カエルのミイラと言うものを見た事は有るだろうか？
田舎から都会に引っ越して来たために最近はとんと見なくなって
しまったが、丁度今頃の季節、田圃の中の舗装された農道を通ると
よく見かけたものだ。
身体中の水分が蒸発し、茶色く変色した皮が骨格にへばり付いたそれは
まるで小人のような感じで、見る度に気持ち悪く、また、こいつらも
俺らと同じ脊椎動物なんだな、と変に感心していたのを思い出す。
ところが最近、同じようなミイラを近所で見かけるようになった。
自宅のそばにある公園脇の歩道に、ヒトガタで茶色く変色した生き物の
ミイラが時折転がっている、と言うか、敷いてあるコンクリートの敷石に
へばり付いている事が多々有るのだ。

「そりゃあ実装石ですよ、富多場さん」
会社の若い同僚に話して見た所、そんな返事が返って来た。
「大きさからすると仔実装か親指実装ですね。連中、普段は
公園に住んでいるんですが、こう暑い日が続くと涼を求めて
逃げ出すんですよ。」
実装石と言うのは私も何度か見かけて知っている。人そっくりの
生き物だ。しかしどうして歩道でミイラになるんだろう？
「あいつら基本的にバカですから。公園から逃げ出せば涼しい
場所に行けるとでも思っているんでしょう。で、公園よりも暑い
歩道の上で行き倒れて、ミイラになってしまうんです」
でも、実装石と言うのは何か緑色の服みたいな物を羽織っていたハズだ。
頭にも髪の毛のような物が生えていたと思ったが、私の見たミイラは
カエルみたいで、そんな物は一切身に付けて無かった。
「服はあまりにもの暑さで脱ぎ捨てたんでしょう、きっと。
髪の毛は… う～ん 連中大事にしてるからそれは分かりませんね。
恐らくですが、暑さで狂って自分で毟ったか、そうで無ければ虐待派の
仕業だと思いますよ」
虐待派？
「そんな連中がいるんですよ。実装石を殺したり虐めたりして楽しむ奴等が。
禿裸にするのは虐待の基本です。一回ハマるとなかなかやめられないと
聞きますね」
君は実装石に詳しいんだな。
「面白いですよ実装石。観察しているとかなり興味深いです。世間じゃ
実装石に関わっていると変人扱いされる事も多いですけどね」
屈託無く彼は笑う。
「そうだ富多場さん。今度そのミイラを見かけて目が白く濁って無かったら
拾って帰って洗面器にでも水を張って放り込んでみてください。
きっと面白い事が観察出来ると思いますよ」
彼の目が悪戯っぽく、くるくると動く。
なるほど。大体どんな事が起こるかは想像に難くないが、確かに面白そうだ。
今度ミイラを見かけたら、ぜひやってみようと心に決めた。