タイトル:【観察】 実装石と生きる一族②
ファイル:実装石と生きる一族②.txt
作者:石守 総投稿数:9 総ダウンロード数:747 レス数:3
初投稿日時:2021/12/11-09:03:41修正日時:2021/12/11-09:03:41
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   実装石と生きる一族②  糞と風呂



実装石たちがデステステチレチレフと楽しげに食事をしている間に、
昨日用意してやった糞用の穴を見に行く。

   ……クサい  やはり、クセぇ

早速、どちらの糞穴も使用されている。
しかも、飢餓に近い状態だったろうに、それぞれ結構な量がある。

   これぞまさに、糞蟲、だな

どちらの穴も、縁の辺りに少量の水っぽい糞が付着している。
糞質から見て、親指の糞だろう。
身体が一際小さいので、穴の中に届かない分があるのは仕方がない。

蛆実装にいたっては、そもそもこの穴を自分では使えまい。
ホソがどうにか処理してやっているのかもな。

しかし、繰り返すが、とにかく、臭い!

実装石の腸内バクテリアは、食物の消化吸収に絶大な能力を発揮するが、
その一方で腐敗も早く、糞の臭いをより凄まじいものにする。

この蟲どもは、これまでは他聞に漏れず、愛護派が配る実装フードや
森林公園の木の実だけでなく、ごみ箱などを漁って人間の生ゴミなども
食べていたはずだから、なおのこと臭いのだろう。

我が家の庭で正しい食べ方を覚えれば、今後大分マシになっていくとは
思うが、それでもまず、糞の後処理も覚えさせなければならないな。

「親蟲2匹、と中蟲。こっちへ来い」

仔実装と親指実装にドクダミ団子の作り方を手を取って教えながら、
ホソに至ってはウジに素嚢乳も与えながらという忙しさの合間を縫って
自分たちも食べていた都合上、まだ食事の最中だったようだが、そんな
ことは私の知ったことではない。
第一、この蟲どもの糞の臭さが呼んだ理由だ。

しかし、感心なことに3匹は、呼んだらすぐに小走りでやって来た。
なかなかに大したものだな、コイツらは。

まあ、今だけかも知れんし、命令に従わなければ、即、殺すのだが。
この実装石たちは、それを既に理解し、徹底し始めているのだろう。

「糞穴の使い方は、まずは合格だ」

デスゥ、デス、テスと俺の誉め言葉に対して礼を言う。
……行儀が良いな、ホントに。躾を受けた経験でもあるのか?

「だが、臭い。蟲どものクソだけに、まさに、耐えがたい汚物臭だ。
 そこで、だ、このニオイが少しでもマシになるように、糞をした後に
 やるべきことを、今から教えてやる。ちゃんと一度で覚えろよ」

まず、枯れた葉や草を持って来させる。

「それを千切って糞にかけろ。なるべく多い方が良い」

指のない実装石の手だが、歯も使わせて枯れ葉や枯れ草を細かくさせる。

次いで、穴の中心まで余裕で届く長さの木の枝を、3匹にそれぞれ渡す。
身体がまだ小さいチュウは、ちょっと持て余すようだが、今後慣らせる
必要上、やらせておく。

「葉っぱと草を糞に良く混ぜて、なるべく穴の中心へ押し込めろ」

こうすれば穴の縁付近にばかり糞が溜まることもなく、“良い”発酵を
少しでも進ませることで、臭いもマシになることを期待する。

最後に、丸手で掬った土や砂を糞山にたくさん掛けさせて、作業終了。
本当は藁を混ぜたいところだが、この庭にはないので仕方がない。

この実装石たちには、基本的に、庭にあるものだけで生活をさせるのだ。

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糞の処理を教えたところで、フルフェイス・リンガルのヘッドアップ・
ディスプレイに表示されている時計を見たら、9時近くになっていた。

朝飯を食べていないので腹が減ったが、基本ルールは教えてしまいたい。

デカ、ホソ、チュウは、めいめいで糞をしている。

離れた場所から横目に見ていたが、3匹とも、通常“パンツ”と呼ばれる
実装石の腰羽を脱いで手に持ち、デズゥゥゥ、デッス~、テスゥーウと
穴の縁でフン張っている。     ああクセえ! 多いわ!
そして、糞を出し切った後には、軟らかめの草で総排泄腔を拭いている。
なるほど、清潔なわけだ。
野良実装石としては、出来すぎなレベルとさえ言える。

