タイトル:【塩】 実装ジェット
ファイル:実装ジェット.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:115 レス数:1
初投稿日時:2006/03/07-00:00:00修正日時:2006/03/07-00:00:00
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実装ジェット 06/03/07(Tue),02:29:09 from uploader 「ありがとうございましたー」 「はい、ご苦労様ー」 宅配便で届いた荷物の封を早速開ける。 そのがさがさという音を聞きつけたのか、水槽の中の仔実装がガラスを叩く。 「テチュウーン♪(おいしいもの欲しいテチュ、食べたいテチュ!)」 「違うぞ、よく見ろ」 箱や袋を開ければそれしか言わないこいつに自慢がてら、そのパッケージを見せてやる。 そこには背中に白い翼のような装置をつけた仔実装が、両手を揃えてスーパーマンが 飛び立つようなポーズを取り、波間から飛び上がる様子が描かれている。 その無駄に血色がよさそうにテカテカした肌色をした仔実装が、焦点が定まらぬ感じに 宙を仰ぎ見るいかにも胡散臭いイラストの上には、昭和あたりの特撮ヒーロー番組を 意識したようなロゴで「実装ジェット」の文字が躍っている。 「テッチュウ♪(すごいテチュ、かっこいいテチュ!)」 そのイラストに何を感じたのか、ショーウィンドゥに飾られたトランペットを眺める 黒人少年のように、きらきらとした目でガラスにへばりついて興味を示す。 でも、顔をべったりとガラスに押し付けるようにしている様子は、こちらからはかなり 不気味だから離れて見ろ、気持ち悪いぞオマエ。 「テチッ、テチテチッ!(それはどうするんテチ? 何をするんテチ?)」 落ち着かない様子でそわそわとし始めるこいつの意図はよく分かる。 箱を開け、マニュアルを取り出すとページをめくり、それらしい写真の載ったあたりを 仔実装に示してやる。 ちょうどそれを仔実装に装着する手順を解説入りで示しているページだ。 「いいか、こいつは最近発売されたフタバの新作『実装ジェット』だ。お前みたいな  仔実装に装着させてだな・・・」 「テッチュー♪(空を飛ぶテチュ! すごいテチュ、ビュンビュン飛ぶテチュ!)」 俺の説明をぶった切るカタチで、こいつは大声を上げた。 そして両手を広げ、水槽の中をぐるぐると走り回る。 ・・・なんか勘違いしているようだけど、その気になってくれたのならまぁいいや。 ホントは違うんだが、そのままで話を進めてやろう。 重度の妄想と思い込みで話を進めようとするのはこいつらの得意技だしな。 「実はな、これはお前をこれに乗せようと思って買ったんだ」 「テッ、テッチュー♪(やったテチュ! 褒めてあげるテチュ御主人様!)」 脳内の妄想で期待した通りの返答に仔実装はぴょんぴょんと跳ねて嬉しがる。 「テッチュ、テッチュ♪(さぁワタシの準備はいいテチュ、早く飛ぶテチュ!)」 「まぁ待て、これには色々と準備があるんだ・・・今日はもう遅いから、明日にな」 「テ・・・テチュウ(・・・仕方がないテチュ、明日まで待ってやるテチュ)」 早くしろと文句の一つでも言いたかったのだろう、何かを言いかけたがしばらく間を 置いてから大人しく引き下がった。 俺の機嫌を損ねては全部がパーになるという考えが働いたのだろう。 寝床に使っているタオルを引っ張ってくると、テーブルの上でマニュアルと部品を 広げる俺の様子が見える位置に大人しく座り込む。 いつもなら「遊んでくれ」だの「エサをもっとくれ」だの怒られるまで騒ぐのにな。 「ただ見てるだけじゃ退屈だろう・・・ほれ、これでも喰ってな」 俺はパッケージの中から緑色のビニールに包まれたラムネの袋を取り出し、口を開けて 仔実装に手渡す。 「テッチュテチ(今日の御主人様はなんか優しいテチュ、やっとワタシの魅力に)」 「静かにな」 「・・・テチ」 俺の言葉に頷いてまた座り込む。 仔実装が袋に3つ4つ入ったラムネにかじりついたのをちらりと確認するとメモ用紙の チェックシートに印をつける。 これでよし・・・あのラムネを喰わせるのも準備のうちだ。 俺の方も人間用の透明なラムネの袋を開けて口に運ぶ。 まさか5千円もするコレがこんなラムネ一袋付いてきたで食玩扱いになってコンビニにも 置かれるんだからなんかおかしな話だ。 えらい人のそのへんの感覚はよくわからん。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ええと、まずは・・・仔実装の重さを量る、と。 台所からデジタルの計りを持ってくると水槽の中から仔実装を取り出し、上に乗せる。 「テチュ?(何をしてるんテチュ?)」 「動くなよ、重さを量ってるんだ」 切り上げで・・・250グラムというところだな。 仔実装を水槽に戻すと計算式の書かれた付属のメモ用紙にその数値を記載し、電卓を 片手に必要なウェイト量や薬品などの数量を弾き出す。 「次は・・・アクセル剤のブレンド、か」 小ビンに入った液体の薬品をいくつか取り出して計量し、専用のカートリッジに 充填し、きっちりと蓋をする。 調合の仕方でスピードなどを調整できるというのだが、何分初めてだし、それがどの位の 違いになるかよく分からんから標準のブレンドにしておいた。 次にベースとなるフレームにパーツを繋げていると、腹を抱え、前屈みで呻く仔実装が ガラスを叩く。 「テ、テチィィ(ご、御主人様・・・なんかヘンになったテチ・・・)」 「なんだ青い顔して・・・ハライタか? トイレ行け」 その足元には空になったラムネの袋・・・よしよし、全部食べたな。 「テチ・・・テテ・・・(そのお菓子・・・きっと腐ってたテチ)」 「馬鹿言うな、ラムネの炭酸は胃薬になるんだぞ。