きてるテチ。 糞蟲のお肉おいしかったテチ。 ゴシュジンさまがくれたフライドチキンおいしかったテチ。 ダルマの手足おいしかったテチ。 ワタチの糞で何回でも生えてくるテチ。 おいしかったテチ。幸せテチ。 ゴシュジンさまの飼い実装でワタチ、本当に幸せテチ。 「すげえな糞蟲…。正月が終わらないじゃないか…」 敏明は懐のキッチン鋏を取り出すことをやめた。 三ヶ日の間に虐待用仔蟲を皆殺しにして旧年の禊とする個人的な祭が、 延長戦に入ったことを感じていた。 テッチュウーン♪ 糞蟲が満面の笑顔で敏明に媚びている。 コイツの中では、今言ったことが全部真実になっているのだろう。 俺に飼われて、俺に選ばれて、期待通りに自分だけが一番優秀だって証明したと。 自分だけが真の飼い実装なんだと。 自分は愛されていると。 全く、糞蟲の幸せ回路、侮りがたし。 ■ その日、敏明は三畳の虐待部屋でほどほどに酒を飲んだ。 つまみの一部を糞蟲に投げ、 甘いリキュールをダルマに飲ませ、 なんと仔蟲との酒盛りを楽しんでしまった。 自分は幸せな飼い実装だと夢心地の糞蟲の頭をぽんぽんとさすり、 甘さとアルコールのコンボに涙と涎と糞を垂らして喜ぶダルマに微笑んだ。 酔いの幻想も多分にあったろうが、 虐待派と糞蟲の不思議な宴会が数時間、そこにはあった。 翌日、1/4から敏明は日常に戻った。 出勤し、仕事をしている。 個人的な祭として三ヶ日中には皆殺しになるはずだった仔蟲二匹はまだ三畳で生きている。 仕事から戻ると、ウェブカメの中継や録画の映像を見ながら酒を飲んだ。 糞蟲が笑顔で糞をダルマに食べさせ、ダルマはその糞を笑顔で喰らい、 そして生えてきた手足を糞蟲が食べた。 二匹の仔蟲は笑顔だった。 1/5も仕事をして、帰宅すると自室からウェブカメを見つつ飲む。 テヒー。テヒー。 テッチャアアアア!! まる二日、餌がないこと、敏明が姿を見せないことに仔蟲たちは動揺していた。 「ははっ」 ついに糞蟲が自分の糞を食べ始めた。 ダルマに糞をやらなくなった。 奇跡のような瞬間は一瞬だけなのだ。 すぐに餌となる糞は舐め尽くされるだろう。 手足の再生がしなくなったダルマをやがて食べようとするだろう。 俺は最初の予定通り、糞蟲の手足をキッチン鋏で落とすだろう。 そうしたら。 三畳にはダルマが二匹、蛆のように這いずって自分の手足やお互いを喰うだろう。 テッチュウーン♪ 深夜、糞蟲が虚空に向かって媚びている。 俺が見ていることが分かっているのか、ただやってみてるだけか。 糞蟲の知性については実際のところ、全く分からない。 テッチュウーン♪ ゴシュジンさま、ご飯がないテチ。ご飯をくださいテチ。ワタチはあなたの飼い実装テチ。 ご飯がないとワタチが死ぬテチ。可愛いあなたの飼い実装が死んでしまうテチ。 ゴシュジンさま。ゴシュジンさま。 テヒー。テヒー。 オテテもあんよも食べられるの嫌テチ。でももうオテテもあんよもないテチ。 ウンチ食べるのも嫌テチ。あの甘いフワフワなオミズまた飲みたいテチ。 ウンチも食べさせてもらえないテチ。お腹空いたテチ。ウンチでもいいから食べたいテチ。 そうしてやる理由はどこにもないのだが、敏明は三畳へのマイクをオンにした。 「うるせーーーー!!」 音量は最初からマックスだ。 「俺はお前たちを飼ってやってるんだぞ! 餌なんかやるかよ!!」 おしまい ■ おかげさまで七作目デスゥ。 今年もよろしくお願いしますデッスーン。 @ijuksystem
1 Re: Name:匿名石 2023/01/04-15:17:12 No:00006659[申告] |
餌なんかやるかよ!!って凄いパワーワードですぅ |
2 Re: Name:匿名石 2023/01/07-19:32:31 No:00006682[申告] |
いいね
しょせん実装石のプライドなんて泡沫のようなものだ 踏みにじられることだけが価値だ |
3 Re: Name:匿名石 2023/02/04-17:08:17 No:00006749[申告] |
物理でなく精神で殴る展開で良いですね。
そして最後の〆のキレも素晴らしい 「俺はお前たちを飼ってやってるんだぞ! 餌なんかやるかよ!!」 コレは毎回うまいと思います。 |
4 Re: Name:匿名石 2023/02/17-04:35:59 No:00006820[申告] |
4日が月曜で1週間の仕事がフルにある年だとそういう感じにならないけど
今年みたいに平日が2、3日で次の休みになる年だと延長戦感あるよね という空気をうまく取り込んだ作品だと思った |
5 Re: Name: 2023/06/26-21:52:24 No:00007361[申告] |
〉俺はお前を飼ってやってるんだぞ 餌なんかやるかよ
鼻なしさんのペットボトル実装ですね、当時は色んな作品で引用されました。 久しぶりに再開できて懐かしかったです、ありがとう。 |
6 Re: Name:匿名石 2023/06/26-22:56:05 No:00007362[申告] |
この名言ぶちかましながらもうっかり一緒に酒盛りしちゃうオールドスクール虐待派の男がこの後の自称どっちにも属さない系の直接手を下さない奴の対比になってる感じがして好き |
7 Re: Name:匿名石 2024/02/05-09:40:34 No:00008682[申告] |
酔いに任せて糞蟲と宴会しちゃうとこ大好き |