だが、実装石の“不気味の谷”的な尻と総排泄腔を見る羽目になる、私の
身にもなりやがれ、と苛立ってしまう。
気持ちが悪い。

   恥じらいがねえのか、この蟲どもには
   ああ、良蟲だろうが糞蟲だろうが関係なく、
   スッキリと殺してしまいたい

だが我慢である。
これが私の仕事だ。
現時点まで見ただけでも、これだけ逸材の実装石たちなのだ。
今後二度と、同レベルの実装石に会うことができない可能性が高いだろう。

頭を振って気分を入れ換え、出され立てホヤホヤの大量の糞の処理が、
先ほど教えたとおりにきちんと済まされたのを確認してから、3匹を
次に、水道のところへ連れて行く。

「ここは、水飲み場であると同時に、蟲どもの身体と服の洗い場だ」

モルタルで囲まれた2メートル四方の、かなり大きな洗い場である。
一部は意図的に水が浅く溜まるように凹んでおり、仔実装、親指実装、
蛆実装が水を飲むのにも、身体を洗うのにも使えるよう考慮されている。

排水口には、最も小さい蛆実装の流され落下溺水死亡事故防止を考慮し、
目の細かい金具が取り付けられている。

こんなところまで、我が社の準備は、至れり尽くせりなのだ。

「“服”と呼ばれている蟲どもの胴羽と、その醜い身体、それと、フケと
 ノミで汚ならしい頭飾り羽、“髪”は毎日洗え。(実際には、デカたち
 親仔の頭には、フケはともかくノミはいないようだが、注意喚起だ)
 蟲どもの皮膚からは、粘液が分泌されていて(おそらく特製リンガル
 では「ネバネバした液が出ている」くらいに翻訳されているだろう)、
 それが蟲どもの悪臭の元になっている。
 だから、これをもしサボるような臭い蟲がいれば、それは禿裸にする」

実装石にとって、命の次に大事な髪(頭飾り羽)と服(胴羽)が無慈悲
に奪われると告げられ、デカ、ホソ、チュウは、再び震え上がる。

慌てて、満腹になってテチレチレフーと暢気に幸福げに寝転がっている
仔実装、親指実装、蛆実装たちを小脇にまとめて抱えて連れてくると、
手際よく服を脱がせ、それを揉み洗い始める。

その手付きも、実装石の丸手の割になかなかに手早く丁寧で、なんとも
見事なものなのだ。

   「蟲系」の実装石でも、数ある中には、
   こんなにマトモな個体がいるものなんだなぁ

仔実装や親指実装たちが、テチャレチャと楽しげにお互いの身体や髪を
洗い合う様子は、実に微笑ましく感じられる。
実装石という生き物が、元々虐待の対象とするべく造り出されたことを
知っており、それだけに、実装石には幸せになる権利があるなどという
世迷い言を、チャンチャラおかしいと考える私でさえ、だ。

『あのテス、ニンゲンさま』

足元に真っ裸のチュウが寄って来た。

平均的な中実装より痩せているが、その分、ブヨブヨの醜さが少なく、
不快さではかなりマシだ。健康的にも、色ツヤはそう悪くない。
皮膚の所々に傷や汚れが残っているが、概ね綺麗に洗われている。
大変よろしい。口には出さないが。
ただし、見えている総排泄腔の割れ目には、生理的嫌悪感を感じる。

「なんだ」
『あの、なんでニンゲンさまは、ワタチたちのお服を“羽”っていうテス?』

どうやら、チュウの知能がこのグループの中で一際高いのは、確定だな。
普通の実装石では、そんなことを疑問にも思うまい。
さらにチュウは質問をしてきているのだ。
好奇心の強さは、知能の高さの現れだ。

「一見“服”のように見えるのは、昔、実装石が鳥に近かった頃の羽毛が、
 今のように変化してできたものだからだ」
『ワタチたちジッソウセキが、お空を飛ぶ鳥テス?』
「鳥の中には飛ばずに、地面の上を歩いて生活するヤツはたくさんいる。
 進化といって、長い長い間に、生きていくために必要なように、違う
 身体に変わって行くんだ。
 人間も、昔は犬や猫のように、全身に毛が生えていた。
 実装石は、恐竜が鳥に進化する過程で枝分かれした生き物が基だ」
『キョウリュウ、テス?』

と、そこまで話していた時

   ビィィイイイーー!!!  ビィィイイイーー!!!