胃薬飲んで腹壊す筈がなかろう」 炭酸の事は本当だが、お前が喰ったのはラムネじゃないからいいんだ。 そいつは本当に毒じゃないし、野菜嫌いで便秘気味なお前が喰って正しい効果が出て いるんだから間違いはない。 「・・・デヂィィ(でっ・・・出ちゃうテチュ!)」 ぎゅるるるるる。 そのうちに激しい便意が来たのか、下腹がその成りに似合わぬ轟音を立て、仔実装は 慌てた様子で水槽の隅に置かれたトイレに駆け込んでゆく。 外で漏らしたら折檻だからな。 「最後にウェイトの搭載とプロポの動作確認・・・と」 フローターの中にこれを入れて・・・ああ、そうそう。 言い忘れてたがこれ、ラジコンなんだよ。 本体の受信機とプロポに電池を入れ、電源スイッチを入れた拍子に怪我をしないように 注意してその動作を確認する。 プロポは片手で操作できるガンタイプのもので、上部に配置された親指で操作する左右の レバーと握りの人差し指の当たる部分にトリガー。このレバーでラダーアームを動かし、 トリガーを引く強さででアクセル剤の量を調整する・・・うん、正しく動いてるな。 前準備のチェック項目はこれで終り、準備は完了だ。 後は動作させる直前になって本体に取り付け、仔実装に着装させればいい。 「テエエエ・・・・(苦しいテチュ・・・ゴロゴロが止まんないテチュ)」 水槽の中では仔実装がトイレで情けない声を上げつつ、しゃがみこんだままだ。 これが実際にはどういうものかを知ったらどんな顔をするだろうか? ふふふ、明日が楽しみだ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 翌朝、俺はアパートから5分位の所にある河川敷にいた。 川幅は5〜6m程度、ここからすぐ川下に水門が設けられている為に流れもゆるやかで ある程度の水深もある。 そろそろ釣竿を振るう人間がいてもおかしくない時期なのだろうが、春というには肌寒い 気温の為か周囲に誰もいないのは幸いだ。 「さあ、付いたぞ」 「テッチュー♪」 砂の上に置いた実装ジェットの蓋を開けるとパッケージの空きスペースに押し込めら れていた仔実装が飛び出してくる。ラムネの入っていたとこが仔実装を入れておく スペースとは出かける前にマニュアルを読むまで気づかなんだ。 外箱の『都合により仔実装は入っていません』という注意書きというか訂正シールが 貼ってあったのは元は入れて売るつもりだったんだろうか? 「テッチュテッチュー!(なんか気分がいいテチュ! 今日は頑張るテチュ!)」 昨日食わせておいた薬の効果は覿面だ。 やけに早くから目を覚まし、朝から水槽の中を走り回るわ体操をするわと元気一杯。 あれには一時的に実装の代謝能力を高め、全身の循環器や消化器の能力を引き上げる 効果があるのだ。 こいつの場合はそれに加えて便秘が治ったという点でも気分爽快なんだろう。 成分表には記載されていないが、微量に神経系に作用する成分も含まれているという話を ネットで聞いた事もあるが、あいつの様子を見ているとそんな気がしないでもない。 「テッチュウ!(さあ、ワタシの方は準備万端テチュ、早く飛ばせるテチュ!)」 「よし、まずはパンツを脱ぐんだ」 期待に溢れた瞳でこちらを見ながら、今か今かとわくわくしている仔実装にそう言って やる。 いきなりの予想を超えた俺の返答にこいつは頬を赤らめ、もじもじしてうつむく。 「テ・・・テエッ・・・(そんないきなり、恥ずかしいテチュ・・・)」 「いいから黙れ」 いつもの勘違いから妄想談義が始まりそうになるので問答無用で仔実装を引っ掴み、 パンツを剥ぎ取ると胴体をきゅっと握った。 「テヂッ、テブゥオオ!」 悲鳴を上げる仔実装を握りつぶさないように加減し、指を上から下に順に動かして 腹の中に溜まっている糞尿をひり出させる。30秒程ぐりぐりと指の動きを往復させ、 もう何も出なくなるのを確認したら下半身を水に付けてゆすいでおく。 ぐったりとして動けないうちに実装ジェットの部品を着装させてしまおう。 「ヂィィィ、デヂャアア!(いきなり何をするテチュ、ひどいテチ!)」 「おお、かっこいいぞ。まるでGP−03のようだ」 全部の装備を取り付け終わったあたりで意識を取り戻し、怒り出す仔実装を無視する ように話を進めると、単純なものでその棒読みのような適当な賛辞の言葉にすぐさま にやけだす。 ランドセルのように背負った長方形のバックパックから、左右にアーチ状のフレームが 伸び、その先に大きな涙滴型のフローターがついている。両足首に嵌めたリングの側面 には本体から伸びたラダーアームが繋がり、それが出力の向きを操作して進行方向を 変える仕組みとなっている。 見かけだけならSFモノに出てくるような個人用の飛行装備を付けているように見えなく もない。 「テッチュ〜ン♪(やっと夢が叶うテチュ、鳥みたいにびゅんびゅん飛ぶテチュ!)」 ・・・そうか、オマエ空を飛ぶのが夢だったのか。 そういえば前に椅子から飛び降りて両足潰した時に泣きながら「どうして飛べない、 どうして鳥になれないんだ」って怒ってた時があったっけな。 あん時は意味も分からずに怒っちまったがそういう事か。 そりゃあ、悪い事したな・・・これからその期待を裏切るんだから。 「テッチュウ♪(これで空を飛べるテチュ、早く飛ばせるテチュ!)」 「待て待て、まずは燃料を入れてスイッチを入れるんだ」 飛び跳ねて喜びたいのだろうが、そのジェットの大きさでは俺が手を離せばたちまちに バランスを崩し、ひっくり返るだろう。 俺は仔実装を持ち上げると掌の上で腹ばいに置き、バックパックの蓋を開けると昨日 調合しておいたカートリッジを本体の所定の場所にセットする。 中にぽこぽこと泡が上がり、内溶液が本体に注入された事を確認するとまずはプロポの、 次に受信機のスイッチを入れる。 途端にぶすりという音がし、仔実装が悲鳴を上げた。 「テヒィィ、テチィィィ!(刺さったテチュ、なんか背中に刺さったテチュ!)」 