『【観察】実装射的』 ---------------------------------------------------------------------------- 「……テェェェン! タカイタカイテチィ! コワイコワイテチィ!」 「……イヤイヤテチィ! 下ろしテチィ! 落ちたら飼い実装になる前にチんじゃうテチィ!」 「……テェェェン! テェェェン! テェェェン……!」 テチテチと元気に鳴いているのは実装射的の景品の仔実装ちゃんたちです。 ニンゲンさんの射つ空気銃に上手に命中して陳列台から下りることができれば、おウチに連れて帰ってもらえます。 夢の飼い実装生活が待っているのですから、みんな自分に弾丸が当たりますようにと震えて祈っています。 「……ヤメテチヤメテチィ! パンパンを向けないデチィ! コワイコワイテチィ!」 「……降参テチィ! ホールドアップテチィ! 撃たないデチィ!」 縁日の定番である実装射的。 その屋台は紅白幕をバックにして、三本の角材が高さと前後を変えて左右に渡してあります。 最上段が一番後ろ、中段がその少し手前、最下段が一番手前で、真横から見れば斜めに並んでいるかたちです。 角材の上には紙コップがひっくり返して並べられ、仔実装ちゃんたちは、その上に立っています。つまりそれが陳列台です。 最上段の角材はオトナのニンゲンさんの目線の高さ、最下段でもニンゲンさんの腰ほどの高さです。 もしも仔実装ちゃんが落ちれば危険な高さですが、みんな飼い実装になりたくて勇気を振り絞っているのです。 「……もうダメテチィ! 足がすくんで立ってられないテチィ……!」 「……飼い実装なんてならなくていいテチィ! いますぐ下ろしテチィ! テェェェン……!」 角材を渡してある手前には、最下段のそれよりも少し低い柵が置かれて、そこにも紅白の幕が張ってあります。 屋台の店番のオジサンは柵の向こう側にいるので、幕に隠れて足元は見えません。 仔実装ちゃんが陳列台から下りるのも柵の向こう側になるので、オジサンが拾ってお客のニンゲンさんに渡してくれるはずです。 お客さんが空気銃を構えるのは、柵から少し離れて置かれた長机の手前からです。 店番のオジサンはお客さんが狙いをつけている間は邪魔にならないよう、屋台の端っこに控えています。 「……お願いテチ! 赦しテチ! 公園に捨て実装してくれればいいテチ! チにたくないテチィィィ!」 「……テェェェン! 生まれて一度もシアワセなんてなかっテチィ! チんでもチにきれないテチィ!」 仔実装ちゃんたちの実装服の前掛けには、黒マジックで数字が書いてあります。 屋台の店番のオジサンが男らしく書いた字です。読めないことはないのですから、ヘタクソなんて言ってはいけません。 お客のニンゲンさんは仔実装ちゃんを飼い実装にお迎えしたくて、慎重に空気銃の狙いをつけます。 どの仔が飼い実装になれるのか。仔実装ちゃんたちには緊張のときが流れます。 「……テヂャァァァッ!! こっちにパンパンを向けたらダメテヂャァァァッ!!」 「……ダメテチダメテチ! イヤイヤテチ……テヂャッ!?」 できるだけ弾丸に当たるチャンスが増えるようにと、両手を大きく振っていた一匹の仔実装ちゃん。 バランスを崩してしまって紙コップごと陳列台から落ちるのと、お客さんが空気銃を発射したのが同時でした。 「……テヂャァァァッ……ヂィッ!?」 地面に激突した仔実装ちゃん、頭巾の下の頭が半壊して、赤と緑の血肉を散らします。 空気銃を撃ったお客さんが、横で見守っていた友人のニンゲンさんと顔を見合わせ、 「当たったんじゃね?」「当たったよなあ、だから落ちたんだろ」 「いやいやお客さん、空気銃の弾丸は黄色のペイント弾ですよ。後ろの紅白幕に当たって、ほらそこが黄色くなってるでしょ」 店番のオジサンが笑って指差しますが、紅白幕は最初からあちこち黄色く染まっています。 「実装ちゃんを見てもらっても、どこも黄色くなってないですが、ご覧になります?」 「いや……いいです」「なんかグロそうだし」 お客さんとその友人さんは苦笑いで首を振ります。 柵の向こうに落ちた仔実装ちゃんの姿は見えなくても、聞こえて来た悲鳴でどんなことになっているかは想像がつきます。 