突如、リンガルがフルフェイスの内部に、けたたましい警報を鳴らした。

  【 敷地内に 未知の 実装石が 複数 侵入 】

自宅内の、実装石警戒システムからのメッセージ送信だ。

次いで、侵入箇所がヘッドアップ・ディスプレイに表示される。

庭の南の端、南東の角付近。

……チュウたちを庭の中に誘導した穴の辺りだ。
というか、昨日チュウたちを庭に入れた後、塞いでおくのを忘れていた。

『な、なにテスッッ…………』

焦って問いかけるチュウに構わず、私は庭の奥に向かって駆け出した。

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我が家の敷地は、1千坪を超える。
何せ、南北は端から端まで、100メートル余りもあるのだ。
家としては豪邸レベルだが、これは用途名目上、居宅ではなく我が社の
研究所扱いとなっているからだ。

その我が家の敷地の南半分は、クリ、クヌギ、トチ、ミズナラ、シイ、
イチョウ、クルミ、カヤ、などなど……といった堅果類が、今の季節には
溢れんばかりに実る、豊かな森となっている。
その代償として、敷地内の見通しは、非常に悪い。

侵入した実装石に近付く前に、足を止め、腰を屈めて摺り足になる。
不用意に近付き、気付かれて逃げられると厄介だ。

警戒システムからの情報では、侵入実装石群は、塀づたいにノロノロと
西方向に移動しつつあるようだ。

私はまず、東の壁沿いに自宅敷地の南の角まで進み、南東の塀に開けた
穴を、外してあった重く厚い鉄板と大きな石でピタリと塞ぐ。
こうすれば実装石には、何匹がかりだろうと動かすことはできない。
侵入実装石たちは、庭の中で袋のネズミだ。

この穴は、平均な体格の成体実装石が、匍匐前進体勢になってようやく
通り抜けられるだけの大きさに作ってある。
我が家の庭の外周は、機密性を高めるため高さ2メートルを優に超える
堅牢な白いコンクリート塀でぐるりと囲まれているが、ここだけ唯一、
実装石を任意に庭へ誘導するために、わざわざ穴を開けてあるのだ。

人間が見れば不自然さと作為を感じる穴だろうが、実装石にそこまでの
頭も観察力も無い。

現に、チュウでさえ昨日はここをくぐったわけだ。
慢性的な空腹と長旅の疲れで冷静な判断力を欠き、それを不自然だと
気付くどころではなかったという事情もあろうが。

ともあれ、侵入実装石だ。

この予定外の実装石たちの性質は現時点で不明だが、不確定要素を極力
排除しておきたいこと、そして、安全性と今後の展開を考慮した場合、
デカホソ組と接触されるのは好ましくないという結論に至る。

とすれば、新たな実装石に対する方針は、排除以外にあるまい。
そのためにも、まずはそれらに接近しなくてはならない。

ヘッドアップ・ディスプレイで招かざる実装石たちの位置を、絶えず
確認しながら、慎重に接近を図る。
静かに、静かに……

数分後、その情報が正確なら、もう既に、10メートルほどの距離まで、
侵入実装石群に近付いているはずの位置に進む。

と、強化フィルム越しの視界の端に、何か動く物があった。

南西の角から北へ5メートルほど。
太いシイの木の根元辺り。

   ……いた

目測約60センチの小太り体型の成体実装1匹と、20センチほどのプチ
ポチャ仔実装が4、いや5匹。

視認はしたものの、森の中にあっては、やはりかなり見えにくい。
実装石の服の緑と胸の白、頭から背中に長く伸びる“髪”の茶系の配色は、
カウンターシェーディングとして合理的であることが分かる。

そしてこの侵入実装石たち。
デスデス、テチテチと粗野にうるさい。 テププ テッチャー! ……うるさい(怒)
仔実装たちは親実装から離れて好き勝手に行動し、実にまとまりがない。
親実装は親実装で、地面に落ちているトチの実やシイの実を拾っては、
手当たり次第にボキボキ食べている。
そして、どの個体も、身体も“服”も、“パンツ”まで、極めて汚い。

   (怒)
   はい、糞蟲 確定~~♪

さあ、お楽しみの始まりだ。



     ——続く——

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1 Re: Name:匿名石 2021/12/11-17:06:12 No:00006447[申告]
もう続きが来た!ありがたいありがたい
2 Re: Name:匿名石 2021/12/11-17:14:07 No:00006448[申告]
おお、続きありがたい。
是非、完結までやってほしいです。
3 Re: Name:匿名石 2021/12/11-21:51:03 No:00006449[申告]
続きが来た!ありがたい
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