「大丈夫だ、気のせいじゃないから気にするな」 OK、アクセル剤注入用の注射装置はしっかりと動作しているようだ。 手を背中に回して本体を外そうとはするものの、バンドできっちり固定してあるものが お前の力で外れる筈はないだろ。 「これで準備完了だ・・・さ、進水式といこう」 「テ・・・テチュウ・・・(うう・・・空を飛ぶためテチュ、我慢するテチュ・・・)」 背中に刺さった針の事が気にはなるのだろうが、空を飛ぶ夢の為に渋々といった様子で 耐える仔実装に思わず目頭が熱くなる。 プロポを片手に、実装ジェットとなった仔実装を運んでゆく。 期待と希望に、その小さな胸がとくとくと高鳴っているのが触れた指先から伝わって くる。その表情も緊張でいつになく引き締まり、いざ大空へ飛び立つのだという覚悟に 燃えているのだろう。 だが、その仔実装の期待に反して、俺はジェットを水面に浮かべた。 「よし、いいバランスだ」 「デヂヂィ、デボボブボ・・・!(違うテチュ! ワタシは泳ぎたいんじゃないテチュ!)」 フローターのバランスにより、仔実装のちょうど鼻の下辺りを喫水線としてジェットは 浮かんでいるのだ。鼻から息をしてりゃいいものを、そんな水没してる口で話そうとしたら 溺れそうになるに決まっている。 言いたい事があるようだから、仔実装を摘み上げると岸辺に置いてやる。 話はちゃんと聞いてやろう・・・聞くだけだが。 「テチュ、テチィィ!(話が違うテチュ、とっととワタシを飛ばせるテチ!)」 「間違ってないぞ、俺はこれにお前を乗せると言ったんだからな」 「テヂィィィ!!(ジェットって言ったテチュ、ジェットは空飛ぶ物テチュ!)」 空を飛べると思っていたのに! そんな予想と違う展開に、仔実装は地面を叩いて怒り出す。 どこからその知識を得たのかは知らないが、ジェットと名前のつくものは空を飛ぶものと いうのがこいつの考えらしい。 「いいか、これはジェットスキーなんだ。水の上を走るもので空は飛べないぞ」 開発中は『実装ジェットスキー』という名称だったが、実はこの名前は商標登録されて いる為に使うことが出来なくなり、スキーを削って『実装ジェット』となったものだ。 パッケージにも水の上を跳ねるイラストが描かれているし、ちゃんと『モーター不要! 仔実装を装着して水の上を駆け抜ける!』と明記してある。 「それを人が説明してやろうとした所を勝手に結論づけた挙句、勝手に納得したのは  お前自身だろうが」 「デヂテヂッ!(そんなの関係ないデヂ、早く空を飛ばすデヂ、ダメニンゲン!)」 悔しさに涙を流し、歯を剥いて精一杯の低音で威嚇してくる。 小石の一つでも投げてきそうな勢いだが、そんな事をやり始める前に俺は仔実装を掴みあげ、 180度方向転換させて再度水面に浮かべてやる。 フローターで身体を半端に浮かされ、両足をアームで固定された状態とあっては仔実装は ひっくり返った亀と同じだ。 多少ばしゃばしゃと水を掻いた所でろくに身動きは取れまい。 「テヂャアア、テヂヂィィ!(このダメニンゲン、クズニンゲン!)」 「これからどうやってこの実装ジェットが動くのかを味あわせてやる」 そして生意気にも飼い主をダメニンゲン呼ばわりした罰を与えてやるのだ。 「ゆくぞ!」 俺はアクセル剤注入のトリガーを引いた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− その時、仔実装は背中に冷たいものが走るのを感じただろう。 その寒気が全身をぶるりと震わせたが、それ以上は何も起きない様子にガボガボと水を 泡立たせて笑ってやがる。 だが、それも一瞬の話だ。 「デ・・・ボボバッ」 ぎゅるるるる・・・。 洗面台に溜めた水が抜ける最後のような音がした。 ずきりと下腹に走った痛みに声を押し殺して耐えようとした仔実装だったが、注入された ドドンパの効果はそんな位で押さえ込めるものじゃないぞ。 「ヂブァ!」 ぼばん! まずは腸内に残ったガスが噴き出した。 我慢できなかった叫びと共に仔実装の背後から大きな泡が沸きあがり、破裂する。 その勢いでジェットはゆるやかに前に進み始める。 「デ・・・ガボボボ・・・」 ぎゅおおおお・・・。 再度、音がした。 下腹を襲う痛みに耐え切れず、息を吐いた口から自分の意思とは無関係に水が流れ込んで ゆくのが見える。 「ボボボアーーー!」 ばばばばばばば! 仔実装の口から苦悶の叫びが噴き出した途端、猛烈な勢いでジェットは走り出した。 総排泄孔から噴出する水と空気の勢いで。 仔実装そのものを動力源として走行する、これがパッケに書かれたモーター不要の意味だ。 「うお、やべぇ!」 予想以上のスピードで、ジェットはたちまちに向こう岸に衝突しそうになるので慌てて レバーを右に傾けるとプロポの動きに従って左右のラダーアームが動き、仔実装の腰を 右に曲げると機体を傾けながらほぼ90度に曲がってゆく。 ボートのようにラダーで進行方向に対して水の抵抗を掛ける事で曲がるのではなく、 推進力の方向を直接変化させるのでかなり急激にカーブする事が可能なのだ。 「デボバブオブァー!」 ぼぼぼぼ、ばばばば! 総排泄孔から噴出するのに従い、口から次々に腸に向かって流れ込む水に叫びにならぬ 悲鳴を上げる仔実装。 カートリッジから注入される即効性ドドンパにより数千倍に高められたぜん動運動に より、腸はそのその内容物を恐ろしい高圧で総排泄孔から噴出するが、糞抜きの場合と 違って中身がなくなればそれで終りではない。 周囲に満ちている水は船首にあって口を閉じる事の出来ない仔実装の口に否応なしに 流れ込み、次から次へ飲み込まれて腸へ送られてゆく。 それはドドンパの効力と仔実装の体力が持つ限りは総排泄孔からの水の噴出がいつまでも 続くという事と同義だのだ。 「水の上をぎゅんぎゅん走るって、まるで飛んでるみたいだろ?」 「テベベェェッ!(止めてデチュー! 死んじゃう、死んじゃうテチィィ!)」 