ペイント弾が当たらなかった仔実装ちゃんは惜しくも飼い実装になるチャンスを逃しました。 陳列台に戻って再チャレンジを目指したいところですが、それは少し難しそうです。 「……テェェェ……」 ふるふると震えながら倒れ伏していた仔実装ちゃんに店番のオジサンが近づいて、優しく抱き上げます。 そして屋台の端で柵の向こうに隠すように置いていたポリバケツに、そっと仔実装ちゃんを移しました。 片手でつまんで投げ捨てたように見えたとしても誤解です。仔実装ちゃんは実装射的の大事な景品なのですから。 柵の向こうには景品になる仔実装ちゃんたちが、たくさん入った水槽もいくつか積み重ねてあります。 「……テヂャァァァッ! ここは狭すぎるテヂャッ! ワタチ以外のクソムシを詰め込みすぎテヂャッ!」 「……テェェェン! 誰か漏らしテチィ! ウンチ臭いテチィ! ここから出しテチィ!」 店番のオジサンは腰をかがめて、一番上に積んだ水槽の蓋を開けました。 「「「「「……テッチューン……♪」」」」」 仔実装ちゃんたちは、さっそくオジサンにご挨拶します。みんな早く陳列台に並べてもらって飼い実装になりたいのです。 しかしオジサンは、一匹の仔実装ちゃんに目を留めて顔をしかめました。 「クソ垂れてやがる、クソッタレ」 オジサンは、その仔実装ちゃんを片手で抱いて水槽の外に出すと、まん丸い頭を、もう一方の手で優しく包みます。 そして、くいっと仔実装ちゃんの首を二百七十度回転させました。 「……ヂッ!?」 仔実装ちゃんは小さく鳴いて、すでに緑色に染まって膨らんでいたパンツの裾から、ぽとぽとと糞を垂らします。 ちょっとした粗相をしていたせいで、お仕置きされてしまったのでした。 ぐったりと眠ってしまったような仔実装ちゃんを、オジサンはポリバケツに移します。 そして粗相をした仔実装ちゃんの近くにいて実装服が汚れた別の仔実装ちゃんも三匹ほど、同じように首を回して眠らせました。 景品になる仔実装ちゃんは、まだたくさんいるのですから、何匹か眠ってしまっても問題ありません。 オジサンは新しく元気な仔実装ちゃんを選んで右手で抱っこして、左手に黒マジックを握ります。 どうでもいい話ですがオジサンは左利きだったのです。そして仔実装ちゃんの前掛けに男らしい字で番号を書き込みました。 先ほど陳列台から落ちてしまった仔実装ちゃんと同じ『8』という番号です。 「……テッ!? ダイジダイジなお服に何を落書きしやがるテヂィィィッ!!」 景品としての番号をつけてもらった仔実装ちゃんは嬉しそうにイゴイゴと手足を振ります。 オジサンは新しい紙コップを角材に伏せて置き、その上に仔実装ちゃんを立たせました。 「……テヂャァァァッ!? これは何のマネデヂャァァァッ!?」 仔実装ちゃんたちは自分たちが実装射的の景品になると聞かされていました。 偽石に刻まれた記憶で仔実装ちゃんたちは、縁日の射的の景品は当たれば持ち帰れるものと中途半端に理解していました。 まともに飼い実装として可愛がられていた遥か昔の先祖が、御主人様に縁日に連れて行ったもらったことがあったのでしょう。 そこで自分たちも景品になるならニンゲンさんのおウチに連れて帰ってもらって飼い実装になれると考えたのです。 「……コワイコワイコワイテヂャッ!! いますぐ下ろすテヂャッ!! ギャクタイハンタイテヂャァァァッ……!!」 店番のオジサンが屋台の端に下がったので、お客のニンゲンさんはもう一度、空気銃を構えました。 そして、テヂャテヂャと元気よく鳴いている仔実装ちゃんに、見事に命中させました。 「……テッ!?」 ペイント弾といっても小さな仔実装ちゃんには当たれば結構な衝撃です。 陳列台から弾き飛ばされて、地面に落ちました。 「……テヂョッ!?」 また緑と赤の血肉が散りました。 お客さんは空気銃を下ろして友人さんとハイタッチします。 「当たったよなあ」「当たった当たった、今度こそ」 「はい命中、おめでとうございまーす! 『108』番、ポンタンアメでーす!」 店番のオジサンは小さな箱入りのアメをお客さんに差し出しました。 お客さんは首をかしげ、 「でも仔蟲には『8』番って書いてあったじゃないですか」「そうですよ、『8』番だから景品はブレステでしょ?」 