タイトル:【泡】 二つ目。昔のIDスレ時代に縁起を考えて投下を見合わせた物。
ファイル:実泡石2.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:456 レス数:0
初投稿日時:2017/12/18-00:14:06修正日時:2017/12/18-00:14:06
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プクー!人間さんは酷いプク!ワタシをお外に紐でつないでほったらかしなんて酷いプク!
一匹の実泡石が金網で出来た屋根の無い、筒のようなケージで放置されていた
ケージのすぐ隣には農道が通っており、その実泡石が見渡せる範囲は畑や田んぼで覆われている

よく見ればその実泡石と同じように、筒状のケージに囚われている実泡石が点々と等間隔に配置されている
プスー…プスー…
プク!プク!プク!
プー……
弱っている者、怒っている者、もうなにも見えていない者など、囚われた者たちの様子はばらばらだ
そんな彼女(?)達がまったく同じタイミングでまったく同じ動作を取る時がある



バサッバサッ…
プジャァー!鳥が来たプジャァーッ!!来ないでプクーッ!!
そう、鳥が飛来した時である

プピィィィィ!
プジャーッ!プジャーッ!プシャーッ!
プスッ!?
鳥の影を確認した実泡石達は皆生命の危機を感じたのか、警戒態勢に入る
そして、鳥が田んぼの近くにまで来たところで…

ポコポコポコポコポコポコポコポコ…

個々に泡の量の違いは有れど、その場に居た全ての実泡石達が血の混じった目玉模様の泡を吐き出す
実泡石が命の危機を感じた時に出す血泡と呼ばれる現象だ



クルルーッ!バサバサバサバサッ

飛んできた鳥は突如現れた大量の目玉模様と凄まじい悪臭から慌てて逃げ出した
逃げていく鳥は鳩だった、飛んできた時は白かった体は
血泡で全身が染め上げられ赤と緑の斑模様になってしまっていた

襲撃者を撃退した実泡石達は皆、その場にへたり込んでしまった
彼女達(?)にとって、先ほどの影は本気で自分達を襲う悪魔のように思えたらしい
その場にいた実泡石達は全てほっとしたような表情をしていた

…さて、ここで一つ疑問である、先ほどの反応は自然の実泡石と比べると過剰反応なのである



通常の、自然に暮らす実泡石なら飛んでくる何かが見えても、前述の実泡石達のような極端な威嚇反応はせず
ある程度は落ち着いて相手の出方を伺い、相手を見てから行動する程度の余裕は持っている

それに対して繋がれている居る実泡石達は全く精神的余裕が無く
常に気を張り何かが空に見える度に全力で血泡を吐き出す…

自然に生きている個体と比べると、あまりにも反応が過敏すぎるのである
そして、それだけの緊張を保ち続けるのは当然体にも悪影響が出る

プ…ヒュ……パサッ
血泡を吐き出した実泡石達のうちの一番弱っていた固体が崩れるように今死んだ

倒れたときに実装服が大きくめくれ上がった、そこには大きな裂き傷の跡が残っていた
この傷跡こそがつながれた実泡石達の過剰反応の原因である




ブロロロロロ…
農道の向こうから車が向かってくる、この辺一体の田畑の持ち主だ
実泡石達はなぜか全く警戒しておらず、何か期待した目で見ている

農夫から降り、一つ一つ網筒ケージの中を確認していく
その時にケージの中の実泡石を軽くじゃれ付かせるように遊ばせている
確認を続けていく内に、死んだ実泡石のケージの前に止った
「あー…一匹死んどるな…。喰うつもりだったが、今日もらってきた奴と替えるか」

そう言うと車にとって返し車に積んである複数の箱から、その一つをとりだした
それはプラスチック製の籠で、中には怪我をした実泡石がいる

プ…フ…
かなり弱っており、ほとんど意識は無いように見える



農夫は車に戻った際にアンプルも持ち出していた、アンプルは市販の実装活性剤のようだ
農夫はアンプルを実泡石に打った。アンプルを打たれた実泡石の血色はかなりよくなってきた
農夫はてきぱきと実泡石の治療をしていく(といっても傷を消毒したり包帯を巻いたりする程度だが)

「ま、こんなもんだろ」
そういった後、農夫はケージの中に、死んだ個体と入れ替えるように治療した実泡石を繋いだ
治療を施された実泡石はまだ意識は朦朧としているようだが、農夫の声はいくらか聞こえているのか
時折何かを話そうとプスー、プスーと気の抜けた音を出していた

実泡石を網筒ケージにつないだ後、農夫は車へと帰ってった
プスー…人間さん、助けてくれたプス?
朦朧とした薄い意識の中で、新しく網筒につながれた実泡石は農夫に感謝しているようだ



ブロロロロ…
「あーあ…今晩のおかずが一品減っちまったよ…せっかくあいつから新鮮な奴をもらってきたのに」
農夫がそうぼやく、農夫が言うあいつとは鷹匠の友人のことである

つながれた実泡石達が鳥を酷く怯えるのはその鷹匠の鷹が原因である
農夫の友人の鷹匠はよく鷹の訓練がてら、遊びで空をのんきに浮遊している実泡石を狩る
鷹匠にとっては遊びとはいえ、実際に動くのは彼の手にいる鷹だ
鷹にとっては本気の狩りだ、鷹はまったく容赦しない
鷹の本気の素早さには実泡石は反応しきれず、あっさりと狩られてしまうのだ

そして、鷹が空の実泡石を狩り、鷹匠の元に戻ってくるときには
狩られた実泡石は、もはやぼろぼろで死んでしまっている場合も多い
そして運良く生きていても大抵はその晩に食卓へと並ぶ運命の実泡石

農夫はそういった実泡石をたまにもらっていた



死にかけの実泡石達は自分達を殺そうとしたものは正確には認識できていない
『自らを殺そうとした、空を飛ぶ何か』
そこまでは理解できても、その『空を飛ぶ何か』の正体がわからない
そして、空を飛ぶもの全てに対して異様なまでに警戒するようになる

つまりは、強烈なトラウマが実泡石達に植え付けられるのである

農夫はそのことを子供の頃に飼っていた実泡石を見て知っていた、そこからあの鳥避け実泡石達を思いついた
実際に使う過程でいくらかの失敗はあったが
今では鳥による作物の被害はほぼ無いと言っていいほどに害鳥の撃退率は高い
ネズミや狸などの地上を走る害獣の撃退率はまだいくらか低いが、従来の方法を組み合わすなどすれば補えるし
実泡石による害獣避けという方法そのものがまだ作られて間もない方法であるため
まだまだ改良の余地はあるし、試しがいがある



プクーン…プクーン…
人間さん…人間さん…
治療を施され、新たに籠の鳥ならぬ、籠の風船となった実泡石は
自分を治療してくれた人間を想うのか、うわ言で人間を呼んでいる
自分を助けた農夫が『いい人間』なのだと思っているのだろうか

実際の、農夫と「空を飛ぶ何か」との関係を
囚われの実泡石達が知ったらどういう反応をするのだろう?
プクーン…プクーン…
人間さん…人間さん…

本当の所を知らないまま、囚われの実泡石は泡を吐きながら
夢を見る…夢を見る…
ぽこり、ぽこり、ぽこり、パチンッ

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