「何言ってるかわからんから、もっとハードにしてやろう」 「デヂャヂャヂャー!(そんな事言ってないデヂィィィ!!)」 操作に慣れてきた俺はレバーを動かし、右に左にジェットを揺する。 実装用の乗り物としての安全性を無視し、部品として組み込まれた仔実装が耐えられる ギリギリのスピードが出るように、と設計されているので実装ジェットはこのサイズの 玩具にしては驚異的なスピードを誇る。 ましてや実物のサイズに直したとすれば時速百キロ近いものとなる。 そんな速度でスラロームを繰り返すのだ、そこに掛かる急激なGの変化は仔実装にして みれば箱に入れられて滅茶苦茶に振り回されるのと大差あるまい。 「む! あれは・・・よし、次はあの板を使ってジャンプしてみるぞ」 「デボボベベベェー(#翻訳不能)」」 向こう岸近くに、水中に半ば沈んだ木の板がある。 スピードを乗せ、その上を駆け抜ければカースタントにあるようなジャンプが出来るに 違いない。 大きく弧を描きながら十分に距離を取り、トリガーをめいっぱいに引いてジェットを加速 させる。 「ゆくぞ、ゴー!」 ジェットが乗った途端、その衝撃に板が斜めに傾いた。 それが川の中央に向けて傾いたのなら良かったが、岸の方に向いたのはまずかった。 俺は咄嗟にレバーを右に入れ、トリガーを離したが間に合わない。 「ヂャアアアア!(もう許してテチュウウウウー!)」 仔実装の叫びが宙を舞う。 斜めに傾いて飛んだジェットはそのまま向こう岸に落ち、草叢を跳ねて水辺の砂の上で 止まった。 幸いにもジェットは裏返しにならず、見かけに壊れていそうな箇所はない。 問題は・・・仔実装の生死だ。 動力源が死んでしまってはジェットは生ゴミを浮かせておく為の浮きでしかない。 「おーい、生きてるかぁ?」 俺の呼びかけにもぴくりとも反応しない。 せっかく空を飛ばせてやったのに、驚きでショック死でもしてしまったのだろうか? トリガーの動きに追従させるために持続力の極めて弱い即効性ドドンパを使っている とはいえ、連続で投与されればその疲労や肉体への負荷は簡単に仔実装をストレス死 させる事になる為、アクセル剤には液体ドドンパの他に栄養剤や鎮痛剤、偽石保護剤 などの賦活剤が混ぜ合わされている。 この賦活剤が投与されている間は回復力再生力を高められ、そのおかげで儚いとはいえ ショック死などの突然死にはかなり強くなっている筈なのだが・・・。 「・・・仕方ないなぁ、甘いもんでも食べてから帰るかぁ」 俺はわざとらしい大声で言うと足元に落ちていたコンビニ袋の切れ端を拾い、片手で くしゃくしゃと音をさせながら握る。 「・・・ッテエエー!(欲しいテチュ、ワタシにもよこすテチュ!)」 その途端にがばっと顔を上げ、いつも通りのおねだりを始める仔実装。 死んだフリをつい忘れて動いてしまった事に驚きの表情を見せ、また死んだフリを 始めるがもう遅い。 「オマエ、馬鹿だろ・・・だが、生きていればそれで良し!」 「ヂャヂャヂャー!」 プロポをジェットに向け、銃で撃ち殺すようにトリガーを引き絞る。 続けてレバーを左右に振り、気づかれまいと伏せた顔を砂の上にさんざかこすり付けて やってから川の中に再度エントリーだ。 右から左へ、左から右へと全速前進やスラロームからの180度急旋回を繰り返し、 身体に付いた砂を綺麗さっぱりと濯いでやった後、また大きく距離を置いてからある 地点へ向けてジェットを加速させる。 「これで最後だ!」 「デボボ、ヂベボバボー!(ちょっと待つテチュ、ぶつかるテチィィィ!!)」 どこへ向かっているかは正面から見ているあいつには理解できたようだ。 なに、そんなにたいした事じゃない。 ラジコンやらミニカーやらを手に入れた子供が一回はやった事がある筈のヤツだ。 玩具を壁に衝突させるんだ・・・それも全速力でな。 「5・・・4・・・3・・・」 「デヂィィィ!(死にたくないテヂィィィ!!)」 仔実装が叫びを上げた。 ジェットはまっすぐ、俺の横にある大きなコンクリ片に向けて直進してゆく。 「2・・・1・・・ゼロ」 「ボボボー!」 こん、と小さな音がしてジェットはゆるやかにコンクリ片にぶつかり、止まった。 ちゃぷちゃぷと波に揺られ、そのまま下流へと流れていってしまいそうなるジェットを すくい上げる。 「残念、燃料切れか」 本体のカバーを持ち上げるとカートリッジの中身は空になっていた。 途中から速力が失われ、徐々に減速してゆくのは分かったが、ジェットそのものが軽い せいか、慣性が水の抵抗に負けてその速力を維持できなかったようだった。 裏返してみれば、仔実装は今度は本当に気絶していた。 つついたり、揺すった位では目覚めそうにない。 アクセル剤も一回分しか用意してなかったし・・・今日はもう帰るか。 くるりと踵を返した俺の足がさっき捨てたコンビニ袋を踏みつける。 がさりという音に反応して、仔実装の身体がぴくりと動いた。 「テチュウー・・・(おいしいもの欲しいテチュ、食べた・・・)」 「黙れ」 おねだりを言い切る前に俺は水道の蛇口のように仔実装の首を180度捻った。 家に帰るまで大人しくしとけ。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 注釈. 及び後記. 06/06/03(土)23:00:00 作者コメント: 一ヶ月ブランクがあったらなんか文章が書けなくなっていたのでリハビリに。 *1:アップローダーにあがっていた作品を追加しました。 *2:仮題をつけている場合もあります。その際は作者からの題名ご報告よろしくお願いします。 *3:改行や誤字脱字の修正を加えた作品もあります。勝手ながらご了承下さい。 *4:作品の記載もれやご報告などがありましたら保管庫の掲示板によろしくお願いします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 戻る 実装ジェット 06/03/07(Tue),02:29:09 from uploader 「ありがとうございましたー」 「はい、ご苦労様ー」 宅配便で届いた荷物の封を早速開ける。 