「いやあ、お客さんが撃った仔実装ちゃんは『108』番ですよ、確かめてみます? ちょっとグロいかもしれませんが」 にんまりと笑うオジサンに、お客さんたちは苦笑いで首を振りました。 「いやあ、いいですわ」「もともと景品目当てよりも仔蟲を撃ちまくるのを愉しむゲームだし、なあ?」 紅白幕の上のほうには番号と賞品名が書かれた貼り紙がしてありました。 『1番 最新8Kテレビ』『2番 ノートパソコンFNV』『3番 ブルーレイレコーダー』など小さい番号ほど高価な賞品です。 一桁台の番号が前掛けに書かれた仔実装ちゃんたちは、お客さんから一番遠くて一番高い最上段で震えています。 『11番~20番 JGBギフトカード三千円分』 『21番~30番 クーグルPLAYギフトカード千五百円分』 『31番~50番 QUQカード五百円分』 ……など、大きな番号でもそれなりの賞品が並び、『51番』以降は『駄菓子各種』となっています。 でも、お客さんが何番の仔実装ちゃんに命中させたとしても、オジサンは百を足した番号を読み上げます。 お客さんが仔実装ちゃんを見せてほしいと要求すれば、地面から拾い上げるときに番号を書き換えるだけです。 それが実装射的のお約束なのです。 「……テェェェ……でもこれでワタチは飼い実装テチ……ゴシュジンサマ早くビョウインに連れて行っテチ……」 ふるふると身を震わせる『8』番の仔実装ちゃんを、オジサンはそっと抱き上げて、ポリバケツに移しました。 ポリバケツの中には、すでにぐったりと眠っていたり、もうすぐ眠りにつきそうな仔実装ちゃんが何匹もいました。 見事に空気銃に撃たれた仔実装ちゃんは、めでたく飼い実装になれるはずでした。 でも、そうなる前にどうやら眠りについてしまいそうでした。 『8』番を『108』番と言い張った店番のオジサンですが、仔実装ちゃんたちに対しては何もウソをついていません。 オマエたちは射的の景品になるのだと言えば実装蟲どもは大人しく水槽に収まる。窮屈に詰め込んでも逃げ出しはしない。 オジサンの稼業、すなわちテキ屋業界では常識とされている話です。 仔実装ちゃんをペイント弾と同様の消耗品としか見ていないオジサンは、彼らに話しかけるのもバカらしいと思っています。 ただ業界の常識に従って、仔実装ちゃんたちに射的の景品になるのだと伝えたというだけのことです。 「……テェェェン! またオトモダチが悲しいコトになっテチィ!」 「……ワタチは何も悪いコトしてないテチィ! 生まれてすぐここに連れて来られて悪いコトするヒマもなかっテチィ!」 「……もうイヤイヤテチィ! コワイコワイのイヤイヤテチィ! どうチテこんな目に遭うテチィ! テェェェン……!」 次に飼い実装になるのは自分だと、元気よく鳴いてみせる仔実装ちゃんたち。 愉しい縁日の夜は、まだまだ続くのでした。 ---------------------------------------------------------------------------- 【終わり】
1 Re: Name:匿名石 2019/10/14-13:29:16 No:00006124[申告] |
バカ仔蟲どもの泣き声が聞こえてくるなあ
いいなあ、俺もやりたいなあ |
2 Re: Name:匿名石 2019/10/14-21:04:22 No:00006125[申告] |
前にFLASHのゲームで同名のタイトルがあったね
これは一発当たれば落ちていくだけだけど 仔蟲じゃなく成体を磔にして部位ごとに景品つけても面白いかも |
3 Re: Name:匿名石 2019/10/14-23:43:36 No:00006126[申告] |
自分で装備や準備をしなくてもお手軽に仔実装を撃ち頃せるなんて最高な屋台です。
市におびえる仔実装の描写も素晴らしいです。 |
4 Re: Name:匿名石 2019/10/15-01:58:02 No:00006127[申告] |
仔実装を大事に丁寧に扱ってるように見せかけた文章と
実際の杜撰でテキトーなゴミ同然の扱いにワロタ |
5 Re: Name:匿名石 2020/02/24-20:16:10 No:00006215[申告] |
仔蟲の描写が丁寧で良いですね |