そのがさがさという音を聞きつけたのか、水槽の中の仔実装がガラスを叩く。 「テチュウーン♪(おいしいもの欲しいテチュ、食べたいテチュ!)」 「違うぞ、よく見ろ」 箱や袋を開ければそれしか言わないこいつに自慢がてら、そのパッケージを見せてやる。 そこには背中に白い翼のような装置をつけた仔実装が、両手を揃えてスーパーマンが 飛び立つようなポーズを取り、波間から飛び上がる様子が描かれている。 その無駄に血色がよさそうにテカテカした肌色をした仔実装が、焦点が定まらぬ感じに 宙を仰ぎ見るいかにも胡散臭いイラストの上には、昭和あたりの特撮ヒーロー番組を 意識したようなロゴで「実装ジェット」の文字が躍っている。 「テッチュウ♪(すごいテチュ、かっこいいテチュ!)」 そのイラストに何を感じたのか、ショーウィンドゥに飾られたトランペットを眺める 黒人少年のように、きらきらとした目でガラスにへばりついて興味を示す。 でも、顔をべったりとガラスに押し付けるようにしている様子は、こちらからはかなり 不気味だから離れて見ろ、気持ち悪いぞオマエ。 「テチッ、テチテチッ!(それはどうするんテチ? 何をするんテチ?)」 落ち着かない様子でそわそわとし始めるこいつの意図はよく分かる。 箱を開け、マニュアルを取り出すとページをめくり、それらしい写真の載ったあたりを 仔実装に示してやる。 ちょうどそれを仔実装に装着する手順を解説入りで示しているページだ。 「いいか、こいつは最近発売されたフタバの新作『実装ジェット』だ。お前みたいな  仔実装に装着させてだな・・・」 「テッチュー♪(空を飛ぶテチュ! すごいテチュ、ビュンビュン飛ぶテチュ!)」 俺の説明をぶった切るカタチで、こいつは大声を上げた。 そして両手を広げ、水槽の中をぐるぐると走り回る。 ・・・なんか勘違いしているようだけど、その気になってくれたのならまぁいいや。 ホントは違うんだが、そのままで話を進めてやろう。 重度の妄想と思い込みで話を進めようとするのはこいつらの得意技だしな。 「実はな、これはお前をこれに乗せようと思って買ったんだ」 「テッ、テッチュー♪(やったテチュ! 褒めてあげるテチュ御主人様!)」 脳内の妄想で期待した通りの返答に仔実装はぴょんぴょんと跳ねて嬉しがる。 「テッチュ、テッチュ♪(さぁワタシの準備はいいテチュ、早く飛ぶテチュ!)」 「まぁ待て、これには色々と準備があるんだ・・・今日はもう遅いから、明日にな」 「テ・・・テチュウ(・・・仕方がないテチュ、明日まで待ってやるテチュ)」 早くしろと文句の一つでも言いたかったのだろう、何かを言いかけたがしばらく間を 置いてから大人しく引き下がった。 俺の機嫌を損ねては全部がパーになるという考えが働いたのだろう。 寝床に使っているタオルを引っ張ってくると、テーブルの上でマニュアルと部品を 広げる俺の様子が見える位置に大人しく座り込む。 いつもなら「遊んでくれ」だの「エサをもっとくれ」だの怒られるまで騒ぐのにな。 「ただ見てるだけじゃ退屈だろう・・・ほれ、これでも喰ってな」 俺はパッケージの中から緑色のビニールに包まれたラムネの袋を取り出し、口を開けて 仔実装に手渡す。 「テッチュテチ(今日の御主人様はなんか優しいテチュ、やっとワタシの魅力に)」 「静かにな」 「・・・テチ」 俺の言葉に頷いてまた座り込む。 仔実装が袋に3つ4つ入ったラムネにかじりついたのをちらりと確認するとメモ用紙の チェックシートに印をつける。 これでよし・・・あのラムネを喰わせるのも準備のうちだ。 俺の方も人間用の透明なラムネの袋を開けて口に運ぶ。 まさか5千円もするコレがこんなラムネ一袋付いてきたで食玩扱いになってコンビニにも 置かれるんだからなんかおかしな話だ。 えらい人のそのへんの感覚はよくわからん。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ええと、まずは・・・仔実装の重さを量る、と。 台所からデジタルの計りを持ってくると水槽の中から仔実装を取り出し、上に乗せる。 「テチュ?(何をしてるんテチュ?)」 「動くなよ、重さを量ってるんだ」 切り上げで・・・250グラムというところだな。 仔実装を水槽に戻すと計算式の書かれた付属のメモ用紙にその数値を記載し、電卓を 片手に必要なウェイト量や薬品などの数量を弾き出す。 「次は・・・アクセル剤のブレンド、か」 小ビンに入った液体の薬品をいくつか取り出して計量し、専用のカートリッジに 充填し、きっちりと蓋をする。 調合の仕方でスピードなどを調整できるというのだが、何分初めてだし、それがどの位の 違いになるかよく分からんから標準のブレンドにしておいた。 次にベースとなるフレームにパーツを繋げていると、腹を抱え、前屈みで呻く仔実装が ガラスを叩く。 「テ、テチィィ(ご、御主人様・・・なんかヘンになったテチ・・・)」 「なんだ青い顔して・・・ハライタか? トイレ行け」 その足元には空になったラムネの袋・・・よしよし、全部食べたな。 「テチ・・・テテ・・・(そのお菓子・・・きっと腐ってたテチ)」 「馬鹿言うな、ラムネの炭酸は胃薬になるんだぞ。胃薬飲んで腹壊す筈がなかろう」 炭酸の事は本当だが、お前が喰ったのはラムネじゃないからいいんだ。 そいつは本当に毒じゃないし、野菜嫌いで便秘気味なお前が喰って正しい効果が出て いるんだから間違いはない。 「・・・デヂィィ(でっ・・・出ちゃうテチュ!)」 ぎゅるるるるる。 そのうちに激しい便意が来たのか、下腹がその成りに似合わぬ轟音を立て、仔実装は 慌てた様子で水槽の隅に置かれたトイレに駆け込んでゆく。 外で漏らしたら折檻だからな。 「最後にウェイトの搭載とプロポの動作確認・・・と」 フローターの中にこれを入れて・・・ああ、そうそう。 言い忘れてたがこれ、ラジコンなんだよ。 本体の受信機とプロポに電池を入れ、電源スイッチを入れた拍子に怪我をしないように 注意してその動作を確認する。 プロポは片手で操作できるガンタイプのもので、上部に配置された親指で操作する左右の レバーと握りの人差し指の当たる部分にトリガー。このレバーでラダーアームを動かし、 トリガーを引く強さででアクセル剤の量を調整する・・・うん、正しく動いてるな。 前準備のチェック項目はこれで終り、準備は完了だ。 後は動作させる直前になって本体に取り付け、仔実装に着装させればいい。 「テエエエ・・・・(苦しいテチュ・・・ゴロゴロが止まんないテチュ)」 水槽の中では仔実装がトイレで情けない声を上げつつ、しゃがみこんだままだ。 これが実際にはどういうものかを知ったらどんな顔をするだろうか? ふふふ、明日が楽しみだ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 翌朝、俺はアパートから5分位の所にある河川敷にいた。 川幅は5〜6m程度、ここからすぐ川下に水門が設けられている為に流れもゆるやかで ある程度の水深もある。 そろそろ釣竿を振るう人間がいてもおかしくない時期なのだろうが、春というには肌寒い 気温の為か周囲に誰もいないのは幸いだ。 「さあ、付いたぞ」 「テッチュー♪」 砂の上に置いた実装ジェットの蓋を開けるとパッケージの空きスペースに押し込めら れていた仔実装が飛び出してくる。ラムネの入っていたとこが仔実装を入れておく スペースとは出かける前にマニュアルを読むまで気づかなんだ。 外箱の『都合により仔実装は入っていません』という注意書きというか訂正シールが 貼ってあったのは元は入れて売るつもりだったんだろうか? 「テッチュテッチュー!(なんか気分がいいテチュ! 今日は頑張るテチュ!)」 昨日食わせておいた薬の効果は覿面だ。 やけに早くから目を覚まし、朝から水槽の中を走り回るわ体操をするわと元気一杯。 あれには一時的に実装の代謝能力を高め、全身の循環器や消化器の能力を引き上げる 効果があるのだ。 こいつの場合はそれに加えて便秘が治ったという点でも気分爽快なんだろう。 成分表には記載されていないが、微量に神経系に作用する成分も含まれているという話を ネットで聞いた事もあるが、あいつの様子を見ているとそんな気がしないでもない。 「テッチュウ!(さあ、ワタシの方は準備万端テチュ、早く飛ばせるテチュ!)」 「よし、まずはパンツを脱ぐんだ」 期待に溢れた瞳でこちらを見ながら、今か今かとわくわくしている仔実装にそう言って やる。 いきなりの予想を超えた俺の返答にこいつは頬を赤らめ、もじもじしてうつむく。 「テ・・・テエッ・・・(そんないきなり、恥ずかしいテチュ・・・)」 「いいから黙れ」 いつもの勘違いから妄想談義が始まりそうになるので問答無用で仔実装を引っ掴み、 パンツを剥ぎ取ると胴体をきゅっと握った。 「テヂッ、テブゥオオ!」 悲鳴を上げる仔実装を握りつぶさないように加減し、指を上から下に順に動かして 腹の中に溜まっている糞尿をひり出させる。30秒程ぐりぐりと指の動きを往復させ、 もう何も出なくなるのを確認したら下半身を水に付けてゆすいでおく。 ぐったりとして動けないうちに実装ジェットの部品を着装させてしまおう。 「ヂィィィ、デヂャアア!(いきなり何をするテチュ、ひどいテチ!)」 「おお、かっこいいぞ。まるでGP−03のようだ」 全部の装備を取り付け終わったあたりで意識を取り戻し、怒り出す仔実装を無視する ように話を進めると、単純なものでその棒読みのような適当な賛辞の言葉にすぐさま にやけだす。 ランドセルのように背負った長方形のバックパックから、左右にアーチ状のフレームが 伸び、その先に大きな涙滴型のフローターがついている。両足首に嵌めたリングの側面 には本体から伸びたラダーアームが繋がり、それが出力の向きを操作して進行方向を 変える仕組みとなっている。 見かけだけならSFモノに出てくるような個人用の飛行装備を付けているように見えなく もない。 「テッチュ〜ン♪(やっと夢が叶うテチュ、鳥みたいにびゅんびゅん飛ぶテチュ!)」 ・・・そうか、オマエ空を飛ぶのが夢だったのか。 そういえば前に椅子から飛び降りて両足潰した時に泣きながら「どうして飛べない、 どうして鳥になれないんだ」って怒ってた時があったっけな。 あん時は意味も分からずに怒っちまったがそういう事か。 そりゃあ、悪い事したな・・・これからその期待を裏切るんだから。 「テッチュウ♪(これで空を飛べるテチュ、早く飛ばせるテチュ!)」 「待て待て、まずは燃料を入れてスイッチを入れるんだ」 飛び跳ねて喜びたいのだろうが、そのジェットの大きさでは俺が手を離せばたちまちに バランスを崩し、ひっくり返るだろう。 俺は仔実装を持ち上げると掌の上で腹ばいに置き、バックパックの蓋を開けると昨日 調合しておいたカートリッジを本体の所定の場所にセットする。 中にぽこぽこと泡が上がり、内溶液が本体に注入された事を確認するとまずはプロポの、 次に受信機のスイッチを入れる。 途端にぶすりという音がし、仔実装が悲鳴を上げた。 「テヒィィ、テチィィィ!(刺さったテチュ、なんか背中に刺さったテチュ!)」 「大丈夫だ、気のせいじゃないから気にするな」 OK、アクセル剤注入用の注射装置はしっかりと動作しているようだ。 手を背中に回して本体を外そうとはするものの、バンドできっちり固定してあるものが お前の力で外れる筈はないだろ。 「これで準備完了だ・・・さ、進水式といこう」 「テ・・・テチュウ・・・(うう・・・空を飛ぶためテチュ、我慢するテチュ・・・)」 背中に刺さった針の事が気にはなるのだろうが、空を飛ぶ夢の為に渋々といった様子で 耐える仔実装に思わず目頭が熱くなる。 プロポを片手に、実装ジェットとなった仔実装を運んでゆく。 期待と希望に、その小さな胸がとくとくと高鳴っているのが触れた指先から伝わって くる。その表情も緊張でいつになく引き締まり、いざ大空へ飛び立つのだという覚悟に 燃えているのだろう。 だが、その仔実装の期待に反して、俺はジェットを水面に浮かべた。 「よし、いいバランスだ」 「デヂヂィ、デボボブボ・・・!(違うテチュ! ワタシは泳ぎたいんじゃないテチュ!)」 フローターのバランスにより、仔実装のちょうど鼻の下辺りを喫水線としてジェットは 浮かんでいるのだ。鼻から息をしてりゃいいものを、そんな水没してる口で話そうとしたら 溺れそうになるに決まっている。 言いたい事があるようだから、仔実装を摘み上げると岸辺に置いてやる。 話はちゃんと聞いてやろう・・・聞くだけだが。 「テチュ、テチィィ!(話が違うテチュ、とっととワタシを飛ばせるテチ!)」 「間違ってないぞ、俺はこれにお前を乗せると言ったんだからな」 「テヂィィィ!!(ジェットって言ったテチュ、ジェットは空飛ぶ物テチュ!)」 空を飛べると思っていたのに! そんな予想と違う展開に、仔実装は地面を叩いて怒り出す。 どこからその知識を得たのかは知らないが、ジェットと名前のつくものは空を飛ぶものと いうのがこいつの考えらしい。 「いいか、これはジェットスキーなんだ。水の上を走るもので空は飛べないぞ」 開発中は『実装ジェットスキー』という名称だったが、実はこの名前は商標登録されて いる為に使うことが出来なくなり、スキーを削って『実装ジェット』となったものだ。 パッケージにも水の上を跳ねるイラストが描かれているし、ちゃんと『モーター不要! 仔実装を装着して水の上を駆け抜ける!』と明記してある。 「それを人が説明してやろうとした所を勝手に結論づけた挙句、勝手に納得したのは  お前自身だろうが」 「デヂテヂッ!(そんなの関係ないデヂ、早く空を飛ばすデヂ、ダメニンゲン!)」 悔しさに涙を流し、歯を剥いて精一杯の低音で威嚇してくる。 小石の一つでも投げてきそうな勢いだが、そんな事をやり始める前に俺は仔実装を掴みあげ、 180度方向転換させて再度水面に浮かべてやる。 フローターで身体を半端に浮かされ、両足をアームで固定された状態とあっては仔実装は ひっくり返った亀と同じだ。 多少ばしゃばしゃと水を掻いた所でろくに身動きは取れまい。 「テヂャアア、テヂヂィィ!(このダメニンゲン、クズニンゲン!)」 「これからどうやってこの実装ジェットが動くのかを味あわせてやる」 そして生意気にも飼い主をダメニンゲン呼ばわりした罰を与えてやるのだ。 「ゆくぞ!」 俺はアクセル剤注入のトリガーを引いた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− その時、仔実装は背中に冷たいものが走るのを感じただろう。 その寒気が全身をぶるりと震わせたが、それ以上は何も起きない様子にガボガボと水を 泡立たせて笑ってやがる。 だが、それも一瞬の話だ。 「デ・・・ボボバッ」 ぎゅるるるる・・・。 洗面台に溜めた水が抜ける最後のような音がした。 ずきりと下腹に走った痛みに声を押し殺して耐えようとした仔実装だったが、注入された ドドンパの効果はそんな位で押さえ込めるものじゃないぞ。 「ヂブァ!」 ぼばん! まずは腸内に残ったガスが噴き出した。 我慢できなかった叫びと共に仔実装の背後から大きな泡が沸きあがり、破裂する。 その勢いでジェットはゆるやかに前に進み始める。 「デ・・・ガボボボ・・・」 ぎゅおおおお・・・。 再度、音がした。 下腹を襲う痛みに耐え切れず、息を吐いた口から自分の意思とは無関係に水が流れ込んで ゆくのが見える。 「ボボボアーーー!」 ばばばばばばば! 仔実装の口から苦悶の叫びが噴き出した途端、猛烈な勢いでジェットは走り出した。 総排泄孔から噴出する水と空気の勢いで。 仔実装そのものを動力源として走行する、これがパッケに書かれたモーター不要の意味だ。 「うお、やべぇ!」 予想以上のスピードで、ジェットはたちまちに向こう岸に衝突しそうになるので慌てて レバーを右に傾けるとプロポの動きに従って左右のラダーアームが動き、仔実装の腰を 右に曲げると機体を傾けながらほぼ90度に曲がってゆく。 ボートのようにラダーで進行方向に対して水の抵抗を掛ける事で曲がるのではなく、 推進力の方向を直接変化させるのでかなり急激にカーブする事が可能なのだ。 「デボバブオブァー!」 ぼぼぼぼ、ばばばば! 総排泄孔から噴出するのに従い、口から次々に腸に向かって流れ込む水に叫びにならぬ 悲鳴を上げる仔実装。 カートリッジから注入される即効性ドドンパにより数千倍に高められたぜん動運動に より、腸はそのその内容物を恐ろしい高圧で総排泄孔から噴出するが、糞抜きの場合と 違って中身がなくなればそれで終りではない。 周囲に満ちている水は船首にあって口を閉じる事の出来ない仔実装の口に否応なしに 流れ込み、次から次へ飲み込まれて腸へ送られてゆく。 それはドドンパの効力と仔実装の体力が持つ限りは総排泄孔からの水の噴出がいつまでも 続くという事と同義だのだ。 「水の上をぎゅんぎゅん走るって、まるで飛んでるみたいだろ?」 「テベベェェッ!(止めてデチュー! 死んじゃう、死んじゃうテチィィ!)」 「何言ってるかわからんから、もっとハードにしてやろう」 「デヂャヂャヂャー!(そんな事言ってないデヂィィィ!!)」 操作に慣れてきた俺はレバーを動かし、右に左にジェットを揺する。 実装用の乗り物としての安全性を無視し、部品として組み込まれた仔実装が耐えられる ギリギリのスピードが出るように、と設計されているので実装ジェットはこのサイズの 玩具にしては驚異的なスピードを誇る。 ましてや実物のサイズに直したとすれば時速百キロ近いものとなる。 そんな速度でスラロームを繰り返すのだ、そこに掛かる急激なGの変化は仔実装にして みれば箱に入れられて滅茶苦茶に振り回されるのと大差あるまい。 「む! あれは・・・よし、次はあの板を使ってジャンプしてみるぞ」 「デボボベベベェー(#翻訳不能)」」 向こう岸近くに、水中に半ば沈んだ木の板がある。 スピードを乗せ、その上を駆け抜ければカースタントにあるようなジャンプが出来るに 違いない。 大きく弧を描きながら十分に距離を取り、トリガーをめいっぱいに引いてジェットを加速 させる。 「ゆくぞ、ゴー!」 ジェットが乗った途端、その衝撃に板が斜めに傾いた。 それが川の中央に向けて傾いたのなら良かったが、岸の方に向いたのはまずかった。 俺は咄嗟にレバーを右に入れ、トリガーを離したが間に合わない。 「ヂャアアアア!(もう許してテチュウウウウー!)」 仔実装の叫びが宙を舞う。 斜めに傾いて飛んだジェットはそのまま向こう岸に落ち、草叢を跳ねて水辺の砂の上で 止まった。 幸いにもジェットは裏返しにならず、見かけに壊れていそうな箇所はない。 問題は・・・仔実装の生死だ。 動力源が死んでしまってはジェットは生ゴミを浮かせておく為の浮きでしかない。 「おーい、生きてるかぁ?」 俺の呼びかけにもぴくりとも反応しない。 せっかく空を飛ばせてやったのに、驚きでショック死でもしてしまったのだろうか? トリガーの動きに追従させるために持続力の極めて弱い即効性ドドンパを使っている とはいえ、連続で投与されればその疲労や肉体への負荷は簡単に仔実装をストレス死 させる事になる為、アクセル剤には液体ドドンパの他に栄養剤や鎮痛剤、偽石保護剤 などの賦活剤が混ぜ合わされている。 この賦活剤が投与されている間は回復力再生力を高められ、そのおかげで儚いとはいえ ショック死などの突然死にはかなり強くなっている筈なのだが・・・。 「・・・仕方ないなぁ、甘いもんでも食べてから帰るかぁ」 俺はわざとらしい大声で言うと足元に落ちていたコンビニ袋の切れ端を拾い、片手で くしゃくしゃと音をさせながら握る。 「・・・ッテエエー!(欲しいテチュ、ワタシにもよこすテチュ!)」 その途端にがばっと顔を上げ、いつも通りのおねだりを始める仔実装。 死んだフリをつい忘れて動いてしまった事に驚きの表情を見せ、また死んだフリを 始めるがもう遅い。 「オマエ、馬鹿だろ・・・だが、生きていればそれで良し!」 「ヂャヂャヂャー!」 プロポをジェットに向け、銃で撃ち殺すようにトリガーを引き絞る。 続けてレバーを左右に振り、気づかれまいと伏せた顔を砂の上にさんざかこすり付けて やってから川の中に再度エントリーだ。 右から左へ、左から右へと全速前進やスラロームからの180度急旋回を繰り返し、 身体に付いた砂を綺麗さっぱりと濯いでやった後、また大きく距離を置いてからある 地点へ向けてジェットを加速させる。 「これで最後だ!」 「デボボ、ヂベボバボー!(ちょっと待つテチュ、ぶつかるテチィィィ!!)」 どこへ向かっているかは正面から見ているあいつには理解できたようだ。 なに、そんなにたいした事じゃない。 ラジコンやらミニカーやらを手に入れた子供が一回はやった事がある筈のヤツだ。 玩具を壁に衝突させるんだ・・・それも全速力でな。 「5・・・4・・・3・・・」 「デヂィィィ!(死にたくないテヂィィィ!!)」 仔実装が叫びを上げた。 ジェットはまっすぐ、俺の横にある大きなコンクリ片に向けて直進してゆく。 「2・・・1・・・ゼロ」 「ボボボー!」 こん、と小さな音がしてジェットはゆるやかにコンクリ片にぶつかり、止まった。 ちゃぷちゃぷと波に揺られ、そのまま下流へと流れていってしまいそうなるジェットを すくい上げる。 「残念、燃料切れか」 本体のカバーを持ち上げるとカートリッジの中身は空になっていた。 途中から速力が失われ、徐々に減速してゆくのは分かったが、ジェットそのものが軽い せいか、慣性が水の抵抗に負けてその速力を維持できなかったようだった。 裏返してみれば、仔実装は今度は本当に気絶していた。 つついたり、揺すった位では目覚めそうにない。 アクセル剤も一回分しか用意してなかったし・・・今日はもう帰るか。 くるりと踵を返した俺の足がさっき捨てたコンビニ袋を踏みつける。 がさりという音に反応して、仔実装の身体がぴくりと動いた。 「テチュウー・・・(おいしいもの欲しいテチュ、食べた・・・)」 「黙れ」 おねだりを言い切る前に俺は水道の蛇口のように仔実装の首を180度捻った。 家に帰るまで大人しくしとけ。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 注釈. 及び後記. 06/06/03(土)23:00:00 作者コメント: 一ヶ月ブランクがあったらなんか文章が書けなくなっていたのでリハビリに。 *1:アップローダーにあがっていた作品を追加しました。 *2:仮題をつけている場合もあります。その際は作者からの題名ご報告よろしくお願いします。 *3:改行や誤字脱字の修正を加えた作品もあります。勝手ながらご了承下さい。 *4:作品の記載もれやご報告などがありましたら保管庫の掲示板によろしくお願いします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 戻る

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1 Re: Name:匿名石 2023/02/14-08:08:56 No:00006802[申告]
実にかわいい仔実装でした
ゴシュジンも容赦はないけど純粋で小気味の良い人物
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